「アスベストっていつまで使われていたの?」
アスベスト(石綿)の規制は、1970年以降に本格化するようになり、1975年に5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される等の措置がなされた以降、段階的に規制措置がとられていき、2006年の安全衛生施行令の改正により、アスベスト製品の全面禁止の措置がとられました。
この規制以降、事実上アスベストは使用されなくなります。
本記事では、
- アスベストの概要
- アスベスト被害
- アスベスト規制の歴史
について、解説します。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
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アスベストの概要
アスベストとは、繊維状鉱物の総称で、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種に分類されます。このうち、日本において主に使用されていたアスベストは、クリソタイル、アモサイト、クロシドライトの3種です。
アスベストは、ほぐすと綿のようになり、その繊維は極めて細かく、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等の特性に優れています。このようなアスベストの特性はアスベスト以外の単一の天然鉱物や人工物質にはほとんどみられないことから、「奇跡の鉱物」と呼ばれることもありました。
アスベストは工業製品の原材料として優れた適格性を有していると考えられ、建材などの様々な工業製品の原材料に使用されていました。
参考:アスベスト(石綿)とは?|独立行政法人 環境再生保全機構
一方で、アスベストには、人体に対する高い有害性があります。アスベストは、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などの肺の疾病の原因になることが明らかになっています。
アスベストの繊維は非常に細かいため、研磨機や切断機による作業や、吹き付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと容易に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすく、人体にいったん吸引されると、肺胞に沈着し、その一部は肺の組織内に長期間滞留することになります。この肺に長期間滞留したアスベストが要因となって、肺がん、悪性中皮腫等を引き起こすと考えられています。
アスベスト被害
アスベストを吸引してもすぐに疾病を発症するわけではありません。通常、数十年という長い潜伏期間を経てから疾病を発症することになります。
例えば、アスベストを原因としてしか発症しないといわれている悪性中皮腫については、アスベストばく露から約20~50年程度の潜伏期間を経てから発症するのが通常であるとされています。
次の表は、日本における中皮腫による死亡者数の推移です。
平成7年には500人であったのが、令和2年には最高値である1605人を記録しており、約3倍に増加しています。
参考:都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~令和2年)|厚生労働省
上記のデータから、過去にアスベストにばく露した方のアスベスト被害が年々顕在化している傾向にあることがわかります。
アスベストにばく露する機会としては職業性ばく露(仕事上でアスベストを取り扱ったことによってアスベストにばく露してしまうこと)が最も多く、中皮腫患者の大部分も職業性ばく露によって被害にあったと考えられます。
アスベスト規制の歴史
アスベスト規制の歴史を解説します。
(1)じん肺法の制定
1960年、じん肺法が制定されました。
じん肺は、土埃や金属・鉱物の粉じんなどを長期間吸い込むことで発症する肺の疾病であり、石綿肺も、じん肺の一種です。
じん肺法では、粉じん作業に従事した労働者への定期的なじん肺健康診断の実施を使用者に対して義務付ける等の措置がとられています。
(2)特化則の制定
1971年には、特定化学物質等障害予防規則(「特化則」といってご説明します)が制定されました。
特化則の主な内容は次のとおりです。
- アスベスト粉じんが飛散する屋内作業場では、原則として、局所排気装置を設置する
- アスベストを製造し、または取り扱う作業場に呼吸用保護具を備え付ける
- アスベストを製造し、または取り扱う作業場への関係者以外の立ち入り禁止
- 特定化学物質等作業主任者の選任
- アスベストを常時製造し、または取り扱う屋内作業場において、空気中の濃度測定を半年に1回実施する
(3)安衛法の制定
1972年、アスベストばく露への防止対策の強化として、労働安全衛生法(「安衛法」といってご説明します)が制定されました。
安衛法では、局所排気装置についての定期的な自主検査や、アスベスト被害者の健康診断にかかる費用負担の軽減を図ること等も目的とする健康管理手帳制度の創設などの規定が設けられました。
(4)特化則の改正|5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業の原則禁止
建設作業の中でも、アスベストの吹き付け作業は、特にアスベストばく露量が多く、作業者への危険が高いとされていました。
そこで、1975年、特化則の改正により、5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される等の措置がなされました。
ここでいう重量%とは、物質100gの中に含まれる特定の物質の割合です。1975年の特化則に改正によって、100gあたりのアスベスト含有量が5gを超えるアスベスト含有吹付材を用いた吹き付け作業が原則として禁止され、事実上、吹き付け作業はできなくなりました。
そのほかにもこの特化則の改正には、局所排気装置の性能要件の改正、石綿等の作業環境測定記録の保存期間の延長、特殊健康診断の実施等、アスベスト対策の強化が含まれています。
もっとも、1975年の特化則改正では、アスベストへのばく露防止対策を中心としたものであり、アスベスト製品の製造等の禁止といった強い規制措置はとられていません。
(5)安衛令、安衛則及び特化則の改正|アモサイト・クロシドライト製品の製造等の禁止
1995年、安全衛生施行令(「安衛令」といってご説明します)、安全衛生施行規則(「安衛則」といってご説明します)、特化則の改正がなされました。
安衛令の改正では、アモサイト・クロシドライトの製造、輸入、譲渡、提供、または使用が禁止されました。アモサイト・クロシドライトは、石綿の中でも発がん性が高いとされています。もっとも、この改正では、日本において使用されるアスベストのうち最も使用率の高かったクリソタイルについては規制されませんでした。
安衛則の改正では、吹き付け石綿除去作業の事前届出が義務付けられるようになり、また、特化則の改正では、これまで5重量%を超えるものが規制対象だったのが、1重量%超まで拡大される等の措置がとられました。
(6)安衛令の改正|アスベスト製品10品目の製造等の禁止
2004年、安衛令が改正され、石綿を含有する石綿セメント円筒、押出成形セメント板、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング、クラッチフェーシング、クラッチライニング、ブレーキパッド、ブレーキライニング及び接着剤の10品目の製造等が禁止されることになりました。
参考:労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(石綿関係)|厚生労働省
(7)安衛令の改正|アスベスト製品の全面禁止
2006年、再度、安衛令が改正され、この改正により、0.1重量%を超えるアスベスト製品の製造、輸入、譲渡、提供また使用が禁止されました。改正当初は、一部の製品について猶予措置がとられていましたが、2012年に猶予期間が終了しました。
これにより、事実上、アスベスト製品の製造等は全面的に禁止されたことになります。
そのため、現在では、建物の建築や製品の製造の場面において、アスベストが使用されることはありません。
【まとめ】2006年にアスベスト製品は全面禁止された
本記事をまとめると次のようになります。
- かつては多くのアスベストが建材などに使用されていたが、徐々にその危険性が認識されるようになり、規制措置がとられることになった
- 1975年、特化則の改正により、5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される等の措置がなされた
- 1995年、アモサイト・クロシドライトの、製造、輸入、譲渡、提供、または使用が禁止された
- 2004年、石綿含有建材10品目の製造等が禁止された
- 2006年、再度、安衛令が改正され、この改正により、0.1重量%を超えるアスベスト製品の製造、輸入、譲渡、提供また使用が禁止され、アスベスト製品の全面禁止の措置がとられた
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※以上につき、2023年1月時点
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