会社から「働き方改革だから」「経費削減だから」などと言われて、残業代がカットされている方、いらっしゃいませんか。
「働き方改革や経費削減が残業代を支払わない理由になるのかな?」と思われるのではないでしょうか。
働き方改革も経費の削減も、残業代を支払わなくてよい理由にはなりません。
働き方改革や経費削減を理由として会社から残業代の支払いを受けていない方は、残業代を請求することができます。
この記事では、
- 会社には、法律上、割増賃金、残業代を支払う義務がある
- 働き方改革も経費削減も、残業代の不適切なカットの理由にはならない
- 不当にカットされた残業代は会社に請求できるため、証拠集めが重要である
- 残業代の請求は弁護士に相談すべきである
ことなどについて、弁護士が解説します。
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
働き方改革も経費削減も、残業代の不適切なカットの理由にはならない
会社が、従業員に「時間外労働」、「休日労働」、「深夜労働」させた場合には、適切な割増賃金を支払う義務があります(労働基準法37条)。
たとえ、働き方改革だ、経費削減だ、などと会社が理由をつけてきても、労働基準法37条に反して残業代を支払わない、残業代カットをすることは違法です。
では、残業代とは何か、説明します。
(1)時間外労働に対する割増賃金(残業手当)
時間外労働に対する割増賃金は、次のように定められています。
まず、法定労働時間とは、法律で決められ労働時間の制限です。
「1日あたり8時間、1週間あたり40時間」と定められています。1日8時間×週5日勤務の土日休みの会社が多いのはこのためです。
そして、法定労働時間を超えて働かせるためには、36協定を締結する必要があります。
法定労働時間を超える労働時間を「時間外労働」といい、会社は労働者に、所定の割増賃金率を加算した賃金を支払わなければならないと定められています(労働基準法37条1項)。
なお、所定労働時間とは、会社と従業員の合意で定める労働時間です。
例えば、労働時間を1日7時間として、週5日勤務にする場合などがあります。
所定労働時間を1日あたり7時間とした場合、所定労働時間を超えて労働したけれども、所定労働時間を超え法定労働時間を超えていない場合、会社は、法定労働時間内の残業についても賃金を追加で支払う必要があります。
法律上、法定労働時間内の所定労働時間を超えた残業に対しては割増賃金を支払う必要はなく、通常賃金を支払えば足ります。
(2)休日労働に対する割増賃金(休日手当)
法定休日とは、労働基準法35条で定められた、「1週間に1日」、「4週間に4日」与えられる休日です。
この休日労働に対しては、会社は労働者に、所定の割増賃金率を加算した賃金を支払わなければならないとされています(労働基準法37条1項)。
法律上の割増率は、休日労働の割増率は1.35倍、休日労働と深夜労働が重複した部分は、1.35倍と0.25倍の合計、1.6倍の割増率となります。
なお、所定休日とは、多くの労働者では、法定休日以外にも休日が設けられています。この法定外休日以外の休日を所定休日、といいます。
なお、変形労働時間制(労働時間を1日単位ではなく、1か月や1年単位で計算する制度)を採用した場合であっても、休日労働の割増賃金については適用対象となります。
(3)深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)
深夜労働は、22~5時までの労働です。深夜労働に対しては、会社は労働者に、所定の割増賃金率を加算した賃金を支払わなければならないと定めています(労働基準法37条4項)。
変形労働時間制が採用されている場合であっても、深夜労働の割増賃金は適用されます。
労働時間 | 時間 | 割増率 |
時間外労働(法定内残業) | 1日8時間、週40時間以内 | 1倍 |
時間外労働 ※法定労働時間を超える残業 | 1日8時間、週40時間超 | 1.25倍 |
1ヶ月に60時間超 | 月60時間を超える時間外労働 | 1.5倍 |
法定休日労働 | 法定休日の労働時間 | 1.35倍 |
深夜労働 | 22~5時の労働時間 | 0.25倍 |
時間外労働(時間外労働の限度に関する基準の限度内)+深夜残業 | 時間外労働+深夜労働の時間 | 1.5倍 |
法定休日労働 + 深夜労働 | 休日労働+深夜労働の時間 | 1.6倍 |
働き方改革で残業関連のルールはどう変わった?
