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【弁護士監修】交通事故の損害賠償請求で必ず知っておくべき「時効」について

作成日:更新日:
リーガライフラボ

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

交通事故の被害者は、加害者に対して、交通事故により受けた損害について賠償請求することのできる権利があります。
しかし、未来永劫いつでも請求できるわけではなく、法律上、請求できる期間が決まっており、それを消滅時効といいます。

知らずに消滅時効が過ぎてしまい、損害賠償を受け取ることができないという事態が生じることは、絶対に避けなければなりません。

この記事の監修弁護士
弁護士 中西 博亮

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

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交通事故の損害賠償請求権には時効がある

交通事故の被害者は、交通事故という不法行為が原因で、自動車が破損したり、ケガをしたりすることで、経済的な損害を受けたり、ケガの痛みや治療などによる精神的な苦痛を被ったりします。

被害者は、交通事故で受けたこのような損害について、加害者に対して損害賠償を請求する権利があります。この権利を、損害賠償請求権といいます。
この損害賠償請求権は、いつまでも行使できるものではありません。

民法には、消滅時効が定められており、一定期間を過ぎて消滅時効が完成してしまうと、この損害賠償請求権は時効で消滅してしまいます。
これは、権利があるのにそれを行使せずに放置する人まで法律上保護する必要はない、と考えられているためです。
ただし、消滅時効が完成していても、加害者に対して損害賠償を請求することに法律上問題はありません

消滅時効完成の効果は、損害賠償を支払う責任を負う者が、「その請求は時効で消滅しているから支払う責任はない」と、時効が成立していることを主張する(これを、「時効の援用」といいます)ことによって発生すると考えられているためです(民法145条)。
消滅時効は主に加害者の利益となる制度であるため、加害者がその利益を享受するのかどうかを決めることができるのです。

仮に、加害者が、時効を援用せずに損害賠償を支払うことに応じれば、被害者は消滅時効期間が経過していたとしても、損害賠償を受け取ることができます。

(1)損害賠償請求の時効は3年もしくは5年

損害賠償請求の時効は3年もしくは5年です。

いつから数えて3年もしくは5年ですか?

法律上の時効の起算日は、「損害及び加害者を知った時の翌日」です。

交通事故では、加害者のからないひき逃げなどを除けば、通常事故発生後すぐに加害者を知ることができますので、交通事故による損害賠償請求権の時効は、基本的には次の通りになります。

損害賠償請求と時効
事故の内容
時効の起算点
時効期間
物損事故
事故の翌日
3年
人身事故
(後遺障害がない場合)
事故の翌日
5年
人身事故
(後遺障害がある場合)
症状固定時の翌日
5年
死亡事故
死亡の翌日
5年
加害者が分からない場合
事故の翌日
20年
その後、加害者が判明した場合加害者を知った翌日
5年
事故の翌日
20年
のいずれか早い方

(※2020年4月1日以降の交通事故の場合)

なお、2020年4月1日に新しい民法が施行された関係で、同日より前に発生した人身についての損害については、基本的に、被害者が、交通事故による加害者及び損害を知った時の翌日から3年の時効期間となっています。

ただし、同日時点で3年の時効期間が完成していなかったり、時効が中断していて時効が完成していなかったりする場合の人身損害は、5年となります。
物損部分の損害賠償請求権の時効は、法改正前後で3年のまま変更はありません。

また、2020年4月1日の時点で、不法行為の時の翌日から20年経過している場合には、時効期間ではなく「除斥期間」が経過したとして、損害賠償請求権は消滅しているのが原則になります。

参考:2020年4月1日から 事件や事故によって発生する 損害賠償請求権に関する ルールが変わります|法務省

事故から何年もたって死亡したような場合はどうなるのですか?
死亡から5年ということで良いですか?

その場合には、事故日の翌日を起算点として時効完成を主張される可能性もあります。
交通事故の時効の起算点には、損害内容や状況などにより難しい議論がありますので、具体的ケースについて疑問がある場合には、弁護士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

3年や5年と聞くと、「そんなに長い期間あるなら大丈夫」と思ってしまいがちです。

しかし、生活の立て直し、仕事とけがの治療の両立などで忙しい毎日を送っていると、いつの間にか時効間近になってしまうことも少なくありませんので、時効期間が経過してしまうことのないように注意が必要です。

(2)自賠責保険に対する被害者請求の時効に注意が必要

交通事故の加害者本人に対する損害賠償請求権の時効は今ご説明したとおりですが、加害者の加入する自賠責保険に対する被害者請求の時効については、次のとおりです。

原則として、交通事故があった時から3年

加害者と示談の話が進まないなど、加害者の自賠責保険に保険金の請求をするような場合には、加害者に対する損害賠償請求権よりも時効が早いため、注意が必要です。

なお、自賠責保険に対する時効は、2020年の民法改正の前後で変更はありません。

自賠責保険に対する被害者請求について詳しくはこちらの記事もご確認ください。

事前認定と被害者請求はどちらを選ぶべき?手続きの流れと違いも解説

時効が近づいてきたらどうしたら良い?

消滅時効が完成して、加害者側から時効の援用をされると、それ以上損害賠償請求をすることはできません。

加害者の加入する任意保険会社と示談の話合いをしている場合、保険会社は交通事故の損害の賠償を行うという社会的責任を負っていますから、保険会社から時効を援用されることはあまりないようです。

ですが、示談でまとまらずに裁判になってしまうような場合には時効の援用がされることもありますので、被害者としては、消滅時効が完成しないように注意する必要があります。

納得できない内容であっても、消滅時効が来る前に示談をまとめた方が良いですか?

