「昔、塗装工として、アスベストを使って作業していたことがあるんだけれど、自分でも賠償金を請求することは可能なのだろうか?」
これまで賠償責任が認められた主な職種には、大工、内装工、電工、吹付工、左官工等さまざまなものがあります。
本記事では、
- アスベストと建設業
- 建設型アスベスト訴訟とは?
- 建設型アスベスト訴訟の最高裁判決|国及び建材メーカーの賠償責任が認められた職種は?
- 建設アスベスト被害者に対して訴訟によらずに給付金を支給する法律が成立
について解説します。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
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石綿健康被害救済法や労災保険の給付を受けている方でも、賠償金の対象になります!
アスベストと建設業
アスベストは、かつて、建材の原料として建設業で大変重宝されていました。もっとも、そのことが原因で、現在、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員のアスベスト被害が問題となっています。
ここでは、アスベストの概要と、建設業におけるアスベストについて解説します。
(1)アスベストの概要
アスベスト(石綿)とは、繊維状の天然鉱物の総称です。クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトの6種類があります。
アスベスト(石綿)は、ほぐすと綿のようになり、その繊維は極めて細かく、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等の特性に優れているため、様々な工業製品の原材料に使用されていました。
もっとも、アスベスト(石綿)は工業製品の原材料等として優れた特性を有している反面、人体に対する有害性を有しています。
アスベスト(石綿)の繊維は非常に細かいため、研磨機や切断機による作業や、吹き付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと用意に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすく、人体にいったん吸引されると、肺胞に沈着し、その一部は肺の組織内に長期間滞留することになります。この肺に長期間滞留したアスベスト(石綿)が要因となって、肺がん、悪性中皮腫、石綿肺を引き起こすと考えられています。
(2)建設業におけるアスベスト
アスベスト(石綿)は、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等の特性に優れているため、特に、建材の原料として重宝され、吹付材、保温材、断熱材、スレート材等の建材に多くのアスベスト(石綿)が使用されてきました。輸入されたアスベスト(石綿)の約8割は建材に使用されたとされます。
アスベスト(石綿)粉じんにばく露しても直ちに症状がでることは稀です。通常、一定期間の潜伏期間をはさんで症状がでます。例えば、石綿肺は、通常であれば約10年程度の潜伏期間を経て症状が発生するといわれており、悪性中皮腫にいたっては、40~50年と非常に長い潜伏期間を経て症状が発生することもあるといわれています。
このように、アスベスト(石綿)による被害は潜伏期間を経て発生するため、近年にいたってアスベスト(石綿)による被害が顕在化しています。例えば、中皮腫による死亡者総数は、1995年の500人から2013年の1410人と約3倍に増加しています。
建設業では、アスベスト含有建材が多く用いられていたことから、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員の健康被害が現在になり問題となっています。
建設型アスベスト訴訟とは?
アスベスト(石綿)には人体に対する非常に高い有害性があり、アスベスト(石綿)含有建材を用いて作業に従事していた建設作業員らにアスベスト(石綿)被害が多発するようになりました。
このようなアスベスト(石綿)の有害性を知り又は知ることができたのに、建材メーカーはその有害性について十分な警告をせず、アスベスト(石綿)含有建材を製造・販売して利益を上げ続け、国もこれらに十分な規制を課しませんでした。
アスベスト(石綿)含有建材を用いて建設作業に従事していたことによってアスベスト(石綿)にばく露して、石綿関連疾病を発症してしまった元建設作業員やその遺族が、国と建材メーカーの責任を問うための裁判を起こしました。
このような裁判を建設型アスベスト訴訟といいます。2008年に東京地裁で起こされた裁判を皮切りに、横浜、京都、大阪、福岡、札幌、さいたま、仙台の各地の地方裁判所で同様の裁判が起こされました。
建設型アスベスト訴訟の最高裁判決|国及び建材メーカーの賠償責任が認められた職種は?
建設型アスベスト訴訟に対する最高裁判決の内容と、国及び建材メーカーの賠償責任が認められた職種について解説します。
(1)国と建材メーカーの責任を認める最高裁判決が言い渡される
2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷により、4つの建設アスベスト訴訟(横浜訴訟、東京訴訟、京都訴訟、大阪訴訟)について、国及び建材メーカーの責任を認める判決が言い渡されました。
参照:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号)|裁判所 – Courts in Japan
参照:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第491号,第495号)|裁判所 – Courts in Japan
参照:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第596号)|裁判所 – Courts in Japan
参照:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第290号,第291号,第292号)|裁判所 – Courts in Japan
最高裁判決では、国の責任について、改正特化則の施行日である1975年10月1日から、改正安衛令施行日前日である2004年9月30日までの間に、屋内作業に従事していた元建設作業員(個人事業主ないしは一人親方も含まれます。)およびその遺族に対する国の賠償責任が認められました。
また、建材メーカーの責任については、以下の10社が元建設作業員および遺族に対して賠償責任を負うとされました。
- エーアンドエーマテリアル
- ニチアス
- エム・エム・ケイ
- 大建工業
- 神島化学工業
- ノザワ
- 日鉄ケミカル&マテリアル
- 太平洋セメント
- 日東紡績
- 日本バルカー工業
(2)国及び建材メーカーの賠償責任が認められた職種は?
アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していた建設作業員と一口に言っても、様々な職種があります。
以下は、これまで賠償責任が認められた主な職種となります。
大工、内装工、電工、吹付工、左官工、塗装工、タイル工、配管工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、ブロック工、保温工、鳶工、墨出し工、型枠大工、解体工、はつり工、築炉工、エレベーター工、サッシ工、シャッター工、電気保安工、現場監督
なお、上記の職種群はあくまで目安であり、それ以外の職種の方に対する賠償責任が否定されるというわけではありません。
また、後述するよう、国の責任との関係では、今後、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律』に基づき給付金を支給するという形で、建設アスベスト被害者の救済が図られることになりますが、上記の職種群は、「特定石綿被害建設業務労働者等であること」という給付金の支給要件を判断する際の目安程度のものとして参考にするのがよいでしょう。
建設アスベスト被害者に対して訴訟によらずに給付金を支給する法律が成立
2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます。)』が成立しました。
給付金法は、建設業務に従事したことによってアスベスト(石綿)にばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
これまで、建設業務に従事したことによるアスベスト(石綿)被害について国の責任を問うためには、国を被告として損害賠償請求訴訟を起こす必要がありました。
給付金法の成立によって、このような損害賠償請求訴訟を起こすことなく、被害者の金銭的な救済が図られることとなります。
(1)給付金の要件
給付金の支給要件は、特定石綿被害建設業務労働者等であること、および、期間制限を経過していないことの2つです。
(1-1)特定石綿被害建設業務労働者等であること
『特定石綿被害建設業務労働者等であること』とは、労働基準法9条に規定される「労働者」やいわゆる一人親方等であって、特定石綿ばく露建設業務に従事することにより石綿関連疾病にかかったものをいいます(給付金法2条3項)。
【特定石綿ばく露建設業務について】
特定石綿ばく露建設業務については、給付金法2条1項に規定されています。
日本国内において行われた石綿にさらされる建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業若しくはこれらの作業の準備の作業に係る業務又はこれに付随する業務をいう。)のうち、以下の1、2の業務
1.石綿の吹付けの作業に係る業務(1972年10月1日~1975年9月30日までの間に行われたものに限る。)
2.屋内作業場であって厚生労働省令で定めるものにおいて行われた作業に係る業務※(1975年10月1日~2004年9月30日までの間に行われたものに限る。)
※屋内での石綿吹付作業に係る業務も含まれます
【石綿関連疾病について】
石綿関連疾病については、給付金法2条2項に規定されています。
石綿を吸入することにより発生する次に掲げる疾病
(ア) 中皮腫
(イ) 気管支又は肺の悪性新生物(肺がん)
(ウ) 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
(エ) 石綿肺(じん肺管理区分の管理2、管理3、管理4、またはこれに相当するものに限る)
(オ) 良性石綿胸水
(1-2)期間制限を経過していないこと
給付金の請求には期間制限があります。そのため、期間制限を経過していないことも給付金の支給要件となります。
期間制限については、給付金法5条2項に規定されています。
[疾病] | [起算日] | |
(i) | じん肺管理区分管理2、管理3及び管理4と決定された石綿肺 | 管理区分の決定があった日から20年 |
(ii) | (i)以外の石綿関連疾病罹患者※ | 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日から20年 |
(iii) | 死亡 | 死亡日から20年 |
※じん肺管理区分管理2以上の石綿肺に相当するものの、じん肺管理区分の決定を受けていない石綿肺の起算日ついては、(i)ではなく、(ii)となると考えられます。
(2)給付金額
給付金額については、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由がある場合には減額』というプロセスで決定されます。
(2-1)基本的な給付金額について
給付金額については、給付金法4条1項に規定されています。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 550万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 700万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 800万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 950万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者 | 1150万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した者 | 1200万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した者 | 1300万円 |
なお、遅延損害金及び弁護士費用については支給されませんので、注意が必要です。
(2-2)減額事由について
減額事由は、石綿ばく露期間による減額、喫煙習慣による減額の2つです。
【石綿ばく露期間による減額(給付金法4条2項)】
下記表の石綿ばく露期間を下回る場合には、100分の90に減額されます。
[疾病] | [石綿ばく露期間] |
肺がん又は石綿肺 | 10年 |
びまん性胸膜肥厚 | 3年 |
中皮腫又は良性石綿胸水 | 1年 |
