「雇用調整助成金を申請するにはどうすればいいんだろう?」
実は、新型コロナウイルスの流行により、雇用調整助成金の額が引き上げられるなどの特例措置がとられています。
雇用調整助成金は、労働局またはハローワークに必要書類を提出して申請します。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 雇用調整助成金の支給要件と支給額
- 雇用調整助成金の支給までの流れ
- 雇用調整助成金の申請方法
- 雇用調整助成金申請の注意事項
- 新型コロナウイルス感染症での特例
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金とは、経済的理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇用維持のため、国から事業主に対し休業手当などの一部が助成されるものです。

雇用調整助成金の助成額は条件によって違いがある
2022年6月現在、新型コロナウイルス流行に伴う特例措置がとられていますが、特例措置の要件を満たさない場合は、平常時の雇用調整金の制度が適用されますので、まずは平常時の雇用調整金の助成額についてご説明します。
助成額は1.事業所の規模と、2.雇用維持のために何をしたか、によって違いがあります。
【助成額】
雇用維持策 | 助成限度日数 | 中小企業 | 大企業 |
---|---|---|---|
休業 | 初日から1年の間に 最大100日分 | 休業手当の 3分の2 | 同手当の2分の1 |
教育訓練 | 3年の間に 最大150日分 | 教育訓練実施時の 賃金の3分の2 | 同賃金の2分の1 |
出向 | 最長1年の出向期間中 | 出向元事業主の 負担額の3分の2 | 同負担額の3分の2 |
その他にも、いくつかの基準があります。

教育訓練 | 1人1日あたり1200円加算 |

- 助成金を受給している期間に、労働者が残業したりすると、助成額が減少することもあります(残業相殺)。
- 雇用調整助成金の対象となる労働者は、一定の雇用保険被保険者に限られます。
参考:雇用調整助成金ガイドブック~雇用維持に努力される事業主の方々へ~|厚生労働省
新型コロナウイルス感染症で雇用調整助成金はどう変わった?
新型コロナウイルスの流行により、雇用調整助成金に特例措置が設けられ、助成率と上限額の引き上げなどがなされました。
具体的には、1人1日1万5000円を上限に、従業員に支払った休業手当の内、最大10分の10が助成されるようになりました。
また、教育訓練を実施した場合の加算額も引き上げられ、教育訓練を受けた労働一人につき、最大2400円(日)が加算されます。
さらに、学生アルバイトなど、雇用調整助成金の対象外の労働者は、緊急雇用安定助成金の対象になりました(内容や申請先は雇用調整助成金と同じです)。
その他にも、受給要件の緩和や残業相殺の停止、申請書類の簡素化などがなされ、より利用しやすい制度となっています。
特例措置の期間は、当初、2020年12月末まででしたが、その後も延長され、現在のところ、2022年9月30日まで延長されております。
期限の延長の有無や特例措置の内容については、最新の情報にご注意ください。
参考:雇用調整助成金(新型コロナ特例)|厚生労働省
参考:令和4年1月以降の雇用調整助成金の特例措置等について|厚生労働省
雇用調整助成金の支給要件と支給額
特例措置下における支給要件と支給額は、次のとおりです。
(1)雇用調整助成金の支給要件
【対象となる事業主】
新型コロナウイルスの流行に伴う特例措置では、次の要件を全て満たす事業主が、雇用調整助成金の対象となります。
- 新型コロナウイルスの流行のため、経営状況が悪化し、事業活動が縮小している。
- 最近1ヶ月間の売上高などが、前年同月比で5%以上減少している。
- 労使間の協定に基づき、休業などを行い、休業手当を支払っている。
【対象となる労働者】
雇用されている雇用保険被保険者に休業手当を支払っている場合に、雇用調整助成金の対象となります。
雇用保険被保険者ではない学生アルバイト等に休業手当を支払っている場合は、緊急雇用安定助成金という名称の助成金の対象となります。
(2)雇用調整助成金の支給額
労働者1人1日あたり1万5000円を上限として、次の計算式で支給額が算出されます。
休業手当に相当する額(※)×助成率
※ここでいう「休業手当に相当する額」とは、実際に支払った休業手当の金額とは異なる場合があります。
詳しくは、次のページをご覧ください。
参考:雇用調整助成金ガイドブック~雇用維持に努力される事業主の方々へ~|厚生労働省
【助成率】
- 判定基礎期間の初日が2021年4月までの場合
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
通常の場合 | 5分の4 | 3分の2 |
解雇をしていないなどの一定の要件を満たす場合 | 10分の10 | 4分の3 |
- 判定基礎期間の初日が2021年5月以降の場合
中小企業 | 大企業 | |
---|---|---|
通常の場合 | 5分の4 | 3分の2 |
解雇をしていないなどの一定の要件を満たす場合 | 10分の9 | 4分の3 |
売上高等が直近3ヶ月平均で前年または前々年同期に比べ 30%以上減少しているなどの条件を満たす企業 (括弧内は解雇をしていないなどの一定の要件を満たす場合) | 5分の4 (10分の10) |
2020年4月1日~2022年9月30日の間に実施した休業などは、平常時の雇用調整助成金の支給限度日数とは別に、雇用調整助成金の支給を受けることができます。
つまり、休業の場合は、支給限度日数が100日であるところ、特例措置期間の前にすでに休業を実施していて、30日分の雇用調整助成金を受給していたとしても、特例措置下では別途最大で100日分受給することができます。
参考:雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)|厚生労働省
雇用調整助成金の支給までの流れと期間
雇用調整助成金(ただし新型コロナウイルスの流行による特例措置によるもの)の支給までの流れについてご説明します。

