「歩行中に自転車とぶつかってけがをした。示談ってどうやってしたら良いんだろう」
自転車事故にあってけがをしたと言う場合、加害者に対して生じた損害の賠償を請求できます。
近年、自転車についても保険(「自転車保険」と呼びます)の加入を義務付ける自治体が増えています。
加害者が自転車保険に加入している場合は、通常は保険会社と示談交渉をした上で、損害の賠償を受けられます。
他方、加害者が自転車保険に加入していない場合には、加害者本人と示談交渉をすることになります。
ですが、自転車対歩行者の事故の場合で加害者が自転車保険に加入しておらず、加害者に資力がない場合には、示談交渉が難航しがちです。
今回の記事では、
- 自転車事故と示談交渉
- 自転車事故の示談交渉が難航しやすい理由
- 示談における注意点
などについてご説明します。
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
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自転車事故における示談交渉の基礎知識
まず、自転車事故の被害にあってけがをしたという場合の、事故後の流れについて簡単にご説明します。
1.警察への報告
※自転車も道路交通法上の「車両」に該当します。
自転車の運転手は事故が起こった時は警察への報告義務があります。
2.実況見分の実施
※被害者がけがをしている場合(人身事故)、実況見分が実施されます。
事故状況を正確に警察官に伝えましょう。
3.連絡先の交換
※相手の氏名・連絡先・保険会社などを控えましょう。
スマホなどで事故状況やけがの写真を撮影することも大切です。
4.病院を受診する
※けがをした場合には病院を受診して診断書を書いてもらう必要があります。
5.示談交渉をする
※けがの治療が終了した時点で、加害者と示談交渉をします。
自転車事故の示談交渉は誰がするの?
加害者が自転車保険に加入している場合、基本的には保険会社の担当者が示談交渉にあたります(※示談代行サービスのない場合は除きます)。
他方、加害者が自転車保険に加入していない場合などは、加害者と直接示談交渉をしなくてはいけません。
なお、国土交通省の調査によると、2017年の「自転車対歩行者」事故の歩行者死亡・重傷事故における自転車運転者の自転車保険の加入状況は次のとおりでした。

加害自転車が自転車保険に加入していない場合はどうなる?
自転車も「車両」ということは、自賠責保険による補償が受けられるんですか?
自転車事故で自賠責保険が適用になるのは、自転車×バイクの事故か、自転車×自動車の事故で、自転車が被害者となった事故だけです。
自転車×自転車の事故や、自転車×歩行者の事故の場合には、自賠責保険による補償は受けられません。
近年、各自治体による自転車保険の加入の義務化などが進んでいますが、いまだに自転車保険に加入していない方も多いです。
そのような場合、示談交渉には次のような問題があります。
示談交渉が難航しやすい
損害賠償金が支払われない
後遺障害等級認定が受けられない
順にご説明します。
(1)示談交渉が難航しやすいこと
自転車事故について示談交渉が難航しやすい一番の原因は次のとおりです。
過失割合についての当事者が合意に至らない
過失割合とは何ですか?
過失割合とは、事故の当事者それぞれにどのくらいの過失(=不注意・ミス)があったのかを表す割合のことです。
例えば被害者の過失が2割、加害者の過失が8割の場合、過失割合は20:80となります。
仮に、交通事故により被害者に生じた損害額が100万円だった場合、100万円のうち20万円は被害者自身が負担し、加害者は80万円を被害者に支払うことになります。
交通事故では、過失割合に応じて受け取れる損害賠償の額が変わるため、その割合をどう決めるかは当事者双方にとって極めて切実な問題となります。
この過失割合は、警察などが決めるのではなく、当事者間での協議で決まります。
自動車事故では、事故態様によってある程度の過失割合が類型化されていますが、自転車事故では、自動車事故ほどには過失割合の類型化が進んでおらず、過失割合を決める段階で揉めることが多くなります。
また、当事者に過失割合に関する知識が少ないことも、揉める一因となります。
当事者同士では合意に至らない場合には、最終的には裁判を起こして問題を解決せざるを得ない場合もあります。
(2)損害賠償金が支払われない
自転車事故とは言え、被害者のけがが重大な場合には、賠償金額も極めて高額になります。
自転車保険に加入していない場合には、賠償金は加害者自身が支払わなくてはいけません。
ですが、加害者に資力がない場合には、結局賠償金がいつまでたっても支払われないことも少なくありません。
(3)後遺障害等級認定が受けられない
先ほどご説明したとおり、自転車対歩行者の事故や自転車同士の事故の場合、自賠責保険は適用されません。
ですから、自動車事故のように自賠責保険による後遺障害等級認定を受けることはできません。
ただし、加害者が任意の自転車保険に加入している場合には、「自賠責調査事務所」に後遺障害等級認定のサポートを受けながら、保険会社による後遺障害等級認定が受けられることがあります。
