「会社に届け出ていない自転車通勤でケガをしてしまった!届け出ていないから労災は使えないのかな?」
会社に届け出ていない自転車通勤でケガをしてしまった場合、絶対に労災認定されないというわけではありません。
自転車での通勤が「合理的な経路および方法」であれば通勤災害と認められる可能性があります。
この記事を読んでわかること
- 通勤災害とは何か
- 会社に届け出ていない自転車通勤の事故が労災になる場合
- 労災保険の療養給付を受ける手続き
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労災保険における通勤災害とは?
まず、労災保険とは、労働災害に遭った労働者に対して、国が給付をおこなう公的制度です。
労働災害は、業務中に起きた「業務災害」と通勤途中に起きた「通勤災害」の2種類があります。
そして、自宅と会社の往復や、仕事場間の移動中のケガは「通勤災害」に該当する可能性があります。
通勤災害について、詳しくはこちらをご覧ください。
(1)労災給付を受けられる“労働者”とは?
労災保険の対象者は、パートタイマーやアルバイトなどを含む、すべての労働者です。雇用形態を問いません。
労災保険の保険料は全額会社負担です。
(2)どのタイミングでのケガが通勤災害に認められる?
通勤災害と認められる“通勤”とは、就業に関し、次のいずれかの移動を“合理的な経路及び方法”で行っている場合が該当します。
- 住居と仕事場との往復
- 仕事場から次の仕事場への移動
- 住居と仕事場との往復に先行し、又は後続する住居間の移動
(単身赴任先の住まいと自宅との間の移動など)
そして、通勤経路を逸脱、または中断すると、その間は“通勤”と認められず、そのあとの移動も“通勤”と認められない可能性もあります。
具体的にはどのような場合が認められ得るかを紹介します。
- 出勤時にマンションのドアに指を挟んで負傷した
住居と通勤の境界は、マンションの場合、原則として自室の玄関ドアとなり、既に通勤が開始された後の災害であるので、通勤災害になると考えられます。
- 早退して病院で診療を受けた帰路で怪我をした
病院での診察は、日常生活上必要な行為になり、診療後、合理的な通勤経路にもどったところから通勤が始まると考えられるので、通勤災害になる可能性があると考えられます。
- 自宅から単身赴任先へ向かう道中で怪我をした
単身赴任者の移動であって、通常の通勤に先行して行われるものである場合には、通勤災害になると考えられます。
(3)通勤災害の補償範囲
「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等」(労災保険法1条)が労災給付の対象となります。
「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷」であれば、怪我の程度は問いません。
なお、労災補償との関係で、任意保険などの補償を受けられる場合があります。
例えば、労働者が通勤中に交通事故に遭った場合には、加害者が加入する任意保険と労災保険の両方を使うことができる場合があります。
しかしながら、任意保険と労災保険の両方が使えるといっても、例えば交通事故によるケガで休まざるを得なくなり給料が払われなかったときに、任意保険からの休業損害の支払いと、労災保険からの休業(補償)給付が二重に支払われることにはなりません。これを「支給調整」といいます。
(4)通勤災害で受けられる労災給付
では、労災給付にはどのようなものがあるのでしょうか。
主な給付は次のとおりです。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料(葬祭給付)
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
- 二次健康診断等給付
このうち、ケガなどが治るまで労働者が無料で治療等を受けられるようにする給付が、療養(補償)給付です。
労災で受けられる給付について、詳しくはこちらをご覧ください。
会社に自転車通勤を届け出ていなかった!自転車通勤中のケガは労災認定される?
それでは、会社に自転車通勤を届け出ていなかった場合、自転車通勤中のケガは労災認定されるでしょうか。
(1)“合理的な経路および方法”ならば労災認定される可能性がある
会社に届け出ずに自転車通勤をしていた場合に、自転車通勤中のケガが労災認定されるかどうかは、場合によります。
自宅と会社の往復や、仕事場間の移動中のケガは、“合理的な経路および方法”ならば通勤手段に関わらず通勤災害に該当する可能性があります。
すなわち、会社には電車通勤と説明しているのに、実際には自転車で通勤をしていて事故に遭いケガをした場合であっても、自転車は一般に労働者が用いる交通手段であるため、「合理的な……方法」であるといえ、事故にあった経路が余りにも遠回りなものであり、その経路によることが想定し難いといった事情がなければ、「合理的な経路」であるとして、通勤災害と認められる可能性があります。
(2)通勤手当をもらっている場合は、会社に問題視される可能性がある
それでは、会社に電車で通勤すると申告し、通勤手当を受給している場合はどうでしょうか。
会社に電車で通勤すると申請して通勤手当を受給しているのに、実際は自転車通勤をしていた場合(その日に限って自転車で通勤したところ、たまたま事故に遭ってしまったというのではなく、ほぼ電車を使用せずに自転車で通勤していた場合)は、通勤手当の不正な受給であると判断される可能性があります。
会社に交通費の不正受給と判断された場合には、次のようなリスクがあります。
- 不正受給していた通勤手当の返還を求められる可能性がある
- 不正受給の内容が悪質と判断されると、懲戒処分が下される可能性がある
- 詐欺罪(刑法246条)に該当するとして、会社から刑事告訴をされる可能性がある
このように、会社に届け出ていない自転車通勤でケガをした場合に、労災申請するか否かは、上記のようなリスクも踏まえて検討することになります。
会社に届け出をしていない自転車通勤でケガをして、労災申請したほうがよいのか、不安な場合は、労働問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
自転車通勤中のケガの治療費について、労災保険の労災補償を受ける方法
それでは、自転車通勤のケガについて労災認定がされ、労災補償である療養給付を受ける場合どのような方法があるのでしょうか。
労災保険の療養給付を受ける手続きの方法は、次の2つがあります。
- 療養の給付
労災指定病院・薬局などで、無料で治療や薬剤の支給を受けることができます。 - 療養の費用の支給
労災指定病院・薬局など以外でかかった費用の給付を受けることができます。
基本的には、ケガをしたらまず会社に報告し、会社を通じて労災を使うための手続きをしてもらうことになります。
【まとめ】会社に届け出ていない自転車通勤でのケガも労災認定される可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 自宅と会社の往復や、仕事場間の移動中のケガは、“合理的な経路および方法”ならば会社に届け出ていない自転車通勤でのケガも通勤災害に該当する可能性がある
- 会社に電車通勤の交通費などを申請して通勤手当を受給している場合は、自転車通勤が通勤手当の不正受給として会社に問題視される可能性がある
- 労災保険の療養給付を受ける方法は「療養の給付」と「療養の費用の支給」がある
会社に届け出ていない自転車通勤で、労災申請を検討される方は、労災認定に精通した弁護士にご相談ください。
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