「有給が取れずに余ってる…いっそのこと会社に買い取ってもらえないのかな。」
有給休暇は実際に労働者を休ませることに意味があるので、会社が有給休暇の買取をすることは原則として違法となります。
しかし、常に違法となるわけではなく、有給休暇の趣旨に反しない(労働者の不利益にならない)のであれば、有給休暇の買取が例外的に適法になることがあります。
今回の記事では、次の内容について弁護士が解説します。
- 有給休暇の買取が適法になる場合
- 有給化の買取の場合に気を付けるべきポイント
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
有給休暇とは
有給休暇は、健康で文化的な生活のために、労働者に認められる権利であり、休んでも一定の給料をもらえる日のことをいいます。
労働基準法39条1項により、企業は雇用の態様にかかわらず「一定の条件」を満たした労働者に、一定の有給休暇を与える義務があります。
「一定の条件」とは、次のいずれも満たす場合です。
- 雇入れの日から6ヶ月間継続して勤務していること
- 全労働日の8割以上出勤していること
有給休暇の日数
有給休暇の日数は、次のとおりです。
【フルタイム従業員(※)】
雇入日からの勤続日数 | 付与される年次 有給休暇の日数 |
---|---|
6ヶ月経過時 | 10日 |
1年6ヶ月経過時 | 11日 |
2年6ヶ月経過時 | 12日 |
3年6ヶ月経過時 | 14日 |
4年6ヶ月経過時 | 16日 |
5年6ヶ月経過時 | 18日 |
6年6ヶ月経過時(その後は1年経過ごとに) | 20日 |
※ここでいう、フルタイム従業員とは、次のいずれかに該当する場合です。
- 週所定の労働時間が30時間以上
- 所定の労働日数が週5日以上の労働者又は1年間の所定労働日数が217日以上
職業訓練(職業能力開発促進法第24条1項)を受け、かつ、労働基準法70条に基づく命令の適用を受ける未成年者(雇入日が1994年4月1日以降のものに限る)については、年次有給日数が上の表と異なります。
詳しくは、専門家にお尋ねください。
【パート・アルバイト従業員(※)】
週の所定 労働日数 |
1年間の所定労働日数 (週以外の期間によって、 労働日数を定めている場合) |
雇入日からの勤続日数に応じた年次有給休暇の日数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
6ヶ月 勤務 |
1年 6ヶ月 勤務 |
2年 6ヶ月 勤務 |
3年 6ヶ月 勤務 |
4年 6ヶ月 勤務 |
5年 6ヶ月 勤務 |
6年 6ヶ月 以上勤務 |
||
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 | 3日 |
全労働日の8割以上出勤していない期間があると、翌期間については、会社は年次有給休暇を付与する必要はありません(労働基準法39条2項)。
※ここでいう、パート・アルバイト従業員とは、次の場合です。
- 週30時間未満勤務
- かつ週4日以下勤務(週以外の期間によって労働日数を定めている場合には年216日以下勤務)の従業員
年次有給休暇は、会社の規模や業種などに関係なく、原則的に全ての事業場の労働者に適用されます。
会社の都合によって年次有給休暇の制度を設けないことは認められません。
有給休暇の買取は原則違法!法律の規定を確認しましょう
このように、法律上付与された有給休暇を、実際には使わせずに、会社が買取することはできるのでしょうか。
実は、有給休暇の買取は、原則違法となります。
というのも、買取を認めると、雇い主が「お金を支払えば有休を与えなくて良い」という処理をするおそれがあり、有給休暇の趣旨に反するからです。
有給休暇の買取が例外的に認められる場合
このように、有給休暇の買取は原則違法ですが、有給休暇の趣旨に反しなければ、例外的に有給休暇の買取が適法になることがあります。
なお、会社には有給休暇の買取義務はありませんので、会社が有給休暇の買取に応じてくれる場合のみ、有給休暇の買取をしてもらうことができます。
有給休暇の買取が適法になる例は次の3つです。
- 退職に当たり、未消化の有給休暇を買い取る場合
- 時効消滅した有給休暇を買い取る場合
- 法定外の有給休暇を買い取る場合
それぞれについてご説明します。
(1)転職等を理由に退職する労働者が退職時点で消化していない有給休暇
転職等を理由に退職する労働者が、退職時点で消化していない有給休暇の買い取りを希望した場合に、会社が有給休暇の買取をすることは適法です。
会社が有給休暇の買取をするか否かにかかわらず、労働者は、退職すれば未消化分の有給休暇を使えなくなるため、このような場合に有給休暇の買取をしても、労働者を休ませるという有給休暇の趣旨に反しないからです。
ただし、会社が有給休暇を買い取る義務はありません。
退職に当たって有給が残っている場合で、会社が有給を買い取ってくれない時は、退職までの期間に有給を消化することができます。
退職前の有給消化を拒否することは違法です。
退職前の有給消化について詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(2)有給休暇を取得後に消化せず、2年が経過して時効消滅した有給休暇
有給休暇は取得してから2年経過すると有給休暇の権利が消滅(時効消滅)しますが(労働基準法115条)、このように時効消滅した有給休暇を会社が買取することは適法です。
