「試用期間後に本採用されずクビになるなんて、納得できない!」そう感じている方は、決して少なくありません。
「試用期間だから、会社は本採用せずに自由に解雇できる」と思いがちですが、それは誤解です。
実は、試用期間であっても、会社が従業員を解雇するには法的な制限があり、「客観的に合理的な理由」があって、「社会通念上相当な場合」と言えなければ、不当解雇として解雇は無効です。
このコラムでは、試用期間中や終了時の解雇が法的にどのように扱われるのか、どのような場合に不当解雇となるのか、そしてもしあなたが試用期間中に「クビ」を言い渡された場合、どのように対応すればよいのかを、弁護士がわかりやすく解説します。
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しかし、この解約権は無制限ではなく、「本採用を拒否することが客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合」にのみ解雇が認められます。
もし不当な解雇だと感じたら、以下の対処法を検討しましょう。
1. 解雇理由証明書の請求: 会社に解雇理由を具体的に記載した書面の発行を求めましょう。これは重要な証拠となります。
2. 異議申し立てと記録: 解雇理由に納得できない場合、会社に撤回を求める話し合いを行い、録音しましょう。
3. 専門機関への相談: 労働基準監督署や労働組合、弁護士への相談です。弁護士は法的観点から状況を判断し、会社との交渉や法的手続き(労働審判、訴訟など)をサポートしてくれます。
試用期間中の解雇は大きな精神的な負担となりますが、決して一人で抱え込まないようにしましょう。一度、アディーレ法律事務所にご相談ください。
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試用期間とは?
試用期間は、企業が採用した労働者の能力、適性、勤務態度などを総合的に評価し、本採用にふさわしい適格性の有無を見極めるために設けられます。一般的に、1ヶ月から6ヶ月程度であることが多いようです。
これは、企業と労働者双方にとって、ミスマッチを防ぐための重要な期間です。労働者側も、実際の会社の雰囲気や業務内容、企業文化などが自分に合っているかを確認できます。
法的には、解約権留保付労働契約
法的には、試用期間中の労働契約は「解約権留保付労働契約」と考えられています。
これは、会社に試用期間中の「解約権」=労働契約を解約できる、つまり解雇できる権利が留保されているという契約であることを意味します。
したがって、会社は試用期間中に解雇したり、試用期間終了時に本採用しないという判断を下すことができるのです。
試用期間だからといって会社は自由に「クビ」にできない
ただし、この会社に留保された解約権は無制限に行使できるものではなく、労働者の権利を保護するための法的な制約が存在します。
(1)試用期間に解雇が認められるケースとは
「試用期間だから簡単にクビにできる」という考えは誤りです。
試用期間の解雇であっても、「客観的に合理的な理由」があって、「社会通念上相当」と言えなければ、不当な解雇として解雇は無効となります(労働契約法16条)。
確かに、試用期間終了時の解雇は、本採用後の解雇よりも「客観的に合理的な理由」や「社会通念上の相当性」の判断が緩やかになる傾向はあります。
しかし、それでも会社が自由に解雇できるわけではありません。解雇が認められるのは、「本採用を拒否することが客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合」に限られます。
(2)試用期間の解雇の流れ
通常、試用期間終了時に解雇される場合、本採用拒否の通知を受け取ります。本採用拒否の通知には、本採用しない理由や、連絡窓口などが記載されています。
また、労働基準法上、30日前に解雇予告をするか、日数が足らない場合には解雇予告手当を支払う必要があります(労働基準法20条)。
ただし、試用期間中で入社14日未満の場合や、2ヶ月以内の期間で働いている場合、日雇いの場合、季節的業務により4ヶ月以内で働く場合は対象外です(労働基準法21条)。
試用期間で「クビ」にするときの理由
一般的な、試用期間のみで本採用されないときの理由を紹介します。
ただ、ここで紹介した理由があれば試用期間終了時の解雇が有効になる、というものではありません。
解雇の有効性はケースバイケースで判断されますので、不当だと思われる方は一度弁護士に相談してみましょう。
(1)勤務態度が著しく不良
遅刻・早退・欠勤などの勤務不良の程度が平均より下回り、注意しても従わない場合や、会社の業務命令に繰り返し従わず、注意しても改善が見られない場合などです。
(2)経歴詐称があった
履歴書や職務経歴書、誓約書などで、経歴や学歴、資格などの重要な点に虚偽がある場合などです。
(3)能力不足が著しい場合
勤務成績が悪い、業務遂行に必要な能力の欠如が著しく、指導しても改善がみられない場合などです。
(4)協調性が著しく欠如している場合
