「看護師をしているが、今の病院を辞めたい……。
でも、人手が足りないから辞めないでほしいと、しつこく引き留められている。
どうしたらいいの?」
退職を決意しても、引き留めにあって辞めることができない看護師は多いです。
患者に対する責任感や同僚に対する配慮で、「辞めることはできない」と自分を追い込んでしまう人もいます。
しかし、病院が、看護師に辞めないようしつこく引き留める場合でも、上手に辞める方法があります。
そのうちのひとつが、所属する部署の同僚及び直属の上司ではなく、それら以外の者に相談することです。
内容証明郵便にて退職届を送付することで、退職するとの意思表示をした証拠を残すこともひとつの方法です。
また、病院とは関係のない外部の人間を利用することもひとつの方法であり、具体的には労働基準監督署や退職代行サービスなどがあります。
このことを知っていれば、辞めさせてくれない職場も上手に辞めることができます。
この記事では、次のことなどについて弁護士が解説します。
- 看護師の仕事を辞めさせてくれない場合の対処法
- 退職代行とは何か
- 退職代行で弁護士だけができること
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
仕事を辞めるのは個人の自由
仕事を辞めることは、法律上、個人の自由です。
通常の雇用期間の定めなく働いている正社員であれば、民法上、退職の申入れの日から2週間を経過することで雇用関係は終了するということが定められています(民法627条1項)。
雇用期間の定めがあるかどうかを判断するひとつの方法が、定期的に契約更新の手続きがあるかどうかです。
契約更新の手続きが全くないという場合には、雇用期間の定めがないと考えられます。
期間の定めがある場合には、期間の定めがない場合と異なるルールが適用されます。
期間の定めがある場合の退職ルールについては、こちらをご覧ください。
雇用期間の定めがない場合は、職場に「辞める」と伝えてから、2週間で退職することができます。
また、会社側と合意できれば即日辞めることも可能です。
仕事を辞めることが個人の自由であるのは、看護師であっても同じです。
辞めたいのであれば、その意思を伝えることで、病院などの職場を辞めることができます。
「看護師は、人の命を預かる重要な職業であり、簡単に辞めることは許されない」「職場が忙しく人手が足りないのに辞めてしまうのは無責任だ」などと職場から言われて、辞めさせてくれないことがあるかもしれません。
しかし、あなたは看護師である以前にひとりの人間であり、あなたにとって一番大切にしなければならないのは、あなた自身です。
あなたが今、仕事がつらく辞めたいと思っているのであれば、自分の気持ちを一番に優先して思い切って仕事を辞めましょう。
就業規則と法律の関係
このように、法律上は、退職の意思を伝えてから2週間で退職することができます。
しかし、就業規則では、1ヶ月前や2ヶ月前などに退職の意思を伝えなければ退職できないと規定されていることがあります。
このような就業規則が定められている場合、法律上、退職申入れから2週間で退職できるのかどうかについては考え方が分かれています。
裁判例では、就業規則の定めにかかわらず、退職の意思を伝えてから2週間で退職できるとしたものがあります(高野メリヤス事件・東京地方裁判所判決昭和51年10月29日)。
もっとも、このような法律や裁判例にかかわらず、現実的には就業規則に従って辞めるのが常識であるとして2週間では辞めさせてくれないことも多くあります。
看護師を辞めさせてくれない場合の対処法
「法律上辞めるのは自由という建前は分かったけど、現実問題、辞めさせてくれない。どうすればいいの……?」
法律のルールがあっても、それを守ってくれない会社も少なくありません。
その場合、次の対処法を取ってみると良いでしょう。
- 直属の上司より上の上司に相談する
- 内容証明郵便で退職届を送る
- 退職代行を活用する
これらについてご説明します。
(1)直属の上司より上の上司に相談する
雇用期間の定めがない場合、法律上は、退職の意思を伝えてから2週間で辞めることができますので、上司の許可は不要です。
しかし、実際には円満に辞めるために、上司に退職を受け入れてもらってから辞めようとする方が多いです。
そこで、看護師長などの直属の上司に退職したいと相談するわけですが、なかなか退職を受け入れてもらえない場合があります。
そのような場合には、さらに上の上司である看護部長などや、人事部・総務部など、直属の上司とは別の人に相談してみましょう。
看護師長などの直属の上司が退職を受け入れてくれない場合でも、さらに上の看護部長などが退職を受け入れてくれるのであれば、看護師長もそれに従うしかありません。
