「最近、子供が自転車で出かけるようになった。事故を起こさないために、具体的にはどんな注意をしたら良いのかな?」
自転車は、子供から高齢者まで誰でも気軽に利用できる反面、時には重大な事故につながりかねない乗り物です。近年、自転車事故を起こし裁判所から高額賠償を命じられたニュースなどを耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
自転車は法律上「軽車両」ですので、基本的には自動車と同様、道路交通法上のルールに従わなくてはいけません。自転車事故の起きやすい原因をしっかりと把握し、ルールを守って自転車を利用することが大切です。
今回の記事では、次のことについてご説明します。
- 自転車事故の現状と事故パターン
- 自転車事故の原因
- 自転車運転中に気を付けるべき交通ルール
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
自転車事故の現状
自転車は、幅広い世代の方が免許なく利用できる一方で、事故を起こすと時には重大な結果になることがあります。特に、自転車対歩行者の衝突事故の場合、自転車が高速でなくても、幼児や高齢者の方は受け身を取れずに転倒し頭部を強打するなどして、重傷を負うことも少なくありません。
2013年、少年(事故当時11歳)の運転する自転車が衝突した女性(事故当時62歳)が植物状態となった事件で、裁判所は少年の母親に約9500万円の支払いを命じました。坂道を下っていた少年は前方を歩く女性に気づかずに衝突してしまったとのことです(神戸地裁判決平成25年7月4日判例時報2197号84頁)。
このような痛ましい自転車事故を防ぐため、自転車の安全運転を心がけましょう。
また、万が一、自分や家族(特にお子さん)が自転車事故の加害者となってしまったときに備えて、自転車事故の賠償責任をカバーする、自動車保険の個人賠償責任特約や個人賠償責任保険に加入することもお勧めします。
自転車の高額賠償事例や自転車事故の注意点について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
自転車事故の死傷者数は減少傾向
警察庁によると、2011~2021年にかけて、自転車乗用中による事故における死者数は減少しています。
自転車乗用中の死亡事故に限ると、約70%が65歳以上の高齢者なのが特徴です。
参考:令和3年における交通事故の発生状況等について|警察庁交通局
自転車・自転車事故の特性
自転車事故は年々減少傾向にあるものの、交通事故件数の全体でみると約25%を占めています。
自転車事故がなぜ発生してしまうのか、その特性をお伝えします。
(1)自転車は子どもから高齢者までが運転する
自転車を運転するために免許は必要ありません。そのため、子どもから高齢者まで誰もが運転できます。
逆に言えば、子どもから高齢者まで誰もが自転車事故の加害者になりえるのです。子どもが加害者になった場合、先ほどご紹介した裁判例のように、高い確率でその親権者が損害賠償責任を負うことになります。
(2)自転車は複雑な動きができる
自転車は、簡単な操作で小回りが利くので、思い描いた通りの操作をできます。他方、周囲からみると、急な進路変更のおそれがあるなど動きを読みにくいともいえます。
(3)自転車は運転者も事故によるダメージが大きい
自転車では、運転手の体を守るものがないので、事故が起きると大きなダメージを受けやすいのです。
自転車事故で死亡した人の約60%が頭部に致命傷を負っています。自転車乗車中にヘルメットを装着することで死亡する可能性を下げることができます。13歳未満の子どもを自転車に乗せるときを除いて、ヘルメットの着用は努力義務ですらありませんが、自分の身を守るためにきちんとヘルメットを着用しましょう。
参考:頭部の保護が重要です~自転車用ヘルメットと頭部保護帽~|警察庁
(4)自転車事故の約40%は都内で起きている
2021年に東京都内で起きた自転車交通事故件数は1万3332件で、交通事故全体に占める自転車事故の約40%を占めています。都内では自転車の利用者数、歩行者数、車両交通量などが多いことが原因であると考えられています。
自転車事故で多い事故パターンは?

自転車事故が起こる主なパターンは次の2つです。
(1)出合い頭衝突
自転車事故の約半数を占める事故パターンは、出合い頭での衝突です。
自転車も車両であるため、一時停止の標識のあるところでは一旦停止の義務を負いますが、もしこれを認識せずにそのまま走行すると、自動車と衝突する危険性があります。
一旦停止をせずに進行して交通事故が起きてしまった場合、自転車側の過失も重くなりますので注意が必要です。
出会い頭での自転車事故の被害者の過失について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(2)右左折時衝突
出会い頭に次いで多い自転車事故のパターンは右折時・左折時の事故です。後方から来る自動車を確認しなかったために事故が起きた場合、自動車のみならず、自転車側にも注意義務違反があるといえるので、注意しましょう。
さらに、自転車で交差点を右折する場合、本来は「二段階右折」といって、いったんまっすぐ進んで交差点を渡った後、改めて右折方向に進行しなければいけません。交差点で二段階右折をせず一気に右折しようとしたことが原因で事故にあうことも少なくありませんので、右折時には十分注意してください。
その他、右折・左折しようとしている自動車の横をすり抜けようとして自動車に巻き込まれる事故が起きることも多いです。しっかり周囲の自動車・歩行者などの動向に気をつけて、事故の原因を減らしましょう!
