労働基準法における「付加金」は、企業が特定の賃金を未払いにした際に、労働者が裁判所から企業に対して支払いを命じるよう請求するお金であり、企業に対する制裁金です。
多くの方は、残業をしたのに割増賃金が未払いであるという問題に直面した際に、どのように対処すべきか悩んでいることでしょう。
本記事では、付加金の基本的な仕組みから、請求方法、そのメリットについて詳しく解説します。これを読むことで、付加金の基本について知ることができるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
この記事を読んでわかること
- 労働基準法の「付加金」とは
- 付加金の対象となる未払い賃金は4つある
- 付加金を請求するには労働訴訟を通じて裁判に訴える必要がある
- 付加金を請求する期間は未払いがあった時から「3年間」
- 実際に付加金が支払われるケースは少ないが、付加金請求にはメリットがある
ここを押さえればOK!
実際に付加金が支払われるケースはレアです。なぜなら、任意交渉や労働審判、訴訟上の和解で解決されることが多いためです。また、控訴審で口頭弁論終結時(控訴審での審理を終える時)までに未払い賃金を支払えば付加金を免れることができます。
それでも付加金請求には、企業が未払金を任意に支払う可能性を高めるというメリットがあります。
付加金は企業に対する制裁としての役割を持ち、裁判所から付加金の支払いを命じられたことで社会的評価を下げることになると考え、これを回避するため企業が早期に未払い賃金の支払いに応じようとすることもあり、そうした意味で労働者側に一定のメリットがあるといえます。
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東京大学法学部・東京大学法科大学院卒。アディーレ入所後は未払残業代請求事件をメインに担当し、2022年より労働部門の統括者。「自身も同じ労働者だからこそ、労働者の方々に寄り添える」との信念のもと、より多くのご依頼者様を、より良い解決へ導くことを目標に尽力している。東京弁護士会所属。
労働基準法の「付加金」とは
付加金は、労働基準法に基づき、特定の賃金が未払いである場合に、裁判所が企業に対する制裁として支払いを命じることのできる金銭です。未払いの賃金に加え、最大で同額の付加金の支払いが命じられます。
これにより、企業に対して未払いを防ぐ抑止力が働きます。付加金は、労働者が裁判を通じて請求することで認められるものであり、企業に労働環境の改善を強く促す重要な手段の1つといえます。
付加金の対象となる未払い賃金とは
付加金の対象となる未払い賃金とは、次の4つです。
- 解雇予告手当
- 休業手当
- 時間外・休日労働などに対する割増賃金
- 年次有給休暇中の賃金
上記4つの賃金が就業規則などで定める支払期日に支払われなかった場合、付加金の対象となります。一方、上記以外の給与の未払いは、付加金請求の対象外です。
付加金を請求する方法とは
次に、実際に付加金を請求する方法について説明します。
(1)付加金を請求する方法
付加金を請求するには、上記の未払い賃金の支払いを求める訴訟を提起し、裁判所から企業に付加金の支払いを命じるよう求める必要があります。
まず、未払い賃金の証拠を収集し、弁護士の助言を受けて訴状を作成します。裁判では、未払いの事実と付加金請求の正当性を証明することが求められます。
(2)付加金を請求できる期間
労働基準法改正に伴い、2020年4月1日以降に支払日がくる賃金に対する付加金の請求期間は、「未払いがあったときから2年間」から「未払いがあったときから5年間」に延長されました。
ただし、経過措置として、請求可能期間は当面の間「5年間」ではなく「3年間」とされています。
実際に付加金が支払われることは少ない理由とは
実は、付加金の仕組みには「からくり」があり、付加金が実際に支払われるケースは珍しいです。ここでは、付加金が実際に支払われるケースが少ない理由について説明します。
(1)付加金は訴訟の判決を通じてしか請求できない
付加金は、労働者が労働訴訟で請求し、裁判所が請求を認めた場合に、判決として会社に対して支払いを命じるものです。
そのため、次の3つのケースでは、付加金は支払われません。
- 任意交渉で和解が成立した場合
- 労働審判委員会管轄の労働審判で解決した場合
- 訴訟上の和解が成立した場合
つまり、訴訟まではいかずに労働審判で解決した場合や会社側が折れて和解した場合などでは、付加金は支払われません。多くの労働トラブルが訴訟の判決までは行かずに労働審判や和解で解決されているために、付加金が支払われるケースがレアとなっているのです。
(2)控訴審で未払い賃金を支払えば、付加金を逃れることができる
付加金は、付加金の支払いを命じた裁判が確定しないと、遅延損害金が発生しませんし、付加金の支払いをしない企業に対して強制執行できません。
そして、第一審で会社に対し付加金の支払いが命じられても、会社側が控訴をすることで裁判が確定する時期を引き延ばすことができます。その後、控訴審(第二審)の審理が終結するまで(控訴審の口頭弁論終結時まで)に会社側が第一審で認容された未払い金を支払うと、控訴審で付加金の支払いを命じられる根拠がなくなり、会社側は容易に付加金の支払いを逃れることができるのです。
付加金請求をするメリット
実際に付加金が支払われるケースが少ないのは説明したとおりです。 では、労働者側が付加金請求を行うメリットとは何でしょうか。
(1)付加金を請求することで得られるメリット
付加金請求をしておくと、第一審判決で、付加金の支払いを命じる判決が出た場合に、会社が未払金を任意に払ってくる可能性が高まります。
なぜなら、付加金の支払いを命じられる判決が出たということは、「企業による賃金の未払いが悪質だ」と裁判所に認定されたことを意味します。つまり、会社のイメージが悪くなります。
そのため、第一審で付加金の支払を命じる判決が出た場合、会社は付加金の支払を避けるため、裁判の確定前に未払金を任意に払ってくる可能性が高くなります。任意に払ってもらえれば、強制執行をする手間や時間を省くことができます。
(2)付加金の支払命令に企業が必ず応じるとは限らない
付加金の支払を命じる判決が出ても、必ず会社が付加金と未払い賃金を払ってくれるわけではないという点には注意が必要です。
例えば、判決を無視して支払わないというケースもありえますし、会社にそもそも財産がなく支払わないというケースもあります。 会社に財産がないケースでは、未払い賃金の支払いを受けることも難しいかもしれません。
一方、会社に財産があるのにもかかわらず判決を無視して支払わないというケースでは、労働者は自ら会社の財産の在処を調査した上で、時間と費用をかけて強制執行をする必要があります。
【まとめ】付加金とは企業に対する制裁金|請求にはメリットがある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 付加金は未払い賃金に対する企業への制裁金。
- 付加金の対象は解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年休中の賃金。
- 付加金は労働訴訟を通じて裁判で請求する必要がある。
- 付加金の請求期間は未払い発生から3年間。
- 実際に支払われるケースは少ない理由
- 任意交渉や労働審判、和解で解決されることが多い。
- 控訴審での審理を終える時(控訴審の口頭弁論終結時)までに未払い賃金を支払うことで付加金を免れることが可能。
- 付加金のメリット:企業が未払金を任意に支払う可能性が高まる。
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