他の社員との協調性が著しく欠け、業務の遂行に支障をきたしている場合などです。
(5)重大な規律違反
会社の備品を無断で持ち出す、横領などの犯罪行為をした場合、会社の機密情報を外部に漏洩した場合、顧客情報や個人情報を不正に利用した場合などです。
試用期間中に勤務態度や能力不足を指摘された場合の注意点
もし試用期間中に上司から勤務態度や能力に関して指摘を受けた場合、それは「クビ」へのサインである可能性があります。
しかし、そこで諦める必要はありません。
指摘は改善のチャンスと捉え、真摯に対応することで状況を好転できる可能性があります。
次の点に注意し、仕事への取り組み方を変えていきましょう。
- 指摘を素直に受け止める: 感情的にならず、指摘された内容を冷静に受け止めましょう。
- 具体的な改善策を尋ねる: 「具体的にどうすれば改善できますか?」と質問し、具体的な行動計画を立てましょう。
- 改善の姿勢を示す: 積極的に行動を変え、改善しようと努力する姿勢を見せることが重要です。上司に定期的に進捗を報告するのも良いでしょう。
- 不明点は積極的に質問する: わからないことをそのままにせず、積極的に質問して理解を深めましょう。
試用期間中の解雇が「不当解雇」にあたるケースとは?具体的な事例で解説
試用期間中の解雇が、不当解雇として無効とされた裁判例を紹介します。
(1)試用期間3ヶ月のうち20日程度を残した解雇
病院の事務総合職として採用されたAは、試用期間3ヶ月の内20日程度を残して解雇されました。病院側は、Aがコンピューターへの入力作業や電話引継ぎなどで初歩的なミスを繰り返す、試用期間中の2回の面接で教育的指導を行ったが退職を申し出るなど改善を拒否したなどを理由とし、解雇しました。
Aは納得できず裁判を起こしたところ、裁判所は次のように判断しています。
確かに、Aの「ミスないし不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、Aの本件病院における業務遂行能力ないし適格性の判断において相応のマイナス評価を受けるものであるということができる。」
しかし、面接後にAの業務態度等に相当程度の改善がみられており、「Aの努力如何によっては、残りの試用期間を勤務することによって本件病院の要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もある」こと等の事情を考慮しました。
結果として、試用期間満了まで20日間程度を残す時点での解雇は、解雇すべき時期の選択を誤ったもので、試用期間中の本採用拒否としては、客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められず、無効である、と判断しました。
(東京地方裁判所平成21年10月15日判決)
(2)試用期間6ヶ月のうちわずか3ヶ月で解雇
証券会社に営業職として中途採用されたBは、試用期間は6ヶ月ありましたが、わずか3ヶ月で解雇されました。
会社側は、3ヶ月の手数料収入平均が38万8000円に過ぎず、営業担当としての資質に欠けるとして、試用期間中に解雇しました。
Bは納得できず裁判を起こしたところ、裁判所は次のように判断しています。
Bはノルマや必達数字を示されたことはなく、米株式市場の急落を受けて東京株式市場も安値となっており、Bの業務日誌からは地道に営業活動を行っていたことがうかがわれる。
確かに、3ヶ月の手数料収入は高いものではないが、「わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもってBの資質、性格、能力等が…従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできず,本件解雇(留保解約権の行使)は客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない。」
(東京地方裁判所平成21年1月30日判決)
(3)試用期間中の解雇の有効性で考慮される事情
裁判所は、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として認められる場合に、採用期間の解雇を有効とすると考えています。
合理的な理由・社会通念上相当と言えるかどうかの判断では、様々な事情が考慮されますが、次のような事情がある場合は、解雇が無効との判断に考慮されるでしょう。
- 指導や教育が不十分な場合:会社が十分な指導や教育を行わず、改善の機会も与えずに「能力不足」「改善可能性なし」を理由に解雇した場合。
- 明確な達成目標もないのに、「能力不足」を理由に解雇した場合。
- 他の従業員と比べて不公平な扱い: 同様のミスや能力不足の従業員がいるにもかかわらず、あなただけが解雇された場合。
- 根拠となる事実がない:勤務成績不良、能力不足というが、その根拠となる客観的な事実がない。
会社から採用期間中に解雇を告げられたときの適切な対処法
採用期間中に解雇を告げられたら、動揺するのは当然です。
