「産休を取りたいって言ったら、『繁忙期に休まれたら、みんな迷惑する』って断られてしまった……」
「育休を取ろうとしたら、『育児なんて奥さんに任せておけ』と拒否されてしまった……」
産休や育休について、このように拒否されてしまったという話をしばしば耳にします。
しかし、法律上の条件を満たしている人が産休や育休を取得しようとする場合、会社は拒否することが禁じられています。
そして、会社が産休や育休の取得を違法に拒否した場合には、罰金などのペナルティーの対象となります。
産休や育休を取得するための条件をしっかり押さえておくことが、家族での子育てへの第一歩となります。
この記事を読んでわかること
- 産休や育休の条件や期間
- 産休、育休などに伴う不利益な取扱いや嫌がらせについての法規制
- 産休や育休の取得拒否などについての相談先
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
「産休」「育休」とは
産休とは、労働基準法で定められた産前・産後休業のことです。
また、育休とは、育児・介護休業法(※)で定められた育児休業のことです。
※正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
それでは、それぞれどのような制度で、どのような人が利用できるのかなどをご説明します。
(1)産前・産後休業(産休)
産前・産後休業とは、出産を間近に控え、または出産から間もない女性労働者のための休業制度です。
産前休業について、労働基準法では次のように定めています。
使用者は、六週間(多胎妊娠の場合にあつては、十四週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
引用:労働基準法65条1項
産前休業は、女性が請求することが取得の条件となっています。
また、産後休業については、次のように定められています。
使用者は、産後八週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後六週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
引用:労働基準法65条2項
産後休業の場合、女性から請求する必要はありません。産後8週間経っていない女性を働かせることが、法律上禁止されているのです。
ただし、産後6週間経った女性が請求した場合、医師が支障ないと認めた業務であれば就業することができます。
産前休業・産後休業ともに、取得するのに会社からの承諾は必要ありません!
出産の際にもらえる「出産育児一時金」など
産休中、会社からは給与が支給されないのが通常です。
ですが、一定の条件を満たしていれば、「出産育児一時金」「家族出産育児一時金」などのお金を受け取ることができます。
出産に伴いもらえる可能性のある手当について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)育児休業(育休)
育児休業、通称「育休」とは、育児のために一定期間休業できる制度です。
原則として1歳未満の子がいる人が対象で、条件を満たした人が事業主に対して育児休業の申し出をすれば、取得することができます(育児・介護休業法5条1項本文)。
また、産休を取得できるのが女性であるのに対して、育休は男性も対象となっています(同法5条1項)。
ただし、次のように、女性と男性では育休を取得できる期間が異なります。
- 女性:原則、出産日から数えて58日目~子どもが1歳になる誕生日の前日
- 男性:原則、出産予定日~子供が1歳になる誕生日の前日
女性は出産日から8週間は産休(産後休業)を取得し、それ以降は育休を取得するという形になっています。
一方、産休のない男性の場合には、出産予定日から育休を取得することができます。
また、保育所に入れないなどの特別な理由がある場合には、最長2年間まで育休の期間を延長できます。
育休を取得できる期間について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2-1)育休を取得できない人とは?
先ほど、育休の取得の申し出について、「条件を満たした人」と説明しました。
次のような人は育休の申し出をすることができませんので注意が必要です(育児・介護休業法5条1項ただし書反対解釈)。
- 期間を定めて雇用される人(いわゆる「契約社員」など)であって、子供が1歳6ヶ月になる日までに、労働契約が満了することが明らかな人
また、労使協定で次のような人は育休を取れないと定められている場合があります。
- その事業主に継続して雇用された期間が1年未満の人
- 育休の申し出の日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかな人
- 1週間の所定労働日数が2日以下の人
このような労使協定がある場合、上の3つのうち少なくとも1つに当てはまっている人から育休の申し出があっても、事業主は拒否することができます(同法6条1項ただし書、1、2号、同法施行規則8条)。
(2-2)育休中の家計を支える「育児休業給付金」
育休中、会社からは給与が支払われないのが通常です。
しかし、一定の条件を満たした方であれば、国から育児休業給付金を受け取ることができます。
育児休業給付金を受け取るための条件や支給期間について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
会社は、産休や産休の取得を拒否できるの?
