「休職したい……でも休職中のお金が心配」
実は、休職中であっても、場合によっては一定の手当などを受け取れることがあります。
例えば、業務外の理由によるケガや病気のために求職した場合には、「傷病手当金」が受け取れることがあります。
今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 休職とは何か
- 休職するまでの手続き
- 傷病手当金について
- 傷病休職中にするべきこと
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
休職とは
「休職」とは、一般的に、労働者が何らかの事情で働くことができなくなった場合や、働くことが不適当となった場合に、労働契約はそのまま維持しつつ、業務を免除・禁止することをいいます。
休職は、理由に応じて、主に次のように分類できます。
- 傷病休職
ケガや病気により、長期間仕事を休む場合 - 事故欠勤休職
ケガや病気以外の理由で、自己都合により、長期間仕事を休む場合 - 起訴休職
刑事事件で起訴された人について一定期間仕事を休ませる場合 - その他(出向休職、組合専従期間中の休職など)
このように、休職には様々な理由に基づくものがありますが、一般的には、本人の都合や、本人に帰責性のある休職の場合には賃金は支給されません。
また、退職金の算定基礎となる勤続年数への参入も、全くされないか、ほとんど行われないかのどちらかです。
(1)休職制度がない企業もある
休職は、法律上の制度ではなく、企業独自で導入する制度です。
このため、休職の制度がない企業もあります。
また休職に適用される条件も企業によって様々です。
(2)休業との違い
休職は、法律上の制度ではありませんが、休業は法律上の制度です。
休職の場合は、原則として企業が、賃金の支払・休職の期間など、自由に制度の内容を決めることができます。
これに対して、休業の場合は、法律の制約を受けますので、企業が自由に制度の内容を決めることができません。
例えば、法律上、会社都合の休業に当たる場合は、企業が賃金を払いたくなくとも、休業期間中は、賃金の60%以上を支払わなければなりません(労働基準法26条)。
また、出産後8週間仕事を休むことは法律上、休業にあたりますが(産後休業)、少なくとも産後6週間は、たとえ企業や労働者が就労を希望したとしても、当該労働者の就労が禁止されます(労働基準法65条2項)。
ケガや病気のため休職するまでの手続き
企業によって異なりますが、ケガや病気のための休職(傷病休職)をする場合は、一般的に以下のような手順で行われます。
(1)病院を受診
体調が悪い場合は、早急に病院で受診しましょう。
休職の必要性は医師が症状を判断し、生活全般を考慮して判断することになります。
医師から休職について言及がなかった場合でも、ご自身で就労が厳しいと感じるようであれば、仕事の具体的な内容を医師に伝えるなどして、医師に休職の必要があるのか相談してみましょう。
(2)診断書の発行
医師から休職の必要があると言われた場合には、その受診の際に、企業に提出するための診断書を医師に発行してもらいましょう。
後日、診断書の発行を求めても、通常は、再度の受診が必要となります。
一般的に、診断書発行には、別途費用が必要です。
産業医がいる場合は産業医に診断書を発行してもらうという方法でもよいです。
(3)休職の手続き
診断書を受け取ったら、企業の人事労務担当者に、休職届や診断書を提出することになります。
休職届のひな型は通常企業が用意していますので、人事担当者に問い合わせてみましょう。企業によっては、休職届は不要であるところもあります。
また、休職の手続きをする際には、休職できる期間や休職中の賃金の有無などを確認します。
上司や人事担当者との面談などで、手続きに数日かかることもあります。
傷病休職中に給付される手当として傷病手当金がある
休職中は、一般的に、無給であることが多いですが、一定の条件を満たせば加入している健康保険から「傷病手当金」が支給されることがあります。
「傷病手当金」とはケガや病気による休職中に、労働者とその家族の生活を保障するための手当です。
(1)手続きの条件
傷病手当金は、次の条件をいずれも満たせば、原則として、受給できます。
1.勤務先の健康保険に加入していること
2.業務外のケガや病気の療養のための休職であること
3.休職が必要な状態であること
4.連続する3日間+その翌日(4日目)以降仕事ができなかったこと
5.仕事を休んだ期間、賃金の支払いがないこと
これらの傷病手当金の受給条件について、詳しく解説します。
参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会
(1-1)勤務先の健康保険に加入していること
傷病手当金を受給するためには、勤務先の健康保険に加入していることが必要です。
ただし、「任意継続被保険者」である期間中(資格喪失後※)に、新たにケガや病気をして傷病手当金の給付事由が生じた場合は、傷病手当金は支給されません(資格喪失前にすでに傷病手当金の給付事由が生じており、資格喪失後も傷病手当金の継続給付を受ける場合、一定の条件を満たす必要があります)。
※「任意継続被保険者」とは、退職するなどして勤務先の健康保険の加入資格を喪失した後に、一定期間、元の勤務先の健康保険に個人で加入している人のことをいいます。
(1-2)業務外のケガや病気の療養のための休職であること
休職の原因が、仕事上・通勤上のケガや病気ではないことが必要です。
仕事上・通勤上のケガや病気による休職の場合、傷病手当金ではなく、基本的には労災保険の対象となります。
労災保険による補償について、詳しくは次のページをご覧ください。
(1-3)休職が必要な状態であること
入院や手術で病院にいる間や、就労不能で自宅療養している間など、休職が必要な状態であることが必要です。
休職が必要な状態であるか否かの判断基準となるのは、次のものなどがあります。
- 医師の診断
- 休職者の仕事の内容
