交通事故により負うケガとして多いのがむち打ち症です。むち打ち症は、首の痛みだけでなくしびれやだるさなど様々な症状を引き起こしますが、肩こりもその一つです。
そして、交通事故によりむち打ち症となり、痛みやしびれ、肩こりなどが後遺症として残ってしまった場合には、後遺障害等級の認定を受けることができれば、次のような慰謝料を受けとれる可能性があります(弁護士の基準による)。
- 後遺障害12級:290万円
- 後遺障害14級:110万円
ただ、ここで知ってほしいことは、むち打ち症による痛みやしびれ、肩こりなどは明らかな外傷と異なり、後遺障害として認定されることは難しい症状の一つです。
例えば、どういった症状があるかについて、医師への申告が遅れたりすると、痛みやしびれ、肩こりが本当に交通事故を原因とするものであると医師が診断できず、後遺障害として認定できないケースもあります。
交通事故の慰謝料請求をする前に、むち打ち症で後遺障害に認定される条件や後遺障害12級と14級の違いについて知っておきましょう。
この記事では、次のことについて弁護士が詳しく解説します。
- むち打ち症の症状と肩こりが起こる理由
- むち打ち症で後遺障害等級は認定されるか
- むち打ち症の後遺障害等級認定の申請方法
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
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むち打ち症の症状と肩こりが起こる理由
まず、むち打ち症とむち打ち症による肩こりのメカニズムについて知っておきましょう。
ここでは、次のことについて解説します。
- むち打ち症が生じるメカニズム
- むち打ち症により肩こりが起こる理由
- むち打ち症による肩こりの治療期間
(1)むち打ち症とは?
むち打ち症とは、外部からの強い衝撃により、頸部(首)がむち打ったように過度に伸縮した結果、首の部分の筋肉、靭帯、椎間板などの軟部組織や骨組織が損傷することをいいます。
正式には、「頸椎捻挫」「外傷性頚部症候群」などと呼ばれます。
【椎間板】 椎間板とは、背骨(脊椎)を構成する椎骨をつなぐクッションのような役割を果たす軟部組織のことをいいます。
交通事故の場合では、自動車運転中などに後ろから追突されたことで、体は急激に前方に押し出され、その際に首と頭が胴体に引っ張られ、ムチのようにしなることで、むち打ち症になることが多いです。
むち打ち症になると、痛みだけでなく、しびれ、だるさなどさまざまな症状を引き起こしますが、自覚症状しか認められず、他覚的所見(医師の所見)を伴わない場合が多いため、症状固定の判断や後遺障害認定が難しい場合もあります。
(2)むち打ち症で肩こりが残る理由
むち打ち症で肩こりの症状が現れることもあります。そして、むち打ちによる首の痛みが完治しても、肩こりが取れないケースがあります。
むち打ち症による肩こりは、事故の衝撃で痛めた筋肉や軟部組織の損傷、あるいは自律神経の損傷により血行障害が生じた結果、起こると考えられています。
交通事故でむち打ち症になった際に、適切な治療やリハビリを受けないと損傷が慢性化し、後遺症として肩こりが残ってしまうことがあります。
(3)むち打ちによる肩こりの治療期間
一般的に、むち打ち症の場合は3ヶ月程度の治療を要しますが、むち打ち症による肩こりが治るまでにはさらに時間を要する場合もあります。
また、日頃から肩こりがあった人の場合には、むち打ち症による肩こりなのか原因がわからず、さらに治療期間が伸びることもあります。
<コラム>治療期間が長くなると、保険会社から治療費の打ち切りが打診されることも!?
