退職したいと伝えたが、会社から拒否されてしまった。
そんな経験をしたことはありませんか?
退職は労働者の基本的な権利ですが、実際には様々な理由で退職を認めてもらえないケースが発生しています。
本記事では、弁護士の視点から、退職拒否に直面した際の法的な対処方法と、円滑な退職のための具体的なステップを解説します。あなたの権利を守り、新たなキャリアへの一歩を踏み出すための重要な情報をお届けします。
この記事を読んでわかること
- 労働者の退職の自由
- 会社の退職拒否は違法
- 退職拒否にあったときの対処法
- 引き止めにあったときの対処法
- 未払い残業代があったときの対処法
ここを押さえればOK!
無期雇用労働者(期限の定めのない労働者。いわゆる正社員)は2週間前の申し出で退職できます。有期雇用労働者(雇用の期間を定められた労働者。いわゆるパート社員、契約社員)は原則として期間内の退職はできませんが、「やむを得ない事由」があれば即時に退職できます。
退職拒否に関連して行われる引き止めとしてよくあるのが、不当な損害賠償請求を示唆、給与支払い拒否、有給休暇消化の拒否などですが、これらの違法の可能性が高いです。
退職が受理されない場合の対処法としては、内容証明郵便での退職届送付、労働基準監督署への相談、弁護士への相談が効果的です。
未払い残業代がある場合は、退職前に証拠を収集し請求することが重要です。残業代には時効があるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
労働者には退職の自由があり、適切な手順を踏めば退職できます。自身の権利を理解し、適切に行動することで円滑な退職と新たなキャリアへの道を開くことができるでしょう。
一人での対応に不安があるときは、退職代行サービスの利用や、残業代請求を法律事務所に相談・依頼することをお勧めします。
残業代請求・退職代行・不当解雇に関するご相談は何度でも無料!
会社とのやり取りは弁護士におまかせ!
些細な疑問や不安、お気軽にご相談ください!
東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
会社が退職拒否することはできない
会社には退職を拒否する法的権利はありません。
労働者には、退職の自由があるからです。
ただし、いつでもすぐ辞められる、というわけではありません。
労働者の種類別に、民法で退職に関しては規定されていますので、それぞれ説明します。
雇用形態別:退職が受理されなくても退職できる法的根拠
雇用形態に関わらず、退職届が受理されなくても法的に退職は可能です。
ただし、無期雇用(期限の定めがない雇用契約)と有期雇用(期限の定めがある雇用契約)で手続きが異なります。
無期雇用の場合:2週間前の申し出で退職可能
有期雇用の場合:「やむを得ない事由」があれば即時退職可能
いずれの場合も、退職の意思表示が会社に伝わることが必要ですが、退職が受理されることまでは不要です。以下、各雇用形態の詳細を説明します。
(1)無期雇用労働者の退職
無期雇用労働者は、退職の意思表示をしてから2週間で退職できます(民法627条1項)。
無期雇用労働者は、正社員など、期間の定めのない雇用契約を結んでいる労働者のことです。
2週間は最低限の法律で定められた期間です。就業規則等で30日以上前に退職の意思表示をする必要があるなど2週間以上の期間が定められている場合には、円満に退職するためには、特段の事情がない限りそれに従うことが望ましいでしょう。
ただし、あまりに長期の期間が定められている場合には、公序良俗に反し無効とされることもあります。
(2)有期雇用労働者の退職
有期雇用労働者は、原則として期間が満了するまで退職できません。
しかし、契約期間中であっても、「やむを得ない事由」があれば即時に退職できます(民法628条)。
有期雇用労働者とは、契約社員やパート社員など、期間の定めのある雇用契約を結んでいる労働者のことです。
「やむを得ない事由」の例:
- 健康上の理由
- 家族の介護が必要になった場合 など
どういった事情が「やむを得ない事由」になるのかは、事情によって異なるので一概にはいうことができません。
ただし、就業規則などで無期雇用労働者の場合と同様に退職を認めているケースも多いです。
また、有期契約労働者は、一定の場合を除き、契約期間の初日から1年を経過した場合は、退職の自由が認められることとされています(労働基準法附則137条)。
退職拒否に関連して行われる引きとめの問題点
退職拒否に関連して行われる以下の行為は、違法の可能性が高いです。
- 不当な損害賠償請求
- 給与支払い拒否
- 有給休暇消化の拒否
これらの行為は労働者の権利を侵害し、退職の自由を不当に制限するものです。