(1-4)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
休職しても、待期期間3日を過ぎないと、傷病手当金を受給することができません。
連続して3日休むと、待期期間が過ぎた扱いとなり、4日目から傷病手当金が支給されます。
土日祝日・有給休暇を取得した日に休んだ分も待期期間3日に含まれます。
待期期間には、「連続して」休んだことが重要です。
例えば、10月1日~10月3日の3日の内、10月2日だけ仕事をした場合、10月1日~10月3日の間、休みが連続していませんので、10月4日時点では、待期期間は経過していないことになります。
(1-5)仕事を休んだ期間について賃金の支払がないこと
傷病手当金を受給するためには、仕事を休んだ期間について賃金の支払がないことが必要です。
例えば、ケガや病気をしたが、有給休暇を取得して休んだ期間については、基本的には傷病手当金はもらえません。
ただし、休職中も賃金の一部が支払われているが、傷病手当金の方が高い金額である場合には、賃金と傷病手当の差額を受け取れます。
(2)支給される期間
傷病手当金が支給される期間は、最長で1年6ヶ月です。
この「1年6ヶ月」という期間は、支給開始日から「通算して」計算します。
つまり、支給されている間を足して1年6ヶ月になるまでは、傷病手当金が支給されます。
制度改正以前は、支給開始日から「起算して」1年6ヶ月経過後は支給されないこととされていました。
しかし、2022年1月1日施行の法改正により、支給開始日から「通算して」1年6ヶ月は支給を受けることができるようになりました。
この改正の対象となる傷病手当金は、2020年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金です。
参考:令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます|厚生労働省
(3)支給される手当額
傷病休職の場合、原則として、次の式により、1日あたりの傷病手当金が導かれます。
1日あたりの傷病手当金=直近の継続した12ヶ月間の平均の「標準報酬月額」÷30日×3分の2
おおよそ、賃金の3分の2程度の金額を受け取ることができます。
なお、健康保険でいう「標準報酬月額」とは、賃金をある金額ごとに区切った金額のことです。
実際の賃金と標準報酬月額は完全に一致しないこともありますが、標準報酬月額は、実際の賃金と近い金額であることが多いです。
女性で出産手当金を受け取っている場合でも、傷病手当金の方が高ければ、出産手当金と傷病手当との差額を受け取ることができます。
その他、労災保険や、障害厚生年金・障害手当金、老齢(退職)年金などの受給を受けているときは、傷病手当金の金額が減額されたり、不支給となったりしますので注意しましょう。
傷病休職中にすべきこと
一般的に、休職中に行動の制限はありません。
しかし、会社によっては定期的な連絡を求めるケースもあるので、あらかじめ確認しておきましょう。
また、傷病休職中にすべきこととしては、次のようなものがあります。
- たっぷり休養をとる
- 規則正しい生活を送るようにする
- 定期的に会社に連絡する
これらについてご説明します。
(1)たっぷり休養をとる
傷病休職の目的は「職場復帰のための療養」なので、療養を第一にしましょう。
とくに休職初期はなにも考えずにたっぷり休養を取ることが、職場復帰への近道です。
(2)規則正しい生活を送るようにする
休職により、自宅療養となると生活リズムが乱れがちになるので、早寝早起きを心掛けましょう。
朝は一定の時間にカーテンを開けて朝日を浴び、食事も毎日、同じ時間に取るようにすると、生活リズムが整いやすくなります。
また、散歩など適度な運動をすることで、心身の健康につながりますので、医師に運動を禁止されていない方の場合は、運動の時間も意識的に取るようにしましょう。
(3)定期的に会社に連絡する
休職中の健康状態について会社に定期的に連絡をしておきましょう。
人事に直接連絡するのではなく、直属の上司を通して連絡します。
体調を心配しているであろう同僚も安心し、連絡を取り続けることで職場にも復帰しやすくなります。
ただし、職場の人間関係などが原因で精神の健康を崩し、休職している場合には、無理に定期的に会社と連絡と取ると、かえって体調を崩すことにもなりかねません。
医師や会社と相談して、心身に無理をきたさない範囲の連絡となるよう、休職前に調整しておくとよいでしょう。
【まとめ】傷病休職中は傷病手当金を受け取れることがある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 「休職」とは、一般的に、労働者が何らかの事情で働くことができなくなった場合や働くことが不適当となった場合に、労働契約はそのまま維持しつつ業務を免除・禁止すること。
- 休職にはいくつかの種類があり、ケガや病気により長期間仕事を休む傷病休職などがある。
- 傷病休職をするには、「病院を受診→診断書発行→休職手続き」の順で手続きを行う。
- 傷病休職中に給付される手当として、最長1年6ヶ月の間、給与の約3分の2程度の額の傷病手当金を受け取ることができる場合がある。
- 傷病手当金を受け取るためには、勤務先の健康保険に加入していることなどの条件を満たすことが必要。
- 傷病休職中には、たっぷりと休養を取ることなどが大切。
ケガや病気をした場合など、さまざまな理由で休職しなければならないことがあります。
特に、傷病休職の場合には、しっかりと休養を取るようにしましょう。
休職となると、どうしても休職期間中のお金が心配になるかもしれません。
ですが、そんなときのために傷病手当金などの制度があります。
少しでもお金を受け取ることができれば、安心して休職できますよね。
傷病休職の場合には傷病手当金を受け取るなど、うまく制度を使うようにしましょう。
休職に関しての相談は、労働問題を扱う弁護士などの専門家までご相談ください。