「交通事故の直後は痛みを感じなかったので物損事故としたけど、事故後痛みが出てきた……人身事故にしてもらった方が良いのかな?」
そのような方は、実は少なくありません。
事故直後は、精神的に動揺・興奮していて痛みやしびれに気がつかなかったり、けがの内容によっては数日後に症状が出ることもあるためです。
事故直後ならともかく、事故後に日常生活に戻った後だと仕事などが忙しくて、病院を受診する時間が取れない方もいらっしゃるでしょう。
警察や保険会社には物損事故と報告済みですので、後から「やっぱり人身事故だった」と言ったら警察や保険会社から嫌な顔をされないかな……そんな心配もありますよね。
ですが、症状があるときはすぐに病院に行き、診断書を受け取って人身事故への切り替えを依頼すべきです。
というのは、物損事故のままでは次のような不利益が生じるおそれがあるからです。
- 物損事故の損害賠償金は人身事故より低額となる可能性があること
- 物損事故では原則として慰謝料が発生しないこと
- 物損事故では実況見分が実施されないこと
「今回は人身事故ではないので、治療費や慰謝料は支払えません。」もしかしたら、保険会社からそんなことに言われてしまうかもしれません。
そうならないためにも、今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 物損事故と人身事故の違い
- 加害者が人身事故ではなく物損事故にしたがる理由
- 物損事故のままにすると生じる可能性のある不利益
- 物損事故から人身事故への切替方法
- 弁護士に依頼するメリット
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
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まずは「物損事故」と「人身事故」の違いを知る
交通事故は、大きく物損事故と人身事故の二つに分けることができます。
これは交通事故により発生した損害内容によって区別されます。
どちらの事故であるかによって、加害者が責任を負うべき内容(被害者が加害者に請求できる損害賠償の内容)にも違いがありますので、両者の違いについて説明します。
(1)物損事故とは
物損事故とは、交通事故により物(自動車など)が傷ついたり壊れたりして物的な損害(「物損」といいます)が発生したが、負傷者や死亡者はおらず人的な損害は発生していない交通事故のことをいいます。
(2)人身事故とは
人身事故とは、負傷者や死亡者が生じて人的な損害(「人損」といいます)が発生した交通事故のことをいいます。
人身事故では、人損のみの場合と、人損に加えて物損が生じた場合とがあります。
けががある場合に人身事故にすべき3つの理由
加害者の中には、起こしてしまった交通事故を、次のような理由から、人身事故ではなく物損事故として処理をしたがる人がいます。
- 次年度以降の保険料が上がる
人身事故を起こして保険を使用した場合、通常は次年度以降の等級が下がり、保険料が上がります。
- 行政処分(免許の点数の加算)を受ける
行政処分である免許の点数は、人身事故だと付加点数が加算されますが、物損事故だと当て逃げでない限り加算されません。
過去の交通違反による加算点数がある程度あり、付加点数による加算を抑えたい人などは、物損事故にしたがる傾向があるようです。
- 刑事処分を受ける可能性がある
人身事故のケースでは、道路交通法や自動車運転処罰法により、加害者が懲役や罰金などの刑事処分を受けることがあります。
物損事故では、警察に連絡をせずに逃走したような場合や建造物を損壊してしまった場合以外は刑事処分の対象とはなりません。
被害者がけがをしたにも関わらず、加害者から「物損事故としてくれないか。けがについてはしっかり補償する」などと頼んでくる人もいるようです。
交通事故に遭うと、少なからず動揺します。
「けがも大したことはなさそうだし、大事にしたくない」、あるいは「加害者も悪い人ではなさそうだから、人身事故にしてはかわいそうだ」と思うかもしれません。
ですが、人身事故と物損事故では、次にご説明するとおり、賠償される損害の内容が大きく異なります。
実際は人身事故であるにもかかわらず、物損事故として扱われてしまうと、被害者が多大な不利益を被る可能性があるのです。
したがって、けがをした場合には、人身事故として警察や保険会社に報告するようにしましょう。
けがをした場合に人身事故とすべき理由は、次の3つです。
(1)物損事故は人身事故よりも損害賠償金が低い
物損事故と人身事故は、請求できる損害賠償項目が違います。
物損事故の損害賠償は、車両の損傷や、構築物(家の壁など)の破損を修理するためにかかる費用などにとどまることがほとんどです。
