「退職代行を使えば会社と話さずに辞められるはずなのに、書類のやり取りで結局連絡が必要になるのでは?」
「万が一、必要な書類が届かなかったらどうしよう…」
このように、会社との書類トラブルを懸念し、不安に感じていませんか。
このコラムでは、退職代行利用時の書類手続きの流れ、特に「会社から受け取る重要書類」と「会社へ返却するもの」を網羅的に解説します。
さらに、最も不安な「書類が届かない」場合の法的な対処法や、弁護士など依頼先ごとの対応範囲の違いも明らかにします。
この記事を読めば、書類に関する不安を解消し、会社と一切接触することなく、安心して退職手続きを完了させる方法がご理解いただけるでしょう。
退職代行の書類手続きの流れ
退職代行を利用する際、書類のやり取りは「退職を伝える」ことと同じくらい重要です。
会社との直接連絡を避けるためにも、手続きの流れを正確に把握しましょう。
ご自身で準備するもの、会社から受け取るもの、会社へ返すものの3つに分けて理解することが、スムーズな退職とトラブル防止の鍵になります。
特に会社から受け取る書類は、失業保険の申請や転職先の入社手続きに重要なものばかりです。
依頼者が用意する書類
退職代行業者へ依頼する際、まずは委任状が必要になることがあります。
これは、業者があなたに代わって会社と交渉・通知を行うための法的な権限を示す書類です。特に弁護士に依頼する場合は必須となります。
また、身元確認のために身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)のコピーの提出を求められるのが一般的です。
会社へ提出する退職届については、業者によってはフォーマットの提供や作成代行、さらには会社への郵送代行まで行ってくれる場合があります。
ご自身で用意する場合でも、書き方のアドバイスを受けると安心です。
会社から受け取る書類
会社から受け取るべき書類は、退職後の生活設計や次のキャリアに直結する重要なものばかりです。
代表的なものとして、失業保険の受給に必要な離職票、年末調整や確定申告に使う源泉徴収票、転職先で雇用保険に再加入するための雇用保険被保険者証などがあります。
これらが手元にないと、公的な手続きが遅れるリスクが生じます。
通常、これらの書類は退職日以降に会社から郵送されますが、万が一届かない場合は、代行業者を通じて速やかに催促する必要があるでしょう。
会社へ返却する書類・物品
退職時には、会社から借りていたものをすべて返却する義務があります。
これを怠ると、会社から連絡が来てしまったり、場合によっては損害賠償を請求されたりするトラブルの原因にもなりかねません。
代表的なものは、退職日をもって無効となる健康保険証です。
扶養家族がいる場合は、その全員分を返却します。
その他、社員証や名刺、業務で使用していたPC、制服、鍵など、会社の所有物は漏れなく返却しましょう。
退職代行業者を経由して郵送で返却できる場合もあるので、会社と一切顔を合わせたくない方は、業者に対応範囲を確認しておくことが重要です。
会社から受け取る重要書類一覧
退職後に会社から受け取る書類は、あなたの権利を守り、次のステップに進むために法律上定められた重要なものです。
これらがなければ、失業手当がもらえなかったり、転職先での手続きが滞ったりと、深刻な不利益につながります。
特に重要な5つの書類について、それぞれの用途と重要性を解説します。
離職票
離職票(雇用保険被保険者離職票)は、ハローワークで失業保険(基本手当)の受給手続きをする際に絶対に必要となる書類です。
これは、あなたが会社を辞めた事実と、退職前6ヶ月間の給与額、退職理由などを公的機関が確認するためのものです。
特に退職理由が「会社都合」か「自己都合」かは、失業保険の給付開始時期や給付日数に大きく影響します。
会社が発行を拒否したり、事実と異なる理由を記載したりした場合は、失業保険の受給にあたってトラブルの原因となります。
退職日から10日以内に会社がハローワークに対して手続きを行い、その後本人に交付されるのが原則です。
源泉徴収票
源泉徴収票は、その年に会社があなたに支払った給与・賞与の総額と、そこから天引きした所得税の額が記載された書類です。
これは、転職先の会社で年末調整を受けるために提出を求められるのが通常です。
もし年内に転職しない場合でも、ご自身で確定申告を行い、払いすぎた税金の還付を受ける(取り戻す)ために必要です。
所得税法上、会社は退職者に対して、退職日から1ヶ月以内に源泉徴収票を交付する義務を負っています。
これも届かない場合は、税務署への相談も視野に入れた対応が必要です。
雇用保険被保険者証
雇用保険被保険者証は、あなたが雇用保険に加入していたことを証明する書類です。
通常、入社時に会社から渡されます。本来は労働者への交付義務があるのですが、会社が退職時まで保管しているケースもあります。
転職先が決まっている場合、その会社で再び雇用保険に加入する手続き(被保険者番号の引き継ぎ)のために提出を求められます。
会社が保管していて退職時に返却されない場合や、入社時に受け取ったが見当たらない場合は、ハローワークに再発行を依頼する必要があります。
年金手帳・基礎年金番号通知書
年金手帳または基礎年金番号通知書は、あなたの公的年金(国民年金・厚生年金)の加入者番号(基礎年金番号)が記載された非常に重要な書類です。
これまでは会社が預かっているケースが一般的でしたが、現在は個人管理が主流です。
もし会社に預けていた場合は、退職時に必ず返却してもらう必要があります。
転職先の会社での厚生年金加入手続きや、退職後にご自身で国民年金へ切り替える手続き(第2号被保険者から第1号被保険者への変更)の際に、この基礎年金番号を利用できます。
健康保険資格喪失証明書
健康保険資格喪失証明書は、あなたが会社の健康保険(社会保険)から脱退した日付を証明する書類です。
