「IT業界でプログラマーとして働いていて、残業も多い。
残業が多いのに、裁量労働制という理由で残業代が支払われていない。
でも、残業をしたのに残業代を支払ってもらえないのはおかしいんじゃないかな……。」
IT業界では、裁量労働制などのさまざまな理由で残業代が支払われていないケースが多くあります。
しかし、そのような場合でも、実は残業代をもらえる可能性があります。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- IT業界の残業実態・長時間労働の要因
- IT業界でよくあるサービス残業のケース
- 未払い残業代請求のための2つの準備
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
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IT業界の残業実態|平均残業時間や長時間労働の要因
IT業界の残業実態や長時間労働の要因について、統計データなどに基づいてご説明します。
(1)IT業界における残業に関する統計データ
厚生労働省が2020年に行った調査によると、IT従事者の1ヶ月あたりの平均所定外労働時間の平均は19.5時間でした(2019年の数値)。
10~29時間とする回答が70%以上を占めています。
厚生労働省では、IT業界の年間総実労働時間・所定外労働時間が全産業平均に比べて高水準であることを受け、「IT業界の働き方改革」を推進しています。
具体的には、次のようなことなどを行っています。
- 長時間労働が生む問題の抽出
- 長時間労働が生む問題の解決までのプロセス提示
- プロジェクトの生産性向上やトラブル発生防止のためのハンドブックの発行
参照:IT業界の働き方に関する経年変化と新型コロナウイルスの影響調査|厚生労働省
(2)IT業界における長時間労働の要因
IT業界は、過重労働による脳・心臓疾患や、業務における強い心理的負荷による精神疾患が多い業界といわれています。
過重労働になりやすい要因には、ITエンジニアの仕事の特性や仕事の受発注の仕組みがあります。
主な要因は次のとおりです。
- プロジェクト等の進行が、個々人のノウハウや経験値により左右されるため、進捗管理が難しい
- 多重下請け構造になることが多く、関係者のコミュニケーションが取りづらい
- 発注者や元請けからの急な仕様変更や短納期での業務が多い
IT業界でよくあるサービス残業のケース
IT業界では、サービス残業が多く行われています。
IT業界でよくあるサービス残業のケースとして、次のものがあります。
- 裁量労働制が適用できないはずなのに裁量労働制が採用されている
- みなし残業代制(固定残業代制)が採用されているが無効である
- 管理職として残業代をもらっていないがいわゆる「名ばかり管理職」にあたる
これらについてご説明します。
(1)裁量労働制が適用できないはずなのに裁量労働制が採用されている
IT業界でよくあるサービス残業のケースの一つ目が、裁量労働制が採用されているケースです。
裁量労働制とは、いつからいつまで何時間仕事を行うかなどを労働者の判断にゆだね、あらかじめ定めた一定時間を働いたものとみなす勤務体系のことです。
この裁量労働制が、本来は適用できないはずなのに適用されているケースがあります。
裁量労働制は、どのような職種についても導入できるわけではありません。
裁量労働制を採用する場合には、厚生労働省が定める「専門業務型裁量労働制の対象業務」でなければなりません。
例えば、職種が「プログラマー」である場合、基本的には専門業務型裁量労働制の対象業務ではありません。
しかし、名目上は対象業務である「情報処理システムの分析又は設計の業務」であるとされて、裁量労働制が適用されている場合があります。
この場合には、実質的には対象業務であるとはいえないため、裁量労働制は適用できません。
このように、裁量労働制は適用できないとされると、実際の労働時間に応じて残業代が計算され、残業代を受け取れる可能性があります。
裁量労働制について、詳しくは次のページをご覧ください。
(2)みなし残業代制(固定残業代制)が採用されているが無効である
みなし残業代制(固定残業代制)とは、簡単にいうと、あらかじめ一定の時間残業したものとみなして、みなし残業に対する残業代として一定の金額が支払われるものです。
みなし残業代制は、無効となる場合もあります。
みなし残業代制が無効になる場合には、次のようなものなどがあります。
- そもそもみなし残業代制を採用することが労働契約の内容となっていない
- 基本給と固定残業代部分が明確に区分されていない
- 固定残業代が時間外労働の対価として支払われていない
IT業界(情報通信業)は、みなし労働時間制の採用率が比較的高いです。
しかし、その全てが有効なみなし残業代制であるとは限りません。
