交通事故で被害に遭った後に、手首が腫れる、動きにくく感じる、手首をひねると痛むなどの後遺症が残り、「TFCC損傷」であるとの診断を受ける場合があります。
TFCC損傷の後遺症が残った場合、どの後遺障害等級が認定されるのでしょうか?
結論からいいますと、TFCC損傷が残った場合には10級、12級、14級の後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。
そして、後遺障害10級の認定を受けた場合には、後遺症慰謝料550万円(弁護士の基準で算定した金額(目安))となる場合があります。
もっとも、TFCC損傷は、レントゲン審査のみでは診断することが困難なこともあり、後遺障害として認定されづらいという実情があります。
後遺障害等級の認定申請を行う前に、後遺障害等級の認定基準、後遺障害等級の認定申請を行うための注意点について知っておきましょう。
この記事では、次のことについて弁護士が詳しく解説します。
- 「TFCC損傷」の症状、診断方法、治療方法
- 後遺障害等級の認定基準、慰謝料の相場
- 後遺障害等級認定の注意点
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
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「TFCC損傷」とは?
「TFCC損傷」とは、三角繊維軟骨複合体損傷(Triangular Fibrocartilage Complex損傷)のことをいいます。
(1)「TFCC」とは手首の安定性を支える組織のこと
「TFCC」とは、手首の小指側にある2つの骨(橈骨と尺骨)を結ぶ三角の形状をした組織のことをいいます。
そして、靭帯や軟骨、腱などの複数のパーツで構成される軟部組織で、手首の小指側の安定性・支持性を与えると同時に、手首をひねったり、ねじったり、力が加わったときに、力の伝達、分散、吸収などを行う役割を担っています。
「TFCC」があることで、手首は安定し、人間は手首を複雑に動かすことができるのです。
(2)TFCC損傷の症状
「TFCC損傷」は発症すると、手首をひねったり、手首を小指側に曲げたりした際に、手首の小指側に痛みが生じます。重症である場合を除いて、安静にしているときに痛みが生じることはあまりありません。
さらに、手首の腫れ、可動域が制限される、手の力が抜けるなどの症状が出る場合もあります。
(3)TFCC損傷が起こるケース
「TFCC損傷」は、テニスや野球など繰り返し手首をねじるまたはひねるなどの動作をするスポーツによって生じる障害として知られています。
さらに、バイクや自転車、自動車に乗車中の交通事故で「TFCC損傷」となることも多いといわれています。
例えば、バイクや自転車事故で転倒し地面に強く手をついてしまったときやハンドルを握った状態で事故が発生し、手首に負荷がかかってしまったときに「TFCC損傷」となってしまうのです。
(4)TFCC損傷の診断方法
「TFCC損傷」は手首の痛みや圧痛の場所、手首の安定性などの身体診察、さらに、詳細に診断するために、MRI検査や関節鏡検査などを行って診断することになります。
TFCCは軟部組織ですので、通常のレントゲン審査のみでは診断できません。
交通事故で被害に遭った場合、事故時の初診で手首の捻挫と診断されたものの慢性的な痛みが続いている場合には注意が必要です。早めに手首の専門医に相談し、MRI検査などを受けておくことをおすすめします。
(5)TFCC損傷の治療方法
TFCC損傷の治療方法としては、サポーターやギブスなどの手首の固定治療で患部を動かさず、炎症と痛みを抑えながら経過観察を行うことになります。
固定治療でも回復せずに慢性化した場合には、内視鏡を用いた手術により、TFCCの切除、縫合、再建などを行うこともあります。
交通事故のTFCC損傷は後遺障害等級に認定される?
交通事故で後遺症が残り、後遺症について慰謝料や賠償金を請求する場合、「後遺障害等級」認定を受けることが必要になります。
「後遺障害等級」とは、後遺障害の内容に応じて1~14級に割り当てられるものです。
そして、「後遺障害等級」は、後遺障害に関する慰謝料や賠償金の算定の基準となります。
(1)TFCC損傷で認定される後遺障害等級とは?
