骨盤骨折した場合、ほとんどが、後遺症が残ることなく完治することができます。ただ、股関節が動かしづらくなったり、骨の癒合がうまくいかず変形したり、骨盤周辺の神経を傷つけて痛みやしびれが生じてしまうこともあります。
このように後遺症が残ってしまった場合には、どれくらいの慰謝料が受けとることができるのでしょうか。
実は、慰謝料の金額は、法律で決められているわけではありません。
保険会社との交渉次第で、慰謝料の金額が大きく変わる可能性があるのです。
少しでも多くの慰謝料を受けとるためには、保険会社に任せたままにせずに、骨盤骨折による後遺障害や慰謝料の相場についてきちんと理解していることが必要になります。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 骨盤骨折とは
- 骨盤骨折で認定される後遺障害等級とその認定基準
- 骨盤骨折を理由に後遺症が残った場合の慰謝料の相場
- 骨盤骨折について後遺障害等級の認定をしてもらうためのポイント
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
弁護士による交通事故被害の無料相談はアディーレへ!
費用倒れの不安を解消!「損はさせない保証」あり
ご相談・ご依頼は、安心の全国対応。国内65拠点以上(※1)
「骨盤骨折」とは
「骨盤」とは、体の中心(おしり・腰部分)にある上半身と下半身をつなぐ役割をもつ骨(尾骨・寛骨・仙骨で構成されています)のことをいいます。
骨盤は、筋肉や脂肪で守られており、なかなか骨折しづらい部分といわれていますが、交通事故などにより外部から強い力が加わると、骨盤の連続性が断たれてしまったり、股関節部分の骨が折れてしまったりすることがあります。
(1)骨盤骨折の症状
骨盤骨折が生じると、腫れと強い痛みが生じることになります。痛みは骨盤を動かすと痛みを増し、座ったり、歩いたりすることができなくなります。
また、骨盤の周りには消化器や泌尿器、生殖器など重要な臓器や血管、神経があるため、骨盤骨折をすると、周囲の臓器や血管を傷つけ、臓器の機能障害や出血性ショックを起こし、死亡してしまうこともあります。
そのため、骨盤骨折をした場合には、周りの臓器や血管を傷つけていないかどうかを検査したりして、臓器の手術、止血・輸血が必要な場合には、緊急の手術を行うこともあります。
なお、女性の場合は、骨盤が変形して、正常分娩が不可能となる可能性もあります。
(2)骨盤骨折の検査・診断
骨盤骨折は、レントゲン検査やCT検査、MRI検査によって診断されることになります。骨盤周辺の臓器や血管を傷つけていないかについてもCT検査やMRI検査などで確認する必要もあります。
(3)骨盤骨折の治療
骨のズレがほとんどない場合、手術も行わずに骨盤を固定し、安静にしたまま骨の治癒を待つという保存療法をとられることが多いといえます。
例えば、下肢(足)を下にけん引(ひっぱる)ことで、骨折部のずれを減らすことができる場合には、下肢に金属製のワイヤーを入れて、下肢を下にけん引してベッド上で安静にする治療法がとられます。
一方、骨のズレが大きい場合には、ズレを戻して金属製のプレートやスクリューで固定する手術を行うこともあります。
骨盤骨折で認定される可能性のある後遺障害等級とは
交通事故による骨盤骨折で後遺症が残った場合には、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
後遺障害等級とは、後遺症の症状に応じて割り振られている等級のことをいい、重い症状から順に1~14級があります。
後遺障害等級によって後遺症についての慰謝料や逸失利益の金額の目安が決まるため、交通事故で後遺症が残った場合には何級に認定されるかはとても重要になります。
ここでは、骨盤骨折によって認定される可能性がある後遺障害等級とその認定基準について見ていきます。
骨盤骨折によって起こりうる次の4つの後遺症のパターンに分けて解説します。
- 股関節が動かしづらくなる「機能障害」
- 骨の癒合不全などによって骨が変形してしまう「変形障害」
- 神経が圧迫されるなどして痛みやしびれが生じる「神経系統の障害」
- 骨盤が変形したことにより正常分娩が難しくなること
(1)骨盤骨折による機能障害と後遺障害等級
骨盤骨折により股関節が動かしづらくなり、可動域が制限されてしまう場合があります。このような場合に認定される可能性がある後遺障害等級は次のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
8級7号 | 1下肢の3大関節(股関節、ひざ関節、足首の関節)中の1関節の用を廃したもの |
⇒「関節の用に廃したもの」とは次のいずれか場合をいいます。
| |
10級11号 | 1下肢の3大関節(股関節、ひざ関節、足首の関節)中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
⇒「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは次のいずれか場合をいいます。
| |
12級7号 | 1下肢の3大関節(股関節、ひざ関節、足首の関節)中の1関節の機能に障害を残すもの |
⇒「関節の機能に障害を残すもの」とは次のような場合をいいます。 関節の可動域が腱側(健常な場合の股関節)の可動域角度の4分の3以下に制限されているもの |
(2)骨盤骨折による変形障害と後遺障害等級
骨盤骨折で、骨折箇所の癒合不全などによって、骨に変形が生じてしまうことがあります。このような場合に認定される可能性がある後遺障害等級は、次のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級5号 | 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨または骨盤骨に著しい変形を残すもの |
