「定時を超えて働いたけど、これって『残業』?残業代は出るの?」
勤務先との契約で決まった労働時間のことを「所定労働時間」と言います。
そして、所定労働時間を超えて働くと、それは『所定時間外労働(残業)』になります。
所定労働時間と所定時間外労働の合計が、原則として1日8時間、週40時間を超えると、超える部分は『法定時間外労働』となります。
反対に、所定時間外労働が、所定労働時間と併せて原則として1日8時間・週40時間を超えない場合は、それは『法内残業』となります。
『法内残業』と『法定時間外労働』は残業代の計算方法が異なります。
今回の記事では、次のことについて弁護士がご説明します。
- 『残業』の定義
- 『所定時間外労働』・『法定時間外労働』・『法内残業』の違い
- 残業代の計算方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
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残業の定義
残業とは、労働契約で定められた「所定労働時間」を超えて働いた業務のことをいいます(所定時間外労働)。
【残業とは】
残業には、このほかに「法定時間外労働」というものもありますが、「所定時間外労働」と「法定時間外労働」は異なるものなので、混合しないようにする必要があります。
両者の違いについて説明します。
(1)所定労働時間とは?
所定労働時間とは、それぞれ労働契約で定められた労働時間のことです。
(例1)週5日勤務で9~18時(休憩1時間)の場合、所定労働時間は「1日8時間・週40時間」となります。
(例2)週6日勤務で16~20時(休憩なし)の場合、所定労働時間は「1日4時間・週24時間」となります。
(例3)週3日勤務で10~17時(休憩1時間)の場合、所定労働時間は「1日6時間・週18時間」となります。
所定労働時間を超えると残業になる
所定労働時間を超えて働くと、残業となります。
(例1)週5日勤務で9~18時(休憩1時間)の労働契約の場合、20時まで働くと、2時間残業となります。
(例2)週6日勤務で16~20時(休憩なし)の労働契約の場合、21時まで働くと、1時間残業となります。
(例3)週3日勤務で10~17時(休憩1時間)の労働契約の場合、22時まで働くと、5時間残業となります。
(2)法定労働時間とは?
法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間の原則的な上限時間です。
法定労働時間は、原則として次のとおりです。
1日に8時間、1週間に40時間
法定労働時間を超えた労働は原則として禁止されています。
※なお、変形労働時間制など、一部の勤務形態の方は、法定労働時間の定義が異なります。
また、常時10人未満の労働者を使用する商業、映画・演劇業(映画の製作は除く)、保険衛生業、接客業については、法定労働時間は1日8時間・週44時間となります。
所定時間外労働と法定時間外労働の違い
所定時間外労働と法定時間外労働は、どちらも残業ですが、次のように内容が異なります。
所定時間外労働…『所定労働時間を超えた労働時間』のこと
法定時間外労働…『法定労働時間を超えた労働時間』のこと
所定労働時間は、個々の契約によって異なります。
所定労働時間を超えるものの、法定時間外労働にはならない場合は、「法内残業」となります。
ですから、所定時間外労働には、法内残業と法定時間外労働の双方が含まれます。
もっとも、所定労働時間が法定労働時間と一致している場合には、所定労働時間を超えた残業は全て「法定時間外労働」になります。
法内残業に対する残業代につき、どの程度割り増すのか(通常の賃金×1.25倍など)、それとも通常の賃金と同じ単価にするのかについても、企業によって異なります。
他方、法定時間外労働に対する残業代は、最低、どの程度割り増さなければならないのか、については法律で決められています。
【所定時間外労働/法内残業/法定時間外労働の違い】
所定時間外労働と法定時間外労働の比較
例を用いてそれぞれの違いを比較します。
(例1)週5日勤務、所定労働時間が9~18時(休憩1時間)の労働契約で20時まで働く場合
→所定時間外労働=法定時間外労働=2時間
(例2)週6日勤務、16~20時(休憩なし)の労働契約で21時まで働く場合
→所定時間外労働:1時間
法定時間外労働:なし(1日8時間の法定労働時間を超えていないため)
(例3)週3日勤務、10~17時(休憩1時間)の労働契約で22時まで働く場合
→所定時間外労働:5時間
法定時間外労働:3時間(1日8時間の法定労働時間を超えた分)
残業代の割増率
残業代の割増率を解説いたします。
また、残業には、時間外労働以外に、休日労働、深夜労働もありますので、併せて解説いたします。
(1)法内残業の場合
法内残業の場合は、会社が独自に定めた割増率に従うことになります。
割増率が定められていない場合は、所定時間内労働(定時)の賃金と同じ賃金が払われるということになります。
(2)法定時間外労働・休日労働・深夜労働の場合
法定時間外労働、休日労働、深夜労働については、法律上、次のように割増率が決まっています。
残業の種類 | 残業の定義 | 割増率 | |
---|---|---|---|
時間外労働 | 1日8時間・週40時間(一部の企業は週44時間)のいずれかを超えて労働 | 時間外労働が月60時間までの部分 | 1.25倍以上 |
時間外労働が月60時間を超えた部分 | 1.5倍以上 (※1) | ||
深夜労働 | 22~5時の労働 | 1.25倍以上 | |
休日労働 | 法定休日の労働 | 1.35倍以上 | |
重複する部分 | 時間外労働(月60時間までの部分)と、深夜労働が重複する部分 | 1.5倍以上 | |
時間外労働(月60時間を超えた部分)と、深夜労働が重複する部分 | 1.75倍以上 (※2) | ||