納得できない内容なのに急いで示談をまとめる必要はありません。
被害者は、今からご説明する一定の行為を行うことで、時効の完成を阻止することができます。
時効完成が迫っている場合には、必ず時効の完成を阻止してください。

時効完成を阻止する方法について

法律上、時効の完成を猶予させたり(時効完成の猶予)、再度初めから進行させたり(時効の更新)して時効の完成を阻止する方法は、次の4つの方法があります。

催告

請求

承認

協議する旨の合意

それぞれについて、ご説明します。

(1)催告

催告は、時効の完成を猶予させる方法です。

催告とは、被害者から加害者や保険会社に賠償金を支払うように求めることで、後から「そんな請求はされていない」と言われることを防ぐために、一般的には内容証明郵便を送付して行います。

催告をすると、その後6ヶ月間に限り、時効の完成を猶予することができます。

ただし、時効の完成の猶予は1回しか認められません。

催告から6ヶ月が過ぎそうだと言って再度の催告をしても時効の完成を猶予する効力はありませんので注意が必要です。

ですから、1回目の催告によって時効の完成が猶予されている間に賠償金が支払われないようでしたら、その間に、次にお話しする「請求」の手段をとるか、相手に債務を「承認」させる必要があります。

(2)請求

請求とは、被害者が加害者や保険会社に対して賠償金の支払を求める行為ですが、次の方法でする必要があります(次の方法によらないと、先ほどご説明した「催告」の効果しか認められません)。

  • 訴えを提起すること
  • 支払督促
  • 訴え提起前の和解
  • 民事調停の申立て  など

参考:支払督促|裁判所 – Courts in Japan
参考:訴え提起前の和解手続の流れ|裁判所 – Courts in Japan
参考:民事調停手続|裁判所 – Courts in Japan

これらの請求がなされた場合、手続きが終了するまで時効の完成が猶予されます。
そして、確定判決などにより損害賠償請求権が確定すると、その手続き終了時に時効が更新されます。

時効が更新されるとどうなるのですか?

確定判決などによって権利が確定すると、そこから新たな時効がスタートします。
この場合の消滅時効期間は、10年です。

ただし、途中で訴えを取り下げたり裁判所に訴えが却下された場合には、単なる「催告」の意味しかないことになってしまいます。
ですから、その場合にはその時から6ヶ月以内に、再度、請求をしなければ時効が完成してしまいますので、注意が必要です。

(3)承認

承認とは、加害者が被害者に対して損害賠償請求権の存在を認めることです。
加害者や任意保険会社が、損害賠償責任や保険金支払債務の存在を承認すれば、時効が更新されます。

例えば、「一括対応」と言って、示談が成立する前であっても、加害者の任意保険会社が治療費などを病院に直接支払っている場合がありますが、このような行為も、基本的には損害賠償請求権の承認にあたると考えられています。

(4)協議する旨の合意

交通事故の当事者間で損害賠償請求権について協議するとの書面による合意があった時は、次のどれか早い時までの期間は完成しません。

  1. 合意があった時から1年が経過した時
  2. 当事者が1年未満の協議期間を合意した時は、その期間を経過した時
  3. 当事者の一方から協議続行を拒否する通知が書面でされた時は、その通知から6ヶ月を経過した時

協議する旨の合意では、合計5年間まで時効の完成を伸ばすことができます。

ただし、最初にお話しした「催告」によって時効の完成が猶予されている間に合意をしても時効の完成は猶予されませんので注意が必要です。

【まとめ】交通事故の損害賠償請求権は時効成立前に必ず完成を阻止する必要がある

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 交通事故の被害者の損害賠償請求権は、損害及び加害者を知った日の翌日から原則3年あるいは5年で時効により消滅する。
  • 加害者が不明の場合でも、交通事故発生の翌日から20年で時効消滅する。
  • 時効の完成を阻止する方法は次のとおり。
    1. 催告
      加害者や保険会社に賠償金を支払うように求めること。
      内容証明郵便などで行う。1回に限り、催告時から6ヶ月間時効の完成を猶予することができる。
    2. 請求
      訴訟・支払督促・調停など裁判手続きによって支払を求めること。
    3. 承認
      加害者や保険会社が損害賠償請求権の存在を認めること。
    4. 協議するとの合意
      損害賠償について協議するとの書面による合意をすること。

被害者は、交通事故発生により受けた被害について、適切な賠償を求める権利がありますから、その権利を失わないうちに、しっかりと損害賠償を請求して賠償金を受け取るようにしましょう。

ただし、消滅時効完成が間近だからといって、示談案について検討せずに応じることはお勧めしません。
請求できる損害賠償の項目が抜けていたり、賠償額が不当に低かったりするケースがあるためです。
時効が迫っているという場合には、速やかに交通事故に強い弁護士に相談し、示談案で提示された賠償額の増額交渉が可能かどうか、時効完成猶予など時効完成を阻止する手段があるかどうかなどを相談するようにしましょう。

交通事故の被害に遭った方が、賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。

すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。

また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので(※)、やはりお客様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。

(以上につき、2022年3月時点)

交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。

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