⇒「著しい変形を残すもの」とは次のような場合をいいます。
|
(3)骨盤骨折による神経系統の障害と後遺障害等級
骨盤骨折により神経が圧迫されるなどして、痛みやしびれが生じる場合があります。このような場合に認定される可能性がある後遺障害等級は次のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
⇒「頑固な神経症状を残すもの」とは次のような場合をいいます。
| |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
⇒「神経症状を残すもの」とは次のような場合をいいます。
|
(4)骨盤骨折による分娩困難と後遺障害等級
女性の場合は、骨盤が変形して、正常分娩が不可能となる可能性もあります。このような場合に認定される可能性がある後遺障害等級は次のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
---|---|
11級 | 生殖機能に障害を残すもの (通常の性交を行うことができるものの、生殖機能に一定以上の障害を残すもの) |
⇒「生殖機能に障害を残すもの」とは次のいずれかの場合をいいます。
|
骨盤骨折で後遺症が残った場合の慰謝料の相場とは

加害者側の保険会社が付いている場合には、後遺症慰謝料は示談金として保険会社から提示を受けることになります。そして、大手保険会社から提示される金額であれば、適正な慰謝料の金額となっているだろうと思われているかもしれません。
しかし、実は、大手保険会社から提示された金額であっても適正な慰謝料額となっていないことが多くあります。
それは、慰謝料の金額には、実は3つの基準があり、保険会社が使っている基準は適正な慰謝料額にならない基準であることが多いからです。
実際、弁護士が交渉したことで、保険会社の提示額よりも増額できるケースが多くあり、交通事故で同じようなケガを負った場合でも弁護士が交渉したかどうかで慰謝料額が大きく違うことがあります。少しでも多くの慰謝料を受けとるためには、慰謝料の3つの基準について知り、慰謝料の相場について知っておきましょう。
(1)慰謝料の3つの基準
慰謝料の3つの基準とは、「自賠責の基準」「任意保険の基準」「弁護士の基準」です。くわしくは、次のとおりです。
算定基準 | 概要 |
---|---|
自賠責の基準 | 自賠責の基準は、自動車保有者が加入を義務付けられている「自賠責保険」で採用されている基準です。 自賠責の基準は被害者への最低限の補償を目的として設けられているので、慰謝料の基準額は基本的に3つの算定基準のうち最も低くなります。 |
任意保険の基準 | 任意保険の基準は、各保険会社が独自に設定している非公開の算定基準です。加害者側の任意保険会社は、通常は任意保険の基準をもとにして慰謝料を提示してきます。基準額は、自賠責の基準と同程度か、やや高い程度であると推測されます。 |
弁護士の基準 | 弁護士の基準は、過去の裁判例をもとに設定された基準です。弁護士に示談交渉を依頼した場合などに使われる算定基準です。基準額は3つの算定基準のうちでは基本的に最も高額となります。 |
3つの基準の慰謝料の金額を比較すると、一般的に、次のようになります(※)。

(※)ただし、自賠責保険金額は、交通事故の70%未満の過失については減額対象にしませんので、被害者側の過失が大きい場合には、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります。
(2)骨盤骨折による後遺症慰謝料の相場
骨盤骨折により後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合の後遺症慰謝料の相場は次の表のようになります(任意保険の基準は非公表のため掲載しておりません)。
等級 | 自賠責の基準(※) | 弁護士の基準 |
---|---|---|
8級 | 331万円(324万円) | 830万円 |
10級 | 190万円(187万円) | 550万円 |
11級 | 136万円(135万円) | 420万円 |
12級 | 94万円(93万円) | 290万円 |
14級 | 32万円(32万円) | 110万円 |
このように保険会社が使う「自賠責の基準」よりも「弁護士の基準」の方が高額となりやすい傾向にあります。そのため、適正な慰謝料を請求するためには、「弁護士の基準」を使うことが必要となるのです。
ただ、加害者側の保険会社は、弁護士の基準よりも金額が低い、任意保険の基準や自賠責保険の基準を提示してくることが多く、被害者本人が弁護士の基準による慰謝料額の増額を求めても、なかなか増額に応じてくれないのが実情です。
これに対し、被害者に代わって弁護士が示談交渉や裁判を行う場合は、訴訟も辞さない態度で交渉を行うため、加害者の保険会社も、弁護士に対してであれば、弁護士の基準またはそれに近い金額で応じてくれることが多く、保険会社が当初提示された金額よりも増額できる可能性が高いといえます。
弁護士への依頼でもらえる示談金について詳しくは、こちらをご覧ください。
交通事故による骨盤骨折について後遺障害等級の認定を受けるための3つのポイント
後遺症の症状があるのに、後遺障害等級の認定を受けられないことがあります。
なぜなら、後遺障害等級の認定は、医師が行うわけではなく、提出した書類などを参考に第三者機関(自賠責損害調査事務所など)が行うため、書類の記載に不足がある場合や検査が不足している場合には、実際の症状の有無にかかわらず後遺障害等級の認定が行われないからです。