2019年4月に施行された働き方改革関連法では、「長時間労働の是正」が具体的な目標の一つに挙がっています。
以下、働き方改革で見直された残業関連のルールを3つ説明します。
(1)時間外労働の上限規制
働き改革関連法の施行によって、時間外労働の上限(原則月45時間・年間360時間)が罰則付きで法的に設けられました。
この罰則付きの上限規制は、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用されており、すべての企業に適用されます。
中小企業とは「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する労働者の数」のいずれかが基準の範囲を満たしている会社および個人と定義されています。
業種 | 資本金の額または 出資の総額 | 常時使用する 労働者数 | |
小売業 | 5000万円以下 | または | 50人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 | |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 | |
その他 (製造業、建設業、運輸業、その他) | 3億円以下 | 300人以下 |

(2)労働時間の記録と把握
働き方改革関連法の施行によって、2019年4月以降は、裁量労働制適用者や管理監督者も含めて、雇い主に対して労働者の労働時間の把握が義務付けられました。
従業員のある行為が「労働時間」にあたるかどうかは、
「客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうか」
によって判断されることになります。
そして、労働時間の把握は、原則、タイムカードやパソコンの使用時間などを記録して行うこととされました。
パソコンの使用時間など客観的な記録が難しい場合は、会社が記録した始業終業の時刻や、労働者自ら記録した労働時間報告書などによる自己申告も止むを得ないものとして認められることもあるとされています。
会社は、労働時間の状況を記録した上で、3年間保存する義務があるとされました。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
(3)時間外労働の割増賃金率(中小企業)
中小企業における時間外労働の割増賃金率も変わります。
2021年7月現在の時間外労働の割増賃金率は、
- 60時間以下は大企業も中小企業も25%、
- 60時間超の部分は大企業50%、中小企業25%
です。
働き方改革関連法の施行によって、2023年4月以降は、
中小企業も60時間超の割増賃金率が50%に引き上げられます。
現在 改正後
1ヶ月の時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働時間 | 1ヶ月の時間外労働(1日8時間、1週40時間を超える労働時間 | ||||
60時間以下 | 60時間超 | 60時間以下 | 60時間超 | ||
大企業 | 25% | 50% | 大企業 | 25% | 50% |
中小企業 | 25% | 25% | 中小企業 | 25% | 50% |
参考:働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~|厚生労働省
こんな残業代カットは違法!典型的な3つのケース

それでは、残業代削減という会社の方針は正しいのでしょうか?
残業代は、時間外労働をさせた場合、会社は必ず支払わなければならないものです。
ここからは、残業代削減の典型的な違法なケースを説明します。
なお、ここで紹介するような典型的なケースでは、会社は労働基準法違反(労働基準法119条1号)で罰則を科される可能性があります。
労働基準法119条
引用:労働基準法 | e-Gov法令検索
次の各豪号一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
1 第3条、第4条、第7条、第16条、第17条、第18条第1項、第19条、第20条、第22条第4項、第32条、第34条、第35条、第36条第1項ただし書、第37条、第39条、第61条、第62条、第64条の3から第67条まで、第72条、第75条から第77条まで、第79条、第80条、第94条第2項、第96条又は第104条第2項の規定に違反した者
(1)サービス残業
一般に「サービス残業」とは、実際には労働をしているのに、勤務管理上の労働時間に計上されず、正当な割増賃金(残業代)が支払われない時間外労働・休日労働・深夜労働のことをいいます。
会社による勤怠管理の怠慢・改ざん、自発的な残業を推奨・黙認といったケースが多くみられます。
サービス残業については、ぜひこちらをご覧ください。
(2)例外的な労働時間制の不適切運営
労働者の柔軟な働き方の実現に向けて、法定労働時間の弾力運用が認められている労働時間制もあります。例えば裁量労働制、フレックスタイム制などです。
このような労働時間制の適用者も、一定の労働時間を超えた場合には、時間外労働になります。
- フレックスタイム制
フレックスタイム制では、原則として1ヶ月以内の単位期間(清算期間)における総所定労働時間を定めることになっています。
