工場型アスベスト(石綿)訴訟をご存じですか?
工場型アスベスト(石綿)訴訟とは、アスベスト(石綿)工場での労働によってアスベスト(石綿)粉じんにばく露し、その結果としてアスベスト(石綿)関連疾患を発症してしまった元工場労働者やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国を相手に賠償を求める訴訟をいいます。
工場型アスベスト(石綿)訴訟では、泉南アスベスト(石綿)訴訟判決以後、和解要件が明確化されており、国との間で裁判上の和解を成立させることによって、賠償金(和解金)を受け取ることができます。
また、アスベスト(石綿)訴訟には、工場型アスベスト(石綿)訴訟だけでなく、建設型アスベスト(石綿)訴訟も含まれます。
これは、アスベスト(石綿)含有建材を用いた建設現場で建設作業に従事していた元建設作業員やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国及びアスベスト(石綿)含有建材の製造販売をしていた建材メーカーを相手に賠償を求める訴訟をいいます。
本記事では、工場型アスベスト(石綿)訴訟についてや、工場型アスベスト(石綿)訴訟と建設型アスベスト(石綿)訴訟の違い等について解説します。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
工場型アスベスト(石綿)訴訟の概要と建設型アスベスト(石綿)訴訟の違い
アスベスト(石綿)訴訟は大きく2つに分類することができます。
一つは工場型アスベスト(石綿)訴訟、もう一つは建設型アスベスト(石綿)訴訟です。
ここでは、工場型アスベスト(石綿)訴訟の和解要件や賠償金(和解金)の金額、建設型アスベスト(石綿)訴訟との違い等について解説します。
(1)工場型アスベスト(石綿)訴訟が起きた経緯
アスベスト(石綿)(石綿)は、繊維状鉱物の総称であり、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト等の6種に分類されます。
アスベスト(石綿)は、耐熱性や耐久性等の特性に優れていますが、その繊維は極めて細かいため、研磨機や切断機による作業や、吹付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと容易に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすいという性質がありました。
そして、人体に吸引された場合、肺胞に沈着し、その一部は対外に排出されずにそのまま肺の組織内に長期間滞留し続けることによって、これが原因となって、石綿肺や肺がん等の疾病を発症させると考えられています。
大阪泉南地域には、戦前戦後を通じて、このようなアスベスト(石綿)を取り扱う工場が多数存在していました。
泉南地域におけるアスベスト(石綿)製品の製造等の工程では、多くのアスベスト(石綿)粉じんが発生し、アスベスト(石綿)工場に従事する労働者は、作業中、相当量のアスベスト(石綿)粉じんに暴露しアスベスト(石綿)関連疾患を罹患することになりました。
そこで、大阪泉南地域にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者やその遺族は、国に対して、適切な規制権限を行使するなどしなかったことを理由に、アスベスト(石綿)関連疾患に罹患したことについてその賠償を求める訴訟を提起しました。
2014年10月9日、最高裁は、「労働大臣は、昭和33年5月26日には、旧労基法に基づく省令制定権限を行使して、罰則をもってアスベスト(石綿)工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり、旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで、労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは、旧労基法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法である」と判断し、国側敗訴の判決(以下、この判決を「泉南アスベスト(石綿)訴訟判決」といいます)を出しました。
現在、この判決をもとに、同様の状況にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者及びその遺族については、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、所定の要件を満たすことが確認されれば、国と裁判上の和解をすることにより賠償金(和解金)を受け取ることが可能となっています。
(2)工場型アスベスト(石綿)訴訟の和解要件
工場型アスベスト(石綿)訴訟では、泉南アスベスト(石綿)訴訟判決をベースに和解要件が明確となっています。
賠償金(和解金)を受け取るためには、国を被告として国家賠償請求訴訟を提起し、和解手続で裁判上の和解を成立させる必要があります。
和解要件は以下のとおりです。この要件を満たすことを証明した場合に限り、国との間で和解を成立させることができます。
昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと。
提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。
以下では、この和解要件について解説します。
(2-1)1958年5月26日~1971年4月28日までの間に局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事
大阪泉南判決では、「1958年5月26日~1971年4月28日までの期間」について国が責任を負う期間とされました。
そのため、この期間内に局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事したことが要件となります。
