自分が運転していて、他の車にぶつけたことに気が付かず、帰宅して自分の車の傷を発見して、結果として当て逃げに気づいた方もいるかもしれません。
あるいは、駐車場に車を停めていて戻ってきたら、傷がついていて当て逃げされたことに気づいた方もいるかもしれません。
当て逃げに気づかず走り去ってしまった場合にも、何らかの罪に問われるのでしょうか?
当て逃げされたときに気づいても、その場に加害者がいない場合にはどうすればよいのでしょうか?
本記事では、被害者が、加害者がぶつけたことに気づかなかったときの対処法、後で当て逃げされたことに気づいたときの対処法などを、弁護士が分かりやすく説明します。
この記事を読み、交通トラブルに対応する知識を身につけましょう。
この記事を読んでわかること
- 当て逃げとは
- 当て逃げの罰則
- 気づかずに当て逃げしてしまったときの対処法
- 被害者が当て逃げされたことに気づいたときの対処法
ここを押さえればOK!
当て逃げしたことに気づかなかった場合の対処法としては、気づいた時点で速やかに警察に事故の状況を詳細に説明し、気づかなかった理由を伝えることが重要です。また、警察を通じて被害者に連絡し謝罪し、事故の内容を保険会社に報告して今後の対応を確認することが求められます。
一方、当て逃げされて気づかなかった場合の対処法としては、気づいた時点で速やかに警察に通報し事故証明書を取得することが必要です。さらに、ドライブレコーダーや防犯カメラの映像を確認し証拠を警察に提供し、事故の内容を保険会社に報告して必要な対応を確認します。加害者が見つかった場合は、加害者やその保険会社と示談交渉を行います。
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
当て逃げとは
「当て逃げ」とは、交通事故を起こした際に、危険防止のための必要な措置や、警察への報告を行わずに、現場から離れてしまう行為のことをいいます。
一方、人をケガさせるような交通事故(人身事故)を起こしたにもかかわらず、負傷者救護や、警察への報告を果たさずに現場から離れてしまうと、「ひき逃げ」となります。
当て逃げの罰則・責任
当て逃げをした加害者には、刑事罰(刑事上の罰則、懲役や罰金)と行政上の罰則(違反点数、免許停止など)が科される可能性があります。また、罰則ではありませんが、被害者に対して損害賠償を支払う責任があります。
順に説明します。
(1)刑事罰
物損事故があった場合、車両の運転者(同乗者も含む)は、法律上、次の義務を果たす必要があります。
- 危険防止措置義務(道路交通法72条1項前段)
- 警察への報告義務(道路交通法72条1項後段)
この義務を怠った場合には、次の刑事罰を受ける可能性があります。
危険防止等措置義務違反 | 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金 (道路交通法117条の5第1項第1号) |
警察官への報告義務違反 | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 (道路交通法119条1項第17号) |
※両方の行為が認められる場合、重い方の1の刑罰による。
※2025年6月頃までに、懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」に一本化する改正刑法が施行される予定。
(2)行政上の罰則
当て逃げすると、刑事罰の他に、行政上の罰則として、安全運転義務違反(2点)+危険防止等措置義務違反(5点)=合計7点の違反点数が加算されます。
7点が加算されると、過去違反点数が0点だとしても、30日間の免許停止処分となります。
(3)民事責任
当て逃げの被害者から、ぶつけられた車の修理代などの損害賠償を請求される可能性があります。
当て逃げしたことに気づかなかった場合はどうなる?罰則を受ける?