このような物の修理費用や弁償費用の損害賠償金は、通常そこまで高額になることはありません。
しかし、人損事故の損害は、次のような項目について賠償を請求できますので、けがの程度が重ければ重いほど、損害賠償金は高額になります。
- けがの入通院治療費
- 入通院慰謝料
- 休業損害(けがにより働けなかった分の収入の補償)
- 後遺症が残存した場合の慰謝料
- 逸失利益(将来に影響する減少分の収入補償)
したがって、人損事故よりも物損事故の方が、加害者側の負担する損害賠償額が低くなるのが通常です。
本当は事故によりけがをしたのに物損事故として扱われると、人身に関する損害賠償が支払われなくなるおそれがありますので、人身事故として扱われることをお勧めします。
(2)物損事故では原則として慰謝料が発生しない
物損事故では、物しか損傷を負っていません。
実務上、「物」が壊れたことの精神的苦痛に対しては、一般には修理費などの財産上の損害が賠償されることにより慰謝されると考えられているため、物損に対する慰謝料の請求は原則としてすることはできません。
したがって、物損事故で加害者が支払う責任を負う損害賠償は、原則として車の修理代などの実費に留まります。
一方で、人身事故では、被害者がけがや治療などにより精神的苦痛を被っていますので、治療費などの実費負担を請求できることに加えて、受けた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料を請求することができます。
なお、物損事故として届け出している場合でも、被害者がけがを負っている場合、加害者の任意保険会社が人身事故として治療費や慰謝料等を負担するケースが多いです。ですが、必ずしも治療費や慰謝料等が支払われるとは限りませんし、物損事故扱いのままでは軽い事故とみられてしまうおそれがあるため、人身事故として届け出をすることをお勧めします。
(3)物損事故では実況見分調書が作成されない
実況見分調書は、事故直後に、基本的に当事者立会いの下、警察官が事故状況の詳細を確認・調査して作成する書類です。
停車中の車に加害車両がぶつかる追突事故など、一方が100%の責任を負うことが明らかで互いの主張に争いが生じないケースもありますが、交通事故では事故状況や過失割合について争いが生じるケースも多いです。
通常、事故状況や過失割合について争いが生じた場合には、人身事故の際に作成される実況見分調書を証拠に、事故状況を確認し、相手方の過失割合を主張していきます。
実況見分調書は、専門家である警察官が事故直後にその知見に基づいて交通事故について客観的に記録した書類なので、事故当事者の過失割合を判断する重要な証拠となるのです。
しかし、物損事故ではこの実況見分調書が作成されず、簡易な物件事故報告書が作成されるだけです。
一般的にこの物件事故報告書では、相手方の過失割合を証明する力が弱いとされていますので、過失割合に争いが生じた場合、被害者の主張が認められづらくなります。
事故当時は過失を争っていなくても、後になって争われることは少なくありません。
後になって過失割合をごまかされないためにも、事故でけがをしたという場合には、すぐに警察に実況見分をしてもらい、その内容を調書に残しておく必要があります。
実況見分の必要性について詳しくはこちらの記事もご確認ください。
これらの3つの理由から、交通事故によりけがをした場合には、加害者に頼まれた場合であっても、多少面倒かと思った場合であっても、物損事故ではなく人身事故として警察に届け出ることが大切です。
物損事故から人身事故に切り替えが必要な場合
交通事故によるけがは、事故直後ではなく、1~3日して痛みやしびれなどの症状が現れることがあります。
したがって、「事故直後はけがや痛みに気が付かなかったので物損事故としたけど、その後痛みを感じるようになった」というようなケースも少なくありません。
このような場合にはどうすればよいのでしょうか。
加害者からしっかりと交通事故の損害を賠償してもらうために、警察に対して、物損事故から人身事故へと切り替えてもらいたいと伝えるようにしましょう。
ここでは、切り替えるための手順を説明します。
物損事故から人身事故に切り替える手順
事故当初は物損事故と報告したけれども、途中で人身事故に切り替えたい場合にはどうすればよいでしょうか。
次では実際に切り替えるための手順は次のとおりです。
病院を受診して診断書を作成してもらう
警察署に診断書を提出する
警察による実況見分や事情聴取に対応する
それぞれの注意点などについてご説明します。
(1)病院で診断書を書いてもらう
痛みなどの症状があるのですから、まずは治療が必要です。
また、人身事故に切り替えるためには、交通事故によりけがをしたことを、医師に判断してもらう必要があります。