ここでいうアスベスト(石綿)工場とは、石綿紡織品、石綿建材、石綿水道管など石綿製品の製造・加工工場です。具体的にいかなる工場が対象となるかについては、具体的な作業内容に即して判断する必要があります。
なお、従事していた期間が上記期間の一部であったとしても要件は満たされます。
また、雇用されていた会社(事業場)がすでに倒産や閉鎖されていたとしても問題ありません。
この要件を証明するための資料として、日本年金機構発行の被保険者記録照会回答書(当時の勤務先等が表示される)等が必要とされています。
(2-2)(2-1)の結果として、一定の健康被害を被ったこと
賠償の対象は、あくまでアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事したことによってアスベスト(石綿)関連疾患を発症した方ですので、その他の原因によって肺がんなどの病気を発症した方は対象外となります。
したがって、(2-1)の結果として、一定の健康被害を被ったことが要件となります。
ここでいう一定の健康被害とは、
- アスベスト(石綿)肺
- 肺がん
- 中皮腫
- びまん性胸膜肥厚
をいいます。
この要件を証明するための資料として、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等が必要とされています。
(2-3)提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること
アスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事したことを理由として国に対してその賠償を求める場合、国家賠償法4条により、民法724条が準用されますので、消滅時効は、「被害者又はその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間」、「不法行為の時から20年間」ということになります。
ただし、民法724条の2により、「人の生命または身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、「5年間」とされており(アスベスト訴訟の場合、「人の生命または身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権となります)、改正民法施行日(2020年4月1日)の時点で、改正前民法の消滅時効(3年間)が完成していない場合には、改正民法の規定が適用され、消滅時効は「5年間」となるとされます。
民法の改正がありましたので、少々複雑となっていますが、下記のように、2020年3月31日以前に被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合には、3年の時効となり、2020年4月1日以降に知った場合には、5年の時効となります。
2020年3月31日以前に、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合
↓
知った時から3年で時効完成
(改正前民法適用)
2020年4月1日以後に、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合
↓
知った時から5年で時効完成
(改正民法適用)
そして、ここでいう被害者が「加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれを知った時を意味すると裁判例上解釈されています(最高裁第二小法廷判決昭和48年11月16日)。
つまり、単に加害者を知っているだけでは消滅時効は進行しません。
この点について、建設型アスベスト(石綿)訴訟の裁判例ではありますが、大阪高判平成30年8月31日判決は、労災認定を受けることができた時点において、「損害及び加害者を知った時」にはあたらないとして、労災認定を受けることができた時点から消滅時効が進行するとした被告側の主張を退けました。
また、神戸地裁平成30年2月14日判決は、大手タイヤメーカーの住友ゴム工業に従事したことで石綿被害にあった元労働者等が同社を相手にその賠償を求めた事件ですが、被告側の消滅時効の主張について、「権利の濫用として許されない」として、時効主張を認めませんでした。
被害者らは、法律や医学についての専門的知識を持ち合わせていることは多くはないため、被害者らが、病気の原因が就労時のアスベスト(石綿)ばく露によるものであり、国や企業に対してその責任を法的に追及することができるものだと早期に知ることは大変困難です。
そのため、上記の裁判例のようなかたちで、消滅時効をなるべく被害者に有利な方向で解釈するのが妥当であるといえるでしょう。
(2-4)和解についての留意点
労災保険や石綿健康被害救済制度と、アスベスト(石綿)訴訟は全く別個の手続・制度です。
そのため、労災保険給付や石綿健康被害救済法に基づく給付を受けている方であっても、アスベスト(石綿)訴訟を提起して、賠償金(和解金)を受け取ることは可能ですので、この点につきご注意ください。
(3)アスベスト(石綿)訴訟の賠償金額
厚生労働省が公表している賠償金(和解金)額は以下のとおりです。
この表にある「じん肺管理区分」とは、じん肺健康診断に基づいて、じん肺を区分したものです(じん肺法4条2項)。
なお、じん肺とは、「粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖変化を主体とする疾病」(同法2条1項1号)をいい、アスベスト(石綿)粉じんを吸入したことによる石綿肺もこのじん肺の一つです。
粉じん作業に従事した事業場に勤務している間は、事業者によりじん肺健康診断が行われ、じん肺管理区分の決定申請等についても事業者が行うこととなっていますが、離職後については、ご自身でじん肺健康診断を受けて、お住まいの労働局へ申請をする必要があります。
じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合 | 550万円 |
