身内の方が亡くなり、相続の手続きを進めようとしたとき、借金の存在が明らかになることがあります。「借金は背負いたくないけれど、思い出の詰まった実家は手放したくない」。そのような悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、このコラムでは、相続の方法の一つである「限定承認」について、制度の仕組みやメリット・デメリット、具体的な手続の流れをわかりやすく解説します。
ご自身の状況に合った最適な相続方法を選ぶための判断材料として、ぜひお役立てください。
限定承認とはどのような制度か
限定承認とは、亡くなった方(被相続人)のプラスの財産を限度として、マイナスの財産(借金など)を引き継ぐ相続の方法です。
相続財産の状況が不明確な場合でも、相続人自身の固有財産で借金を支払うリスクを負わずに済むため、安全な相続方法といえます。
この制度を正しく理解するために、まずは基本的な仕組みと、ほかの相続方法との違いについて確認していきましょう。
プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
限定承認の最大の特徴は、相続人が引き継ぐ責任の範囲が「相続によって得た財産」に限られる点です。
たとえば、預貯金などのプラス財産が1,000万円、借金が1,500万円あったとします。この場合、プラス財産の1,000万円分だけ借金を返済すればよく、残りの500万円については返済義務を負いません。
逆に、借金が少なくて財産が余った場合は、その残りの財産を受け取ることができます。つまり、万が一借金のほうが多くても、相続人自身の貯金などを持ち出す必要がないため、経済的な安全が守られる仕組みになっています。
単純承認や相続放棄との違い
相続の方法には、限定承認のほかに「単純承認」と「相続放棄」があります。
単純承認は、プラスの財産も借金もすべて無条件に引き継ぐ方法で、特別な手続をしない限り自動的にこの扱いになります。一方、相続放棄は、プラスの財産も含めて一切の相続権を手放す方法です。
限定承認は、これらの中間に位置する制度といえます。「すべて引き継ぐのは怖いけれど、すべて放棄するのもためらわれる」という場合に有効な選択肢です。それぞれの違いを理解し、ご自身の状況に合わせて慎重に検討することが大切です。
限定承認が有効な2つのケース
限定承認はすべてのケースで適しているわけではありませんが、特定の状況下では非常に有効な解決策となります。
特に、財産状況が複雑で判断に迷う場合や、特定の財産を守りたいという強い希望がある場合には、積極的に検討すべき制度です。
どのような場面でこの制度が力を発揮するのか、具体的に2つのケースを見ていきましょう。
借金の総額がはっきりしない場合
亡くなった方の生前の生活状況がわからず、借金がどれくらいあるのか不明なケースがあります。
もし単純承認をしたあとに多額の借金が発覚すれば、相続人はそのすべてを返済しなければなりません。しかし、限定承認をしておけば、あとから予想外の借金が見つかったとしても、相続した財産の範囲内で責任を負えば済みます。
このように、財産調査が難しく、将来的なリスクを完全に排除できない場合には、限定承認を選択することで、借金のリスクを回避しながら遺産整理を進めることが可能です。
実家などどうしても残したい財産がある場合
「借金はあるが、実家だけはどうしても残したい」というケースでも限定承認は有効です。
相続放棄をしてしまうと、実家を含めたすべての財産や権利を受け継ぐことができないことになります。しかし、限定承認の手続のなかで「先買権(さきがいけん)」と呼ばれる権利を行使すれば、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、実家を手元に残すことが可能です。
結果として、借金の清算をしつつ、愛着のある自宅や家業に必要な資産を手元に残せる可能性が高まります。
知っておくべき限定承認のメリットとデメリット
限定承認は便利な制度ですが、利用する際にはメリットだけでなく、デメリットもしっかりと把握しておく必要があります。手続の負担や条件など、注意すべき点がいくつか存在するからです。
いい面と悪い面の両方を比較し、後悔のない選択をするために、それぞれの詳細を確認していきましょう。
最大のメリットは借金のリスクを回避できること
限定承認を選ぶ最大のメリットは、相続人が自身の財産を脅かされることなく、安全に相続手続を進められる点にあります。
