Tさんは車を運転中に衝突事故にあい、側頭部を強打しました。事故後しばらく経っても、左耳側で小さな音が聴こえにくく、日常生活にも支障が出ています。
このように、交通事故によって難聴が生じた場合、後遺障害と認定されると事故の相手方(加害者)に対して後遺症慰謝料などを請求できるようになります。
この記事では、
- 交通事故による難聴の種類・原因
- 難聴の検査方法
- 難聴と後遺障害認定
- 難聴で請求できる慰謝料の相場
- 後遺障害認定を受けるためのポイント
について、弁護士が解説します。
愛知大学、及び愛知大学法科大学院卒。2010年弁護士登録。アディーレに入所後,岡﨑支店長,家事部門の統括者を経て,2018年より交通部門の統括者。また同年より、アディーレの全部門を統括する弁護士部の部長を兼任。アディーレが真の意味において市民にとって身近な存在となり、依頼者の方に水準の高いリーガルサービスを提供できるよう、各部門の統括者らと連携・協力しながら日々奮闘している。現在、愛知県弁護士会所属。
交通事故による難聴の種類と原因
難聴とは、音が聴こえにくい状態をいいます。
ひとくちに難聴といっても、いくつかの種類があります。
耳は、大きく分けて外耳・中耳・内耳という3つの部分からなります。

このうちのどの部分に原因があるかによって、難聴は大きく3つに分かれます。
- 伝音難聴
外耳・中耳に原因があるもの。空気の振動が十分に伝わらず、小さな音が聴こえにくい。 - 感音難聴
内耳・蝸牛(かぎゅう)神経・脳に原因があるもの。音が聴こえにくい他、音がゆがんだり、言葉がはっきりわからない。 - 混合性難聴
1.伝音難聴と2.感音難聴の2つが合わさったもの。
難聴が生じる原因はさまざまですが、交通事故でよくあるケースとしては、
- 内耳震盪(ないじしんとう)症
頭部を強打するなどして、内耳が強く揺さぶられた時に起こります。多くは一過性で時間が経てば改善しますが、めまいや耳鳴りが残ることもあります。 - 外リンパ漏(ろう)
頭部を強打するなどして、内耳の一部に穴が空くことでリンパ液が漏れ出し、難聴が生じます。 - 鼓膜の損傷
側頭部を強打するなどして、耳の中の気圧が急激に上がることで鼓膜に損傷をきたし、難聴が生じることがあります。 - 側頭骨骨折
耳の周辺にある頭蓋骨(側頭骨)を骨折することで、聴覚神経が損傷を受け、難聴が生じます。
なお、交通事故により生じる聴覚の障害として、難聴の他に「耳鳴り」もよく見られます。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
難聴で認定される後遺障害等級は?
事故後、服薬や手術などの治療を続けても難聴が治らず、症状が固定してしまうことがあります(これを「症状固定」といいます)。この場合、所定の機関(損害保険料率算出機構など)に申請をすることにより、後遺障害の認定を受けることができます。
後遺障害は、症状の部位と程度などによって、1~14級(および、要介護1級・2級)の等級に分類されます。
1級の症状がもっとも重く、症状が軽くなるに従って2級、3級……と等級が下がっていきます。
後遺障害認定を受けると、事故の相手方(加害者)に対して、等級に応じた後遺症慰謝料などを請求することが可能となります。
以下では、難聴により後遺障害が認定される場合について説明します。
(1)難聴で後遺障害認定されるのは?