管理2で合併症がある場合 | 700万円 |
管理3で合併症がない場合 | 800万円 |
管理3で合併症がある場合 | 950万円 |
管理4、肺がん、中皮腫、びまん性硬膜肥厚の場合 | 1150万円 |
アスベスト(石綿)肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 | 1200万円 |
アスベスト(石綿)肺(管理2・3で合併症あり又は管理4)肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 | 1300万円 |
(4)建設型アスベスト(石綿)訴訟との違い
建設型アスベスト(石綿)訴訟とは、アスベスト(石綿)建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員やその遺族の方が、適切な規制権限を行使しなかった国およびアスベスト(石綿)含有建材の製造販売等によって利益をあげていた建材メーカーを相手に、その賠償を求める訴訟をいいます。
2008年に東京地裁で集団訴訟が提起されたのを皮切りとして、横浜、京都、大阪、福岡、札幌、さいたま、仙台の各地で同様の訴訟が提起されました。
2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷により、神奈川、東京、京都、大阪で提起されていた各建設型アスベスト訴訟についての判決が出されました。これにより、国および建材メーカーの責任が確定し、統一的な判断がなされたといえます。
そして、2021年5月18日、国と原告弁護団との間で、この最高裁判決を踏まえて、被害者の救済に関する基本合意書が締結されました。
アスベストに関するご相談は何度でも無料!
弁護士費用は安心の成功報酬制!
石綿健康被害救済法や労災保険の給付を受けている方でも、賠償金の対象になります!
職場におけるばく露以外でばく露するケース
アスベスト(石綿)粉じんにばく露するのは、アスベスト(石綿)工場での作業や建築現場での作業等の職業ばく露に限りません。
ここでは、職業ばく露以外でアスベスト(石綿)粉じんにばく露する可能性があるケースを解説します。
(1)家庭内ばく露
家族内でアスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事していた者がいて、その作業服やユニフォームの洗濯等をしていた場合、衣服に付着したアスベスト(石綿)粉じんを吸引して、ばく露してしまったというケースがあります。
また、空になったアスベスト(石綿)袋を持ち帰り、子どもがそれを使って遊んだりすることによって、アスベスト(石綿)粉じんにばく露してしまったというケースもあります。
さらに、日曜大工を行う中でアスベスト(石綿)含有製品(アスベスト(石綿)が含まれたシートなど)を取り扱い、その切断等の際にアスベスト(石綿)粉じんを吸引してしまったというケースも存在するようです。
(2)近隣ばく露
アスベスト(石綿)工場や造船所の近隣に居住していたり、または、幼少期の頃にその近くで遊んだりしたことがある場合、アスベスト(石綿)工場等から外部に漏れ出たアスベスト(石綿)粉じんを吸引してしまった可能性あります。
(3)職業ばく露以外でばく露した場合の補償等
アスベスト(石綿)被害の救済制度としては主に、工場型・建設型アスベスト(石綿)訴訟、労災保険給付、石綿健康被害救済制度があります(そのほかにも、年2回の健康診断が無料となる健康管理手帳制度や、職種によってはアスベスト(石綿)の補償を行う各種保険等が整備されています)。
このうち、職業ばく露以外のばく露では、工場型・建設型アスベスト(石綿)訴訟を提起して、国等に対して賠償請求をして賠償金を支払わせることはできません。また、労災保険給付についても、業務上疾病の要件を満たさないため、給付を受けることはできません。
これに対して、石綿健康被害救済制度については、「日本国内においてアスベスト(石綿)(石綿)を吸入することにより指定疾病にかかった者又はかかって死亡した者の遺族である旨の認定を、機構から受ける」ことが要件であるため、家庭内ばく露や近隣ばく露によって指定疾病にかかった場合でも、給付を受けることができる可能性があります。
また、近隣ばく露の場合、ばく露の原因を特定して疾病との因果関係を立証することができれば、ばく露の原因となった工場を相手に賠償請求をすることができる可能性があります。
なお、いわゆるクボタショック(大手機械メーカーのクボタの旧神崎工場の元労働者や周辺住民から複数のアスベスト(石綿)関連疾患患者が出ているとして社会的に大きな話題を呼んだ事件)を受け、クボタは、元労働者や周辺住民らに対して見舞金を支払うという事態に至っています。
アスベスト(石綿)の健康被害の救済制度

ここまでアスベスト(石綿)訴訟のような司法的救済手段を解説してきましたが、アスベスト(石綿)粉じんにばく露したことによって被害に遭われた方の救済手段は訴訟だけではありません。
ここでは、労災保険給付や石綿健康被害救済法に基づく給付について解説します。
(1)労災保険給付
労災保険に加入(または特別加入)している方は、労働基準監督署長等宛てに申請を行うことによって、労災保険による給付を受けることができる可能性があります。
(1-1)認定要件について
労災保険給付を受けるためには、石綿肺・中皮腫・肺がん・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚を発症していて、これらが労働者としてアスベスト(石綿)曝露作業に従事していたことが原因である(業務上疾病)と認められることが必要となります。

発症した疾病が業務上疾病であると認定される具体的な要件については、厚生労働省が発行しているリーフレット「石綿(アスベスト(石綿))による疾病の労災認定」をご参照ください。
(1-2)保険給付の内容について
労災保険による給付の内容は以下のとおりです。