また、人事部・総務部などであれば、退職を拒絶することは法律上できないということを分かっているはずです。仮にそこで引き留めにあっても、「法律上私は退職することができます」と毅然と伝えるとよいでしょう。
(2)内容証明郵便で退職届を送る
法律上は、退職の意思を何らかの形で伝えればよいので、退職届を受け取ってもらえなくとも辞めることは可能です。
しかし、就業規則で退職届の提出が必要とされている病院も多く、円満に辞めるため、退職届を受け取ってもらおうと考える方が多いです。
そのため、退職届を提出するわけですが、会社が退職届けの受け取りを拒否することがあります。
この場合、退職届を「内容証明郵便」という形式で送るという方法があります。
これにより退職届を受け取った状態にさせることができますし、「退職の意思表示をした」という証拠を残すこともできます。
すなわち、「内容証明郵便」とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰に対して差し出したのかということを郵便局が証明してくれる制度のことです。
内容証明郵便で退職届を送ることで、いつ退職届を職場に送り、いつ受け取られたのかということを証拠に残すことができます。
退職届を内容証明郵便にて送付してくることは通常ないため、病院としても、退職の意思が非常に固いと考えますし、又内容証明郵便にて退職届が送付された以上、退職の意思表示がされたこと自体を握りつぶすこともできないことから、病院が無視せずに真剣に対応することが期待できます。
ただし、なかには内容証明郵便の受け取りを拒否することもあるかもしれません。
内容証明郵便の受け取りを拒否された場合であっても内容証明郵便を送った効果が生じるケースもありますが、そこまで拒否する職場であれば、退職を実現するのにご自身での対応は難しいといえますので、労働基準監督署に相談するという選択肢もあります。
もっとも、労働基準監督署に相談すれば全てが解決するわけではありません。
労働基準監督署から病院に退職の手続を進めるよう連絡があり、病院がいったんこれに応じたとしても、退職の手続自体はご自身で対応することが求められます。
また、病院が退職の意思表示を撤回するよう働きかけをしてくる可能性も否定できません。
内容証明郵便の受け取りすら拒否する病院と直接やり取りをして退職の手続を進めるのは不安であり、退職の意思表示を撤回するよう迫られるのは嫌ですよね。
そのような場合には、退職代行の利用を検討するべきです。
参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧|厚生労働省
(3)退職代行を活用する
「退職の手続きを自分でやってもうまくいかない。」
「自分で退職手続きをするのはストレスだ」
「職場の人間に顔を合わせることなく今すぐ辞めたい」
「忙しすぎて、退職手続きに時間をかける余裕がない」
といった場合には、第三者に退職の手続きをしてもらう「退職代行」を活用するのもひとつの方法です。
「退職代行」で辞めさせてくれない職場を上手に辞めよう
辞めたいのにどうしても辞めさせてくれない職場に勤め続けていると、心身ともに疲れてしまいますよね。
そんな職場は、「退職代行」を使って上手に職場を辞めましょう。
次のことについてご説明します。
- 退職代行とは何か
- 退職代行のメリット
- 退職代行のデメリット
(1)退職代行とは
退職代行って何ですか?
「退職代行」とは、退職したいと考えている労働者本人に代わって、第三者が退職の意思を職場に伝えてくれるサービスのことを言います。
この退職代行サービスは、弁護士でない業者が提供するものと、弁護士が提供しているものがあります。後でご説明する通り、サービス提供者が弁護士であるか、そうでないかによって、退職代行においてできることが異なってきます。
退職代行について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)退職代行のメリット
退職代行のメリットには次のようなものがあります。
- 苦手な上司とのやりとりなしで辞められる
- 会社の理解を得た上で、法律のルールに沿って辞められる可能性が上がる
- 転職活動などに取り組む余裕ができる
これらについてご説明します。
(2-1)苦手な上司とのやりとりなしで辞められる
自分で退職しようと思うと、通常はまず看護師長など直属の上司に退職を伝えることになります。
しかし、もしも退職したい理由が「看護師長が苦手」などといった職場の人間関係であれば、自分で退職の意向を伝えることはとても苦痛ですよね。
退職代行を使えば、あなたの代わりに退職の意思を伝えてくれます。