難聴により認定される可能性のある後遺障害は、以下のとおりです。
まずは、両耳に難聴が残った場合です。
【両耳の場合】
等級 | 認定基準 |
---|---|
4級3号 | 両耳の聴力を全く失ったもの 【具体的には】 1.両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの 2.両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ最高明瞭度が30%以下のもの |
6級3号 | 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1.両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上のもの 2.両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上80dB未満であり、かつ最高明瞭度が30%以下のもの |
6級4号 | 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のもの |
7級2号 | 両耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1.両耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のもの 2.両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの |
7級3号 | 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のもの |
9級7号 | 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1.両耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のもの 2.両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの |
9級8号 | 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの |
10級5号 | 両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 【具体的には】 1.両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの 2.両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの |
11級5号 | 両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のもの |
両耳に難聴が残った場合の後遺障害等級についてまとめると、下記の表のようになります。
【両耳の平均純音聴力による基準】
1耳 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
90db以上 | 80dB以上 90dB未満 | 70dB以上 80dB未満 | 60dB以上 70dB未満 | 50dB以上 60dB未満 | 40dB以上 50dB未満 | ||
他耳 | 90dB以上 | 4級3号 | 6級4号 | 7級3号 | 9級8号 | – | |
80dB以上 90dB未満 | 6級3号 | – | |||||
70dB以上 80dB未満 | 6級4号 | 7級2号 | |||||
60dB以上 70dB未満 | 7級3号 | 9級7号 | |||||
50dB以上 60dB未満 | 9級8号 | 10級5号 | |||||
40dB以上 50dB未満 | – | – | 11級5号 |
【両耳の平均純音聴力と最高明瞭度による基準】
両耳聴力 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
90db以上 | 80dB以上 90dB未満 | 70dB以上 80dB未満 | 60dB以上 70dB未満 | 50dB以上 60dB未満 | 40dB以上 50dB未満 | ||
明瞭度 | 30%以下 | – | 4級3号 | 6級3号 | 10級5号 | ||
50%以下 | – | – | – | 7級2号 | |||
70%以下 | – | – | – | – | 9級7号 |
【片耳のみの場合】
等級 | 認定基準 |
---|---|
9級9号 | 1耳の聴力を全く失ったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの |
10級6号 | 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満のもの |
11級6号 | 1耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 ①1耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満のもの ②1耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの |
14級3号 | 1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 【具体的には】 1耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70dB未満のもの |
(2)難聴の検査
上記の認定基準の中に、「純音聴力」「最高明瞭度」などの耳慣れない用語が出てきました。これらは、聴力検査に関する用語です。
難聴かどうかを診断するための聴力検査には、大きく分けて
- 純音聴力検査:「プー」「ピー」といった単純な音を聴き取れるかを調べる
- 明瞭度検査:言葉をはっきりと聴き取れるかを調べる
の2種類があります。
【聴力検査の種類】

以下では、これらの検査の具体的な内容について見ていきましょう。
(2-1)純音聴力検査
オージオメーターという器機を用いて、「ピー」「プー」といった単純な音を聴き取る能力を調べる検査です。
聴力はdB(デシベル)という単位で表されます。〇〇dBという数値は、小さいほどよく聴こえるということを示します。
したがって、デジベルの数値が大きくなるほど、大きい音しか聞き取れない(=難聴の症状は重い)ということになります。
純音聴力検査では、気導聴力と骨導聴力が検査されます。
- 気導聴力検査:ヘッドホンから空気中を伝わってきた音を聴き取る能力を調べる
- 骨導聴力検査:耳の後ろに器具をあて、頭蓋骨から伝わってきた音を聴き取る能力を調べる
検査は日を変えて数回行われるのが一般的です。
(2-2)明瞭度検査
言葉をはっきりと聴き取れるかを調べる検査です。語音聴力検査とも呼ばれます。
純音聴力検査と同じく、オージオメーターを用いて検査します。
ヘッドホンから聴こえてくる「ア」「キ」「ジ」などの言葉(語音)を、そのとおりに発音するかまたは紙に書くなどして、何文字正解できたかを0~100%で示します。
音の大きさを何段階か変えて、最も多く聴き取れたときの正答率を最高明瞭度とします。
(2-3)その他の検査
上で述べた純音聴力検査・明瞭度検査は、検査を受けた人自身がどの程度聴こえると感じるか、つまり自覚的な聴力を検査するものです。
これらの検査では正確に聴力が測ることができないと判断された場合は、他覚的な聴力を測るための神経学的検査が行われることもあります。