治療開始から3ヶ月ほど経つと、事故の相手方の保険会社が治療の終了時期を判断して、治療費の打ち切りが打診されることがあります。
これに応じると、それ以降の治療費については保険会社からの支払いが打ち切られてしまいます。
しかし、本来、治療の終了時期は医師が決めることです。
治療期間の長さは、後で述べる後遺障害等級認定を受ける際の判断要素の1つです。治療期間が短いと後遺障害認定で不利になる可能性もあります。
また、慰謝料や休業損害の額も治療期間をもとに算出するため、完治していないのに治療をやめると受け取れる損害賠償の金額も少なくなるおそれがあります。
したがって、適切な額の損害賠償を受け取るためにも、まだ完治していないのであれば治療を続けるべきです。
保険会社からの一方的な治療費打ち切り宣告に従う義務はありません。
むち打ち症は後遺障害等級に認定される?
では、むち打ち症は後遺障害に認定されるのでしょうか。
ここでは、次のことについて解説します。
- 後遺障害等級の概要
- むち打ち症が該当する可能性のある後遺障害等級
- 後遺障害に認定されるポイント
(1)後遺障害等級認定とは?
「後遺障害等級」とは、自賠責保険の基準に基づき、所定の機関(損害保険料率算出機構など)が認定した後遺症の症状に応じた等級のことをいいます(なお、全ての後遺症について「後遺障害等級」が認定されるわけではありません)。
後遺障害等級は1~14級(および要介護1級・2級)の等級に分かれており、1級の症状が最も重く、症状が軽くなるに従って2級、3級…と等級が下がっていきます。
後遺障害等級が認定されると、被害者は加害者に対し、治療費などに加え、後遺障害慰謝料や逸失利益(=後遺障害により得られなくなった、または減少した将来の収入)といった後遺症が残ったことについての賠償金も請求できるようになります。
(2)むち打ち症が該当する後遺障害等級
むち打ち症で認定される可能性のある後遺障害等級には、次の2つの等級があります。
後遺障害等級 | 症状 |
---|---|
後遺障害12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの ⇒他覚的所見が認められる神経症状(痛みやしびれなど)がある場合 (レントゲン検査やMRI検査などによって客観的に認識できる神経症状) |
後遺障害14級9号 | 局部に神経症状を残すもの ⇒他覚的所見は認められないものの、受傷時の態様や治療の経過からその痛みや痺れといった訴えが医学的に一応の説明がつく神経症状がある場合 |
いずれの後遺障害等級も、むち打ち症による肩こりだけでは、後遺障害認定を受けることは難しいのが実情です。肩こりだけでなく、痛みやしびれといった症状が残った場合には、後遺障害等級の認定がされる可能性があります。
後遺障害14級9号について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(3)むち打ち症で後遺障害等級が認定された場合の後遺症慰謝料の相場(目安)
後遺症慰謝料とは、交通事故で受けたケガが完治せず、後遺障害が残った場合に請求できる慰謝料です。
後遺症慰謝料の相場を知るためには、後遺症慰謝料の相場を算定する3つの基準を知る必要があります。なぜなら、どの基準を使うかで、相場の金額が大きく変わってくるからです。
後遺障害慰謝料の金額を算出する基準としては、次の3つの基準があります。
算定基準 | 概要 |
---|---|
自賠責の基準 | 自賠責の基準は、自動車保有者が加入を義務付けられている「自賠責保険」で採用されている基準です。 自賠責の基準は被害者への最低限の補償を目的として設けられているので、慰謝料の基準額は基本的に3つの算定基準のうち最も低くなります。 ただし、自賠責保険金額は、交通事故の70%未満の過失については減額対象にしませんので、過失割合が大きい場合には、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります。 |
任意保険の基準 | 任意保険の基準は、各保険会社が独自に設定している非公開の算定基準です。 加害者側の任意保険会社は、通常は任意保険の基準をもとにして慰謝料を提示してきます。基準額は、自賠責の基準と同程度か、やや高い程度であると推測されます。 |
