遺言書は、遺産をどのように分配するかを明確にするための重要な文書です。
遺言書を作成しておけば、相続にかかる相続人の労力を大きく減らすことができるだけでなく、自分の財産で相続人がもめてトラブルになることを防ぐことができるのです。
遺言書は、家族へ残す、最後の手紙ともいえるでしょう。
しかし、どのように書けば法的に有効な遺言書になるのか、具体的な手順や注意点を知らない方も多いかもしれません。
本記事では、遺言書の書き方について、作成方法、保管方法や注意点について詳しく解説します。
これを読むことで、遺言書作成の全体像を把握し、「遺言書を書いてみよう」と思われたのであれば幸いです。
ここを押さえればOK!
遺言書には自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3種類があり、それぞれの特徴と作成方法を理解することが重要です。
自筆証書遺言は手軽に作成できますが、要件が細かく無効になるリスクや、改ざん、紛失のリスクがあります。
秘密証書遺言は内容を秘密にできますが、手続きが複雑でほとんど利用されていません。
公正証書遺言は公証人が作成に関与し、法的に有効で紛失のリスクが少ないですが、費用がかかります。
自筆証書遺言を書く際は、全文を手書きで作成し(財産目録はPCで作成可)、作成日を明記し、署名・押印します。訂正には細かいルールがあるため、間違えた際は全部書き直す方がよいでしょう。
1人で作成することが不安な方は、遺言書作成を弁護士に依頼することで、遺言書の内容や、相続トラブルを避けるための提案を受けることができます。弁護士のサポートを受けることで、安心して遺言書を作成できるでしょう。
遺言書の3つの種類
遺言書は、自分の死後、自分の残した遺産をどのように分けるのか、その法律関係を明確に意思表示することができる文書です。
遺言書には次の3つの種類があります。
それぞれの特徴と作成方法を理解することが、適切な遺言書を作成するための第一歩です。
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が自ら手書きで作成する遺言書です。
費用がかからず、手軽に作成できる点が大きな魅力です。
しかし、民法上の方式に厳格な要件があり、要件を満たさない場合は無効になるリスクがあります。また、紛失のリスクがありますし、遺言者が亡くなった後、家庭裁判所での検認手続きが必要です。
(2)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、封をした遺言書を証人2名とともに公証役場に持参し、作成する遺言書です。遺言内容は、公証人にも証人にも秘密にできます。遺言内容を他人に知られたくない場合に適していますが、手続きが複雑であまり利用されていません。
(3)公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人が遺言者の意思を確認し、証人2名の立会いの下で作成する遺言書です。公証人が遺言の作成に関わり、原本は公証役場に保管されるので、法的に無効になるリスクがほとんどなく、改ざん・紛失のないことが大きなメリットです。ただし、公証人に支払う手数料などの費用がかかります。また、基本的に公証役場で作成しますので、公証役場に行く、証人2名を準備するなどの手間がかかります。
自筆証書遺言は、ペンと紙と印鑑があれば、どこでも、費用もかけずに書くことができます。
この記事を読んだ後、すぐに書くことも可能です。
一度書いた遺言は自由に書き直すことができますし、撤回も可能です。
用紙は、法務省の下記サイトで紹介されている遺言書の用紙例を、A4でそのまま印刷して使うとよいでしょう。
まずは、次で紹介する自筆証書遺言の例文や書き方を参考に、一度書いてみましょう。
不明点や、自分だけでは書くのは難しいな、と感じたら、弁護士による無料の法律相談を受けてみるとよいでしょう。電話で相談可能な事務所を選ぶと、法律事務所に行く手間を省くことができます。
自筆証書遺言の例文
遺言書の内容は、どのような遺産があるのか、相続人は誰なのか、どのような割合で誰にどの遺産を残すのか、などの事情で異なってきます。
したがって、以下で紹介する自筆証書遺言の例文は、遺言書を作成したい方がそのまま使えるようなテンプレートではありません。
ただ、具体的な遺言の例文を見て、自分の遺言書をどのようにするのか、イメージ作成に役立てることはできますので、参考にしてください。
(1)妻(夫)に全財産を残すケース(財産目録なし)
遺言書
私、□□□□は、全ての財産を、妻である△△△△(〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
〇年〇月〇日
□□ □□ ㊞
1/1
ページ数の記載は、後で紹介する「自筆証書遺言の保管制度」を利用するために必要です。
これくらいシンプルだと、すぐに書けそうですね。
ただ、配偶者とはいえ、全ての財産を把握しているとは限りませんので、次のように別紙で財産を特定してあげると、より親切です。
(2)妻(夫)に全財産を残すケース(財産目録あり)
遺言書
私、□□□□は、別紙財産目録記載の財産を含む全ての財産を、妻である△△△△(〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
〇年〇月〇日
□□ □□ ㊞
1/2
別紙
財産目録
- 預貯金
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 - 有価証券
〇〇証券会社 〇支店 口座番号〇〇〇〇 - 不動産
(1)土地
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積 〇〇. 〇〇平方メートル
(2)建物
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番
家屋番号 〇〇番〇〇号