このうち、ABR検査(聴性脳幹反応検査)は、ある一定の音を聴かせた時に脳幹から出てくる電気的反応を見ることにより、音が聴こえているかどうか調べる方法です。
交通事故による難聴で慰謝料の相場は?

交通事故による難聴が上記の後遺障害等級のいずれかに認定されると、事故の相手方(加害者)に対して後遺症慰謝料を請求できるようになります。
通常は、後遺障害等級が認定された後、加害者が加入する保険会社と金額などについて示談交渉を行うことになります。
後遺症慰謝料の金額(相場)を決める基準には、次の3つがあります。
- 自賠責基準……自動車損害賠償保障法(自賠法)で定められた、必要最低限の賠償基準
- 任意保険基準……各保険会社が独自に定めた賠償基準
- 弁護士基準……弁護士が、加害者との示談交渉や裁判の際に用いる賠償基準(「裁判所基準」ともいいます)
どの基準を用いるかによって慰謝料の額が変わります。
3つの基準を金額の大きい順に並べると、一般に、
弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準
となります。
難聴が後遺障害と認定された場合の後遺症慰謝料(相場)を、自賠責基準と弁護士基準で比べてみると、下の表のようになります。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
4級(3号) | 737万円 | 1670万円 |
6級(3号・4号) | 512万円 | 1180万円 |
7級(2号・3号) | 419万円 | 1000万円 |
9級(7号・8号・9号) | 249万円 | 690万円 |
10級(5号・6号) | 190万円 | 550万円 |
11級(5号・6号) | 136万円 | 420万円 |
14級(3号) | 32万円 | 110万円 |
(2020年4月1日以降に起きた事故の場合)
いずれの場合にも、弁護士基準のほうが自賠責基準よりも高額となることがお分かりでしょう。
被害者が、自分自身(または加入している保険会社の示談代行サービス)で示談交渉を行うと、加害者側の保険会社は、自賠責基準や任意保険基準を用いた金額を提示してくるのが通常です。
これに対し、弁護士が被害者の代理人として交渉する場合、通常は金額の最も高い弁護士基準を用いて交渉します。
つまり、示談交渉を弁護士に依頼すると、後遺症慰謝料を含む賠償金の増額が期待できるのです。
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交通事故による難聴で逸失利益も請求できる
交通事故による難聴が後遺障害として認定されると、多くの場合、加害者に対して逸失利益も請求することができます。
逸失利益とは、後遺障害によって得られなくなった将来の利益のことをいいます。
例えば、歌手として生計を立てている人が、交通事故による難聴のため歌手の仕事ができなくなってしまった場合、歌手業により将来得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入をいいます。
逸失利益の金額は、
基礎収入×後遺障害による労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
という計算式で算出します。
「基礎収入」は、原則として事故発生前の収入の金額が採用されます。
「労働能力喪失率」とは、後遺障害により労働能力がどれだけ失われたのか、その割合をいいます。後遺障害等級ごとに目安が定められており、難聴(4~14級)の場合は次のとおりです。
【労働能力喪失率】
4級 | 6級 | 7級 | 9級 | 10級 | 11級 | 14級 |
92% | 67% | 56% | 35% | 27% | 20% | 5% |
つまり、100%の労働能力のうち、4級では92%、6級では67%、7級では56%……が失われたと考えることになります。
「ライプニッツ係数」とは、被害者が将来得られたはずの利益を前もって受け取ったことで得られた利益(利息など)を控除するための数値です。
逸失利益の計算についても、特に労働能力喪失期間について加害者側と争いになることが多くなります。
その際も、弁護士に依頼すれば法律的な観点から妥当な労働能力喪失期間を算定し、適正な逸失利益額を主張することができます。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
交通事故による難聴で後遺障害認定を受けるポイント
次に、交通事故による難聴で後遺障害認定を受けるポイントを説明します。
(1)検査を早めに受ける
難聴の原因が交通事故にあると証明するためには、事故後すぐに検査する必要があります。期間があくと、交通事故が原因なのか因果関係を疑われてしまうからです。
また、後遺障害認定は診断書に記載される内容がカギになるため、症状を正確に伝えることも重要です。
検査を受ける前に、次のような事項を医師に伝えておきます。
- 難聴の部位(両耳、左右など)
- 難聴の始期(いつ頃からか)
- 難聴の頻度(常にか、たまにか)
- 難聴の持続時間(どのくらい長く続くか)
- 耳鳴りなどを伴うか
- 難聴の苦痛度
- 難聴による生活支障度(日常会話に支障があるなど)
(2)後遺障害診断書の内容が肝心
後遺障害の認定を受けるためには、医師により症状固定の診断を受け、後遺障害診断書に症状固定の旨を記載してもらう必要があります。
また、適正な後遺障害の認定を受けるためには、自覚症状や検査結果などを正確に記載してもらうことが特に重要となります。
【後遺障害診断書】

交通事故の難聴について弁護士に依頼するメリット
これまで述べてきたとおり、難聴も後遺障害に認定される可能性がありますが、簡単に認定されるわけではありません。
以下では、難聴の後遺障害の認定手続きについて、弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
(1)弁護士は、適正な後遺障害が認定されやすくなるコツを知っている
交通事故案件を担当してきた弁護士は、適正な後遺障害の認定率を高める後遺障害診断書の作成方法や、資料収集のコツを知っています。
弁護士に依頼をすれば、適正な等級認定がなされるよう、後遺障害診断書に何を書いてもらうべきかアドバイスを受けることができます。
したがって、後遺障害認定の手続きを被害者本人でするよりも、弁護士に依頼するほうが適正な等級が認定される確率は高まります。
(2)後遺障害認定の手続きを任せられる
また、後遺障害認定の手続きを弁護士に依頼すれば、申請のための面倒な作業を弁護士に任せることができます。
(3)慰謝料などの増額が期待できる
上で述べたように、加害者側との示談交渉などを弁護士に依頼すると、弁護士基準を用いた金額の算定により慰謝料などを増額できる可能性があります。
実際に、交通事故で難聴が生じた被害者が弁護士に依頼することによって、賠償金が増額したケースがこちらです。
【まとめ】交通事故による難聴でお悩みの方は弁護士にご相談ください
交通事故による難聴が後遺障害と認定されるかどうかは、加害者に対して後遺症慰謝料や逸失利益を請求できるかどうかに関わるため、非常に切実な問題です。
難聴が後遺障害に認定されるためには、適切な治療・検査の受け方、後遺障害診断書の書き方にも工夫が必要です。
また、加害者側との示談交渉を弁護士に依頼すれば、賠償額を増額できる可能性が高まります。
交通事故による難聴でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。