配偶者と不倫相手のキスは、許しがたい裏切り行為ですよね。
しかし、そのキスだけで慰謝料を請求できるのか、法的な判断に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「不倫相手とのキス」問題に焦点を当て、キスが法的な不貞行為にあたるのかという疑問から解説いたします。
さらに、慰謝料を請求できる具体的な条件、必要な証拠とその集め方、請求の4ステップ、そして関係修復や離婚といった慰謝料請求後の選択肢まで、弁護士が網羅的に解説します!
キスは法的な「不貞行為」か?
配偶者のキスが法的にどう評価され、慰謝料請求にどう繋がるのか。
ここでは、法律上の「不貞行為」の定義と、請求の根拠となりうる「不法行為」について解説していきます。
法的な「不貞行為」の定義
法的な「不貞行為」とは、配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係(性交渉およびそれに類する行為)を持つことをいいます。
これは、離婚が認められる法的な原因(民法第770条1項1号)として最も典型的なものです。
裁判上の不貞行為の定義は、配偶者としての貞操義務に違反する行為であり、基本的には肉体関係の有無が重要な判断基準となります。
キスだけでは不貞行為にならない
結論からいうと、キスだけでは法的な「不貞行為」には該当しないのが原則です。
なぜなら、不貞行為の核心は肉体関係の有無にあるからです。
たとえ愛情表現を伴う深いキスであっても、それ単体では不貞行為とまでは認められません。
ただし、これは慰謝料請求が一切できなくなるという意味ではないのです。
不貞行為に至らなくても、夫婦関係の平和を害する行為として、別の法的根拠で責任を追及できる可能性があります。
慰謝料請求の根拠「不法行為」とは
キスで慰謝料を請求する場合の法的根拠は、「不法行為」(民法第709条)です。
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や法的に保護される利益を侵害する行為を指します。
夫婦には、互いに協力し、平穏な婚姻共同生活を維持する権利と義務があります。
配偶者以外の人物とのキスは、この「婚姻共同生活の平和」という法的に保護された利益を侵害する行為と評価される可能性があり、これが認められれば不法行為として慰謝料の支払いが命じられることがあります。
キスで慰謝料を請求できる条件と相場
キスだけでは不貞行為にならないと述べましたが、特定の条件下では慰謝料請求が認められるケースも存在します。
どのような場合に請求が可能になるのか、その具体的な条件と慰謝料の目安について見ていきましょう。
条件1:平穏な結婚生活を壊した場合
キスが原因で慰謝料が認められるには、その行為が「婚姻共同生活の平和」を侵害したと客観的に評価される必要があります。
たとえば、一度きりの軽いキスではなく、人前で何度も繰り返しキスをしていた、その行為が夫婦関係を破綻させるきっかけとなったなど、態様が悪質で執拗な場合です。
行為の回数・場所・期間、そして夫婦関係に与えた影響の大きさなどが総合的に考慮されます。
条件2:肉体関係が疑われる場合
キスは、肉体関係の存在を強く推認させる有力な状況証拠の一つとなり得ます。
たとえば、二人きりで長時間密室にいたあとのキスや、ラブホテルに出入りする場面でのキスなどは、肉体関係があったのではないかと疑うのに十分な状況といえるでしょう。
このように、キス単体ではなく他の証拠と組み合わせることで肉体関係の存在を立証し、不貞行為として高額な慰謝料を請求できる可能性が高まります。
キスの慰謝料が認められた判例と相場
肉体関係を伴わない行為で慰謝料が認められた判例は実際に存在します。
ただし、その場合の慰謝料額は、肉体関係がある不貞行為と比較すると低額になる傾向があります。
あくまで目安ですが、数万円から数十万円程度となるケースが多いようです。
慰謝料額は、キスの態様や頻度、それによって受けた精神的苦痛の度合い、結婚期間、不倫が原因で離婚に至ったか否かなど、いろいろな事情を考慮して裁判官が個別に判断します。
慰謝料請求に必要な証拠と集め方
慰謝料を請求するためには、配偶者の裏切り行為を客観的に示す証拠が不可欠です。
感情的に「キスをしていた」と主張するだけでは、相手に言い逃れをされてしまう可能性があります。
ここでは、法的に有効な証拠、その収集方法、そして注意点について詳しく解説いたします。
証拠がなければ請求は難しい
慰謝料請求において、証拠は請求の成否を分けるきわめて重要なものです。
客観的な証拠がなければ、たとえキスが事実であっても、相手が否定した場合にそれを覆すことが非常に困難になります。
裁判では、裁判官は証拠に基づいて事実を認定するため、証拠の有無が結論を大きく左右するのです。