繰り返しになりますが、法律上の条件を満たした人が産休や育休を取得しようとする場合、会社の承諾は法律上の条件となっていません。
つまり、条件を満たした人が産休や育休を取得しようとしているにもかかわらず会社が拒否することは、違法なのです。
産休や育休の取得を拒否した会社へのペナルティー
<産休>
産休の取得を拒否することは、労働基準法65条1、2項違反となり、次のような罰則の対象となります(同法119条1号)。
- 6ヶ月以下の懲役
- 30万円以下の罰金
- 6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金の両方
<育休>
条件を満たしている人への育休取得の拒否は、育児・介護休業法6条1項などの違反となります。
育休を違法に拒否した事業主は、厚生労働大臣から報告を求められたり、助言や勧告などを受けることとなる可能性があります(同法56条)。
また、育休を違法に拒否した事業主が勧告にも従わなかった場合、企業名などを公表されるケースがあります(同法56条の2)。
さらに、厚生労働大臣から報告を求められても応じなかったり、虚偽の報告をした事業主は、20万円以下の過料の対象となります(同法66条)。
産休・育休取得者への嫌がらせなどもNG
産休や育休の取得を違法に拒否するような会社だと、何とか取得できたとしても不利益な取扱いや嫌がらせの被害に遭ってしまうケースがあります。
<不利益な取扱いの例>
- 解雇
- 降格
- 不利益な配置換え など
<嫌がらせの例>
- 取得の申請や申し出の際に、「みんなに迷惑がかかる」などと言って取得しにくくする
- (男性社員の場合)しつこく「奥さんに任せておけばいいじゃないか」と言う など
男女雇用機会均等法(※)や育児・介護休業法(※2)では、会社(事業主)に対し、妊娠・出産や育休などの取得に伴う不利益な取扱いを禁止するとともに、そうした場面で上司や同僚などからの嫌がらせが起こらないようにする措置を義務付けています。
<男女雇用機会均等法>
- 妊娠や出産を理由とする解雇の禁止(9条2項)
- 産前休業の請求などを理由とする、解雇などの不利益な取扱いの禁止(9条3項)
- 妊娠や出産、産休の取得などが原因となって、その女性労働者の就業環境が害されることを防止するため、相談に応じたり適切な対応ができるような体制を整備すること(11条の3第1項) など
※正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
<育児・介護休業法>
- 育休の申し出が円滑にできるようにするための、雇っている労働者に対して育休についての研修か、育休についての相談体制を整備するなどの措置(22条1項各号)
- 育休の申し出や、育休後の職場復帰がスムーズにできるようにするための、労働者の配置や育休中の労働者の能力向上などの措置(22条2項) など
参考:男女雇用機会均等法 育児・介護休業法のあらまし 15頁|厚生労働省
また、産休や育休を取得しようとしたことなどがきっかけとなって、妊娠や出産などについて不快な思いをさせられる「マタハラ」が始まってしまうケースもあります。
職場で起こるマタハラの具体例や対処法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
産休・育休の取得を会社から拒否された場合などの相談先
それでは、産休や育休の取得を拒否されてしまった場合や、産休や育休などに伴い不利益な取扱いや嫌がらせを受けた場合の相談先をご紹介します。
(1)社内の相談窓口
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、妊娠や出産、育休などの取得について労働者が相談できる体制などを設けることを事業者に義務付けています。
そのため、社内の相談窓口で相談することができます。
(2)公的機関
また、公的機関に相談することもできます。
相談先としては、例えば次のようなところがあります。
- 労働基準監督署
…企業が労働基準法などの労働基準関係法令に違反していないか、監督しています。
例えば産休は労働基準法上の制度ですので、会社が違法に取得を拒否している場合には労働基準監督署に相談することができます。
- 雇用環境・均等部(室)
…性別や正規・非正規雇用の違いに伴う不当な扱いなどの是正を図るために、各都道府県にある労働局に置かれています。
男女雇用機会均等法や育児・介護休業法などについての問題が起きた場合に、労働者と事業主の間での歩み寄りを促すため、援助や調停などを行います。
参考:全国労働基準監督署の所在案内|厚生労働省
参考:雇用・労働 労働者の方へ|厚生労働省
(3)弁護士
産休や育休の取得などに伴うトラブルについては、弁護士に相談するという方法もあります。
弁護士の場合、公的機関よりもトラブルを総合的に解決できる可能性があります。
例えば労働基準監督署の場合、対応してくれるのは基本的に「労働基準関係法令違反の案件」です。
しかし、弁護士の場合、産休取得についてパワハラが起きた場合、パワハラを行った上司や同僚に対して、不法行為を原因とする損害賠償請求をする(民法709条)といった解決策も提供できる可能性があります。
パワハラなどを行った個人に対して損害賠償請求をしたい場合、基本的には民法の問題となるので、労働基準監督署の職務の範囲外です。
一方、弁護士であればそのような垣根を越えた解決策を示すことができる可能性があります。
【まとめ】条件を満たしている人が産休・育休を請求した場合、会社が拒否することは違法
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 産休(産前・産後休業):出産を間近に控え、または出産から間もない女性労働者のための休業制度。産前休業は原則6週間、産後休業は原則8週間。
- 育休(育児休業):原則1歳未満の子供を育てるための、男女のための休業制度。
- 産休や育休を取得するための法律上の条件を満たした人に、会社側から取得を拒否することは違法。罰金などのペナルティーの対象となる。
- 男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、妊娠、出産や育休の取得などに伴う不利益な取扱い(解雇など)を会社に対して禁止するとともに、育休などの利用がスムーズにできるようにするための措置を会社に義務付けている。
- 産休、育休の取得を拒否されてしまった場合などには、労働基準監督署や雇用環境・均等部(室)、弁護士などに相談することができる。
産休や育休を取得することは、法律上の権利です。
また、産休や育休は、子育てと仕事の両立のために欠かせないものであるといえます。