「けがをして労災を申請したけれど労災認定されなかった!健康保険は使えるのかな?」
労災の可能性がある場合、労災病院や労災指定医療機関では、通常、労災認定の結果が出るまで医療費の支払いを待ってくれます(*労災認定がされれば、原則として無償で治療を受けられます。)。
ですが、その後、労災認定がなされなければ労災補償が受けられませんので、医療機関から医療費の請求をされてしまいます。
労災保険が使えない場合には、基本的には、健康保険を使うことで医療費の自己負担額を抑えることができます。
この記事を読んでわかること
- 労災が使えない場合に健康保険を使えるようにするための手続き
- 労災認定を受けられなかった場合の対応
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
労災とは?
仕事をしていたことが原因でケガをしたり通勤途中にケガをしたりした場合、これらの事故が「労災」(労働災害)と認められると、労災保険による補償を受けることができます。
労災保険は、労働災害に遭った労働者に対して、国が治療などの給付を行なう公的制度です。
労災保険を使うことで、労働災害にあった労働者は、自己負担なく治療等を受けることができます。
労災について、詳しくはこちらをご覧ください。
労災認定されなければ医療費はどうなる?
労災認定がされなければ、どうなるのでしょうか?医療費は全額自己負担になってしまうのですか?
医療費は全額自己負担になってしまうのが原則です。もっとも、健康保険を使うことで自己負担額を3割程度に抑えることができる可能性があります。
もし労災認定がされれば、労災保険の療養(補償)給付により労災にあった労働者が負担する医療費はありません。
しかし、労災認定を受けられなかった場合には、労災保険を利用できず、治療のためにかかった医療費は労働者が全額負担しなければなりません。
もっとも、健康保険を使うことができれば自己負担額を全額ではなく3割程度に抑えられる可能性があります。
健康保険を使うための手続き
労災保険を使えない場合に健康保険を使えるようにするための手続きについて、ご説明します。
(1)医療費の支払がまだ済んでいない場合
まだ医療費の支払が済んでいないのであれば、病院から医療費を請求された際に病院の窓口で健康保険証を提示することで、健康保険を使うことができます(*健康保険が適用される医療行為の場合です。)。
健康保険を使うことができれば、医療費の3割程度を支払えばよいこととなります。
(2)医療費の支払がもう済んでいる場合
医療費の支払がもう済んでいる場合には、健康保険を利用した場合の自己負担分(原則3割)を超える額については、原則として健康保険組合などから払い戻しを受けることができます。
医療費の支払をしたのと同じ月に払戻しの手続きをすることができれば、医療機関の窓口で医療機関から払戻しを受けられることもあります。
しかし、そうでない場合には、加入している健康保険組合などで払戻しの手続きをしなければなりません。
払戻しの手続きをする際には、次の書類などが必要になります。
- 医療費の領収書
- 診療報酬明細書(レセプト)
- 健康保険証 など
労災認定されなかった場合の不服申立て制度
労災認定されなかったことに納得がいきません。不服を申立てる方法はありますか?
審査請求などの不服申立て制度があります。
労災申請をしたものの労災認定されなかった場合には、「労災保険審査請求制度」(審査請求)を利用して不服の申立てができます。
また、それでも不服が残る場合には訴訟を提起することもできます。
労災保険審査請求制度や訴訟手続きについてご説明します。
(1)審査請求
「審査請求」とは、労働基準監督署が行った労災認定の決定に不服がある場合、この決定に対して審査を請求できる(不服を申立てることができる)という制度です。
審査請求は、労働基準監督署の決定があったことを知った日の翌日から3ヶ月以内に行なわなければなりません。
審査請求先は、労働基準監督署を管轄する労働局の労働者災害補償保険審査官です。
労働者災害補償保険審査官は、労災認定(原処分の取消し)を行うか、審査請求の棄却(不服申立てに理由があることを認めず、労災認定をしない旨の決定)などの判断を下します。
(2)再審査請求
審査請求を棄却された場合などでも、その決定になお不服がある場合は、労働保険審査会に「再審査請求」をすることができます。
再審査請求は、あらためて審査するように求める手続きです。
審査請求に対する結論として作成した決定書謄本(労働災害補償保険審査官が作成する決定書謄本)の送付日の翌日から2ヶ月以内に行なわなければなりません。
また、審査請求をした日から3ヶ月経過しても審査官による決定がないときも、審査会に再審査請求ができます。
(3)取消訴訟
再審査請求の結果にも不服が残る場合は、最終手段として、国に対して訴訟を起こして裁判官による判断を仰ぐことができます。
この訴訟は、労働基準監督署が行った補償給付等不支給処分(労災を認めない旨の決定)の取消しを求めて訴訟を提起します。
不支給処分を取り消すという裁判所の判決が確定すると、労働基準監督署は判決に従い、不支給処分を取り消した上で、支給決定を行います(労災を認めます)。
訴訟は、労働基準監督署の不支給処分に対する審査請求を労働者災害補償保険審査官に対して行い、1.審査請求が棄却されたとき、2.審査請求をした日から3ヶ月を経過しても決定がないとき(審査請求が棄却されたとみなすことができる)、に提起することができます(労働者災害補償保険法38条2項、40条)。
審査請求や訴訟手続きを自分でやるのは難しそうです。弁護士に依頼すれば代わりに行ってくれますか?
審査請求などの不服申立てや訴訟手続きは、行政訴訟を得意とする弁護士に相談・依頼することで、あなたの代わりに行ってくれます。手続きは難しいので、労災問題を取り扱っている弁護士に依頼するのがおすすめです。
【まとめ】労災認定されなかった場合でも、基本的には健康保険を使える!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 労災認定されなかった場合、健康保険を使える。健康保険を使うことで、自己負担額は全額ではなく原則3割となる。
- 労災申請をしたものの労災認定を受けられなかった場合は、労災保険審査請求制度や訴訟手続きを利用して不服を申立てることができる。
労災認定に関してお困りの方は、労働基準監督署や労災手続きに詳しい弁護士へご相談ください。
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