休日労働と深夜労働が重複する部分 | 1.6倍 |
※1 次の企業(中小企業、以下同じ)は、2023年3月末までは、割増率は1.25倍以上です。
- 小売業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が50人以下
- サービス業:資本金5000万円以下または常時使用する労働者が100人以下
- 卸売業:資本金1億円以下または常時使用する労働者が100人以下
- その他:資本金3億円以下または常時使用する労働者が300人以下
※2 中小企業では2023年3月末までは、割増率は1.5倍以上です。
(3)法律が定める基準を超える割増率が就業規則などで定められている場合
法外時間外労働につき、法律が定める最低限度の基準を超える割増率が、就業規則等で定められている場合は、就業規則などで定められた割増率が適用されます。
労働契約別の残業について解説
みなし労働時間制など、労働契約ごとの残業について解説いたします。
(1)みなし労働時間制における残業
労働時間の算定が難しい場合などに、実際の労働時間にかかわらず、一定の時間を働いたことにする制度のことです。
例えば、実際は4時間しか働いていないが、一定の労働時間(例えば8時間)勤務したとみなされて賃金が支払われるというものです。
みなし労働時間制でも、「一定時間働いたとみなされる労働時間」が、所定労働時間や法定労働時間を超える場合には、残業代の支払いが必要となります。
また、深夜労働・休日労働に対しても割増賃金の支払いが必要です。
みなし労働時間制には、「事業場外のみなし労働時間制」と「裁量労働時間制」の2種類があります。
(1-1)事業場外のみなし労働時間制
事業場外のみなし労働時間制とは、営業職の外回りや出張中、テレワークなど、正確な労働時間を把握することが難しい場合に適用されるものです。
ただし、事業場外で労働しているだけではなく、「労働時間の算定が困難」な場合でないと、事業外労働のみなし時間制の適用は受けません。
例えば、次の場合には、「労働時間の算定が困難」とはいえません。
- 複数人で事業場外労働をする場合で、その中に労働時間の管理をする者がいる場合
- 携帯電話等によって、随時上司の指示を受けながら事業場外労働をしている場合
- 上司から、事業場外労働の場所、時刻など、具体的指示を受けた後、その指示通りに事業場外労働をした場合
裁判例でも、労働時間の算定が困難でないと認定されたものが多々存在します(「阪急トラベル・サポート事件(最高裁第二小法廷判決平成26年1月24日)、レイズ事件(東京地方裁判所判決平成22年10月27日)等)。
(1-2)裁量労働時間制
裁量労働時間制とは、一定の専門的・裁量的労働をする労働者に対して、実際に働いた時間に関係なく、一定の時間だけ働いたとみなす制度です(労働基準法38条の3第1項、労働基準法38条の4第1項)。
労働時間が労働者の裁量にゆだねられている時に適用されます(設計者や企画・立案・調査・分析の業務に従事するものなど)。
裁量労働時間制について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(2)みなし手当の残業
残業の有無にかかわらず、一定時間の残業をしたとみなして、あらかじめ固定の残業代を給料に組み込んでおく手当のことを、みなし手当(固定残業代)といいます。
固定残業代において、みなされていた残業時間を超えて残業をした場合には、企業は超えた分の残業に対し、別途残業代の支払いが必要です。
固定残業代制について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(3)年俸制職種の残業
年俸制でも、残業代発生の仕組みは、月給制と同じです。
そのため、年俸制であっても、原則として、所定労働時間を超えた分の残業代を支払う必要があります。
(4)管理監督者の残業
管理監督者とは、労働条件の決定その他の労務管理について、経営者と一体の立場にある人のことをいい、管理職の一部の方が該当します。
管理監督者に当たる場合、会社は、法定時間外労働に対する割増賃金、休日労働に対する割増賃金を払う義務はありませんが、深夜労働に対する割増賃金は管理監督者であっても支払う必要があります。
また、部長などの肩書があっても、その実態は管理監督者には当たらないとされた裁判例が数多くありますので、管理職であるからといって残業代請求を諦めず、弁護士に相談することをお勧めします。
【まとめ】残業には、法内残業と法定時間外労働があり、それぞれ残業代の計算方法が異なる
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 個別の労働契約で定められた労働時間を「所定労働時間」といい、所定労働時間を超えて業務をした分を「残業」という。
- 所定労働時間を超えて業務をした場合、それが法定労働時間内の業務であれば「法内残業」、法定労働時間も超えていれば「法定時間外労働」という。
- 所定時間外労働とは、法定時間外労働と法内残業の両方を指す言葉である。
- 法内残業と法定時間外労働とでは、残業代の計算方法が異なるため、区別する必要がある。
- また、労働契約の形態によっても、残業時間のカウント方法は異なる。
- みなし手当制の場合でも、別途残業代が発生していることはある。
- 固定残業代制を採用している会社であっても、固定残業時間を超えて残業をした場合には、残業代を請求できる。
- 管理職の肩書がついている方でも、実は残業代の請求ができることが数多くある。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年9月時点
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