「TFCC損傷」は、手首の可動域がどこまで制限されているかによって、認定される後遺障害等級が変わります。
もっとも、手関節の可動域制限が出ていない場合であっても、神経症状として後遺障害等級認定がされる可能性があります。
(1-1)手首の可動域が制限されている場合
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
第10級10号 | 1上肢の3大関節(肩関節・ひじ関節・手関節)中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
⇒具体的には 1.主要運動の可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの 2.人工関節・人口骨頭を挿入置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されているもの以外 | |
第12級6号 | 1上肢の3大関節(肩関節・ひじ関節・手関節)中の1関節の機能に障害を残すもの |
⇒具体的には (1)関節の可動域が健側の可動域角度の4分の3以下に制限されているもの |
(1-2)手首の可動域が制限されていない場合
後遺障害等級 | 後遺障害の内容 |
第12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
⇒具体的には ・神経症状につき他覚的な所見が認められること | |
第14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
⇒具体的には ・他覚的な所見は認められないものの、一定の神経症状が継続しており、医学的に説明が可能なもの |
「他覚的な所見」とは、医師などの第三者が、レントゲン審査やMRI審査によって、客観的に認識できることをいいます。
TFCC損傷では、MRIなどの画像所見によってTFCC損傷が確認できれば、他覚的所見ありと認められる可能性があります。
(2)TFCC損傷における症状固定
「症状固定」とは、治療を続けたものの、回復の見込みがないと医師に判断されたものをいいます。そして、症状固定日以降も残ってしまった症状のことを「後遺症」といいます。
そのため、後遺障害等級を受けるには、「症状固定」が前提となります。
TFCC損傷における症状固定の時期は、一般に6ヶ月~1年が目安となりますので、後遺障害等級の認定を受けるのはその後ということになります。
「症状固定」の診断目的や診断時期、診断後に必要な手続きについて詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
後遺障害等級の認定を受けた場合の後遺症慰謝料
後遺障慰謝料の算定に関しては、「自賠責の基準」、「任意保険の基準」、「弁護士の基準」の3つの基準があり、どの基準を使うかによって慰謝料の金額が大きく変わってきます。
算定基準 | 基準の内容 |
---|---|
自賠責の基準 | 自賠責保険により定められている賠償基準です。必要最低限の救済を行うことを目的としており、一般的に支払額は3つの基準の中でもっとも低く設定されています(※)。 |
任意保険の基準 | 各損害保険会社が定めている自社独自の支払基準です。保険会社によってその内容は異なり、正式には公表されていません。一般的に自賠責の基準以上ではありますが、弁護士の基準と比べると、かなり低く設定されています。 |
弁護士の基準 | これまでの裁判所の判断の積み重ねにより認められてきた賠償額を目安として基準化したものです。「裁判所の基準」とも呼ばれます。一般的に、自賠責の基準や任意保険の基準と比べて高額になります。 |
※ただし、自賠責保険金額は、交通事故の70%未満の過失については減額対象にしませんので、被害者の過失割合が大きい場合には、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります。
この3つの基準による後遺症慰謝料の金額は、一般的に次のようになります。

後遺障害等級の認定を受けた場合の後遺症慰謝料(目安)は次のようになります。
後遺障害等級 (別表第二) | 自賠責の基準 | 弁護士の基準 |
---|---|---|
第10級 | 190万円 | 550万円 |
第12級 | 94万円 | 290万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
※なお、「自賠責の基準」については、2020年4月1日以降に発生した交通事故に適用されます。
弁護士の基準を使うには弁護士への依頼することをおすすめします。
被害者本人が加害者側の保険会社と示談交渉すると、加害者側の保険会社は自賠責の基準や任意保険の基準による低い慰謝料額を提示してくるのが通常です。これに対し、弁護士が被害者本人に代わって示談交渉や裁判を行う場合は、基本的に最も高額となる弁護士の基準を使いますので、弁護士の基準に近づけた形での示談が期待できます。
もらえる示談金が増える可能性もについて詳しくはこちらをご覧ください。
後遺症慰謝料以外にも入通院慰謝料や賠償金についても請求できます(たとえ、後遺障害等級が認定されなくても、入通院慰謝料や賠償金が請求できる場合があります)。
TFCC損傷による後遺障害等級認定の申請で知っておくこと

TFCC損傷は、交通事故が発生してから徐々に痛みが強くなることが多く、痛みが強くなってから診断されることがあります。そのため、交通事故の発生時期と診断時期に期間が空いてしまい、後遺障害等級が認定されにくいという実情があります。