弁護士の基準 | 弁護士の基準は、過去の裁判例をもとに設定された基準です。弁護士に示談交渉を依頼した場合などに使われる算定基準です。 弁護士の基準による慰謝料金額(目安)は3つの算定基準のうちでは基本的に最も高額となります。 |
そして、3つの基準を金額の小さい順に並べると、一般的に、次のようになります(一部例外あり)。
実際に、後遺障害12級13号と14級9号の後遺症慰謝料の相場の金額を比べると次のようになります。
自賠責の基準(※) | 弁護士の基準 | |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
上の表のとおり、一般的に自賠責の基準よりも弁護士の基準のほうが金額は高くなりやすくなります。そのため、慰謝料の増額を目指すためには弁護士の基準を使うことをおすすめします。
弁護士の基準を使うには弁護士への依頼がおすすめです。
被害者本人が加害者側の保険会社と示談交渉をしても、加害者側の保険会社が弁護士の基準での増額に応じてくれることはなかなかありません。
これに対し、弁護士が被害者本人に代わって示談交渉を行う場合は、訴訟も辞さない姿勢で通常最も高額となる弁護士の基準を利用して計算した慰謝料などを請求しますので、弁護士の基準に近い金額での示談が期待できます。
後遺障害等級の認定に必要な2つの手続
後遺障害等級の認定の手続きには、次の二つの方法があります。
- 被害者請求
- 事前認定
それぞれ説明します。
(1)被害者請求
被害者自身が、病院からケガについての画像等(レントゲン写真、CT、MRI等)や、医師記載の後遺障害診断書を、加害者が加入している自賠責保険会社に提出する方法です。
流れとしては、次のようになります。
被害者
自賠責保険
(2)事前認定
加害者の任意保険会社に後遺障害診断書を提出し、認定の手続きを依頼する方法です。
流れとしては、次のようになります。
被害者
任意保険会社(加害者側)
自賠責保険
事前認定と被害者請求の違いをまとめると次のようになります。
事前認定は被害者の負担が少ない一方で、被害者自身が提出する資料を選べないため、後遺障害等級認定が不利にすすんでしまう可能性があります。
後遺障害等級認定を有利に進めたい方は、「被害者請求」がおすすめです。
被害者請求に必要な書類や手順を詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
むち打ち症で後遺障害等級が認定される5つのポイント
次に、むち打ち症で後遺障害等級が認定されるためのポイントを解説します。
次の5つのポイントがあります。
- 事故による衝撃が大きいこと
- 継続して治療すること
- 症状に一貫性・連続性があること
- 医師に症状を正確に伝える
- 神経学的検査を受ける
それぞれ説明します。
(1)事故による衝撃が大きいこと
後遺障害等級が認定されるためには、症状と交通事故と症状固定状態との間に相当因果関係が認められることが必要となります。
どういうことかというと、事故時の衝撃が、痛みやしびれ、肩こりという後遺症を発症し得るほどのものであると認められることが必要になります。
逆に言うと、軽微な事故(衝撃)の場合、たとえ事故後にむち打ち症による後遺症が残っても、後遺障害等級が認定されない可能性があります。
(2)継続して治療すること
後遺障害等級が認められるためには、事故後から症状固定の診断を受けるまで、病院に定期的に通院した実績が必要となります。
治療の間が開いてしまうと、完治していなくても「治癒」と推定され、後遺障害等級が認定されないことがあります。
また、後遺障害等級の申請に必要な後遺障害診断書は医師しか作成できないため、整骨院や接骨院ではなく、整形外科などの病院で治療を続けることが重要です。
【後遺障害診断書】
(3)症状に一貫性・連続性があること
症状固定までの間、症状が一貫しており、かつ連続していることも、後遺障害等級認定にあたり重視されるポイントとなります。
事故後、痛みやしびれ、肩こりといった症状がいったん治ってぶり返したという場合は、後遺障害と認定されないことがあります。
(4)医師に症状を正確に伝える
症状が一貫してあることや、悪天候の日に症状が重くなるなど、医師に症状を具体的かつ正確に伝えることが重要です。
日によっては症状が良くなるという場合でも、「治った」と自己判断せず、長期的な症状を医師に伝えましょう。
また、症状を通院の都度カルテに記載してもらうといったことも大切です。
