「残業代がありそうだけど、残業代の支払いが遅れた場合、遅延損害金がつくのかな?」
そんなことを思ったことはありませんか?
給料日に支給されなければ、残業代に遅延損害金が発生することがあります。
また、場合によっては、付加金というペナルティが発生することもあります。
この記事では、
- 残業代に遅延損害金が発生する場合
- 未払い残業代の遅延損害金の利息
- 未払い残業代の遅延損害金を取るための手続き
- 未払い残業代の付加金
- 遅延損害金や付加金を請求したい場合の手続き
などについて弁護士が解説します。
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
残業代における遅延損害金とは?
以下、未払い残業代の遅延損害金の概要、利率、計算方法を解説します。

(1)未払い残業代に遅延損害金が加算される
残業代をしかるべき給料日に支払わないと、債務不履行として遅延損害金が発生します。
債務不履行は金銭を払う義務がある場合の不払いによる債務不履行、物の引渡しなどの債務不履行もあります。
この債務不履行に対する損害賠償として、遅延損害金の請求が認められることになります。
なお、遅延損害金は毎月の給料だけでなく、賞与、退職金の未払いがある場合にも発生します。
(2)在職中の未払い残業代の遅延損害金の利率
残業代の遅延損害金は、一定の利率で計算した利息として請求できます。
在職中の未払い残業代の遅延損害金の利率は、約定がなければ、民法404条の法定利率によることになります。
2021年7月時点では、年3%が適用されます。
この利率は、3年ごとに見直されることになっています。
民法404条は、2020年4月1日に施行された改正民法により改正されたものです。
それ以前は、会社に対する残業代の遅延損害金の利率は、商事法定利率の年6%とされていました。
使用者が会社や商人以外の場合の残業代の遅延損害金の利率は、改正前の民法に定められた民事法定利率の年5%が適用されていました。
しかし、民法改正後は、商事法定利息が廃止となり、改正民法404条の利率が適用されることとなりました。
民法404条
1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
引用:民法|e-Gov法令検索
2 法定利率は、年3パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項に於いて「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前々年の12月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(その割合に0.1パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
法定利率についてはこちらもご覧ください。
(3)未払い残業代の遅延損害金の計算方法
遅延損害金は、未払い残業代の金額に、利率と延滞日数をかけ算することで算出します。
まずは、延滞日数を365日(うるう年の場合は、366日)で割り、この数字に、利率と延滞日数をかけて計算することになります。
延滞日数は、残業代の支払期限の翌日から実際の支払日までの日数です。
残業代は毎月支払われるものなので、各給料日ごとに、1ヶ月ごとに計算する必要があります。
【計算例】
2021年4月25日に支払われるはずであった未払い残業代が2万円あるとします。
この残業代を、在職中である2021年6月1日に請求する場合の遅延損害金は、60円です。
2万円×3%×37日÷365日=60.82円
(4)退職後の遅延損害金
退職後に未払い残業代を請求する場合、「賃金の支払の確保等に関する法律」によって年利14.6%が適用されます。
この利息は退職日の翌日から支払日までの日数に適用されます。
ただし、天災や会社の破産手続きなど、やむを得ない事由に該当する場合には、年利14.6%は適用外となります。
未払い残業代の付加金
次に、未払い残業代付加金について説明します。
付加金とは、労働基準法で定められた残業代などを支払わない会社など使用者へのペナルティ(制裁)です。
未払い残業代と同額の金銭を、未払い残業代と別途で会社に請求できます。
付加金は未払い残業代の金額、期間、理由、その他諸般の事情を考慮して判断されることになっています。
付加金を請求するには裁判を起こす必要があり、かつ裁判所が付加金の支払い命令を下す場合に、付加金が請求できることになります。
会社との話し合いの結果合意した場合や労働審判、裁判上の和解では、付加金は支払われません。
未払い残業代の遅延損害金の請求方法と注意点
未払い残業代の遅延損害金の請求方法と注意点について解説します。
結論としては、未払い残業代の遅延損害金については、弁護士に相談することをお勧めします。
(1)遅延損害金は裁判で請求する
未払い残業代の請求方法は、会社との任意交渉(内容証明郵便の送付と交渉)、労働審判、訴訟などの方法があります。
会社との任意の交渉とは、労働者の方または労働者の方の代理人である弁護士と、会社が、交渉することです。
まずは内容証明郵便で残業代を請求する旨の書面を送付し、会社と協議をしたうえで、残業代の金額を合意するという流れになります。
会社との任意交渉では、合意に至らなかった場合には、労働審判を申立てることが一般的です。
労働審判とは、裁判とは異なり、非公開の手続きで、まずは調停という話し合いによる解決を試みます。労働審判手続きは、労働審判官1名と労働審判員2名、合計3名で構成される労働審判委員会が審理し、3回以内の期日で審理を終え、話し合いによる解決を進めます。
話し合いがまとまらない場合には、審理の結果認められた当事者間の権利関係などから、労働審判委員会の判断(労働審判)を行います。
労働審判でも調停という話し合いによる解決ができず、労働審判の内容に不服がある場合には、異議の申立てをすることができます。異議の申立てにより、労働審判から訴訟に移行します。
また、労働審判を経ずに、訴訟を提起することも可能です。
訴訟を提起し、訴訟の手続きの中で和解して解決する場合もあります。
しかしながら、遅延損害金、付加金を請求する場合には、訴訟に移行、または訴訟を提起し、裁判所の判決を受けることになります。
弁護士が、未払い残業代の証拠を提出し、残業代に関する適切な主張を行い、証拠に基づく事実確認を行ない、訴訟において、残業代や遅延損害金、確定します。
(2)遅延損害金はもらえないことが多い
未払い残業代と一緒に遅延損害金を請求した場合であっても、多くの残業代請求は、労働審判の調停によって解決しています。
残業代請求は、訴訟にまで至らないことが多く、和解になると遅延損害金は支払われないという内容の和解になる可能性が高いです。
では、なぜ支払ってもらえない遅延損害金を請求するのでしょうか。
これは、会社に対し、残業代本体の支払いに応じなければ、最終的には訴訟を提起し、裁判所の判決により、遅延損害金、付加金などが認められる可能性があるということを会社に認識させ、会社が自発的に残業代を支払う内容の和解が成立するよう会社に対しプレッシャーをかけるために、請求することが一般的です。
(3)未払い残業代と遅延損害金の請求は弁護士に相談

遅延損害金や付加金は訴訟を起こすことが前提のため、個人で対応するのは非常に困難です。
弁護士に依頼すると裁判手続きや未払い残業代や遅延損害金の算出などを代行してもらうことが可能です。
残業代請求は消滅時効があるため、なるべく早く弁護士に依頼することをおすすめします。
【まとめ】残業代の遅延損害金は債務不履行の利息
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 遅延損害金とは、残業代をしかるべき給料日に支給されなかった場合に、損害を賠償する金銭のこと
- 未払い残業代の遅延損害金は、在職中は年3%、退職後は14.6%の利率で会社に請求できる
- 未払い残業代の付加金とは、労働基準法で定められた金銭を支払わないペナルティ(制裁)を指す
- 遅延損害金だけではなく付加金を請求するためには訴訟を起こして判決をとる必要がある
- 裁判を起こしてでも遅延損害金や付加金を請求したい場合は、弁護士のサポートが必要
アディーレ法律事務所では、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2021年8月時点
残業代請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所へご相談ください。