有期雇用で働いていると、契約更新の時期が近づいて不安になることはありませんか?
近年の労働基準法などの法改正により、有期雇用を取り巻く環境は大きく変化しています。
本記事では、有期雇用契約の基礎から無期雇用との違い、無期雇用契約への転換制度など、知っておくべき重要ポイントを解説します。
雇用の安定性を高め、キャリアアップの機会を見逃さないために、ぜひ最後までお読みください。
この記事を読んでわかること
- 有期雇用契約とは
- 無期雇用契約との違い
- 無期雇用契約への転換制度
- 雇止めの法定化
ここを押さえればOK!
有期雇用労働者の立場の不安定さが社会的な問題となり、近年は法改正により、次のように有期雇用労働者の立場が強化されています。
1.無期労働契約への転換制度:同一使用者との契約が通算5年を超えると、労働者の申込みにより無期雇用契約に転換できます(労働契約法18条)。
2.雇止め法理の法定化:一定の条件下で、使用者による雇止めが制限されます(労働契約法19条)。
3.不合理な労働条件の禁止:有期雇用と無期雇用の間で、不合理な労働条件の相違が禁止されました(労働契約法20条)。
有期雇用契約の労働者を期間途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要で、簡単に解雇することはできません(労働契約法17条1項)。また、育児休業取得の条件も緩和され、有期雇用でも取得しやすくなりました。
これらの制度を理解し活用することで、有期雇用労働者の雇用安定性向上やキャリアアップにつながります。自身の雇用状況を確認し、必要に応じて無期転換の申込みなどを検討することが重要です。
東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
有期雇用契約とは?基本的な特徴
有期雇用契約とは、「契約期間1年」など、雇用期間を定めて締結する労働契約のことです。
この契約形態の主な特徴は以下の3点です。
- 契約期間が明確
:雇用期間が「〇年〇月〇日~〇年〇月〇日」など明確に定められている - 期間満了で自動終了
:別段の定めがない限り、契約期間の満了とともに雇用関係が終了 - 更新の可能性
:契約更新が行われる場合もある
有期雇用契約の期間は、原則として最長3年までと定められています(労働基準法14条1項)。ただし、高度な専門知識を有する労働者や60歳以上の労働者については、最長5年まで認められています。
有期雇用契約は、企業にとって人材需要の変動に対応できる柔軟な雇用形態ですが、労働者の立場からは、雇用期間のない無期雇用と比べて、雇用の安定性に課題があります。
そのため、労働契約法では、無期転換ルールや雇止め法理の法定化など、有期雇用労働者を保護するための規定が設けられています。
無期雇用との違い
有期雇用と無期雇用の最大の違いは、雇用期間の定めの有無です。
具体的には以下のような違いがあります。
- 雇用期間
- 有期雇用:1年、6ヶ月など期間が明確に定められている
- 無期雇用:期間の定めがない(定年まで継続)
- 契約更新
- 有期雇用:期間満了時に更新または終了
- 無期雇用:更新の概念がなく、原則として継続
- 雇用の安定性
- 有期雇用:契約期間満了時に雇用が不安定になる可能性
- 無期雇用:原則として定年まで雇用が継続
ただし、2013年の労働契約法改正により、有期雇用から無期雇用への転換制度が導入されました(労働契約法18条1項)。同一の使用者との間で、有期雇用契約が通算5年を超えて反復更新された場合、労働者の申込みにより無期雇用契約に転換できます。これにより、長期的に働く有期雇用労働者の雇用安定化が図られています。
改正労働契約法で変わった有期雇用の3つのルール
2013年の労働契約法改正により、有期雇用労働者の立場が大幅に強化されました。
主な変更点は以下の3つです。
- 無期労働契約への転換制度の導入
- 雇止め法理の法定化
- 不合理な労働条件の禁止
これらのルールにより、有期雇用労働者の雇用安定性が向上し、正社員との待遇格差が是正されることが期待されています。有期雇用されている労働者は自身の立場と権利を理解し、必要に応じて行使することが重要です。
(1)無期労働契約への転換制度
無期転換ルールは、有期雇用労働者の雇用安定化を図る重要な制度です。
無期転換の申込ができる条件は以下の3つです。
- 同一の使用者との間で契約更新すること
- 1回以上の契約更新がなされている
- 有期労働契約の通算期間が5年を超えている
この条件を満たしている場合に、労働者が無期雇用契約への転換を申し込めば、使用者はその申し込みを承諾したとみなされます。
ただし、一度契約期間が終了した後、無契約期間が一定以上続いて、再度同じ使用者に有期雇用された場合には、それ以前の有期雇用期間は通算されずにリセットされます(クーリング、労働契約法18条2項)。
また、一部の業種の有期雇用の場合、無期雇用転換のルールが異なることにも注意が必要です。例えば、大学等や研究開発法人での一定の研究者・技術者・教員は、通算期間は5年ではなく10年必要とされています(科学技術・イノベー ション創出の活性化に関する法律」)。
この制度により、長期的に働く意思のある有期雇用労働者は、雇用の安定を得られる機会が得られることになりました。企業側も、優秀な人材の長期的な確保につながるメリットがあります。
(2)雇止め法理の法定化による労働者保護の強化
「雇止め法理」とは、有期雇用労働契約をしている労働者を保護するため、「雇止めに一定の制限をかける」という考え方です。
元々は最高裁判所判決で、雇止め法理が示されてきましたが、労働契約法の改正で雇止め法理が明文化されました(労働契約法19条)。
