走行中の車両同士の交通事故では、どちらか一方の当事者のみが100%悪いと判断されるケースは少なく、どちらの当事者にも不注意な点(過失)があったと判断される傾向にあります。
当事者にどの程度不注意な点があったか(過失割合)を決める際に重要な証拠となるのが現場の状況を記した「実況見分(じっきょうけんぶん)」調書です。
今回は、「実況見分」について解説します。
交通事故における実況見分とは?
実況見分とは警察官が捜査の一環として、聴覚や視覚など五官の作用を使って事故現場の状況を調べることです(刑事訴訟法197条1項本文)。
ドラマ等で「現場検証」と聞いたことがあるかもしれません。
実況見分は、現場検証をイメージするとわかりやすいでしょう。
実況見分に基づき「実況見分調書」が作成される
警察官が事故現場の状況を調べて、認識した情報を記載した書面を実況見分調書といいます。
実況見分調書は、本来刑事事件のために作成されるものです。
もっとも、警察官が作成するためその記載内容は精確であろうと考えられており、示談交渉など民事事件においても重要な証拠となります。
実況見分が行われるケース、実況見分調書に記載してある内容についてくわしく解説します。
(1)実況見分は基本的に人身事故発生時に行われる
誰かが怪我をした人身事故では、加害者が過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪に問われる可能性があるため、警察は実況見分などの捜査をします。
実況見分調書は、人身事故の際に捜査資料として作成されるものなのです。
これに対して、不注意で物を壊しても犯罪にはならないので、物損事故自体が刑事事件として扱われることはまずありません。
そのため、物損事故の場合には、物件事故報告書など簡単な書面が作成されます。
交通事故が起こると、時折加害者側から被害者が怪我をしているにもかかわらず「物損事故として処理して欲しい」と持ち掛けられることがあります。しかし、事故の状況・結果は正直に話す必要があるので、安易に加害者の提案に乗らないようにしましょう。
(2)実況見分調書の記載内容
実況見分調書には、次のようなことが記載されます。
- 実況見分を行った日時
- 実況見分に立ち会った人の氏名
- 事故の起きた場所
- 事故時の天候
- 事故時の路面の状態(路面が乾燥しているか、交通規制はどうか等)
- 事故現場の道路状況(道路に勾配があるか スリップ痕があるか、障害物はあるか等)
- 運転車両の状況
- 事故発生時の状況(最初に相手を発見した地点、ハンドルを切った地点、ブレーキをかけた地点、衝突した地点、転倒した地点等)
実況見分は基本的に被害者・加害者が立ち会う
実況見分には、基本的に被害者、加害者がともに立ち会います。
もっとも、被害者、加害者が1人の警察官から話を聞かれるケースは少ないでしょう。
口論になるのを避けるために、少し離れた場所で話を聞かれるのが通例です。
被害者が怪我をして救急車で病院に運ばれたケースのように、事故現場に被害者がいないことがあります。このように被害者がいなくても実況見分は行われます。その場合には、警察官が加害者の話を聞き、残された現場の状況・目撃者の証言から得た情報を記載するので、被害者の認識と異なる内容が実況見分調書に記載される可能性があります。
実況見分の流れ
事故を起こすと、運転手には次の3つの義務が課されます(道路交通法72条1項)。
〇警察への事故報告
〇負傷者の救護
〇道路の安全確保
負傷者の救護や搬送が終わると、実況見分が行われます。
警察官は、事故の当事者や目撃者からくわしく話を聞いたり、車や道路状況等の写真を撮影したりします。
実況見分に立ち会ううえで注意するべき3つのポイント
実況見分に立ち会ううえで押さえておきたい3つのポイントをお伝えします。
(1)曖昧に答えない・正直に答える
事故のショックから、事故当時の記憶が曖昧になっているかもしれません。
そこで、実況見分で警察に話を聞かれるまでに頭を整理しておいたほうが良いでしょう。
実況見分が始まったら明確に記憶していることを具体的にはっきり伝えます。
実況見分調書が重要な証拠となることを忘れないでください。
警察が来る前に、交通事故の相手と話をする機会があるでしょう。
しかし、なかなか冷静に話し合うことは難しいでしょうから、なるべく距離を置いておきたいところです。相手との会話は最低限に留めましょう。
相手と話をするとしても、相手の言い分に流されないように注意してください。
(2)感情的にならない・冷静に対応する
事故直後は感情的になってしまうかもしれません。
しかし、感情的になると正確に伝わらない可能性があるので、冷静に対応しましょう。
(3)証拠になるものを確保する
交通事故の状況を客観的に示す証拠として有用なのがドライブレコーダーです。
自車にドライブレコーダーを取り付けていた場合には、ドライブレコーダーの映像を提出しましょう。
相手の車にドライブレコーダーが取り付けられているかも確認しておいてください。
相手がなぜかドライブレコーダーの映像を提出しない場合には、交通事故の原因は自分にあると思っているにもかかわらずそれを隠そうとしている可能性があります。
そのほか、中立的な立場から事故について話してくれる目撃者を確保すること、事故現場や事故車両を自分のカメラで撮影しておくことも大切です。
実況見分調書の内容に納得できない場合の対処法
事故直後、病院に緊急搬送されて立ち会えなかった場合など仕上がった実況見分調書の内容に納得できないことがあるかもしれません。
しかし、警察に実況見分のやり直しを求めても応じてもらえないことがほとんどでしょう。
そこで、実況見分調書の内容は信用できないと主張して、過失割合を争っていくことになります。
実況見分調書の内容に納得できない場合の対処法をお伝えします。
(1)弁護士に相談する
加害者の話に基づいて実況見分調書が作成され被害者やその遺族が実況見分調書の内容に納得いかない場合には、専門知識の豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
(2)自分の主張を供述調書や陳述書として形にする
警察は、必要に応じて実況見分調書と別に当事者の主張をまとめた供述調書を作成します。
供述調書は、警察からの質問に答えた内容を一人称で記載したものです。
もし自分の伝えたい内容を警察がきちんと書面化してくれないならば、署名押印を拒否することができます。
民事裁判になったときには、自分の主張を陳述書として弁護士にまとめてもらい、提出することになります。
【まとめ】実況見分は適切な対処が大切!
交通事故の当事者になった際には、実況見分に立ち会った方が良いでしょう。
実況見分調書、ひいては過失割合に不満がある場合は弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故被害に関するお悩みはアディーレ法律事務所にご相談ください。