確固たる証拠がないまま請求に踏み切ると、請求が認められない結果になりかねません。
まずは冷静に、有効な証拠を確保することが重要です。
有効な証拠①:写真・動画
キスをしている現場を直接捉えた写真や動画は、きわめて証拠価値の高いものです。
誰が見ても行為の存在が明らかであり、相手も言い逃れが難しくなります。
スマートフォンでの撮影でも問題ありませんが、撮影日時や場所が記録されていると、さらに証拠としての信頼性が高まるでしょう。
ホテルの前で抱き合ってキスをしている動画や、デート中とわかる状況でのキス写真などは、不貞な関係性を示す強力な証拠となり得ます。
有効な証拠②:LINE・メール
LINEやメール、SNSのダイレクトメッセージなど、テキストでのやり取りも重要な証拠になります。
親密な関係を示す証拠として、以下のような内容が有効です。
「キスできて嬉しかった」「また会ってキスしたい」といった直接的な内容
愛情を示す言葉の交換
二人きりで会う約束
スクリーンショットだけでなく、やり取りの全体像がわかるように、前後の文脈を含めて保存しておくことが望ましいでしょう。
有効な証拠③:念書・録音
配偶者や不倫相手がキスの事実を認めた発言は、非常に有力な証拠となります。
もし相手が事実を認めて謝罪してきた場合は、その内容を録音したり、「〇月〇日に〇〇とキスしたことを認め、謝罪いたします」といった内容の念書(謝罪文)に署名・捺印させたりすることが有効です。
本人が自らの行為を認めた証拠は、あとから「そんなことはいっていない」と主張されても、それを覆す強力な材料となります。
NGな証拠集め:GPS・盗聴
証拠集めに熱心になるあまり、違法な手段に手を出してしまうのは絶対に避けるべきです。
たとえば、相手の車やカバンに無断でGPS追跡装置を仕掛けたり、自宅や相手の車内に盗聴器を設置したりする行為はプライバシー侵害にあたり、逆に損害賠償を請求される可能性があります。
また、違法な手段で収集した証拠は、裁判で証拠として採用されないリスクもありますので、証拠集めは、合法的な範囲内で行う必要があります。
証拠集めは探偵に依頼できる
ご自身一人で法的に有効な証拠を集めることには、精神的な負担だけでなく、相手に気づかれるリスクも伴います。
そのような場合は、調査のプロである探偵事務所や興信所に依頼することも有効な選択肢です。
探偵は、尾行や張り込みといった合法的な調査方法を駆使して、客観的で言い逃れのできない証拠(写真や動画、行動記録など)を収集してくれます。
費用はかかりますが、確実な証拠を得て有利に交渉を進めたい場合には頼れる存在でしょう。
慰謝料を請求する4ステップ
有効な証拠が手元にそろったら、いよいよ慰謝料を請求する具体的な行動に移ります。
感情的にならず、冷静に段階を踏んで手続を進めることが、望む結果を得るための鍵となるでしょう。
ここでは、交渉から裁判に至るまでの標準的な4つのステップを解説します。
ステップ1:示談交渉
慰謝料請求は、まず当事者間での話合い(示談交渉)から始めるのが一般的です。
裁判は時間も費用もかかるため、できる限り話合いでの解決を目指します。
配偶者と不倫相手の双方、もしくはいずれか一方に対して、電話や書面で慰謝料を請求する意思を伝えます。
この段階で、集めた証拠をすべて相手に見せる必要はありません。
交渉のカードとして手元に置きつつ、相手の出方を見ながら話合いを進めるのが賢明です。
ステップ2:内容証明郵便の送付
口頭での請求や話合いに相手が応じない場合、または請求の事実と内容を公的な形で証明したい場合には、内容証明郵便を利用して慰謝料請求書を送付します。
内容証明郵便は、「いつ、どのような内容の文書を、誰が誰に送ったか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
これ自体に法的な強制力はありませんが、請求する側の本気度を伝え、相手に心理的なプレッシャーを与えることで交渉を促す効果が期待できます。
ステップ3:示談書の作成
当事者間の交渉で慰謝料の金額や支払方法について合意ができたら、その内容を必ず「示談書」という書面に取りまとめます。 口約束だけでは、あとになって「そんな約束はしていない」と言われたり、支払いが滞ったりするトラブルに発展しかねません。
示談書には、以下の内容などを明記し、双方が署名・捺印します。
- 合意した慰謝料の金額
- 支払期日
- 分割払いの場合はその条件
- 不倫相手との接触禁止条項
- 口外禁止条項
ステップ4:裁判(訴訟)
示談交渉がまとまらない場合や、相手が請求を完全に無視する場合には、地方裁判所または簡易裁判所に「損害賠償請求訴訟」を提起することになります。
裁判では、原告(請求する側)が不法行為の存在と損害の発生を証拠に基づいて主張・立証し、最終的には裁判官が慰謝料の支払いを命じるかどうか、命じる場合はその金額を判決で言い渡します。