しかし、それを受け入れて泣き寝入りしなければならない、というわけではありません。
次の対処法を参考にしてください。
(1)解雇理由証明書の請求
もし、試用期間中に会社から解雇を告げられたら、「解雇理由証明書」を請求しましょう。
解雇理由証明書とは、会社があなたを解雇する具体的な理由を記載した書面です。
これは、労働者が会社に請求すれば、会社は遅滞なく発行する義務があります(労働基準法22条2項本文)。
この証明書は、解雇が不当である場合、不当解雇の証拠として重要な役割を果たします。
なぜなら、会社が客観的な理由なく曖昧な理由で解雇したのであれば、その旨を明確にしたりすることができるからです。
解雇理由証明書について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)異議を申し立てる
解雇が不当だと感じたり、解雇理由証明書に記載された理由に納得できなかったりする場合には、不当解雇であり、解雇の撤回を求める方法があります。
解雇が不当だと考える具体的な理由について、事前に検討してまとめ、冷静に自分の意見をまとめましょう。
直接話し合う際は、後々証拠として残せるように録音するとよいでしょう。
もしかしたら、話し合いの場で「給与減に同意するなら後1ヶ月雇用する」「退職届を提出するように」など、予想外の提案をされるかもしれません。
その場での即答は避け、「検討してお答えします」と持ち帰りましょう。
その後、不当解雇を扱う弁護士に相談した結果を踏まえたうえで、回答するとよいでしょう。
(3)労働組合へ相談
会社からの説明を受けても、試用期間中の解雇に納得がいかない場合、労働組合に相談する方法があります。
企業内の労働組合に加入していれば、組合の支援により、団体交渉をして解雇を撤回してもらえる可能性があります。
また、企業内の労働組合が存在せず未加入でも、外部の労働組合に加入することで、その支援を受けられる可能性があります。
(4)労働基準監督署へ相談
不当に解雇されたのであれば、労働基準法に違反する行為として、労働基準監督署に相談する事ができます。
労働基準監督署は、会社に対して指導や是正勧告を行う権限を持っています。
ただし、労働基準監督者は相談者の代理人ではありません。個別のトラブルについて、解雇理由が妥当かどうかという点まで判断して、解雇の撤回を促すという介入を求めるのは難しいのが実情です。
(5)労働審判・訴訟といった法的手続き
上記で解決しない場合や、より具体的な解決を目指す場合は、法的手続きを検討することになります。
労働審判とは、労働者と使用者間の労働関係のトラブルを、迅速に解決するための法的手続きです。
原則として、3回までの期日での解決を目指します。
労働審判の結果に不服がある場合には、異議申し立てを行うことで、通常の裁判に移行します。
労働審判について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
裁判では、双方の主張を整理したうえで、証拠を提出し、必要であれば証人尋問を行います。裁判所が和解を進めることも多く、和解できれば和解で終了しますが、決裂すれば判決が出ることになります。労働審判よりも、時間と費用がかかります。
弁護士に相談・依頼するメリット
試用期間中や終了時に解雇されて、納得できない方は、早い段階で弁護士に相談・依頼することが有益です。
(1)法的判断のサポート
弁護士は、あなたの具体的状況を把握したうえで、会社の試用期間中や終了時の解雇が不当解雇にあたるとして争えるのかどうか、それとも解雇として有効なのかどうか、法律や判例を根拠として適切に判断してくれるでしょう。
(2)会社との交渉を任せられる
依頼を受けた弁護士は、あなたの代理人として、会社との交渉をあなたに代わって行います。法律や判例を根拠として、あなたにとって有利な結論となるよう、毅然と主張し交渉します。
会社側も、従業員が弁護士に依頼したとなれば、問題を大事にしたくないという心理が働きますので、本人が交渉するよりも真剣に対応する可能性が高まるでしょう。
(3)希望を踏まえた解決策の提示
依頼者は、「会社に戻りたい」「辞めてもいいが解決金が欲しい」など、様々な希望があります。
本人の希望を聞きながら、労働者の地位を維持する方向で戦うのか、それとも未払い賃金や残業代、解決金を受け取って退職を受け入れるという方向を取るのか、しっかりと打ち合わせをします。
弁護士は、依頼者の希望を実現するために、地位確認請求や、未払い賃金の請求など具体的な方法を提示し、実行してくれるでしょう。
【まとめ】試用期間中のクビに悩んだら、一人で抱え込まず弁護士へ相談を
試用期間中の「クビ」は、予期せぬことであり、精神的にも大きな負担となるでしょう。
しかし、試用期間中だからといって、会社が自由に解雇できるわけではありません。事情によっては、不当解雇として法的に争う余地は十分にあります。
もしあなたが試用期間中の解雇に直面し、納得できないと感じているなら、決して一人で抱え込まず、一度アディーレ法律事務所にご相談ください。