減額後の給付金額は下記表のようになります。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 495万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 630万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 720万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 855万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者 | 1035万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した者 | 1080万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した者 | 1170万円 |
【喫煙習慣による減額(給付金法4条3項)】
肺がんにかかった特定石綿被害建設業務労働者等で、喫煙習慣がある者については、100分の90に減額されます。なお、石綿ばく露期間による減額事由も認められる場合、石綿ばく露期間による減額により算出された金額に、100分の90を乗じた金額が給付金額とされます。
[疾病] | [ばく露期間減額の有無] | [減額後の金額] |
肺がんによる死亡 | ばく露期間による減額なし | 1170万円 |
ばく露期間による減額あり | 1053万円 | |
肺がん | ばく露期間による減額なし | 1035万円 |
ばく露期間による減額あり | 931万5000円 |
(3)給付金は遺族でも請求することが可能
特定石綿被建設業務労働者等が死亡した場合、遺族が自己の名で給付金を請求することができます(給付金法3条2項)。
ただし、遺族が複数いる場合、給付金の支給を受けることができる遺族について順位付けがなされており、上位の順位の遺族がいる場合、下位の遺族は給付金の支給を受けることができません。
遺族が複数いる場合における、給付金の支給を受けることができる順位については、給付金法3条3項、同条4項に規定されています。
1位 | 配偶者(事実婚の配偶者を含む) |
2位 | 子 |
3位 | 父母 |
4位 | 孫 |
5位 | 祖父母 |
6位 | 兄弟姉妹 |
遺族が請求する場合について、注意点が2点あります。
まず1点目は、同順位の遺族が複数いた場合、1人の請求が同順位の遺族全員の請求とみなされるという点です。
給付金法3条5項では、「給付金の支給を受けるべき同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人がした請求は、その全額について全員のためにしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす」とされており、例えば、配偶者が存在せず、子が2人以上いる場合、複数の子のうち1人が給付金を請求した場合、子の全員が請求したものとみなされます。
2点目は、給付金の支給を受けることができる順位が民法の相続法の規定と若干異なっている点です。
民法では、配偶者と子がいる場合、それぞれ法定相続人となり、2分の1ずつの法定相続分を有していることになります。給付金法では、配偶者の方が子よりも順位が上になっています。そのため、配偶者がいる場合には、たとえ子がいたとしても、給付金の請求権を有するのは配偶者のみということになります。
(4)給付金の受給手続きをお考えの方は弁護士に相談を
給付金の受給手続きは、個人でも行うことが可能です。
もっとも、給付金を受給するためには、要件を証明するための資料を提出する必要があり、どのような資料がこれに当たるのか、集めた資料で要件を証明できそうなのかといった判断には専門的な知識が必要になる場合が少なくありません。
また、期間制限が迫っている場合には、速やかに請求することが必要になりますので、資料の収集も急ぐ必要があります。
この点、弁護士に依頼すれば、弁護士の関与の下、スムーズに資料の収集を進めることが可能です。
また、弁護士に依頼した場合の費用については、アスベスト訴訟の場合、相談料・着手金を無料として、報酬についても、賠償金(和解金)や給付金が支給された場合のみ(支給されない場合は報酬ゼロ)、支給された賠償金や給付金からお支払いいただくという形式をとっている事務所が多いです。そのため、実費の負担を除けば、経済的負担をかけることなく、弁護士に依頼して手続きを進めることが可能です。
以上から、建設アスベスト訴訟で給付金の受給手続きをお考えの方は、一度弁護士に相談されることをお勧めいたします。
【まとめ】これまで賠償責任が認められた主な職種には、大工、内装工、電工、吹付工、左官工等さまざまなものがある。今後、建設アスベスト被害者の救済は給付金法によって図られることが見込まれる
本記事をまとめる以下のようになります。
- 建設業では、かつて多くのアスベストが建材に利用されていた。そのことが原因で、現在、元建設作業員のアスベスト被害が問題となっている
- 建設アスベスト訴訟とは、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員やその遺族が、国及び建材メーカーに賠償を求める訴訟をいう
- 2021年5月17日、国と建材を敗訴とする最高裁判決が言い渡され、国と建材メーカーの責任が確定した。
- これまで賠償責任が認められた職種は、大工、内装工、電工、吹付工、左官工、塗装工、タイル工、配管工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、ブロック工、保温工、鳶工、墨出し工、型枠大工、解体工、はつり工、築炉工、エレベーター工、サッシ工、シャッター工、電気保安工、現場監督
- 2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律』が成立
- この法律によって、建設アスベスト(石綿)被害者は、訴訟によらずに、最大1300万円の給付金の支給を受けることが可能となる
- 給付金の要件は、「特定石綿被害建設業務労働者等であること」と「請求期間を経過していないこと」の2つ
- 被害者がすでに亡くなっていても、遺族による請求が可能
- 給付金額は、疾病の種類によって異なり、495万~1300万円となる
- 石綿ばく露期間、および、(肺がんの場合)喫煙習慣による減額がある
アディーレ法律事務所では、アスベスト(石綿)被害に悩まれておられる方を一人でも多く救いたいとの想いから、アスベスト(石綿)被害についてのご相談もお待ちしております。
アスベスト(石綿)被害にあわれた方またはそのご遺族は、アディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。