時効消滅した有給休暇を買い取っても、労働者を休ませるという有給休暇の趣旨に反しないからです。
(3)会社が労働者に対して付与した法定外の有給の休暇
会社によっては、先ほどご説明した法律上規定された有給休暇以外にも、従業員の福利厚生のために有給の休暇を付与している場合があります(法定外の有給の休暇)。
特別休暇と呼ばれることも多い法定外の有給の休暇ですが、一例としては次のようなものがあります。
- 慶弔休暇
- リフレッシュ休暇
- 誕生日休暇
- 夏季休暇 など
このような、法定外の有給の休暇を会社が買取することは適法です。
法定外の有給の休暇を実際に取得させなくとも、法律上の有給休暇を現実に取得させるか否かに影響せず、法律上の有給休暇の趣旨に反しないからです。
なお、特別休暇という名称がついていても、無給であることもありますので、会社の規定をよく確認しましょう。
有給休暇はいくらで買い取ってもらえるのか
有給休暇の買取は法律上の制度ではありませんので、有給休暇の買取がいくらかという金額の決まりはありません。
とはいえ、次のいずれかの金額を支払う会社が多いようです。
- 有給休暇を実際に取得した際に支払われる賃金と同様の金額
- 就業規則などで定めた固定の金額
- 労働者と個別に合意した金額
「有給休暇を実際に取得した際に支払われる賃金」の計算方法としては、次の3種類があります。
- 通常の賃金
多くの会社で採用され、就業規則などに定められています。
所定労働時間労働したときと同じ賃金が支給されます。 - 平均賃金
年次有給休暇を取得した労働者の過去3ヶ月の賃金から1日あたりの平均賃金を計算して、支給されます。
就業規則などに定められています。 - 標準報酬月額÷30日
労使協定がある場合は、健康保険法40条1項の標準報酬月額の30分の1に相当する金額を支給することが可能です。
会社によって、いくらで有給休暇を買取するのかが異なりますので、事前に金額を確認しておきましょう。
買い取られた有給休暇の税務上の扱い
買い取ってもらった有給休暇の税務上の処理は、給与所得(退職時以外の有給休暇の買取の場合)や退職所得(退職時の有給休暇買取の場合)になる可能性があります。
有給休暇の買取時にチェックしたい書面
会社は会計処理をしたり、労働者との後日のトラブルを避ける目的で、有給休暇買取に関する書面を、労働者と交わすことが多いです。
作成される書面は誓約書、合意書など会社によって異なりますが、一般的には次の内容が記載されていることが多いです。
- 買取対象となった有給休暇の特定
- 有給休暇の買取の金額
- 支払い日
- 支払い方法 など
有給休暇の買取時には、必ず事前に書面を確認して、支払われる金額が間違っていないか確認することが大切です。
有給休暇は解雇時に消滅する点に注意
労働契約が解消されたタイミングで有給休暇は消滅します。
そのため、解雇されて離職した後は有給休暇の買取を要請することはできません。
もっとも、解雇予告がされて、実際に解雇となる日(離職の日)までの間は、労働者は有給休暇を消化することができますので、残った有給休暇の買取を請求することができます。
そのため、有給休暇の買取の交渉は、実際に解雇となる日(離職の日)の前までに行うことが大切です。
(1)即時解雇の懲戒解雇がされた時点で、有給休暇は消滅する
懲戒解雇の場合、解雇予告期間なしに即時解雇される場合があります。
例えば次の条件をいずれも満たす場合は、懲戒解雇による即時解雇が有効となります(労働基準法20条)。
- 即時解雇されてもやむを得ないといえるほどに重大な帰責性が労働者にある
- 労働基準監督署長の認定がある
横領、窃盗、傷害など犯罪行為をした場合には、重大な帰責性があるとして、労働基準監督署長の認定があれば、即時解雇が適法となることが多いでしょう。
このような即時解雇の場合、解雇予告期間がありませんので、解雇が通知された瞬間に有給休暇も消滅してしまいます。
即時解雇の場合、会社は、通常、有給休暇の買取には応じません。
(2)解雇予告手当の支払いによって、即日解雇となった時点で、有給休暇は消滅する
即時解雇の懲戒解雇でない解雇(普通解雇、整理解雇など)の場合でも、解雇日までの解雇予告手当を支払うことによって、解雇を通知した日に、解雇となることがあります(即日解雇)。
この即日解雇の場合、解雇の通知がされた日に有給休暇が消滅してしまいますので、会社は、有給休暇の買取には応じないのが通例です。
【まとめ】会社側は、退職時に未消化の有給休暇を買い取ることは可能
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 会社が、有給休暇を買取することは原則として違法である。
- 例外的に次の場合には、有給休暇の買取は適法である。
- 退職時点で消化していない有給休暇の買取
- 時効消滅した有給休暇の買取
- 会社が労働者に対して付与した法定外の有給の休暇(特別休暇など)の買取
- ただし、有給休暇を買取する義務は会社にはない。有給休暇の買取をしてもらえるのは会社が任意に応じてくれる場合のみ。
- 労働者が有給休暇の買取を希望する場合には、会社との交渉が必要となる。
- 有給休暇の買取の金額には決まりはない。事前に会社に有給休暇の買取の金額を確認・交渉することが重要。
有給休暇でお困りの場合は、労働問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。