後遺障害等級が認定されないという事態を防ぐためには、次の3つのポイントに気を付ける必要があります。
- 医師に自覚症状を細かく伝えておく
- 必要な検査を漏れなく受ける
- 後遺障害診断書を正しく書いてもらう
自覚症状を伝えることや検査を受けるということは「もうすでに行っている」と思われるかもしれませんが、実は足らないということもあるので注意が必要です。
(1)医師に自覚症状を細かく伝える
医師に自覚症状を細かく伝えましょう。なぜなら、後遺障害等級の認定のためには、どのような自覚症状があるのかがとても大切だからです。
例えば、ただ「痛い」や「しびれがある」というだけでなく、「いつから、どのように、どのあたりが痛む(しびれている)のか」など、より具体的に症状を伝えるようにしましょう。
特に、神経症状(痛みやしびれなど)については外から見てもどのような症状であるかがわかりません。どのような痛みかが一番わかるのはあなたです。細かく伝え、医師の診断書に書いてもらうことで、後遺障害等級の認定の際にも、あなたがどのような痛みをかかえているのかをわかってもらうことができます。
(2)必要な検査を漏れなく受ける
医師であっても後遺障害等級の認定のための治療経験が豊富というわけではありません。そのため、後遺障害等級の認定に必要な検査がなされないときは、被害者自ら必要な検査を申し出る必要があります。
特に、骨盤骨折の場合には、どのように骨折しているのかを見るためにレントゲン検査やCT検査の結果が重要となります(変形がある場合にはどのように変形しているのかが画像所見からわかるかどうかが重要となってきます)。
また、股関節の可動域に制限が生じている場合には、どの程度制限が生じているのか測定してもらうことが大切です。
交通事故案件の経験豊富な弁護士に早めに相談すれば、どの等級の認定が期待できるか、そのためにはどのような検査が必要か、どういった資料を取得する必要があるかなど、認定に向けて一緒に戦略を立ててもらえます。
(3)後遺障害診断書を正しく書いてもらう
後遺障害等級の認定は、医師が作成する「後遺障害診断書」を中心に判断されます。これまで説明したとおり、医師であっても後遺障害等級の認定のための治療経験が豊富なわけではありません。
医師が作成した後遺障害診断書の記載では、後遺障害等級の認定をするには足らずに後遺障害等級が認定されないということもあります。
特に、骨盤骨折の場合、さまざまな後遺症が生じる可能性があることから、どのような自覚症状があるのかが大切となります。被害者自身で、特に、他覚所見や自覚症状の欄がしっかり記載されているか、よく確認する必要があります。
また、記載漏れだけでなく、あいまいな表現にも注意が必要です(例:「〇〇に違和感がある」など)。曖昧な表現では後遺障害等級が認定されないことがあります。
後遺障害診断書に、後遺障害等級の認定のために十分な記載がなされているかチェックするようにしましょう。ご自身でのチェックに不安がある場合は、弁護士に依頼するとより安心です。
後遺障害診断書についてさらにくわしく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
【まとめ】骨盤骨折により後遺症が残った場合には、830万~110万円の慰謝料が受けとれる可能性あり
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 骨盤骨折により後遺症が残った場合の後遺障害等級
- 股関節が動かしにくくなる「機能障害」が残った場合には、8級・10級・12級が認定される可能性がある
- 骨の癒合不全などによって骨が変形してしまう「変形障害」が残った場合には、12級が認定される可能性がある
- 神経が圧迫されるなどして痛みやしびれが生じる「神経系統の障害」が残った場合には、12級と14級が認定される可能性がある
- 骨盤が変形したことにより正常分娩が難しくなった場合には、11級が認定される可能性がある
- 後遺障害等級における慰謝料の相場(弁護士の基準)
- 後遺障害8級:830万円(自賠責の基準では331万円)
- 後遺障害10級:550万円(自賠責の基準では190万円)
- 後遺障害11級:420万円(自賠責の基準では136万円)
- 後遺障害12級:290万円(自賠責の基準では94万円)
- 後遺障害14級:110万円(自賠責の基準では32万円)
- 骨盤骨折について後遺障害等級認定を受けるためのポイント
- 医師に自覚症状を細かく伝えておく
- 必要な検査を漏れなく受ける
- 後遺障害診断書を正しく書いてもらう
交通事故のことは保険会社に任せておけばいいと思われているかもしれません。
しかし、実は、保険会社が提示してくる慰謝料額は、弁護士が交渉した場合よりも、不利なものになっているケースが多くあります。
実際、過去にアディーレ法律事務所に相談された方から「弁護士の先生から、保険会社に交渉していただくだけで、裁判にしなくてもかなり(慰謝料額を含む)賠償金額がかわってきます。」との声もいただいています。
交通事故で少しでも多くの慰謝料額を受けとりたいとお考えの方は、弁護士への相談をご検討してみてはいかがでしょうか。
交通事故の被害に遭った方が、賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので(※)、やはりお客様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2022年5月時点)
交通事故の被害にあって十分な賠償金(保険金)が受けとれるか不安な方は、交通事故の賠償金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。