ただし、フレックスタイム制はあくまで始業時刻と終業時刻の決定を労働者に委ねたものであるので、総所定労働時間には、清算期間内の週平均労働時間が40時間を超えない範囲内で決めなければならないという制限があります。
したがって、総所定労働時間は、清算期間の日数÷7日×40時間の範囲内で定めなければなりません。
清算期間における実労働時間が法定労働時間を超える場合、超過部分は法外残業に当たり、25%以上の割増賃金を請求することができます。 - 裁量労働制
裁量労働制とは、使用者の労働時間把握義務を免除し、一定の時間労働したものとみなす制度です。実際に労働した時間に関係なく、予め決められた時間を労働時間とみなす制度です。このような制度は、裁量みなし労働時間制といい、専門業務型と企画業務型の2つがあります。
裁量労働制でも深夜残業(22時から5時)、休日労働をした場合には割増賃金を請求することができます。
また、規定のみなし労働時間が法定労働時間である1日8時間を超えている場合、法定労働時間を超過した時間は「残業」扱いで賃金も割増されます。 - 変形労働時間制
変形労働時間制とは、労働基準法上、1日・1週間単位で定められる労働時間の制限を、1ヶ月や1年といった期間の枠内で変形する制度です。
法律上、1年、1ヶ月、1週間単位の変形労働制があります。
変形労働時間制を採用した場合でも、深夜労働については割増賃金が発生します。
また、変形労働制で定められた所定労働時間を超えて勤務した時間については、残業代が発生する可能性があります。
(3)みなし残業制(固定残業代制度)
固定残業代制度とは、実際の残業時間にかかわらず支払われる一定額の残業代を指します。
会社が労働者の月々の残業時間が一定の時間になることを想定し、予めその残業時間分の残業代を定額にて支払うことから「みなし残業」といわれています。実際の残業時間が、固定残業代の相当する残業時間を超えた場合には、残業代の請求をすることができます。
ですので、固定残業代制度は、どんなに残業しても、固定残業代の支払いしか受けられないというものではありません。
(4)いわゆる「名ばかり管理職」
労働基準法では、管理監督者に対しては、会社は残業手当や休日手当の支払い義務がないと定められています。なお、この場合でも、深夜手当は支払い義務があります。
厚生労働省は、管理監督者を「部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」と定義しており、名称にとらわれず実態に即して判断すべきとしています(昭和63年3月14日労働基準局長通達150号など)。
課長や部長といった肩書きが付いていても、職務内容や勤務上、経営者と一体的な立場にあると認められない場合には、名ばかり管理職として、一般の従業員と同じように残業代が発生します。
名ばかり管理職については、ぜひこちらをご覧ください。
不当にカットされた残業代は、会社に請求できる
会社に未払い残業代の支払の申し入れをしても取り合ってくれない場合は、労働基準監督署に相談したり、訴訟を起こしたりして請求するのが現実的な対処法です。
また、未払い残業代の請求については、弁護士に相談、依頼することがおすすめです。
これは、残業代の消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新完成猶予、正確な未払い残業代の計算、残業の証拠収集などを弁護士が行えるためです。
以下、請求における2つのポイントを説明します。
(1)残業代請求には時効がある
残業代を遡及して請求する場合には、賃金請求権の消滅時効期間に注意する必要があります。
従来、賃金請求権の消滅時効期間は、当該給与の支払日から2年だったが、2020年4月1日の労働基準法改正により5年に延長されました。
ただし、経過措置として、当面は3年が適用されることになっています。
時効期間が、2年と3年、どちらの請求期間が該当するかは、支払い期日の到来が改正法施行日より前か以後かで判断されます。
(2)未払い残業代の証拠集めが重要
原則、労働時間は、タイムカードやWeb打刻、タイムシート、タコグラフ(トラック運転手の方など)、出勤簿などの客観的な記録が証拠となります。
このような証拠の評価が重要なポイントになります。
未払い残業代の証拠集めについてはこちらをご覧ください。
【まとめ】不当に減らされた残業代は、会社に請求できる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 会社は、従業員の「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」に対して、適切な割増賃金を支払う義務があり、働き方改革も経費削減も、残業代の不適切なカットの理由にはならない
- 働き方改革により、時間外労働の上限規制など残業関連のルールに変更があった
- 裁量労働制やみなし残業制などにおいても、残業代は発生しうる
- 未払い残業代の請求については、弁護士に相談依頼することをおすすめする
- 不当にカットされた残業代は会社に請求できるため、証拠集めが重要
不当に減らされた残業代にお困りの方はアディーレ法律事務所にご相談ください。
アディーレ法律事務所では、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年8月時点