(5)神経学的検査を受ける
MRIやレントゲンなど、画像による他覚的所見がない場合は神経学的検査を受けましょう。
【神経学的検査の例】
検査名 | 検査内容 |
---|---|
ジャクソンテスト | 被験者が椅子に座り、医師が被験者の頭部を後ろに倒しながら圧迫します。この時、肩、腕、手などに痛みやしびれが出るかどうかで、神経根障害を調べます。 |
スパーリングテスト | 被験者が頭を後ろに反らせた状態で、医師が頭頂部を下方に圧迫します。この時、肩、腕、手などに痛みやしびれがあるかどうかで、神経根障害を調べます。 |
腱反射テスト | 腱を打腱器で叩いて、正常な反射(筋萎縮反応)が返ってくるかどうかを検査します。 |
筋委縮検査 | 上肢または下肢の周囲径を図り、筋委縮(筋肉の痩せ)が生じていないかを確認します。 |
なお、神経学的検査を受けた場合は、自覚症状と検査結果の整合性をカルテに記載してもらうことが重要です。
むち打ち症による後遺症が残った場合に弁護士に依頼する4つのメリット
むち打ち症により後遺症が残った場合に弁護士に依頼するメリットとしては、次の4つの点が挙げられます。
弁護士に依頼する4つのメリット
一番高額となりやすい「弁護士の基準」が利用できる
弁護士の基準を利用することで、保険会社が提示する金額よりも増額ができる可能性があります。
後遺障害認定される可能性が高まる
弁護士に依頼すれば、弁護士が、本人の代わりに後遺障害認定を目指して必要な書類を入手したり、書類の内容をチェックしたりしますので、後遺障害認定される可能性を高めることができます。
損をしてしまうことを防ぐことができる
弁護士が加害者側保険会社の示談案を吟味するので、「貰えるはずのお金をもらえずに損をした」という事態を予防できます(例:保険会社の示談案には、本来貰えるはずの休業損害や逸失利益が含まれていないことがあります)。
保険会社との示談交渉を任せることができる
加害者側保険会社との面倒な交渉について弁護士に任せて、治療に専念することができます。
もっとも、弁護士に依頼するとなると、弁護士費用もかかってしまいます。しかし、あなたが加入する自動車保険に弁護士費用特約が付帯していれば、弁護士費用は保険会社が負担することとなります(保険会社が負担する金額には限度額あり)。そのため、基本的に、あなたに経済的負担がかかる心配はありません。
弁護士費用特約について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
【まとめ】むち打ち症による後遺症は後遺障害12級OR14級に認定される可能性あり
この記事のまとめは次のとおりです。
- むち打ち症により認定される可能性ある後遺障害等級
- 後遺障害12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
- 後遺障害14級9号 局部に神経症状を残すもの
- 後遺障害慰謝料の相場(目安)としては、後遺障害12級が認定された場合には290万円、後遺障害14級が認定された場合には110万円となる(弁護士の基準)。
- 後遺障害等級申請には、事前認定と被害者請求の2つの方法があるが、後遺障害等級認定を有利に進めたい方は、「被害者請求」がおすすめ。
- むち打ち症で後遺障害等級が認定される5つのポイント
- 事故による衝撃が大きいこと
- 継続して治療すること
- 症状に一貫性・連続性があること
- 医師に症状を正確に伝える
- 神経学的検査を受ける
交通事故の後遺障害等級認定や慰謝料請求は弁護士への相談がおすすめです。
弁護士などの専門家に相談しながら手続きを進めることで、後遺障害等級認定に向けたアドバイスを受けることができ、そのことで後遺障害等級認定される可能性を高めることができます。
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アディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。
弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各法律事務所へご確認ください。
(以上につき、2022年9月時点)
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