みなし残業代制が無効である場合には、残業代が支払われていないという前提で、未払いの残業代を請求することができる可能性があります。
みなし残業代制における残業代請求の方法については、こちらもご覧ください。
(3)管理職として残業代をもらっていないがいわゆる「名ばかり管理職」にあたる
いわゆる「名ばかり管理職」とは、会社内で管理職とされる地位にある労働者が、労働基準法上の「管理監督者」に当てはまらない場合のことです。
労働基準法上の「管理監督者」にあたる場合には、労働基準法で定められた労働時間などに関する規制を受けません。
このため、会社は管理監督者に対しては時間外労働・休日労働に対する残業代を支払う必要はありません。
いわゆる「名ばかり管理職」は、労働基準法上の「管理監督者」にあてはまるための実態を有しません。
管理監督者にあてはまるためには、「労務管理について経営者と一体的な立場にある」といえる必要があります。
しかし、名ばかり管理職は重要な責任と権限を委ねられておらず、経営者と一体的な立場にあるとは認められません。
管理監督者にあたらない以上、名ばかり管理職に対しては、残業代を支払わなければなりません。
管理監督者にあたらないのに残業代を支払わないケースは、違法です。
このような場合、実際の労働時間に応じて残業代の支払を請求することができます。
管理監督者について、詳しくはこちらをご覧ください。
未払い残業代請求のための2つの準備
実際に会社に対して未払い残業代を請求する前に、次の2つの準備をする必要があります。
- 未払い残業代の証拠を準備する
- 未払い残業代を計算する
(1)未払い残業代の証拠を準備する
未払い残業代を請求するために、残業があった事実を根拠づける証拠資料が必要となります。
残業代請求にあたって有効な証拠としては、次のようなものがあります。
- タイムカード
- 出勤簿
- 日報(始業・終業の時刻を記載しているもの)
- web打刻ソフトのスクリーンショット
- 雇用契約書や就業規則
- 給与明細書
残業代請求で集めるべき証拠について、詳しくはこちらをご覧ください。
手元にタイムカードなどの証拠になりそうなものがないけれど、証拠がない以上は残業代請求できないのかな……。
諦めるのは早いです!
弁護士に依頼すれば、弁護士が会社に対して証拠となる資料の開示を請求してくれます。
会社は、資料開示の請求に応じて証拠となる資料を開示してくれることも多くあります。
このように開示された資料を証拠として残業代請求をすることができることもあります。
まずは諦めずに弁護士に相談してみましょう。
(2)未払い残業代を計算する
未払い残業代の証拠を収集したら、請求できる残業代を計算します。
残業代は、次の計算式で算出することができます。
残業時間×1ヶ月あたりの基礎賃金×割増率
もっとも、IT従事者の場合、裁量労働制やみなし労働時間制などが採用されていることも多いです。
その場合は、単純にこのような計算式で残業代を算出できるわけではありません。
より計算が複雑になります。
残業代の計算は、慣れていないと正確に行うことが難しいものであるため、弁護士に依頼することがおすすめです。
残業代計算を弁護士に依頼しようと思っているけれど、弁護士に依頼する前におおまかにでもいいから残業代の概算額を知りたいな。
残業代の概算額を計算することができるWEBサイトがありますよ。
「残業代メーター」は、請求可能な残業代を簡易的に計算できるWEBサイトです。
※あくまでも簡易的に計算するものであり、実際の請求額とは異なる可能性があります。
【まとめ】IT業界で特殊な労働時間制であっても残業代を請求できる可能性はある
この記事のまとめは次のとおりです。
- 厚生労働省が2020年に行った調査によると、IT従事者の1ヶ月あたりの平均所定外労働時間の平均は19.5時間。
- IT業界における長時間労働の要因として、進捗管理が難しいことや、急な仕様変更・短納期での業務が多いことなどがある。
- IT業界でよくあるサービス残業のケースとして、裁量労働制の対象業務ではないにもかかわらず裁量労働制を適用している、みなし残業代制(固定残業代制)が採用されているが無効である、などのケースがある。
- 未払い残業代請求のための準備として、未払い残業代の証拠を準備することや、未払い残業代を計算することがある。
多忙なIT業界で働きながらも、さまざまな理由で残業代をもらえていない方は多くいます。
しかし、残業をしたのであれば残業代をもらえるというのは当たり前のことです。
残業代をもらわないままにしておくことは、もったいないことでもあります。
ぜひ、残業をした分の残業代を請求してみましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年8月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。