(1)労使協定
事業主と労働者の過半数で組織する組合(これがない場合は労働者の過半数を代表する者)との間で、書面で協定をします(労使協定)。
雇用調整助成金の支給を受けるためには、事前に、以下の事項を労使協定する必要があります。
- 休業実施時期
- 休業の日数
- 休業の対象者
- 休業手当の支払率など
新型コロナウイルスの影響により、事前に書面による協定締結が難しい場合は、労働組合等と確約書等を交わすことで代替することもできます。
(2)休業
雇用調整助成金の対象となるのは、1年の期間内に実施した休業です。
労使協定に基づき、従業員に休業手当を支払います。
雇用調整助成金の入金の前に、休業手当の支払いをしなければならない点に注意してください。
(3)申請
事業所の住所地を管轄する労働局またはハローワークに必要書類を提出します。
申請期限に注意しましょう。
申請期限は、支給対象期間の末日の翌日から2ヶ月以内です。
(4)支給
労働局の審査を通ると、雇用調整助成金が、指定口座へ振り込まれます。
政府は、申請から1ヶ月での振り込みを目指すとのことですが、申請が殺到していることもあり、実際には2ヶ月以上かかるなど、支給まで時間がかかるケースもあるようです。
申請手続きの方法
必要書類を、事業所の住所地を管轄する労働局またはハローワークに提出して申請します。
窓口に持参、郵送、または、オンラインにて提出できます。
必要書類は、「雇用調整助成金の様式ダウンロード(新型コロナウイルス感染症対策措置用)|厚生労働省」からダウンロードしてください。
小規模事業主の方と、中小・大企業の方とでは、申請する書類が異なりますので注意しましょう。
小規模事業主とは、従業員の数がおおよそ20人以下の事業所や個人事業主を指し、それ以外が、中小・大企業となります。
雇用調整助成金申請の注意事項
雇用調整助成金申請の注意事項は、次のとおりです。
- 早め早めに準備すること
- 書類には不足や記入漏れがないようにすること
- 特例措置が適用されない場合は、平常時の雇用調整助成金の対象になること
(1)早め早めに準備しよう
申請が殺到すると、支給までに2ヶ月以上かかる場合もあります。
雇用調整助成金が支給される前に、休業手当を従業員に先に支払わなければならないため、支給時期が遅れると資金がショートしかねません。
早めに申請するようにしましょう。
(2)書類には不足や記入漏れがないようにしよう
必要書類に不足や記入漏れがあると、支給がされるまでに、より長い時間がかかってしまいます。
必要書類に不足はないか、記入漏れはないか、よく確認しましょう。
押印が漏れていることがよくあるので、押印を忘れないようにしましょう。
書類を作成する際に、疑問点があれば、労働局や専門家に問い合わせるなどして、書類提出前に疑問点を解決するとよいでしょう。
雇用調整助成金の問い合わせ先一覧については、次のページをご覧ください。
参考:雇用調整助成金のお問い合わせ先一覧について|厚生労働省
(3)特例措置が適用されない場合は、平常時の雇用調整助成金の対象になることも
新型コロナウイルス流行に伴う特例措置の対象にならない場合でも、平常時の雇用調整助成金の要件を満たしていれば、平常時の雇用調整助成金の支給を受けることが可能です。
特例措置の対象ではない場合は、平常時の雇用調整助成金に必要な手続きに則って申請するようにしましょう(手続きの種類を間違えないようにしましょう)。
【まとめ】雇用調整助成金は労働局またはハローワークに必要書類を提出して申請する
この記事のまとめは次のとおりです。
- 雇用調整助成金とは、経済的理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、国から事業主に対して休業手当などの一部が助成されるもの。
- 雇用調整助成金の助成額は条件によって違いがある。
例えば、平常時の場合、中小企業では最大100日分について休業手当の3分の2が支給される。 - 新型コロナウイルス感染症に対する特例措置として、雇用調整助成金の助成率と上限額の引き上げがなされた。
- 特例措置の下では、雇用調整助成金の支給要件は、最近1ヶ月の売上高などが前年同月比で5%以上減少していることなど。
- 特例措置の下では、雇用調整助成金の支給額は、労働者1人1日当たり1万5000円を上限として、「休業手当に相当する額×助成率」の計算式で算出される。
特例措置の下では、助成率は最大10分の10。 - 雇用調整助成金の支給までの流れは、労使協定締結、休業等の実施、申請、支給の順。
- 申請手続きの方法は、必要書類を事業所の住所地を管轄する労働局またはハローワークに提出して申請する。
- 雇用調整助成金の申請は、早め早めに準備するなどの注意が必要。
雇用調整助成金の制度は新型コロナウイルスの流行に伴い、特例措置がとられ、助成金の金額や、申請の方法などが、大幅に変化しています。
以前は雇用調整助成金の対象とならなかった事業者も、対象となり、申請方法も簡素化され使いやすくなっています。
事業者の規模により助成率や申請書類が異なりますので、よく確認しましょう。
申請についてお困りのことがあれば、公的な相談窓口へご相談ください。
雇用調整助成金の問い合わせ先一覧については、次のページをご覧ください。