現代の働き方が多様化する中で、フレックスタイム制は柔軟な労働時間管理を可能にし、多くの企業や労働者にとって魅力的な選択肢となっています。
しかし、フレックスタイム制は残業代の計算が難しく、実は残業代が適切に支払われていないケースがあることに注意が必要です。特に、法的な枠を超えると違法となるケースもあり、適正な残業代の計算や支払い条件を知ることが不可欠です。
この記事では、フレックスタイム制の基本から、残業代の計算方法、そして違法となるケースまでを徹底解説します。
労働者としての権利を守り、健全な働き方を実現するために、ぜひ最後までお読みください。
この記事を読んでわかること
- 通常の労働における残業とフレックスタイム制における残業の違い
- 通常の労働における残業代とフレックスタイム制における残業代の計算方法
- フレックスタイム制での残業が違法になるケース
ここを押さえればOK!
残業の捉え方において、通常の労働における残業とフレックスタイム制の残業には違いがあります。フレックスタイム制では、設定された清算期間の総労働時間を超えて働いた時間が残業とみなされます。例えば、月の総労働時間が160時間の場合、これを超える労働時間が残業です。仮に、ある勤務日に8時間を超えて働き、ある週に週40時間を超えて働いても、フレックスタイム制においては、直ちに残業ということにはなりません。
残業代の計算方法について、通常の労働と同様に、フレックスタイム制でも法定労働時間を超える時間外労働には割増賃金が支払われます。
清算期間が1ヶ月以内の場合、清算期間内の実労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合に割増賃金が払われます。一方、清算期間が1ヶ月を超える場合には、次のいずれかの場合にあたると「時間外労働」になり、割増賃金を払わなければならないとされています。
• 1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合
• 清算期間全体の労働時間が法定労働時間の総枠(週平均40時間)を超えた場合
適正な残業代の支払いがされない場合は、法的リスクを回避するために弁護士に相談することが重要です。
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東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
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フレックスタイム制とは
ここでは、フレックスタイム制について簡単に説明します。
(1)フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、従業員が一定の期間の中で一定の時間労働することを条件として、各勤務日における始業・終業時間を自由に選択できる制度です。これによって、労働者は、私生活と仕事の調和を図り、柔軟な働き方が可能になります。
【フレックスタイム制の例】
- コアタイム(勤務日において必ず働くことが必要とされる時間帯)を定める
- (例)昼休憩1時間を除く午前10時から午後3時までをコアタイムとする
- フレキシブルタイム(労働者が始業・終業時間を選択することで働くことのできる時間帯)を定める
- (例)始業時間は午前6時から午前10時までの間、終業時間は午後3時から午後7時まで選択することができるとする
フレックスタイム制の導入には、少なくとも就業規則の規定と労使協定の締結が必要です。
(2)清算期間と総労働時間とは
個々の勤務日おける労働時間を通算するとどのくらいになるのか、その通算の対象となる期間のことを「清算期間」と呼びます。清算期間は、最長3ヶ月間までです。
一方、清算期間内に労働すべき時間のことを「総労働時間」と呼びます。
例えば、清算期間を1ヶ月と設定し、その期間内の総労働時間を160時間とすると、自由に個々の勤務日における勤務時間を調整できますが、労働者は1ヶ月の間に160時間働かなければなりません。
総労働時間は、原則として清算期間を通じ週平均40時間以内とする必要があります。
また清算期間が1カ月を超える場合には、清算期間を通じ週平均40時間以内とすることに加え、1カ月ごとに区分した各期間ごとに週平均50時間を超えない範囲で、総労働時間を定める必要があります。
フレックスタイム制における残業の考え方
次に、通常の労働における残業とフレックスタイム制における残業の考え方について説明します。
(1)通常の労働における残業の考え方
残業には、法内残業と法外残業があります。
- 法内残業: 定時を超えるが労働基準法上の残業にはあたらない残業
- 法外残業:労働基準法上の残業
そして、法外残業には、次の3つがあります。
- 時間外労働: 法定労働時間(日8時間・週40時間)を超える労働
- 休日労働: 法定休日(※)にする労働
- 深夜労働:深夜(22~5時)にする労働
※ 法定休日とは、労働者に週1回休日を与えるものとしており、この週1回の休日のことをいいます。週休2日(土曜日と日曜日が休日)の会社であれば、日曜日が「法定休日」とされているケースが多いです。