交通事故の発生時期と診断時期の期間が空いていることから、TFCC損傷が本当に交通事故によって発生したといえるのか、他の原因によるものではないのかと、交通事故との因果関係が疑われ、後遺障害等級が認定されない、又は、低い等級が認定されてしまうケースがあるのです。
そこで、TFCC損傷による後遺障害等級認定の申請をする前に注意すべき3つのことがあります。
- 交通事故直後からMRI検査などの精密検査を受ける
- 通院を継続して行う
- 後遺障害等級認定申請を被害者請求で行う
(1)交通事故直後からMRI検査などの精密検査を受ける
TFCCは軟部組織ですので、通常のレントゲン審査のみでは診断できません。
TFCC損傷が疑われる場合は、交通事故直後から、MRIなどの精密審査を受けることや手の専門医の診断を受けることをお勧めします。
腫れや痛みがいくらあっても、検査が足りずに、原因がわからないままでは、腫れや痛みを裏付ける客観的な医学的所見や、医学的整合性を判断することができません。
後遺障害等級の認定のためには適切な検査と、検査結果により後遺症が医学的に裏付けられていることが必要となります。
(2)通院を継続して行う
後遺障害等級の適切な認定を受けるためには、痛みや腫れが多少おさまったとしても自己判断で通院を中止せず、継続して通院を行うことをお勧めします。
後遺障害等級認定を受けるためには、将来も「回復困難と見込まれる精神的または身体的な障害」である必要があります。受傷直後から継続して通院している場合には、そうでない場合に比べて、残存した症状が将来も回復困難と認められやすくなります。
後遺障害等級の認定のためには、自覚症状が、受傷直後から一貫・継続して存在することが必要ですので、「毎回言わなくてもわかるだろう」「勘違いかもしれない」と思ったりせず、具体的な症状を診察の度にしっかり伝えることも重要です。
(3)後遺障害等級認定の申請を被害者請求で行う
後遺障害等級認定の申請手続きは「被害者請求」で行うことをお勧めします。
後遺障害等級認定の申請の手続きには、次の2つの方法があります。
- 事前認定:相手方の任意保険会社に後遺障害等級認定申請の手続きを依頼する方法
- 被害者請求:自分で後遺障害等級認定の申請手続き行う方法
事前認定と被害者請求の違い、メリット・デメリットは次のとおりです。

目に見えにくい痛みや動かしにくさといった後遺症の場合には、特に、「被害者請求」によって後遺障害の申請を行うべきでしょう。
「被害者請求」は、被害者自身が後遺症に関するレントゲンやMRIの画像や診断書を集めて、提出しなければならないという手間はかかりますが、被害者にとって有利となる資料を提出することが可能で、適切な後遺障害等級が認定されやすくなります。
「被害者請求」の手順や申請に必要な書類について、さらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
交通事故の賠償金請求を弁護士に依頼するメリット
賠償金の請求を弁護士に依頼するメリットとしては、次の3つがあります。
- 慰謝料の基準について通常は一番高額となりやすい「弁護士の基準」で請求できる
- 加害者側保険会社との面倒な交渉や手続きについて弁護士に任せることができる
- 後遺障害の申請を弁護士に任せることで、弁護士が、診断書の記載内容をチェックしたり、提出する資料を精査したりしますので、適切な後遺障害等級認定の可能性をさらに高めることができる
【まとめ】TFCC損傷は、後遺障害等級10級・12級・14級に認定される可能性あり|申請は「被害者請求」がおすすめ
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 「TFCC損傷」は発症すると、手首をひねったり、手首を小指側に曲げたりした際に、手首の小指側に痛みが生じます。「TFCC損傷」は手首の痛みや圧痛の場所、手首の安定性などの身体診察、さらに、詳細に診断するために、MRI検査や関節鏡検査などを行って診断することになります。
- TFCC損傷で認定される後遺障害等級
- 【手首の可動域が制限されている場合】
後遺障害10級10号・後遺障害12級6号に認定される可能性がある - 【手首の可動域が制限されていない場合】
後遺障害12級13号・後遺障害14級9号に認定される可能性がある
- TFCC損傷が後遺障害等級認定された場合の後遺症慰謝料の相場
- 【後遺障害10級の場合】
弁護士の基準であれば550万円(自賠責の基準であれば190万円) - 【後遺障害12級の場合】
弁護士の基準であれば290万円(自賠責の基準であれば94万円) - 【後遺障害14級の場合】
弁護士の基準であれば110万円(自賠責の基準であれば32万円)
- TFCC損傷による後遺障害等級申請をする前に注意すべき3つのこと
- 交通事故直後からMRI検査などの精密検査を受ける
- 通院を継続して行う
- 後遺障害等級申請を被害者請求で行う
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すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各法律事務所へご確認ください。
(以上につき、2022年8月時点)
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