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任意保険入っていない車と事故を起こしたら、どうなる?弁護士が詳しく解説

作成日:更新日:
リーガライフラボ

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

本来、交通事故の被害者は加害者が加入する任意保険から保険金を貰うことができます。

では、加害者が任意保険に加入していなかった場合、被害者はきちんと治療費や慰謝料といったお金を貰うことができるでしょうか。

実は、加害者が任意保険に加入していない場合であっても、加害者側が自賠責保険に加入している限り(加入義務あり)、加害者側の自賠責保険からお金を受け取ることができます。

しかし、自賠責保険は物損事故(人がケガしていない場合)には利用できず、さらに補償額に上限があります。

加害者側が自主的に損害賠償を支払えばよいのですが、支払いをしないときには、十分な賠償金を受けるために、必要な対処をする必要があります。

今回の記事では、

  • 加害者が任意保険に加入していなかった場合の対処方法や注意点

について弁護士が詳しく解説します。

この記事の監修弁護士
弁護士 中西 博亮

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

任意保険とは(自賠責保険との違い)

自動車保険には、任意保険と自賠責保険が存在します。

任意保険は任意で入ることができる保険ですが、自賠責保険は自動車購入時に一緒に入るケースが多く、強制加入とされています。

ここで、任意保険と自賠責保険の違いについて見ておきましょう。

自動車保険の種類内容
自賠責保険自動車の保有者に法律上加入が義務付けられている保険。交通事故の被害者に対して最低限の補償を行うことを目的としており、補償対象となるのは人的な損害(ケガの治療費や、休業損害など)だけで、物的損害(車の修理代など)は対象となりません。
任意保険自動車の保有者や使用者が任意に加入する保険。
人身損害を生じさせた場合に不足する賠償額分や物的損害の補償を受けるために、自賠責保険に加えて任意保険にも加入することが一般的。
任意保険への加入は、自賠責保険への加入と異なり法律上強制されているものではありませんので、任意保険に加入していないこと自体は法律上問題にはなりません。

なお、統計によれば、任意保険(対人賠償)の普及率(車種合計)は74.8%です。自家用普通乗用車に限れば、任意保険(対人賠償)の普及率は82.6%と高くなっています。
この普及率は地域により違いがあり、最も低い都道府県が沖縄県の54.3%、最も高いのが大阪府の82.7%となっています。

参照:自動車保険の概況2019年度(2018年度統計)|損害保険料率算出機構

【物損事故の場合】任意保険未加入の車との事故、保険会社から支払いを受けられる?

交通事故による被害が車両などの故障のみで、人のケガ(人損)がない場合(物損事故の場合)、被害者の損害の賠償は、自賠責保険から支払いを受けることができません。

そのため、基本的に加害者本人に請求することになります。

なぜなら、物損事故の場合、加害者側加入の自賠責保険からの補償は受けることはできないからです(自賠責保険の補償対象は人損のみで、物損は対象外)。

この場合、加害者本人に支払い意思や支払い能力があればよいのですが、任意保険に加入していない者は、賠償金を支払う能力がないケースも少なくありません。

加害者本人に支払い意思や支払いの能力がない場合、仮に、加害者に賠償金支払いを求めて訴訟を提起し、最終的に勝訴したとしても、結局その賠償金を回収できない可能性が高いです。

そのため、このような場合には、自分が加入している車両保険を利用することを検討せざるを得ないでしょう。

<コラム> 加入している保険の内容次第では、車両保険が利用できないケースも

車両保険が「一般条件」か「車対車・限定特約」かどうかによって車両保険が使える範囲は違うので注意が必要です。

  • 一般条件:ほとんどの事故で利用可能(地震・噴火・津波などの災害は除く)
  • 車対車・限定特約:一般条件よりも保険料が安く、補償範囲も狭くなる
    他の自動車との衝突は補償対象となりますが、ガードレール接触などの単独事故、当て逃げなどは対象外

【人身事故の場合】任意保険未加入の車との事故、保険会社から支払いを受けられる?