保険給付の種類 | 保険給付を受けられる場合 | 保険給付の内容 | 時効 |
---|---|---|---|
療養補償 等給付 | 業務上疾病等により療養する場合 | 労災病院や労災保険指定医療機関等で療養を受けるときは、必要な療養の給付。 労災病院や労災保険指定医療機関等以外で療養を受けるときは、必要な療養の費用の支給。 | 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
休業補償 等給付 | 傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられない場合 | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
傷病補償等年金 | 療養開始後1年6ヶ月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級(1~3級)に該当する場合 | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313~245日分の年金 第1級 313日分 第2級 277日分 第3級 245日分 | 監督署長の職権により移行されるため請求時効はない。 |
障害補償等給付 | 傷病が治って身体障害が残った場合 | 障害等級にしたがって、第1~7級までは、給付基礎日額の313~131日分の年金。 第8~14級までは、給付基礎日額の503~56日分の一時金。 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
介護補償等給付 | 傷病年金または障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合 | 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、16万6950円を上限とする)。 親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が7万2990円を下回る場合は、7万2990円。 随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、8万3480円を上限とする)。 親族等により介護を受けており、介護費用を支出していない場合または支出した額が3万6500円を下回る場合は3万6500円。 | 介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
遺族補償等給付 | 労働者が死亡した場合 | 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245~153日分の年金。 1.遺族(補償)等年金を受け得る遺族がないとき、または、2.遺族(補償)等年金を受けている人が失権し、かつ、他に受け得る人がいない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときは、給付基礎日額の1000日分の一時金(2の場合は、すでに支給した年金の合計額を差し引いた額) | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭料 | 労働者が死亡した場合 | 31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分) | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
(2)石綿健康被害救済制度
「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、「石綿健康被害救済法」といいます。)に基づく給付を受けることができる可能性があります。
この石綿健康被害救済法は、労災給付の対象とならない方(アスベスト(石綿)工場の周辺住民等)や、労災保険の対象であったが時効が経過してしまい労災給付を受けることができなくなった方について、その迅速な救済を図るために制定されました。
そのため、労災保険の対象とならない方であっても、以下にある要件を満たすことによって石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることが可能です。
なお、労災保険給付と石綿健康被害救済法に基づく給付を同時に受けることはできませんので、労災保険の対象となる方については、同法に基づく給付の対象とはなりませんのでご注意ください。
(2-1)石綿健康被害救済制度の要件
「日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかった旨の認定を受けた」こと(石綿健康被害救済法4条1項)、または、指定疾病にかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受けること(同法5条1項)です。
そして、「指定疾病」とは、アスベスト(石綿)を吸入することにより発症する疾病であって、次の4種類の疾病をいいます(同法2条1項)。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

(2-2)石綿健康被害救済制度の給付内容
石綿健康被害救済法に基づく給付の内容は以下のとおりです。
(ア)指定疾病で療養中の方への給付
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
---|---|---|---|
医療費 | 被認定者で認定疾病にかかる医療を受け、自己負担額が発生した場合 | 療養を開始した日以降の健康保険等による給付の額を控除した自己負担額 | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内。ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。 |