遭遇した場合には、次のように対処します。
- 会社とのやり取りを文書で行い、記録を残す
- 労働基準監督署や弁護士に相談する
- 必要に応じて、パワハラ相談窓口や労働組合を活用する
以下、各行為の詳細を説明します。
(1)不当な損害賠償請求の示唆
退職を妨げるために不当な損害賠償請求を示唆したり、実際に不当な損害賠償をしたりすることは違法です。
労働者には退職する自由があり、退職することは通常は損害賠償請求されることではありません。
不当な損害賠償請求の例:
- 「退職するなら研修費用を返せ」と言われた
- 「引継ぎが不十分で会社に損害が出た」と請求された
- 「突然の退職で営業機会を失った」と賠償を要求された
請求されたときには、次の点に注意して対応するようにします。
- 事前に退職したら研修費用を返還することを約束していても、その約束は無効と考えられる(労基法16条違反)
- 不当な請求が続く場合は、弁護士に相談する
- 実際に支払う前に、本当に支払う必要があるのか弁護士に相談する
ただし、退職の仕方によって、実際に会社に損害を与えた場合には、賠償責任が生じることもあります。
(2)給与支払い拒否
退職を引き止めるために、実際に給料を支払わないのは違法です。
使用者は、賃金を支払う義務があるからです(労基法24条)
違法な給与支払い拒否の例:
- 「退職するなら給与を支払わない」と言われた
- 「引継ぎが終わるまで最後の給与は支払わない」と告げられた
- 退職届提出後、突然給与が支払われなくなった
もし給与支払い拒否を示唆されたら、次の点に注意して対応するようにします。
- 給与支払いの拒否は違法であることを会社に伝える
- 労働基準監督署に相談し、指導を仰ぐ
- 給与未払いが続く場合、未払い賃金立替払制度の利用を検討する
(3)有給休暇消化の拒否
退職前の有給休暇取得を拒否することは、労働者の権利を侵害するものであり違法です。
退職が決まっていても、有給休暇取得は労働者の権利であり(労基法39条)、会社は拒否できないからです。
会社側は、時季変更権を行使することで、有給休暇の取得時期を変更することができますが、退職日が決まっていれば、別日に変更することが困難ですので、事実上この時季変更権を行使することは難しくなるでしょう。
有給休暇消化拒否の例:
- 「退職が決まったら有給休暇は使えない」と言われた
- 「引継ぎがあるから有給休暇は認められない」と拒否された
- 退職日直前の有給休暇申請を無視された
もし有給休暇取得を拒否されたら、次の点に注意して対応します。
- 有給休暇は労働者の権利であることを会社に伝える
- 拒否が続く場合、労働基準監督署に相談する
- 有給休暇の買い取りを提案することも一案(ただし強制はできない)
退職届が受理されない場合の具体的な対処法
退職届が受理されない場合、以下の3つの対処法が効果的です。
- 内容証明郵便での退職届送付
- 労働基準監督署への相談
- 弁護士への相談
これらの方法を段階的に、または状況に応じて並行して行いましょう。
以下、各対処法の詳細を説明します。
(1)内容証明郵便での退職届送付:退職の意思を明確に記録
内容証明郵便で退職届を送付することで、退職の意思表示をしたことの証拠を残すことができます。内容証明郵便を送るときは、配達証明も付けて、会社が受けとった日時や受け取った事実も証明できるようにします。
退職届の受理が拒否されても、退職の意思表示をしたことが会社に伝われば、ご説明した民法の決まりに従って退職することができます。
ただ、退職の意思表示をしたことを証拠として残しておくために、内容証明郵便を利用すると効果的です。
内容証明郵便に記載すべき内容:
- 退職の意思表示
- 退職予定日
- 退職理由(簡潔に)など
内容証明郵便の送付により、退職の意思表示が会社に示されたことを明確にし、将来的なトラブルを防ぐことができるでしょう。
(2) 労働基準監督署への相談
労働基準監督署に相談することで、会社へ指導や助言をしてもらい、問題が是正されることがあります。
相談の手順:
- 最寄りの労働基準監督署を探す
- 電話または窓口で相談の予約を取る
- 相談時に状況を詳しく説明する
- 必要に応じて証拠書類を提示する
期待できる効果:
- 会社への指導や助言
- 法的な観点からの状況の整理
- 適切な対応方法の提案
労働基準監督署への相談は無料で利用できます。
(3)弁護士への相談
退職届の受理を拒否されても、退職の意思表示をして、一定期間が経過したら、法律上は退職可能です。
しかし、会社側とトラブルになるのを避けたい、という気持ちから、不安に思い、退職に踏み切れない方もいます。
そのような場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。