駐車場などで止まっている車に擦ってしまったけれど、ラジオを大音量で聞いていたりして、気づかずに走り去ってしまうことがあるかもしれません。
後で自分の車に傷かついていることが分かり、ぶつかったことに気づいた場合でも、刑事責任に問われるのでしょうか。警察への報告義務違反について、検討してみましょう。
報告義務違反は、「故意犯」と考えられています。つまり、車の運転者が、交通事故で「物を損壊した」という認識が必要です。
ただし、はっきりと「物を損壊した」という認識だけでなく、「物を損壊したかもしれない」という認識も含まれます。運転者が運転していて感じ取れる程度の衝撃があれば、「物を損壊したかもしれない」という認識はあったとされることが多いでしょう。
したがって、当て逃げして気づかなかった場合であっても、交通事故の状況や車両の傷の程度など客観的状況から、ある程度の衝撃はあったはずとされると、「物を損壊したかもしれない」という認識があるとされ、刑事罰を受ける可能性があります。
気付いた時点で、なるべく早く次の対処法を取るとよいでしょう。
自分が当て逃げしたことに気づかなかったときの対処法
当て逃げに気づいた場合、速やかに適切な対応を取ることが重要です。以下に、具体的な対応策を紹介します。
(1)警察へ報告
当て逃げに気づいた時点で、速やかに警察に連絡しましょう。その際には、次のポイントに注意しましょう。
- 事故の状況を詳細に説明する
- 気づかなかった理由(当たった衝撃がなかった等)を明確に伝える
当て逃げに気づいた後に警察へ報告することは、法律上定められたルールです。
また、警察に報告したことで交付される事故証明書により、保険を利用して被害者へ賠償を行うことができるでしょう。
速やかな報告は、当て逃げに気づかなかったけれども、交通事故を起こしてしまったことに対する誠意を示す重要な行動ですし、自分の賠償責任の負担を軽くするためにも不可欠です。
(2)被害者への連絡と謝罪
警察が車をぶつけてしまった被害者を特定すれば、警察を通じて被害者の連絡先を教えてもらえるでしょう。
被害者の連絡先が分かったら、連絡と謝罪が必要です。
たとえ、刑事罰や行政上の罰に問われなくても、被害者が損害を被っていれば、民事上その賠償をする責任があります。
当て逃げされた被害者は、逃げた加害者に対してどのような感情を持つのか、逆の立場に立って考えてみれば、真摯に対応することがいかに大切か理解できるでしょう。
今後の交渉をスムーズに行うためにも、早い段階で連絡と謝罪をするようにしましょう。
保険を利用して賠償をする場合には、この段階で賠償金額についてまで細かく話し合う必要はありません。「保険会社と話し合って回答させていただきます。」などと伝えておくようにしましょう。
(3)保険会社への報告
自動車保険会社への報告も忘れずに行いましょう。
物損事故を起こしたこと、警察への報告内容、被害者の連絡先などを伝えます。通常は、窓口の担当者が、処理に必要な情報について聞き取りを行いますので、質問に対して端的に回答すればよいでしょう。
今後の対応の流れなどについても、しっかりと確認します。
当て逃げされたことに気づかなかった場合の対処法
当て逃げされたこと気づかずその場を離れ、後から当て逃げに気づく場合もあります。
被害者の立場で、当て逃げされて気づかなかった場合の具体的な対処法を紹介します。
(1)警察への通報と事故証明書の取得
当て逃げされたことに後から気づいた場合、速やかに警察に通報しましょう。
事故の状況をわかる限り詳細に説明します。
事故証明書は、加害者へ損害賠償請求する際や、自分の保険へ保険金を請求する際に必要です。
「車も古いし、このくらいの傷なら警察に通報しないでもいいかな」と思うかもしれません。しかし、保険を利用して損害をカバーするためには事故報告書が必要で、警察に通報しなければ事故報告書は発行されない点には注意しましょう。
(2)ドライブレコーダーや防犯カメラの確認
当て逃げした相手を特定しなければ、相手に賠償請求ができません。
そこで、以下のような証拠がないか確認し、警察に伝えるようにしましょう。
- 自車のドライブレコーダー映像の確認
- 周辺の防犯カメラ映像の有無の確認
ドライブレコーダーの録画方法には、常に録画する常時録画型、衝撃によって録画を開始する衝撃感知型があります。常時録画型でも、通常エンジンをかけていない停車中は録画されませんが、駐車時も録画を続けられる駐車監視モードが搭載されているものもあります。
当て逃げした車両が移っていないか、一度ドラレコを確認してみましょう。
常時録画型だと、メモリカードの容量によっては制限がかかって短時間で上書きされてしまうことがあります。当て逃げに気づいたら、上書きでデータが削除されないよう、すぐにバックアップを取るようにしましょう。