療養手当 | 被認定者であれば、月を単位として定額支給される。 | 療養を開始した日の翌月から、支給する事由が消滅した日の属する月まで月額10万3870円 | なし |
(イ)指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡した場合の給付
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
---|---|---|---|
葬祭料 | 死亡した被認定者の葬祭を行う場合 | 19万9000円 | 被認定者が死亡した被の翌日から2年以内 |
未支給の医療費・療養手当 | 死亡した被認定者に支払うべき医療費・療養手当で、被認定者に未支給のものがある場合、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 医療費については、死亡した被認定者が、療養を開始した日以降にかかった認定疾病にかかる保険医療費の自己負担分のうち、医療費として被認定者に支給していないもの。 療養手当については、対象月のうち、未支給となっているもの | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内。 ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。 |
救済給付調整金 | 被認定者に支給された医療費と療養手当および遺族に支給した未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額を、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 被認定者に対して支給された医療費、療養手当および未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額。 なお、医療費には、石綿健康被害医療手帳を医療機関に提示することにより支給された医療費を含む。 | 被認定者が死亡した被の翌日から2年以内。 |
(ウ)救済制度に申請する前に指定疾病で死亡した場合の給付(疾病が中脾腫・石綿による肺がんの場合)
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
---|---|---|---|
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月26日以前に死亡した場合) | 石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以前に、指定疾病に起因して死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 2022年3月27日まで |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月27日以降に死亡した場合) | 石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以降に認定の申請を行わず指定疾病により死亡した者の遺族で、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 死亡した日の翌日から15年以内。 ただし、中皮腫または肺がんにより、2006年3月27日~2008年11月30日までに死亡した者の遺族からの請求は、2023年12月1日まで。 |
(エ)救済制度の申請する前に指定疾病により死亡した場合の給付(疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚)
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
---|---|---|---|
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年3月26日以前に死亡した場合) | 改正政令施行日(2010年7月1日)より前に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 2026年3月27日まで |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年7月1日以降に死亡した場合) | 改正政令施行日(2010年7月1日)以降に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 死亡した日の翌日から15年以内。 |
【まとめ】工場型アスベスト訴訟とは、アスベスト工場の元労働者やその遺族が国に賠償を求める訴訟であり、国と裁判上の和解の成立させることによって、賠償金(和解金)を受け取ることが可能
本記事をまとめると以下のようになります。
- アスベスト(石綿)工場で作業をしたことによってアスベスト(石綿)粉じんにばく露した結果、長い潜伏期間の末に肺がん等のアスベスト(石綿)関連疾患を発症する健康被害が問題となった
- 大阪泉南判決をきっかけに、国との間の和解要件が明確化され、和解要件を満たす被害者は国を相手に国賠請求訴訟を提起し、裁判上の和解を成立させることによって、賠償金(和解金)を受け取ることが可能となった
- 職業ばく露以外にも、家庭内ばく露や近隣ばく露によってアスベスト(石綿)粉じんにばく露するケースがある
- アスベスト(石綿)被害に遭われた方に救済制度については、訴訟だけではなく、労災保険給付や石綿健康被害救済法に基づく給付も存在する
現在、アディーレ法律事務所では、アスベスト(石綿)被害に悩まれておられる方を一人でも多く救いたいとの想いから、アスベスト(石綿)被害についての相談をお待ちしております。
アスベスト(石綿)被害にあわれた方は、アディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。