自分の症状に適した病院・科を受診し(むち打ち症状であれば整形外科、頭痛であれば脳神経外科・神経内科など)、診察を受け、交通事故によるけがであることについての診断書を発行してもらいましょう。
診察の際には、事故日、事故の内容、いつから痛むか、どこが痛むかなどを説明するようにします。
加害者側の任意保険会社にも、事前に病院に行く旨を伝えて、人身事故として対応してもらいたい旨を伝えておきます。
ただし、事故から1週間以上経過して病院を受診したような場合、任意保険会社は、「交通事故によりけがを負った」とは認められないため、交通事故とけがの因果関係はない(交通事故とけがは無関係である)として、治療費などの支払いに応じない可能性があります。
したがって、痛みやしびれを感じたら、すぐに病院を受診するようにしましょう。
どうしてもすぐに病院に行けない場合には、自己治療(市販の湿布や薬で痛みを抑えるなど)もけがの証拠となることがありますので、購入した薬などの領収書を保管しておくようにしましょう。
「人身事故」への変更のためには、事故から何日以内に受診したら良いですか。
一般的には、けがをした場合には、その痛みは48時間からせいぜい72時間以内にピークを迎えると言われていますので、遅くとも3日以内には受診することをお勧めします。
それ以上受診が遅れると、事故との因果関係を争われる可能性が高くなります。
(2)警察署に診断書を提出
診断書が発行されたら、警察署に対しても、人身事故として対応してもらいたいと伝えます。
警察官も忙しく、突然所轄の警察署を訪ねても対応してくれる人がいるとは限りません。事前に電話連絡をして、必要な書類や窓口・担当者を確認し、訪れる日時について約束をするとよいでしょう。
物損事故から人身事故への切り替えはいつまでにしなければならないのか、という期限は法律上存在しません。
しかし、何週間も何ヶ月も経ってから切り替えを希望しても、「本当にけがをしたのか」「交通事故と無関係のけがではないか」などと疑われて、警察が切り替えに応じないことがあります。
そのような事態を避けるためにも、痛みなどの症状が現れたら、すぐに病院を受診して診断書を入手し、警察署に伝えましょう。
人身事故から何日以内で警察に人身事故への切り替えを依頼したら良いですか?
特に期間の決まりはありませんが、一般的には10日程度以内に変更を依頼することをお勧めします。
(3)実況見分や事情聴取に対応
その後、警察は実況見分や当事者に対する事情聴取などを行います。
実況見分は、事故当事者が警察官と事故現場を訪れて行います。
実況見分調書などは、後で損害賠償を請求をする際の重要な証拠になります。
警察官に対しては、記憶の通りに、正確に事故の内容を伝えるようにしましょう。
【まとめ】けがをした時は人身事故にしないと、補償金額が低くなる可能性がある
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 交通事故は被害の内容によって人身事故と物損事故に分けられる。
- 交通事故の加害者には、人身事故になると次の不利益がある。
1.次年度の保険の等級が下がり保険料が上がる
2.行政処分を受ける(免許の点数が加算される)
3.刑事処分を受ける可能性がある - けががある時に物損事故ではなく人身事故とすべき理由は次のとおり。
1.物損事故は人身事故よりも損害賠償項目が少なく、通常は賠償金額が低い
2.物損事故では、基本的に慰謝料の請求が認められない
3.物損事故では実況見分が実施されない - 事故後しばらくして痛みを感じるなどした時は、病院を受診した上で、警察に診断書を持参して、人身事故に切り替えてもらうべきである。
当初は物損事故として届け出ているのに、わざわざ人身事故に切り替えるのも面倒だな……時にはそのように思うことがあるかもしれません。
ですが、本当はけがをしているのに物損事故にしたまま日数が経過してしまうと、警察や保険会社に交通事故とけがとの因果関係を否定される可能性が高まります。交通事故によりけがをした場合には、速やかに受診して警察に人身事故に切り替えてもらいましょう。
また、人身事故に切り替えてもらった上で、加害者の保険会社との交渉がうまくいかないなど、示談についてお悩みの方は、弁護士へご相談ください。
交通事故の被害に遭った方が、賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので(※)、やはりお客様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2024年9月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。