ドライブレコーダーに車両が移っている場合には、有力な証拠になる可能性がありますので、速やかに警察に提出しましょう。
(3)保険会社へ連絡
交通事故の被害を受けた場合、加入している保険会社に事故の態様や日時などを連絡します。
加害者が見つからなかったり、見つかっても任意保険に加入していないなど賠償能力がない場合には、自分で修理代を負担せざるを得ないこともあります。そのような場合に備えて、自身が加入している保険会社にも連絡しておきましょう。
必要な事項については担当者が質問形式で聞き取りをしますので、端的に答えるようにしましょう。
(4)加害者が見つかったら示談交渉
当て逃げの加害者が特定できれば、加害者や加害者の保険会社に対して、車の修理費などの損害賠償金を請求することができます。
交通事故の損害賠償請求は、すぐに民事裁判になるわけではありません。一般的に、加害者に対してまず示談交渉(話し合い)を行い、解決するケースがほとんどです。特に被害が車の修理などに限られる物損事故では、そこまで賠償金額が高額にならないという事もあり、示談交渉での解決が望まれます。
賠償金額などに合意できれば、相手方の保険会社が作成した示談書に署名・押印します。その後、数週間後に示談金が指定口座に振り込まれます。
加害者に「当て逃げしたことに気づかなかった」と言われたら
当て逃げの加害者が見つかっても、加害者から「当て逃げしたことに気づかなかった」と言われるかもしれません。
その言い分が、ぶつかったこと自体を否定するものであれば、ドライブレコーダーの映像や、監視カメラの映像、お互いの車の傷や付着している塗料などの証拠などから、当て逃げがあった事実について証明していく必要があります。
「ぶつかったことは認めるが、傷までついてるとは思わなかった」ということであれば、ぶつかったこと自体は認めているので、車が受けた損傷について写真や修理会社の見積もりなどを示していけば、交渉を進めていけるでしょう。
当て逃げ対策と注意点
当て逃げの被害にあったり、気づかずに当て逃げをしてしまうことを防ぐためには、日頃からの注意が重要です。以下に、具体的な対策と注意点をします。
(1)駐車や出発時の周囲確認の徹底
車が接触しないよう、駐車時や出発時には細心の注意が必要です。
- バックする際は必ず目視・カメラで確認
- 狭い駐車場では特に慎重に
- 自信がない時は隣が空いている場所に駐車する
- 駐車後、周囲の車両を確認
これらの習慣づけにより、無意識の当て逃げを防ぐことができるでしょう。
(2)ドライブレコーダーの設置・弁護士費用特約の加入
当て逃げされたときに、加害者の特定や、事故の状況を把握するためには、駐車監視機能付きのドライブレコーダーが有効です。
また、任意保険に加入するときに、弁護士費用特約にも加入しておくと、弁護士相談・依頼する費用が保険でカバーされますので、いざというときに安心です。
当て逃げに関する誤解と事実
当て逃げに関しては、いくつかの誤解が存在します。
(1)気づかなかったのだから罪にならない?
ご説明したように、「当て逃げに気づかなかった」という言い分があるとしても、故意がなく犯罪が成立しないとされるのかどうかは、ケースバイケースです。
車両の傷や事故の状況などから、車内で事故の衝撃を感じるはずとされると、「物を損壊したかもしれない」という認識はあったとされて、罪に問われる可能性があります。
(2)軽い接触なら警察への報告不要?
警察への報告義務が生じる交通事故とは、交通による人の死傷もしくは物の損壊を起こしたものを言います(道路交通法67条2項)。
では、当て逃げの場合に問題になる「物の損壊」とは、どの程度のものを指すのでしょうか。
一般的に、物の損壊のあったすべての場合を含み、その程度が軽微である場合も含むと考えられています。
したがって、軽い接触で、軽微な損害であっても、物が損壊した以上、警察への報告義務があります。
(3)自転車の当て逃げは罰則がない?
自転車は、道路交通法上は「軽車両」とされており、道交法上のルールが適用されます。
自転車事故で人をケガさせた場合には、自転車の運転者には、自動車の運転者と同じように、負傷者の救護義務や、危険防止義務、報告義務があります。
それらの義務に反した場合には、罰則が科されることがあります。
【まとめ】当て逃げされた・したことに気づいたら速やかに警察に報告を
当て逃げしたことに気づかなかった場合には、気づいた時点で、速やかな警察への連絡、被害者への誠実な対応、保険会社への報告を行うことが重要です。
当て逃げされたことに気づかなかった場合には、気づいた時点で、警察への連絡、証拠の確認、保険会社への連絡を行います。
日頃から、当て逃げしない・されないことを意識して、安全運転とドライブレコーダーの有効利用などをして対策することが、予期せぬトラブルを防ぐ鍵です。
万が一の事態に備え、この記事で紹介した対応策を心に留めておきましょう。