これは、退職後に国民健康保険へ加入する際や、家族の健康保険の扶養に入る際に、市区町村の役所や転職先の会社から提出を求められます。
この書類がないと、保険の切り替え手続きができず、一時的に無保険状態になってしまう恐れがあります。
病院にかかった際の医療費が全額自己負担となるため、非常に重要です。
会社は、退職日の翌日から5日以内に資格喪失の手続きを行うため、速やかに発行してもらうよう依頼しましょう。
会社へ返却するもの一覧
会社を退職する際は、会社から貸与されたものをすべて返却する法的義務があります。
これらを返却しないと、会社との間で不要なトラブルが発生し、退職代行を使っても会社から直接連絡が来る原因になりかねません。
物理的な接触を断つためにも、返却漏れがないか徹底的に確認しましょう。
健康保険証
健康保険証(健康保険被保険者証)は、退職日の翌日以降は使用できなくなります。
もし扶養している家族がいる場合は、その家族全員分の保険証もあわせて返却する必要があります。
退職日を過ぎてから誤って使用してしまうと、後日、健康保険組合や協会けんぽから医療費の返還(本来7割負担してもらう分)を請求されるおそれがあるため、絶対にやめましょう。
通常は、最終出社日か、退職代行業者を通じて郵送で返却します。
返却しないと、先述の「健康保険資格喪失証明書」の発行が遅れる原因にもなるため、速やかな返却が不可欠です。
社員証・IDカード・名刺
社員証やIDカード(セキュリティカード)、入館証などは、会社のセキュリティに直結する重要な物品です。
悪用を防ぐためにも、確実に返却しなければなりません。
また、業務で使用していた名刺も、会社に返却しましょう。
ご自身の名刺はもちろん、受け取った取引先の名刺も、会社の規則(個人情報保護規程など)によっては持ち出しが禁止されている場合があります。
必ずルールを確認し、不要なトラブルを避けましょう。
これらを返却しないことは、会社に連絡の口実を与えることになります。
PC・制服などの貸与品
業務のために会社から借りていたものは、原則として会社の資産です。
ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなどの電子機器は、内部のデータを適切に処理した上で返却します。
私的な情報が残っていないか確認し、業務データは会社の指示に従って処理(または削除せずそのまま返却)しましょう。
また、制服や作業着、社章、業務で使用した鍵(オフィスの鍵、ロッカーの鍵など)、その他、経費で購入した備品などもすべて返却対象です。
これらを返却しないと、会社から弁償を求められる可能性もあるため注意が必要です。
書類が届かないときの対処法
退職代行を使ったにもかかわらず、会社から必要な書類が送られてこないケースは、残念ながら少なくありません。
感情的にならず、冷静かつ手順に沿って段階的に対処法を講じましょう。
書類が届かない原因
会社から書類が届かない原因はさまざまです。
退職代行の利用に対して会社側が感情的になり、嫌がらせとして意図的に手続きを遅らせているケースもあれば、単純に担当者が退職手続きに不慣れであったり、多忙で見落としていたりする事務的なミスの可能性もあります。
中には、退職代行業者からの連絡を「正式な退職の意思表示」と認めず、本人からの連絡を待っているという理不尽な対応をとる会社も存在します。
いずれの原因であっても、必要な書類を交付しないことは違法となる可能性があります。
退職代行の依頼先と対応範囲
退職代行サービスは、運営元によって「できること」と「できないこと」が法律上明確に分かれています。
ご自身の状況と、どこまでのサポートを求めるかに応じて、ご自身に合った依頼先を選ぶことが極めて重要です。
民間企業
一般的な民間企業が運営する退職代行サービスは、主に「退職の意思を本人に代わって伝える」ことを業務としています。
弁護士法により、彼らは法的な交渉を行うことはできません。
そのため、会社側が「退職を認めない」「有給休暇の消化を拒否する」などと主張してきた場合、民間業者はそれ以上強く出ることができません。
あくまで「伝達」しかできないため、書類の催促はできても、会社が拒否すればそれまでです。
料金は比較的安価ですが、トラブルが発生した際のリスクが残ります。
労働組合
労働組合が運営する退職代行サービスは、団体交渉権という憲法で保障された権利を行使できる点が強みです。
労働組合法に基づき、会社は組合からの「交渉」要求を正当な理由なく拒否できません。
そのため、退職日の調整、有給休暇の消化、未払い残業代などについて、会社と「交渉」することが可能です。
民間企業よりも強く会社に対応できるため、トラブル解決の可能性は高まります。
ただし、あくまで「交渉」であり、もし会社が交渉に応じても最終的に決裂した場合、訴訟などの法的手続きに移行することはできません。
弁護士
弁護士は、弁護士法に基づき、広範な法律事務の代理人として活動できます。
退職の意思伝達はもちろん、有給休暇、未払い賃金、退職金など、退職に関する多くの事項について、あなたの代理人として会社と交渉することが可能です。
万が一、会社が交渉に応じない、あるいは不当な要求を続ける場合は、労働審判や民事訴訟といった法的措置に移行することもできます。
会社との一切の接触を断ち切り、法的なサポートのもとで退職手続きを進めたい場合に適しています。
退職代行を利用しても、「離職票」や「源泉徴収票」など、退職後の生活に不可欠な書類のやり取りは発生します。
これらが会社から届かない場合、嫌がらせや事務ミスの可能性もありますが、ハローワークや弁護士への相談を通じて対処可能なケースもあります。
会社との接触を避け、書類トラブルを円滑に解決したいなら、法的交渉の代理権を持つ依頼先を選ぶことが重要です。
弁護士であれば、会社との法的なやり取りの多くを代理できます。
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