裁判は最終手段であり、弁護士のサポートを得ながら進めるのが一般的です。
慰謝料請求後の夫婦関係
慰謝料請求という大きな問題を乗り越えたあと、夫婦としてどのような道を歩むのか、という非常に重要な選択が待っています。
相手の裏切りを許し、関係を再構築するのか、それとも別々の道を歩む決断をするのか。
どちらの選択をするにしても、後悔のないよう慎重に考える必要があるでしょう。
関係修復か離婚かを選択する
慰謝料を請求したあとの夫婦関係は、大きく分けて「関係修復」と「離婚」の二つの道があります。
慰謝料請求の目的が、裏切りに対する償いをさせ関係をやり直すためだったのか、それとも離婚に向けた有利な条件を得るためだったのか、ご自身の本当の気持ちと向き合うことが大切です。
すぐに結論を出す必要はありません。
相手の反省の態度や今後の行動を見ながら、時間をかけて考えていくことも一つの方法です。
関係修復なら「誓約書」を作成
もし夫婦関係の修復を選択するのであれば、再発防止の具体的な取り決めとして「誓約書」を作成することを強くおすすめいたします。
これは、単なる謝罪の言葉だけでなく、二度と裏切らないという約束を法的な意味を持つ書面として残すものです。
誓約書があることで、裏切った側には「同じ過ちを繰り返してはならない」という心理的な制約がかかり、裏切られた側にとっては、将来への安心感を得るための一助となります。
誓約書に書くべきこと
関係修復のための誓約書には、今後の行動に関する具体的な約束事を明記することが重要です。
たとえば、「不倫相手とは二度と私的に接触しない(連絡先もすべて削除する)」「今後、配偶者を裏切る行為は一切しない」といった条項を入れます。
さらに重要なのが、次に誓約を破った場合のペナルティ(違約金)を定めておくことです。
「本誓約に違反した場合は、慰謝料として金〇〇万円を支払う」といった違約罰の条項を設けることで、誓約内容の実効性を高めることができます。
夫婦カウンセリングも有効
一度壊れてしまった信頼関係を、当事者だけの力で再構築するのは非常に困難な作業です。
感情的なしこりが残り、ささいなことで相手を疑ってしまったり、過去の出来事がフラッシュバックしたりすることもあります。
そのような場合は、カウンセラーなど第三者のサポートを受けることも有効な選択肢です。
第三者を交えることで、お互いが冷静に気持ちを整理し、建設的な対話を通じて新たな関係性を築いていくための手助けを得られます。
弁護士への相談も検討しよう
配偶者の不倫問題、特にキスというデリケートな問題を扱う慰謝料請求は、法的な知識だけでなく、精神的にも大きな負担を伴います。
一人で抱え込まず、法律の知識や交渉の経験が豊富な弁護士に相談することも重要な選択肢の一つです。
弁護士に依頼するメリットや、気になる費用について解説します。
弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼する最大のメリットは、精神的な負担を大幅に軽減できることです。
精神的負担の大きい相手方との直接交渉や、法的な手続のすべてを代理人として任せられます。
また、法的な観点から最適な解決策を提案し、過去の判例に基づいた適正な慰謝料額を算定してくれます。
示談書や誓約書といった重要な書面も、あとあとトラブルにならないよう法的に不備のない形で作成してくれるため、安心して任せることができるでしょう。
弁護士費用の目安
弁護士費用は、依頼する法律事務所や事案の難易度によって異なりますが、一般的に以下の費用で構成されます。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
- 実費
相談料は、例えば30分5,000円程度に設定している事務所もありますが、初回相談は無料としている事務所も多くあります。 着手金は、依頼時に支払う費用で、交渉や訴訟の結果にかかわらず返還されないのが一般的です。
報酬金は、慰謝料を獲得できた場合に、その経済的利益の一定割合(例:獲得額の10〜20%)を支払う成功報酬です。
まずは複数の事務所の相談を利用し、費用体系について十分に説明を受けることをおすすめします。
まとめ
本記事では、キスが法的な不貞行為にはあたらないものの、婚姻生活の平和を害する「不法行為」として慰謝料請求できる条件を解説しました。
請求には写真やLINEなどの客観的な証拠が不可欠であり、示談交渉から裁判までの手続を踏みます。
請求後の関係修復や離婚も見据え、誓約書を作成するといった対応も重要です。
不倫の慰謝料請求は精神的負担が大きく、法的な判断も複雑です。
一人で悩まず、まずはアディーレ法律事務所にご相談ください。
あなたの状況に合わせた最善の解決策を、弁護士が一緒に考えます。