労働基準法では、原則法定労働時間(日8時間・週40時間)を超える労働は認められていません。しかし、36協定を結び、労働基準監督署に届け出を出せば、法定労働時間を超える時間外労働を行うことができます。
(2)フレックスタイム制における残業の考え方
フレックスタイム制では、設定された清算期間の総労働時間を超えた時間が残業になります。
例えば、月の総労働時間が160時間の場合、これを超える労働時間が残業です。 ただし、総労働時間を超えていても、法定労働時間の総枠を超えない限り、法内残業となります。
【例】清算期間が1か月(28日間)の総労働時間150時間で実労働時間170時間の場合を考えてみましょう。
このとき、法定労働時間の総枠は160時間です。
つまり、この場合の法内残業は10時間、時間外労働は10時間となります。
フレックスタイム制でも、36協定を結べば法定労働時間を超える時間外労働を行うことができます。
フレックスタイム制での残業代の計算方法
法内残業に対しては、通常の賃金が払われます。
一方、法定労働時間を超えるについて法外残業に対しては、割増賃金が払われます。
それは、フレックスタイム制の残業についても、同じです。
ここでは、まず通常の労働における残業代(割増賃金)について説明し、続いてフレックスタイム制の残業代(割増賃金)の計算方法について説明します。
(1)残業代の基本の計算方法
残業代(割増賃金)の計算式は、次のとおりです。
残業代(割増賃金)=1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間
次に、1時間当たりの基礎賃金や控除率について説明します。
(1-1)1時間当たりの基礎賃金とは
1時間当たりの基礎賃金の計算式は、次のとおりです。
1時間当たりの基礎賃金=(所定月給―除外賃金)÷1ヶ月当たりの平均所定労働時間
※ 通勤手当や住居手当、家族手当、臨時賃金(ボーナス)などが除外賃金にあたります。
(1-2)割増率とは
割増率は、次のとおりです。
- 時間外労働の割増率: 25%以上
- 時間外労働が月60時間を超えた場合の割増率:50%以上
- 休日労働の割増率:35%以上
- 深夜労働の割増率:25%以上
- 時間外労働かつ深夜労働の割増率:50%以上
- 休日労働かつ深夜労働の割増率:60%以上
割増率を超えた残業代の支払いは構いませんが、割増率より下回る残業代の支払いは許されません。
(2)フレックスタイム制における残業代の計算方法
次に、フレックスタイム制における残業代(割増賃金)の計算方法について説明します。
(2-1)清算期間が1ヶ月以内の残業代の計算方法
フレックスタイム制において割増賃金が払われるのは、清算期間内の実労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合です。
そして、清算期間が1ヶ月間の場合の法定労働時間の総枠は、次のとおりです(一部の業種を除く)。
1ヶ月間の暦上の日数 | 法定労働時間の総枠 |
---|---|
28日間 | 160時間 |
29日間 | 165.7時間 |
30日間 | 171.4時間 |
31日間 | 177.1時間 |
例えば、清算期間を1ヵ月とし、あらかじめ決めた総労働時間が160時間であり、実労働時間が200時間の場合には、労働時間を超えた40時間部分が、残業時間になります。
また、この月が31日間の場合には、法定労働時間の総枠の177.1時間を超えた22.9時間分が法外残業になり、17.1時間分が法内残業ということになります。
【例】基本賃金が時給2,000円で、月の実労働時間(1ヶ月28日間の場合)が170時間の場合を考えてみましょう。
この場合、1ヶ月で払われる残業代(割増賃金)は、1時間当たりの基礎賃金×割増率×残業時間=2,000円×0.25%×10時間=25,000円となります(深夜手当、休日手当除く)。
(2-2)清算期間が1ヵ月を超える場合の計算方法
清算期間が1ヶ月を超える場合には、次のいずれかの場合にあたると「時間外労働」になり、割増賃金を払わなければならないとされています。
- 1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合
- 清算期間全体の労働時間が法定労働時間の総枠(週平均40時間)を超えた場合
清算期間の各月には、1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた場合の割増賃金を支払う必要があります。
【清算期間各月の割増賃金の計算方法】
- 週平均50時間を超える労働時間数を計算する
週平均50時間を超える労働時間数=月間の実労働時間数―週平均50時間となる1ヶ月の労働時間数
- 週平均50時間を超える労働時間数に割増率を掛けて、割増賃金を計算する
残業代(割増賃金)=週平均50時間を超える労働時間数×割増率
1ヶ月間の暦上の日数 | 週平均50時間となる1ヶ月の労働時間数 |
---|---|
28日間 | 200時間 |