他方、加害者が自転車保険に加入していない場合には、加害者側の保険による後遺障害等級認定は受けられません(※被害者が勤務中や通勤中の場合には、労災の対象となる場合があります)。
後遺障害に相当する症状を加害者が任意に認め、それに対する賠償金を支払うのであれば特に問題はありませんが、加害者が認めない場合には、最終的には裁判を起こした上で、裁判所に判断してもらうことになります。
示談書の記載事項と作成時の注意点について
それでは、続いて、示談書の記載事項と作成時の注意点についてご説明します。
加害者が自転車保険に入っている場合には、保険会社が示談書(又は免責証書など)のひな型を持っていますし、示談書は基本的には保険会社が作成します。
ただし、保険会社の示談書であっても、形式面に誤りがないか、ご自身で確認する必要があります。
形式面についての注意点は、以下のとおりです。
当事者の氏名
※後になって自分ではないと言われないよう、フルネームで正確に記載する必要があります。
事故の詳細
※交通事故証明書をもとに、事故の発生日時・発生場所・加害車両 などを特定します。
示談内容
※示談金額・支払方法・支払期日・振込先口座について明記します。
支払がなかった場合の措置
※約束の支払期日に支払がなかった場合のペナルティ(遅延損害金や違約金など)について記載します(保険会社が支払う場合には、ほとんど不履行リスクないため、不履行時の懈怠条項を定めないのが普通です)。
清算条項
※交通事故の損害賠償に関する話合いが終了したことを明記します(※事案によっては、示談後思わぬ症状が出てきた時は別途協議する旨の記載が必要です)。
本人の署名・捺印
※示談書には必ず本人がサインをした上で、ハンコを押してください。
いったん示談書に作成してお互いに取り交わすと、基本的には示談書の内容を覆すことはできません。
最終的に示談書を作成する前には、本当にこの内容で良いのか、よく検討することが大切です。
示談書は公正証書の方が良い?
公正証書とは何ですか?
公正証書とは、公証人が法律に従って作成する公文書のことです(※当事者双方が公証役場に行く必要はあります。)。
加害者が自転車保険会社に加入しており、保険会社によって賠償金が支払われる場合などには、あえて公正証書にする必要はありません。
示談書を公正証書にする必要があるのは、例えば、示談成立後、加害者が示談金を数年にわたって分割して支払っていくような場合です。
というのは、あえて示談書を公正証書にする意味は、次のとおりです。
加害者が示談金の支払を怠った時に、裁判などをすることなく、加害者の財産を差押えることができるようにするため
示談書を公正証書にしておかない場合、加害者が約束を破って示談金を支払わなかった場合に加害者の財産を差押えるためには、改めて裁判などを起こして『債務名義』を取得しなければなりません。
ただし、公正証書を作成する場合は、次の点に注意が必要です。
強制執行認諾約款をいれること
強制執行認諾約款とは何ですか?
強制執行認諾約款とは、示談金の支払を怠った時は、強制執行されてもかまわないという内容の約款です。
せっかく示談書を公正証書で作っても強制執行認諾約款が入ってなければ、公正証書に基づく差押えはできませんので注意が必要です。
強制執行認諾約款がない場合には、加害者の財産を差押さえるためには改めて裁判などを起こす必要があります。
公正証書は公証人という専門家が作るから、何も言わなくても強制執行認諾約款が入っているだろうと思ってはいけません。
実際、公正証書をつくっておいたのに、その内容次第で強制執行ができないことは思いのほか多いです。
この点、もしも自分で正確な公正証書にする自信がなければ、必ず弁護士などの専門家に確認してもらうことをお勧めします。
【まとめ】自転車事故の被害にあい、加害者が自転車保険に加入していない場合には、加害者と示談をしなければならない
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 自転車であっても、道路交通法の「車両」に該当するため、自転車事故を起こした場合には警察に報告しなければならないし、被害者がけがをしていれば「人身事故」として扱われ、実況見分が実施される。
- 加害者が自転車保険に加入している場合、通常は、被害者に生じた損害の賠償については保険会社と話し合うことになるが、自転車保険に加入していていない場合には、加害者本人と話し合わなくてはいけない。
- 加害者が自転車保険に加入していない場合、次のようなリスクがある。
- 示談交渉が難航する
- 損害賠償金が支払われない
- 後遺障害等級認定が受けられない
- いったん示談が成立すると、基本的には示談の内容を覆すことはできないため、示談書の取り交わしの前、示談の内容がこれで良いかしっかり検討する必要がある。
近年では自転車事故による高額な賠償判決がくだされるケースが増加傾向にあり、条例で自転車保険の加入を義務付ける自治体も増えています。
加害者が自転車保険に加入している場合、保険会社との交渉で賠償額の増額が見込める可能性があります。
弁護士に依頼するメリットについては、こちらの記事もご確認ください。
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