交通事故でケガをした場合(人身事故の場合)、加害者が任意保険に加入していなくても、被害者の損害は、加害者側が加入している自賠責保険から支払いを受けることができます。

ただし、自賠責保険は損害の程度別に賠償額の上限が決まっていたりしますので、すべての損害の賠償が受けられるわけではありません。

例えば、自賠責保険では、傷害による保険金は120万円、後遺障害による保険金は等級により75万~4000万円、死亡による保険金は3000万円が上限となっており、一般的に、任意保険会社との交渉の結果受け取ることのできる賠償額よりも低額となっています。

<コラム> 金額が足りない場合には被害者自身が加入する保険が利用できるケースも

加害者の自賠責保険で十分な補償が受けられない場合には、不足分について、被害者自身の自動車保険を使って補償を受けることができるケースがあります。
次のような特約に加入していることが必要となります。

  • 人身傷害特約:被害者側に過失があったとしても、過失割合と関係なく特約の範囲内で保険金が支払われます。
  • 無保険車傷害特約:死亡・後遺症による損害に対する保険金の支払いを受けることができます。

通勤や仕事中の事故なら労災保険が使えることも

通勤途中や業務中の事故であれば、加害者の保険会社や加害者からの支払いが期待できない場合でも、あなたの会社の労災保険を利用することができます。

労災保険には様々な給付内容があり、自賠責保険の補償内容と一部重なる部分があります。

例えば、労災保険でも自賠責保険でも、ケガのために働くことができず収入を失ったときは、賃金の一部相当額が給付されますが、双方の保険から2重にこの休業補償を受け取ることはできません(休業特別支給金は別)ので、注意が必要です。

<コラム> 加害者の仕事中の事故であった場合

加害者が仕事中に事故を起こした場合には、加害者本人だけでなく、働いている会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります(民法715条)。

示談交渉で損をしないための3つのポイント

加害者との示談交渉で、本来貰えるはずの賠償金がもらえないなどの知らず知らずに損をしてしまう事態を防ぐためには、次の3つのポイントについて気を付けることをおすすめします。

  1. 納得するまで示談は成立させない
  2. 賠償金の項目に漏れがないかを確認する
  3. 賠償金請求の時効(請求期限)までに示談交渉等を行う

それぞれ説明します。

(1)納得していないなら示談を成立させない

「忙しいし加害者との話を早く終わらせたい」などの思いから、早く示談を成立させてしまいたいと思うかもしれません。しかし、納得していない場合にも示談を成立させてしまうことはお勧めしません。

確かに、加害者と納得できるまで話し合うことは時間や負担がかかってしまいます。しかし、一度示談を成立させてしまうと、後から自分に不利な点に気づいたとしても基本的に示談をやり直すことはできません。

交通事故の示談交渉で損をしないための注意点について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

【弁護士監修】交通事故の示談交渉で損しないための5つの注意点について

「働けないし、示談金がないと生活に困ってしまう…」というような場合には、示談成立前であっても加害者加入の自賠責保険から直接保険金を受け取ることもできますので、自賠責保険会社や弁護士に問い合わせてみてください。

(2)賠償金の項目に漏れがないかを確認する

交通事故の被害者は、交通事故という不法行為が原因で、自動車が破損したり、ケガをしたりすることで、経済的な損害を受けたり、ケガの痛みや治療などによる精神的な苦痛を被ったりします。

被害者は、交通事故で受けたこのような損害について、加害者に対して損害賠償を請求する権利があります。この権利を、損害賠償請求権といいます。

交通事故における示談では、示談金のそれぞれの項目について加害者が被害者に対していくら支払うのかを話し合うことになります。

自身がどういった示談金を受け取ることができるのかきちんと把握しておくことで、本来受け取れるはずの示談金を受け取ることができなくなってしまうということを防ぐことができます。