弁護士に相談するメリット:
- 法的な観点からの状況分析
- 具体的な対応策の提案
- 退職の手続きを代理してもらえる
- 訴訟の可能性と見通しの検討
相談の手順:
- 労働問題に詳しい弁護士を探す
- 初回相談の予約を取る
- 関連書類や証拠を整理して持参する
- 状況を詳しく説明し、今後の方針を相談する
未払い残業代請求の手順と証拠収集
退職を拒否するような会社では、給与や残業代をきちんと支払っていないこともあります。
未払い残業代がある場合、退職後も未払い残業代を請求することができます。
ただし、退職前に、できるだけ証拠収集を行うことが重要です。
未払いの給与や残業代は、3年で時効にかかり請求できなくなってしまいます(退職金の時効は5年)。
労働の対価である給与を時効で失ったら本当にもったいないです。早め早めに残業代請求を扱っている弁護士に相談するようにしましょう。
請求の手順:
- 証拠収集
- 残業時間の計算
- 会社への請求
- 交渉と解決
以下、各手順の詳細を説明します。
(1)証拠収集
在職中に、次のような、未払いの賃金・残業代・退職金を請求する根拠となる証拠を可能な限り集めておくと良いでしょう。
- 給与明細
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 退職金規程
- シフト表
- タイムカード
- 業務日報 など
(2) 残業時間の計算
残業代の計算は次のように行います。
【法内残業】
残業代=1時間あたりの「基礎賃金」×法定労働時間内の残業時間数×会社独自の割増率
【法定時間外の残業】
割増賃金=1時間あたりの「基礎賃金」×法定時間外労働の時間数(※)×法律で定められた割増率
※休日労働の場合は、休日労働の時間数、深夜労働の場合は、深夜労働の時間数となります。
式としては単純ですが、一つ一つの言葉について法律の知識や計算した経験がないと、間違えて計算してしまうことになりかねません。
自分で残業代を計算し、会社へ請求をすることも可能ですが、忙しい毎日でそれらを行うのは大変です。
実際の残業代計算と、会社への請求などは、残業代請求を扱っている弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
どれくらい残業代が発生しているのか知りたい方は、こちらのツールをご利用ください。
(3) 会社への請求と交渉
計算結果をまとめた文書を作成し、実際に会社へ支払いを請求します。
会社が残業代の未払いを認めて支払えばよいのですが、残業代はないと反論してくることもあります。
そうすると、こちらの言い分が正しいことを再度伝えたうえで交渉していく必要があります。
(4)労働審判や訴訟
交渉で合意に至らない場合は、労働審判を利用して残業代を請求します。
それでも解決しない場合には、訴訟を提起します。
裁判所での手続きになるので、個人で対応することは難しいと思われます。
残業代請求を扱っている弁護士に相談・依頼することを検討しましょう。
まとめ:労働者には退職の自由があり、退職拒否されても原則退職可能
今回の記事のまとめは次の通りです。
- 労働者には退職の自由があり、会社は原則退職を拒否することはできない
- 退職届の受理を拒否されても、退職の意思表示が会社に伝わり、次の法律上の要件を満たせば退職可能
- 無期雇用労働者:申し出て2週間で退職可能
- 有期雇用労働者:「やむを得ない事由」があれば即時退職可能
- 次のような退職引き止め行為は違法
- 不当な損害賠償請求
- 給与支払い拒否
- 有給休暇消化の拒否
- 退職届が受理されない場合の対処法:
1.内容証明郵便での退職届送付
2.労働基準監督署への相談
3.弁護士への相談
- 未払い残業代の請求:
- 未払い残業代がある場合は、退職前に証拠を収集し請求する
- 残業代には時効があるので、なるべく早く弁護士に相談する
労働者には退職の自由があります。
退職拒否されても、雇用形態に応じた適切な手順を踏むことで、退職することがでます。
あなたの労働者としての権利を理解し、適切な行動を取ることで、円滑な退職と新たなキャリアへの道が開かれることでしょう。
「自分から退職を言い出しにくいから、退職代行サービスを利用したい」
「退職に合わせて未払い残業代も請求して欲しい」
という方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
アディーレ法律事務所は、退職代行と未払い残業代請求を扱っており、それらに関するご相談は何度でも無料です。
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