自転車事故がおきる4つの原因とは?
自転車事故が起きる主な原因を4つご紹介します。
【自転車事故の主な原因】
- 安全不確認(急な進路変更)
- 一時不停止
- 信号無視
- 歩道上における歩行者との接触
それぞれご説明します。
(1)安全不確認(急な進路変更)
例えば、自転車で車道を走行中、駐車中の自動車などを避けようとして、後方を十分に確認しないまま右側にふくらんで進行したため、後方を進行する自動車と接触する場合などです。
このような安全確認が不十分なまま進路変更したことが原因で自転車事故が起きることはとても多いです。自転車を運転する際は、安全確認を怠らないよう注意しましょう。
(2)一時不停止
一時停止の標識や標示のある場所では、自転車も必ず一時停止をしなければなりません。一時不停止が原因で出会い頭の自転車事故が起きてしまうこともとても多いです。
一時停止には、相手に自分を確認させるという意味もあります。「一時停止をしなくても大丈夫だろう」と軽信せずに、交差点の手前では一度止まって左右を確認することが大切です。
(3)信号無視
交差点に進入する際の信号無視も自転車事故の大きな原因の一つです。
軽車両である自転車は、基本的には車道を走行して車両用の信号に従う必要がありますが、「歩行者・自転車専用」表示のある信号機がある場合には、その歩行者用信号機に従います。
信号無視をしたために交通事故の被害にあった場合には、過失割合も高くなり賠償額が大きく減額される可能性があります。
信号無視は絶対にしてはいけません!
(4)歩道上での歩行者との接触
対歩行者との自転車事故の大きな原因は、歩道における接触です。
自転車は軽車両ですので、歩道と車道の区別がある場所では、原則として車道を走行しなければいけません。
また、自転車道がある場合には自転車道を通ります。
もしも歩道と車道の区別がある場所や、自転車道がある場所で歩道を走行して歩行者と接触する事故を起こしてしまうと、自転車側に100%の責任が認められる可能性が高いので注意してください!
歩道を走行できる場合(13歳未満や70歳以上の場合など)であっても、あくまでも歩道は歩行者優先ですので、すぐに停止できる速度で、歩行者に注意をしながら走行しましょう。
自転車は車両なので、自動車同様道路交通法に従わなければなりません。
警察庁によると、自転車利用者側の何らかの交通違反が自転車事故の原因であるケースが約3分の2を占めていますので、自転車事故を防ぐためにも交通ルールを把握してこれをしっかり守りましょう。
自転車であっても守るべき交通ルールを確認しよう
例えば、次のようなルールを無視すると、懲役や罰金などの刑事処分を受ける可能性があります。
違反の内容 | 罰則 |
---|---|
信号無視 | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
酒気帯び運転 | 5年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
一時停止違反(指定場所) | 3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
2台並んでの走行 | 2万円以下の罰金又は科料 |
夜間の無灯火運転 | 5万円以下の罰金 |
2人乗りの走行 | 2万円以下の罰金又は科料 |
また、ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴いて、安全運転に必要な周囲の音や声が聞こえない状態で運転することも、都道府県の交通規則や条例で禁止されていることが多いので、注意しましょう。
例えば東京都の場合、違反すると、5万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。
子供を自転車の後部座席に乗せることが多いのですが、それも2人乗りの走行禁止になりますか?