交通事故の示談で話し合うべき示談金の主な内訳としては、次のとおりです。

示談金の項目内容
入通院慰謝料
(傷害慰謝料)
傷害を受けたことにより生じた精神的苦痛を償う慰謝料
治療関係費手術、治療、入院、薬などにかかった費用
付添看護費看護や付添を必要としたことに対する費用
通院交通費病院へ通院するために必要となった交通費
休業損害仕事を休んだことで得られなくなった収入に対する賠償
後遺症慰謝料後遺症が残ったことにより生じた精神的ショックを償う慰謝料
後遺症逸失利益後遺症が残ったことにより得られなくなった、将来得られるはずだった利益(収入など)に対する賠償
将来介護費後遺症が残って要介護となり、将来負担することになってしまった介護費用に対する賠償

(3)賠償金請求の時効(請求期限)までに示談交渉を行う

賠償金請求は未来永劫いつでも請求できるわけではありません。

法律上、時効(請求期限)が決まっており、時効の援用がなされて、時効が完成してしまうと、賠償金請求ができなくなってしまいます。

加害者に対する損害賠償請求権の時効は、損害及び加害者を知った時から、人身損害は5年、物的損害は3年です(民法724条の2、2020年4月1日以降に発生した人身事故の場合)。

時効が完成する前に、示談を成立させるように話し合いをすすめるとよいでしょう。一定の行為を取ることで時効の完成を阻止することができますので、時効完成が近づいていてもあきらめずに、弁護士に相談して対処してもらうとよいでしょう。

<コラム> 自賠責保険の時効は3年!

加害者の自賠責保険に対する被害者請求権も時効にかかります。この時効は、人身事故であっても3年で完成しますので注意するようにします(自賠法19条、2010年3月31日以前の事故の場合は2年)。
具体的な時効期間は、傷害部分の損害については事故日から、死亡の損害については死亡日から3年間です。

後遺症部分の損害については、実務的には症状固定日または最後の等級認定からと考えられていますが、事故時とする考え方もあり、難しい議論がありますので、個別具体的には弁護士の意見を聞くようにしましょう。
3年以内に請求が困難な場合には、実務上、自賠責保険に対して時効中断申請を行うことによって、中断時から新たに3年間の時効期間が進行しますので、忘れずに申請するようにしましょう(2010年3月31日以前の事故の場合は2年延長)。

交通事故の賠償金請求の時効についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

【弁護士監修】交通事故の損害賠償請求で必ず知っておくべき「時効」について

【まとめ】任意保険未加入でも自賠責保険や車両保険等から補償を受けられる可能性あり

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 任意保険と自賠責保険の違い
保険の種類内容
自賠責保険自動車の保有者に法律上加入が義務付けられている保険。交通事故の被害者に対して最低限の補償を行うことを目的としている。
任意保険自動車の保有者や使用者が任意に加入する保険。人身損害を生じさせた場合に不足する賠償額分や物的損害の補償を受けるために、自賠責保険に加えて任意保険にも加入することが一般的。
  • 任意保険未加入の車との事故、保険会社から支払いを受けられる?
物損事故の場合人身事故の場合
被害者の損害の賠償は、自賠責保険からであっても支払いを受けることができません。
加害者本人が代わりに支払えばよいですが、支払いが難しい場合には被害者本人の車両保険の利用を検討しましょう。
被害者の損害は、加害者が加入している自賠責保険から支払いを受けることができます。
ただし、自賠責保険は損害の程度別に賠償額の上限が決まっていたりしますので、すべての損害の賠償が受けられるわけではありません。
  • 示談交渉で損をしないための3つのポイント
  1. 納得するまで示談は成立させない
  2. 賠償金の項目に漏れがないかを確認する
  3. 賠償金請求の時効(請求期限)までに示談交渉等を行う

加害者側が任意保険に加入していない場合は、加害者側の自賠責保険や、加害者本人から賠償金を受け取る必要があります。

自賠責保険や加害者本人への請求は、自分自身で行うこともできますが、不安な点も多いと思います。交通事故を取り扱う弁護士に一度相談することをお勧めします。

この記事の監修弁護士
弁護士 中西 博亮

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

※¹:2024年11月時点。

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