また、サービスによっては退職に伴う諸手続きも代わりに行ってくれることがあります。
これにより、苦手な上司など職場とのやりとりなしで辞めることができます。
退職代行に依頼すれば、その後はもう職場に出なくても辞められることもあります。
退職の際のやりとりに伴う精神的ストレスが軽減されるので、職場での人間関係にお悩みの方には退職代行がおすすめです。
(2-2)会社の理解を得た上で法律のルールに沿って辞められる可能性が上がる
連日の激務で疲れ切っていてすぐに辞めたいと思っていても、職場独自のルールがあってすぐに辞めさせてくれないことに、お悩みの看護師の方も多いでしょう。
職場によっては、退職に関して次のようなルールがあるからなかなか辞めさせてくれないという場合があります。
- 退職は2ヶ月前に伝えなければならない
- 退職前に上司と面談してからでないと退職が許されない
これらのルールは、就業規則に明記されていることもあります。
しかし、先ほどもお伝えしたとおり、職場独自のルールにかかわらず、法律上、雇用期間の定めがない場合は2週間前に退職の意思を伝えれば退職できます。
退職代行を使えば、通常、あなたに代わって法律のルールにつき会社に説明してくれます。そうすることで、会社の理解を得た上で、法律のルールどおりに退職することができる可能性が上がるのです。
(2-3)転職活動などに取り組む余裕ができる
「夜勤や激務で疲れ切っている……普段の勤務に加えて転職活動もして、退職の手続きもしなきゃいけないなんて、そんな心の余裕は全然ない。」
退職代行サービスを利用すれば、退職に関するやり取りを代わりに行ってくれるので、その分転職活動に取り組む精神的・時間的な余裕が生まれます。
良い転職先を見つけることができれば、新しい生活への一歩を気持ちよく踏み出すことができます。
(3)退職代行のデメリット
退職代行にはデメリットもあります。
その代表的なものが、費用がかかるということです。
費用がかかる
退職代行を依頼すると、当然ですが、サービスを利用することになりますので、費用がかかってしまいます。
お金を払うくらいなら、自分で退職手続きをしたほうがいいかも…。
たしかに、自分で退職手続きをすることのメリットは、お金を支払わなくても済むことです。
しかし、自分で退職手続きをすれば、退職手続きに伴い時間やストレスが多くかかってしまうというデメリットもあります。
退職手続きのために必要な時間やストレスを考えれば、お金を支払って代行してもらうのは安いという考え方もできます。
退職代行はどんな看護師におすすめ?
退職代行は、例えば次のような方におすすめです。
- 職場の人間関係が悪く自分で退職を言い出せない方
- 自分で退職したいと伝えたが応じてもらえなかった方
- 忙しすぎて退職手続きをする余裕がない方
- 自分で退職手続きをすることにストレスを感じている方
このことについてご説明します。
(1)職場の人間関係が悪く自分で退職を言い出せない方
職場の人間関係が悪かったり、上司が怖いなどの理由で、自分で退職を言い出せないという状況もよくあることです。
自分で退職を言い出せない場合には、退職代行を利用するのがおすすめです。
まだ自分で退職したいと職場に伝えたことはないけれど、いきなり退職代行を使ってもいいのかな。
上司が怖くて自分では言い出せない……。
退職代行を使えるのは、「自分で退職したいと職場に伝えたが応じてもらえなかった」という方だけではありません。
まだ自分で退職したいと伝えていなくても、いきなり退職代行サービスを利用しても大丈夫です。
(2)自分で退職したいと伝えたが応じてもらえなかった方
自分で退職したいと職場に伝えたものの、円満に退職できそうにない場合には、退職代行の利用がおすすめです。
退職代行をする業者や弁護士が、なるべく会社の理解を得て退職できるように、法律上のルールなどを会社に説明します。
(3)忙しすぎて退職手続きをする余裕がない方
看護師の方は、夜勤も多く激務で忙しすぎるため、退職手続きのために使う余力がないという方も多いです。
精神的にも身体的にも疲れ切っていてこれ以上何かする余裕がないという方は、退職代行に頼るのもひとつの選択肢です。
(4)自分で退職手続きをすることにストレスを感じている方
トラブルを抱えているなどの事情がなくても、自分で退職手続きをすることにストレスを感じている方もいます。
退職代行サービスに依頼すれば、退職手続きに伴うストレスが軽減されます。
自分で退職手続きをするのはストレスだという方は、トラブルなどの事情がなかったとしても、退職代行サービスに頼るのがおすすめです。
退職代行では弁護士を選んだほうが良い?
先ほどもご説明したとおり、退職代行サービスは、弁護士でない業者や弁護士が提供しています。
退職代行業者と弁護士は何が違うの?