29日間 | 207.1時間 |
30日間 | 214.2時間 |
31日間 | 221.4時間 |
清算期間の最終月には、清算期間全体の労働時間が法定労働時間の総枠(週平均40時間)を超えた場合の割増賃金も合わせて支払う必要があります。
【清算期間の最終月の割増賃金の計算方法】
- 清算期間内の法定労働時間の総枠を超えた労働時間数を計算する
清算期間内の法定労働時間の総枠を超えた労働時間数=清算期間内の実労働時間数―清算期間内の法定労働時間数の総枠
- 1で算定された清算期間内の法定労働時間の総枠を超えた労働時間数から、すでに残業代(割増賃金)が支払われた時間外労働の時間数(週平均50時間を超える分)を差し引きます。
- 割増率を掛けて、残業代(割増賃金)を計算する
清算期間2か月間の場合 | 清算期間が3か月の場合 | ||
暦上の日数 | 法定労働時間の総枠 | 暦上の日数 | 法定労働時間の総枠 |
59日間 | 337.1時間 | 89日間 | 508.5時間 |
60日間 | 342.8時間 | 90日間 | 514.2時間 |
61日間 | 348.5時間 | 91日間 | 520時間 |
62日間 | 354.2時間 | 92日間 | 525.7時間 |
(2-3)有給休暇を取得した場合の計算方法
労働者が有給休暇を1日取得したとすると、1日労働したとみなして、通常の賃金を求める際には「標準となる1日の労働時間」を実労働時間に加えます。
一方で、残業代(割増賃金)は実際に働いていた時間で計算します。そのため、有給休暇によって発生した労働時間は除外されます。
フレックスタイム制での残業が違法になるケース
フレックスタイム制でも、法的な枠を超えると残業が違法となるケースがあります。
ここでは、違法になるケースを紹介します。
(1)時間外労働の上限を超える残業命令を受けたケース
フレックスタイム制であっても、時間外労働の上限を超える残業命令は違法です。
36協定を結んだ場合であっても、次のとおり時間外労働の上限があります。
- 36協定(一般条項)の上限: 時間外労働は月45時間・年360時間が上限
特別な事情がある場合に限り、1ヶ月の時間外労働の上限を80時間まで延長することができますが、これも厳しい条件が付されています(一部の事業・業務を除く)。
- 特別条項付き36協定: 1ヶ月の時間外労働は80時間が上限
- 条件
- 時間外労働は年720時間以内
- 時間外労働及び休日労働の合計が月100時間未満
- 時間外労働及び休日労働の合計が、複数月平均で80時間以内
- 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
これらの条件に違反した場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。
(2)適正な残業代が支払われていないケース
適正な残業代が支払われていない場合も違法です。
清算期間内の実労働時間が総労働時間に対して足りない場合、不足分を次の清算期間に繰り越すことができます。例えば、清算期間の総労働時間が160時間なのに157時間しか働かなかった場合、次の清算期間の総労働時間に上乗せし163時間とすることができるのです。
しかし、清算期間内の実労働時間が総労働時間を超える場合、次の清算期間の上乗せすることはできません。清算期間内の実労働時間が総労働時間を超える場合には、清算期間内に残業代を支払う必要があります。
清算期間内の実労働時間が総労働時間を超えているにもかかわらず、清算期間内に残業代が支払われていない場合には、違法になります。
時間外労働や残業代で気になることがある方は、弁護士への相談を
時間外労働や残業代に関する疑問やトラブルがある場合、弁護士への相談がおすすめです。これにより、法的リスクを回避し、適正な労働条件を確保することができます。具体的な相談内容としては以下が考えられます。
- 残業代未払いの請求方法:証拠の収集と具体的な請求手続き。
- 違法な残業命令の拒否:適法な対処方法と法的根拠。
- 労働条件の改善:労働契約の見直しと交渉方法。
例えば、残業代が支払われない場合、弁護士は労働基準監督署への相談や訴訟手続きをサポートします。
【まとめ】フレックスタイム制の残業は、総労働時間を超える労働のこと
フレックスタイム制は、柔軟な働き方を可能にする一方で、残業代の計算が難しく、違法となるケースもあります。特に、時間外労働の上限を超える残業命令や適正な残業代が支払われていない場合は違法です。
残業代について疑問やトラブルがある場合は、法的リスクを回避するためにも弁護士への相談をお勧めします。弁護士のアドバイスを受けることで、健全な働き方を実現しましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただきません。
原則、成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません(以上につき、2024年8月時点)。
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。