2人乗りの走行禁止は、各都道府県の公安委員会が規則で定めています。
例えば東京都の場合、16歳以上の運転者が、小学校就学の始期に達する前(※具体的には、小学校入学前の3月31日まで)の幼児1人を幼児用座席に乗せるか、子守バンド等で背負って2人乗り運転することができます。幼児用座席が2つある自転車の場合は、小学校就学の始期に達する前の幼児を2人載せて3人乗り運転することができます。
子どもを自転車に二人乗りさせる場合について詳しくは次の記事をご参照ください。
違反行為を繰り返すと講習を受けなければならない
3年以内に、2回以上自転車乗車中の違反行為をすると、講習を受講しなければなりません。
対象となる違反行為は次の15類型です。
- 信号無視(道路交通法7条)
- 通行禁止違反(道路交通法8条1項)
- 歩行者用道路における車両の義務違反(徐行違反)(道路交通法9条)
- 通行区分違反(道路交通法17条1項、4項または6項)
- 路側帯通行時の歩行者の通行妨害(道路交通法17条の2第2項)
- 遮断踏切立入り(道路交通法33条2項)
- 交差点安全進行義務違反等(道路交通法36条)
- 交差点優先車妨害等(道路交通法37条)
- 環状交差点安全進行義務違反等(道路交通法37条の2)
- 指定場所一時不停止等(道路交通法43条)
- 歩道通行時の通行方法違反(道路交通法第63条の4第2項)
- 制動装置(ブレーキ)不良自転車運転(道路交通法63条の9第1項)
- 酒酔い運転(道路交通法65条1項)
- 安全運転義務違反(道路交通法70条)
- 妨害運転(交通の危険のおそれ、著しい交通の危険)(道路交通法117条の2の2第11号、117条の2第6号)
1回の講義は、3時間で構成されており、受講料として6000円を支払う必要があります。
受講命令に従わなければ、5万円以下の罰金を科せられるおそれがあります。
自転車事故を防ぐために気をつけたい3つの交通ルール
毎日の足として気軽に自転車を利用しているうちに、知らず知らずのうちに交通ルールを破っていることがあるので、今一度、ご家族で交通ルールを確認しておきましょう。
(1)車道を走る場合は左側を通行する
自転車は、自動車同様、道路の右側を通行することが禁止されています(道路交通法18条)。
違反すると、3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられるおそれがあります。
(2)歩道を走る場合は歩行者を優先する
普通自転車ならば、一定の場合に歩道を走行することも許されています。
もっとも、歩行者の進行を妨害することはできず、歩行者がいるときには徐行するか一時停止しなければなりません(道路交通法63条の4第2項)。歩行者が目の前を歩いているからといって、クラクション(ベル)を鳴らしてはいけません(道路交通法54条)。
(3)「ながらスマホ」は絶対にしない
歩きスマホ同様、自転車に乗りながらの「ながらスマホ」も非常に危険です。
「ながらスマホ」で自転車事故を起こし、被害者を死亡させた場合、次の事例のように、重過失致死罪(刑法211条後段)または過失致死罪(刑法210条)が適用される可能性があります。
【「ながらスマホ」により、重過失致死罪が適用された事例】
大学生が、片手でスマホを操作するなどして電動アシスト自転車で歩行者専用道路を走行中、前方を歩く人物に気づかずに衝突したという事案です。
被害者は転倒して脳挫傷などのけがを負い、事故の2日後に死亡しました。
大学生は、左耳にイヤホンをつけて音楽を聴きながら、飲料を持った右手でハンドルを持ち、メッセージを送受信したスマホを左手でポケットにしまおうとしていたところで、事故を起こしました。
この大学生は重過失致死罪が適用され、禁固2年・執行猶予4年の判決を受けました(横浜地裁判決川崎支部平成30年8月27日)。
また、被害者がいなかったとしても、例えば、自転車を運転しながら片手でスマホを持ち、片手ハンドルでふらふら運転するようなら、道路交通法上、安全運転義務違反として3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金を科される可能性があります。
さらに、現在、多くの都道府県では「ながらスマホ」が禁止されており、例えば東京都では、自転車を運転しながらのスマホの使用については、次のような規定があります。
東京都道路交通規則
第8条4号(運転手の遵守事項)
引用:東京都道路交通規則|東京都
自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。
この規則に反して、自転車を運転中にスマホを見ていると、5万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
近年、スマホホルダーが普及し、スマホを見ながら自転車を運転する方を見かけることも多くなりました。スマホ使用中は、視野が極端に狭くなるという研究結果もあります。
ほんのわずかな間でも、スマホに気を取られている間は周囲の安全確認がおろそかになります。そうなると、自分自身だけではなく周囲の人にもけがを負わせることになりますし、時には重大な事故につながりかねません。
「一瞬だけだから大丈夫」などと思わずに、自転車運転中にスマホを確認したい時は、必ず一旦自転車を停めることが大切です。
【まとめ】自転車事故で多いのは「出会い頭での衝突」と「右左折時衝突」
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 自転車事故には次のような特性がある。
- 自転車は子どもから高齢者までが運転する
- 自転車は複雑な動きができる
- 自転車は運転者も事故によるダメージが大きい
- 自転車事故の約40%は都内で起きている
- 自転車事故で多い事故パターンは「出会い頭衝突」と「右左折時衝突」。
- 自転車事故の原因は、主に次の4つ。
- 安全不確認(急な進路変更)
- 一時不停止
- 信号無視
- 歩道上における歩行者との接触
- 自転車は「軽車両」。自動車と同様、基本的には道路交通法のルールを守らなくてはいけない。
- 自転車を運転する際は、特に次の3つの交通ルールに注意すべき。
- 車道を走行する際は左側を走行する
- 歩道を走行する場合には歩行者を優先する
- 自転車を運転しながらスマホは絶対に使用しない
免許を必要とせずに誰もが気軽に乗れる自転車。
しかし、自転車は車両にあたるため、死亡事故を招く危険性もあり、道路交通法のルールを守って運転しなければなりません。
事故を起こさないように、十分に注意して運転しましょう。