退職代行業者はあなたの意思を伝言はできますが、交渉はできません。
しかし、弁護士であれば必要に応じて職場と交渉することができます。
次のことについてご説明します。
- 退職代行で弁護士だけができること
- 退職代行で弁護士を選んだほうがいい場合
(1)退職代行で弁護士だけができること
単に退職の意思を伝えるだけであれば、退職代行業者も弁護士も、どちらも行えます。
弁護士だけができることには、主に次の3つがあります。
- 退職の交渉
- 退職に伴う交渉
- 退職に伴う未払い残業代請求
これらについてご説明します。
(1-1)退職の交渉
退職代行を利用すると、退職の可否や時期、引継ぎ、有給休暇の消化などについて勤務先と言い分が食い違い、具体的な退職日を決めるための交渉が必要となることがあります。
しかし、退職代行業者は、弁護士法のルールにより、職場と交渉をすることが一切できません。
あなたが言ったことを伝言するだけです。
退職代行業者が、あなたが言ったこと以外に、業者の独自の言葉で、いろいろな駆け引きをすることはできないのです。
そのため退職代行業者に依頼しても、交渉が必要になった場合には、法律上、これらの「退職の交渉」は自分でやらなければなりません。
弁護士であれば、交渉を行うことが法律上認められています。
このため、これらの「退職の交渉」についても、代わりに行ってくれます。
(1-2)退職に伴う交渉
退職にあたり、次のような「退職に伴う交渉」が必要になる場合があります。
- 有給休暇の消化の申入れ
- 離職票などの請求
- 貸与品等の返還取次ぎ
- 未払い給与や最終給与の請求
- 退職金の請求
先ほどもご説明したとおり、弁護士でない退職代行業者ができるのは伝言だけです。退職代行業者は一切の交渉ができないので、これらの「退職に伴う交渉」はご自身で行わなければなりません。
しかし、弁護士であれば、これらの「退職に伴う交渉」も代わりに行ってくれます。
(1-3)退職に伴う未払い残業代請求
在職中にサービス残業を強いられており残業代が支払われないなどのトラブルを抱えている方も少なくありません。
弁護士であれば、退職代行そのものだけでなく未払い残業代請求もあわせて行ってくれることがあります(契約内容によっては、退職代行の費用に追加して費用がかかることがあります)。
これに対して、退職代行業者は、残業代を請求する交渉をすることができません。
退職後の残業代請求について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)退職代行で弁護士を選んだほうがいい場合
退職代行で弁護士を選んだほうがいい場合とは、次のような場合です。
- ともかく自分で直接職場とやりとりをせずに、退職したい場合
- 残業代トラブルなどを抱えており一緒に解決してほしい場合
逆に、退職代行業者を選んでもかまわない場合とは、次のような場合です。
- 会社が連絡してきた場合には自分で対応するつもりだという場合
- できるだけ費用を安く抑えたい場合
弁護士を選ぶべきなのか退職代行業者を選ぶべきなのかは、人によります。
自分が何を一番重視しているかをしっかり考えて、どちらを選ぶのか決めましょう。
退職代行の流れ
退職代行を利用する場合の流れは、主に次のとおりです。
相談
契約と支払
退職代行による退職手続き
退職代行の流れについて、詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】看護師の仕事を辞めさせてくれないときは退職代行の活用もあり
この記事のまとめは次のとおりです。
- 民法上、雇用期間の定めなく働いているのであれば、退職の申入れの日から2週間を経過することで雇用関係は終了する。
このことは看護師であっても同じ。 - 看護師の仕事を辞めさせてくれない場合の対処法には、次のものがある。
- 直属の上司より上の上司に相談する
- 内容証明郵便で退職届を送る
- 退職代行を活用する
- 「退職代行」とは、職場を退職したいと考えている労働者本人に代わって退職の意思を職場に伝えてくれるサービス。
- 退職代行のメリットは、上司とのやりとりなしで辞められることなど。
- 退職代行のデメリットは、費用がかかること。
- 退職代行は、職場の人間関係が悪く自分で退職を言い出せない看護師の方などにおすすめ。
- 退職代行サービスは、退職代行業者や弁護士が提供している。
退職代行業者は法律上一切「交渉」ができないが、弁護士であれば代わりに「交渉」や「未払い残業代請求」を行うことが可能。
辞めたい職場なのに辞めさせてくれないまま働き続けることは、とてもつらいもの。
特に、仕事も激務で人間関係も大変な看護師の仕事であれば、より一層つらいはずです。
そんなときは、この記事で紹介した退職代行を使って上手に職場を辞めましょう。
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