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 〇〇. 〇〇平方メートル
2階 〇〇. 〇〇平方メートル
□□ □□ ㊞
2/2
預貯金口座は、通帳等の記載を見て、金融機関名、支店名、口座名義人、口座番号などで特定します。
有価証券は、証券会社名、支店名、口座番号などで特定します。
不動産は、法務局で登記事項証明書(全部事項証明書)を入手して、そちらの記載を正確に写して特定しますが、そのような時間がかけられない場合には、住所で特定することもあります。
財産目録は、手書きでなくPCなどで作成し、印刷して利用することが可能です。
ただ、その場合は、財産目録は遺言書本文とは別のページで別紙として作成し、全てのページに署名、押印しなければなりません。
子どもがいても、法律上、「配偶者に全財産を相続させる」という遺言を書くことはできます。
ただ、このような遺言は、子どもの遺留分を侵害し、あとでトラブルになるリスクがありますので、生前に配偶者と子どもに自分の意向を伝えて理解を求めておくとよいでしょう。
遺留分について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
(3)妻(夫)と子がいるケース
遺言書
私、□□□□は、次のとおり遺言する。
- 別紙財産目録記載3(1)(2)の不動産を、妻である△△△△(〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
- 別紙財産目録記載1の預貯金を、子である●●●●(〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
- 別紙財産目録記載2の有価証券を、子である■■■■(〇年〇月〇日生まれ)に相続させる。
- それ以外の全ての財産を、妻である△△△△に相続させる。
〇年〇月〇日
□□ □□ ㊞
1/2
別紙
財産目録
- 預貯金
〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇 - 有価証券
〇〇証券会社 〇支店 口座番号〇〇〇〇 - 不動産
(1)土地
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番
地番 〇〇番〇〇
地目 宅地
地積 〇〇. 〇〇平方メートル
(2)建物
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番
家屋番号 〇〇番〇〇号
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階 〇〇. 〇〇平方メートル
2階 〇〇. 〇〇平方メートル
□□ □□ ㊞
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(4)相続人以外に財産を残したいケース
遺言書
私、□□□□は、次のとおり遺言する。
- 全ての財産を、△△△△(〇年〇月〇日生まれ)に遺贈する。
- 遺言執行者に△△△△を指定する
〇年〇月〇日
□□ □□ ㊞
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事実婚の配偶者、同性のパートナーは、現在の法制度では法定相続人ではないので、遺産を相続することはできません。
そこで、自分が亡くなった後、法定相続人以外へ財産を残したいときは、遺言書を作成する必要があります。
財産を受け取る者が相続に関する手続きをスムーズに行うためにも、遺言執行者を指定しておくと良いでしょう。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言の書き方は、民法という法律で定められています。
頑張って書いた遺言も、法律上の決まりを守っていないと無効となってしまいます。
書く前に、法律上の書き方の決まりをしっかりと確認しましょう。
(1)遺言書全文を手書きで書く
遺言書の全文を、遺言者が手書きで書く必要があります。ただし、別紙で添付する財産目録はPCで作成することが認められています。
遺言書保管制度を利用するためには、用紙にA4サイズ、余白などの細かい条件がありますし、各ページにページ数を記載する必要があります。
(2)作成日を明記
自筆証書遺言には、作成日を明記する必要があります。
作成日がない場合や、「吉日」等日付を特定できない場合には、遺言書は無効となってしまいますので注意しましょう。
(3)署名・押印する
自筆証書遺言には、遺言者の署名・押印が必要です。
通常は、住民票に記載されている通りの氏名で署名します。
押印は、法律上は実印でなくても構いませんが、実印を利用する人が多いようです。
(4)訂正は避ける
遺言書の訂正には厳格なルールがあります。
訂正箇所を二重線を引くなどして示し、訂正後の言葉を書いて、押印します。
そのうえで、欄外に「5字削除 7字追加」など、修正部分と修正内容を書き入れて、署名しなければなりません。
訂正には細かいルールがあり、間違いが発生しやすいので、訂正することは避け、間違えた場合には、全部書き直す方がよいでしょう。
そのために、遺言書を書く際には、下書きを準備しておくことをお勧めします。
(5)財産目録はPCで作成可
財産が多い場合、一つ一つを手書きで書くとなると大変で、間違えることも多くなります。
そこで、別紙で添付する財産目録は、手書きではなくPCで作成することが法律上認められています。
ただし、財産目録の全てのページに署名・押印しなければなりません。
(6)最終確認
一つでも遺言書の書き方のルールを守れていなければ、遺言書は無効になります。
一言一句、間違いがないか最後に確認します。
自筆証書遺言を書くための準備
自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑があれば、書くことができます。