雇止め法理の法定化により、有期雇用労働者の雇用継続に対する期待が法的に保護されるようになりました。
具体的には以下の場合、期間満了前に労働者が契約の更新の申し込みをするか、期間満了後すぐに有期労働契約締結の申し込みをすると、使用者による雇止めは簡単には認められません。
- 過去に反復更新されており、無期雇用契約と実質的に同じ場合
- 労働者が、有期労働契約の更新を期待することが合理的な場合
これらの条件に該当する場合、雇止めをするには、使用者が労働者からの契約更新の申し込みなどを拒否することが、客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当である必要があります。
これらの要件を満たさない雇止めは無効です。雇止めが無効となると、従前の有期労働契約と同じ労働条件で、雇用が継続することになります。
この法定化により、企業は、契約更新や雇止めの判断をする際に、より慎重な対応が求められるようになりました。
(3)不合理な労働条件の禁止で正社員との待遇差を是正
有期雇用労働者と無期雇用労働者との間で、不合理な労働条件の相違を設けることが禁止されました(現在はパートタイム・有期雇用労働法8条で定められています)。
待遇の違いが不合理と認められるかどうかについて、具体的には以下の点が考慮されます。
- 職務の内容
- 職務の内容・配置の変更範囲
- その他の事情
例えば、同じ仕事をしていて、職務の内容や配置の変更範囲も同じ、その他の事情もないにもかかわらず、有期雇用というだけの理由で、無期雇用者と賞与や退職金、各種手当てなどで大きな差をつけることは、不合理とされる可能性が高くなります。
この規定により、有期雇用労働者の待遇改善が進み、「同一労働同一賃金」の実現に向けた大きな一歩となりました。国も、同一労働同一賃金ガイドラインを定め、不合理な待遇差をなくす取り組みを行っています。企業は、有期雇用労働者と正社員の待遇差について、合理的な理由があるかどうかを慎重に検討し、必要に応じて是正することが求められます。
参考:パートタイム・有期雇用労働法の概要|厚生労働省
参考:同一労働同一賃金ガイドライン|厚生労働省
有期雇用契約の期間制限|原則3年、例外5年
有期雇用契約の期間は、原則として最長3年ですが、一部の例外では5年まで認められています(労働基準法14条)。具体的には以下の通りです。
- 原則:最長3年
- 一般の労働者に適用
例:事務職、販売職、製造業の現場労働者など
- 一般の労働者に適用
- 例外:最長5年
- 高度な専門的知識等を有する労働者
例:博士号取得者、公認会計士、弁護士など - 満60歳以上の労働者
- 高度な専門的知識等を有する労働者
これらの制限は、労働者の長期的な拘束を防ぐためのものです。ただし、この上限を超えて契約を更新すること自体は可能です。
また、有期雇用期間が通算5年を超えると、原則として先ほど説明した無期転換の申込みが可能になります。
参考:有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準について|厚生労働省
有期雇用契約の中途解除|「やむを得ない事由」が必要
基本的に、有期雇用契約の期間中は、自分から退職することはできませんし、会社も解雇することはできません。
しかし、「やむを得ない事由」がある場合は、有期雇用契約の期間中の契約解除=退職や解雇が認められます(民法628条、労働契約法17条)。
具体例は以下の通りです。
- 労働者側の事由
- 病気・ケガ
- 介護
- 給料未払い など
- 使用者側の事由
- 会社の経営状況が著しく悪化し、事業継続が困難な場合
- 天災等による事業所の消失 など
仮に、会社による解雇が有効だとしても、1日契約や試用期間中などの例外を除いて、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)の支払いが必要です(労働基準法20条、21条)。
有期雇用に関するよくある質問と回答
有期雇用に関して、よくある質問とその回答をまとめました。
(1)有期雇用でも昇給や賞与はありますか?
法律上のルールはないので、企業の方針によります。
一般的に、有期雇用であっても勤務期間や人事考課などを考慮して昇給や賞与のある企業が少なくありません。
(2)有期雇用でも育児休業は取得できますか?
申出の時点で次の条件を満たせば、有期雇用であっても育児休業を取得可能です。
- 子が1歳6か月(または2歳)になるまでの間に労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
以前は、「申出時点で、同一の使用者に引き続き雇用された期間が1年以上であること」という条件もありました。2022年の法改正によりこの条件がなくなり、有期雇用でも育児休業を取得しやすくなりました。
(3)無期転換後の労働条件はどうなりますか?
就業規則や雇用契約などで特別な定めがない場合には、転換前直前の労働条件が継続されます。
無期契約に転換したからといって、当然に、使用者が定義する「正社員(一般的には、無期雇用で直接雇用されていて、月給制のフルタイムの社員)」になれるわけではありません。
【まとめ】権利強化された有期雇用を活用して、安定したキャリアを築こう
有期雇用契約は、労働者にとって不安定な雇用契約ですが、通算期間が5年を超えると無期転換の申込みが可能になるなど、近年の法改正により労働者の権利が強化されています。
また、不合理な労働条件の禁止により、正社員との待遇差も是正されつつあります。これらの制度を理解し、適切に活用することで、雇用の安定性向上やキャリアアップにつながります。
自身の雇用状況を今一度確認し、必要に応じて無期転換の申込みなどを検討してみましょう。