もし借金がプラスの財産を上回っていたとしても、不足分を自腹で支払う必要はありません。一方で、もし調査の結果、借金がなくプラスの財産が残れば、それはそのまま受け取ることができます。
このように、マイナスのリスクを遮断しつつ、プラスの可能性を残せる点は、相続人にとって非常に大きな安心材料といえるでしょう。
手続が複雑で手間がかかる点はデメリット
一方で、限定承認には手続が非常に複雑で手間がかかるというデメリットがあります。
相続人全員で申し立てる必要があり、1人でも反対する人がいれば利用できません。また、官報への公告や債権者への通知、原則として行われる競売手続など、清算完了までに多くの工程と時間を要します。
単純承認や相続放棄に比べて専門的な知識も必要となるため、自分たちだけで進めるのはハードルが高く、完了までに数ヵ月から1年以上かかることも珍しくありません。
限定承認の手続期限と流れ
限定承認を行うには、法律で定められた厳格な期限と手順を守らなければなりません。
期限を過ぎてしまうと、原則として単純承認をしたものとみなされ、限定承認のメリットを得る機会を失ってしまう可能性があります。スムーズに手続を進めるために、期限のルールと全体的な流れについて把握しておきましょう。
相続開始を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所へ
限定承認の申述(申立て)は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったとき」から3ヵ月以内に行う必要があります。この期間を「熟慮期間」と呼びます。
この3ヵ月の間に、財産調査を行い、単純承認・相続放棄・限定承認のどれを選ぶか決めなければなりません。もし3ヵ月以内に判断がつかない場合は、家庭裁判所に申し立てて期間を延長してもらうことも可能ですが、基本的には時間との勝負になります。できるだけ早めに行動を開始することが重要です。
申述から清算手続完了までの大まかな流れ
まず、相続人全員が共同で、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出します。
申述が受理されたあとは、相続財産清算人(相続人が複数の場合)などが選任され、官報への掲載や知れている債権者への個別の通知により、「債権がある人は申し出てください」という呼びかけ(公告・催告)を行います。その後、申出があった債権者などに対して、相続財産のなかから支払いを行います。
原則として競売手続などで不動産の換価(現金化)を行い、すべての清算が終わった段階で、残った財産があれば相続人で分け合います。このように、申述のあとも多くの事務手続が続きます。
限定承認の手続は弁護士に相談を
これまで解説してきたとおり、限定承認はメリットが大きい反面、手続の難易度が高い制度です。
特に、相続人全員の足並みを揃えたり、債権者とのやり取りを適切に行ったりすることは、専門的な知識がないと困難な場合があります。
最後に、なぜ弁護士のサポートが必要なのか、その理由について触れておきましょう。
複雑な手続を正確に進めるために
限定承認の手続には、法的な期限管理や書類作成、厳格な財産管理が求められます。もし手続に不備があると、債権者から損害賠償を請求されるリスクもゼロではありません。
弁護士に依頼すれば、戸籍収集などの面倒な作業を代行してもらえるだけでなく、債権者への対応や法的な判断を伴う対応も任せることができます。
「借金の問題を安全に解決したい」「大切な財産を守りたい」とお考えの方は、早い段階で弁護士へ相談し、専門的なサポートを受けることを強くおすすめします。
まとめ
借金のリスクを回避しつつ、大切な財産を残せる可能性がある「限定承認」は、相続人にとって非常に有用な選択肢です。
まずは「相続財産の状況」や「どうしても残したい財産の有無」を整理したうえで、ご自身にとって最善の方法を検討してみましょう。
限定承認は手続が複雑であり、期限も限られているため、弁護士の助けを借りることで、より確実かつスムーズに進めることができます。
そして、「限定承認を検討したい」「借金があるかわからない」という不安があるときは、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士なら、法的な観点からあなたを守り、最適な解決策へと導くことができます。
アディーレ法律事務所には、相続問題について経験豊富な弁護士が在籍しています。お困りのことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。