ただ、書く前には内容について、次のような準備が必要です。
(1)相続人を特定する
まず、自分が亡くなった場合に、その財産を相続する権利を持つ法定相続人を確認します。
通常は、戸籍や住民票などで名前などを確認し、特定します。
妻と子がいれば、法定相続人は妻と子になります。子が亡くなっている場合には、孫が相続することになります。
妻がおらず子がいる場合は、子が全ての財産を相続します。
妻がいて子がいない場合、法定相続人は妻と自分の両親です。自分の両親や祖父母が亡くなっている場合には、自分の兄弟姉妹が法定相続人になります。
実際に自分が亡くなった際には、法定相続人が遺産を相続することになりますので、事前に調べておきましょう。
誰が法定相続人になるのか、その順位など、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)財産を特定する
次に、自分の財産を特定します。
通常、価値のある財産として遺言に書かれるものは、不動産、預貯金、有価証券、自動車、高価な貴金属や時計などです。
不動産は全部事項証明書、預貯金口座は通帳、自動車は車検証の情報を確認し、財産を特定していきます。
自筆証書遺言の書き方で注意すべき点
実際に自筆証書遺言を書く際には、以下の点に注意しましょう。
(1)相続人の遺留分を考慮する
「遺留分」とは、一定の相続人について、亡くなった方=被相続人の相続財産から、法律上取得できることが保障されている最低限の取り分のことです。
被相続人が、遺言で相続財産全てを特定の人に譲ったとしても、遺留分が認められる相続人は、遺留分を侵害している額に相当する金銭を請求することができます。
例えば、妻子がいる場合、「妻に全ての財産を相続させる」という遺言を残しても、子どもには遺留分がありますから、子は妻に対して遺留分の支払いを求めることができるのです。
誰かの遺留分を侵害するような遺言書を書く場合、後で相続トラブルが生じないよう、生前にその意図を家族に説明しておくか、遺言書の中に「付言」という形で残しておくとよいでしょう。
遺留分やその割合について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)「相続させる」と明確に記載する
遺言書には、法定相続人へ財産を残すときは、「相続させる。」と記載します。
法定相続人以外へ財産を残すときは、「遺贈する。」です。
「与える」や「譲る」といった表現は使いません。
(3)法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する
自筆証書遺言には、要件を満たさず無効になるリスクや、改ざん、紛失等のリスクがあります。また、検認という裁判所の手続きを経なければならない点も相続人の手間になります。
しかし、そのような自筆証書遺言のデメリットは、新しく始まった自筆証書遺言書の保管制度を利用すれば、ほぼ解消されます。
費用も、保管の申請1件につき3900円と、極めてリーズナブルです(閲覧請求などをするには、別途手数料が必要です。)。
自筆証書遺言を作成する際には、民法上の要件の他、保管制度の利用に必要な要件(A4サイズの用紙、決められた余白、片面のみ記載、各ページにページ番号記載など)も守る必要があります。
自筆証書遺言保管制度について詳しくは、下記法務省のサイトをご覧ください。
遺言書作成を弁護士に依頼するメリット
「自分で遺言書を書いてみよう」と思われた方は、是非書いてみてください。
この記事を読んで「書いてみよう」と思ってもらえたのなら、何よりです。
何度でも書き直すことはできますので、とりあえず書いてみましょう。
そして、「自分ではちょっと書くのが難しい」「遺産をどう分けたらいいのか法的なアドバイスが欲しい」など、疑問や不安が生じたら、一度弁護士に相談してみてください。
弁護士は、法律の知識や経験、実務などに基づいて、あなたの味方となり、あなたの事情に応じたアドバイスをしてくれるでしょう。
自分で書くのは難しいと感じた方は、弁護士に遺言書の作成のサポートを依頼することができます。弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。
(1)法的に有効な遺言書を作成
弁護士は、法律上の要件を把握したうえで、法的に有効な遺言書の作成をサポートします。これにより、遺言書が無効になるリスクを減らすことができるでしょう。
(2)相続や遺言内容について法律相談ができる
遺言書を作成したいと思っても、1人ではどのような内容にすればよいのか分からない方もいます。
そのようなケースでは、弁護士が事情に応じて遺言内容を提案いたしますので、自分の残したい意思を弁護士と一緒に確認することができるでしょう。
(3)相続トラブルを避けるための提案
一定の法定相続人が有する遺留分を侵害するような遺言書を残すと、相続トラブルが発生するリスクが高まります。
ただ、法定相続人の関係によっては遺留分を侵害されても問題にされないケースもありますし、生前に説明することで理解が得られるケースもあります。
遺留分を考慮することは必要ですが、絶対に遺留分を侵害してはならない、というわけではありません。
どのような遺言書を残すのか、トラブルを避けるために何ができるのかなど、弁護士はあなたの立場を重視して、親身に相談に対応し、遺言書の案を提案してくれるでしょう。
【まとめ】まずは遺言書を書いてみよう!悩んだら弁護士に相談を
自筆証書遺言の作成においては、何よりも、有効となる法律上の要件を満たすことが重要です。
この記事で紹介した自筆証書遺言の文例や書き方、注意点を理解し、必要に応じて弁護士のサポートを受けることで、自分の意思を明確にした遺言書を作成しましょう。
適切な遺言書を作成することで、相続人間のトラブルを防ぎ、遺産の分配をスムーズに進めることができます。
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