現在、建設アスベスト被害者やその遺族は、最大1,300万円の給付金を国から受け取ることが可能となっています。
他方で、これまでアスベスト(石綿)の建材メーカーとの関係では、和解が成立しておらず、早期に救済を受けることができない状況にありました。
しかし、2022年8月23日、全国で初めて、建設アスベスト被害者の遺族と、アスベスト建材メーカーとの和解が成立しました。
アスベストで被った被害の大きさを考えれば、国からの給付金だけでは不足するケースが多いのが現状です。そのため、アスベスト建材メーカーとの和解により、「早期解決の道が示された」ことに大きな意義があります。
この記事を読んでわかること
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
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アスベスト建材メーカーの責任
2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷判決で、国及びアスベスト建材メーカーの責任を認める判決が出されています。
この判決を簡単に説明しますと、アスベスト建材メーカーが、「アスベストは危険」という警告表示を行わなかったことに責任がある、と判示されています。
…を 含む多数の建材メーカーは,石綿含有建材を製造販売する際に,当該建材が石綿を 含有しており,当該建材から生ずる粉じんを吸入すると石綿肺,肺がん,中皮腫等 の重篤な石綿関連疾患を発症する危険があること等を当該建材に表示する義務を負 っていたにもかかわらず,その義務を履行していなかった
引用:最高裁判所第一小法廷判決令和3年5月17日|裁判所 – Courts in Japan
なお、この判決では、アスベスト建材メーカーの屋外作業者に対する責任は否定されていますので、屋内作業者に対して建材メーカーの責任を認めたものとなります。
このように最高裁判決で、屋内作業者に対するアスベスト建材メーカーの責任は認められるに至りました。
この最高裁判決について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
アスベスト建材メーカーと遺族の和解の成立
アスベスト被害者やその遺族は、一定の条件を満たせば国から給付金をもらえますが(後述)、アスベストの被害の深刻さからすれば、国の給付金だけでは救済が不十分なケースが多いです。
そのため、アスベスト建材メーカーから賠償金を得ることが重要になってきますが、これまでアスベスト建材メーカーとアスベスト被害者やその遺族の和解はされていませんでした。
和解ができない場合、判決を取得することになりますが、判決までたどり着くには、個々の事件ごとに主張と証拠に基づく立証が必要になるので、多大な時間と労力がかかります。
他方で、和解の場合は早期解決が可能になります。
建設アスベスト被害者やその遺族には高齢者も多いため、裁判中に賠償金を請求していた本人が死亡してしまうという事態も危惧される状況であり、アスベスト建材メーカーとの和解が待望されていました。
こうした状況の中、2022年8月23日、大阪地方裁判所にて、全国で初めて建設アスベスト被害者の遺族と、アスベスト建材メーカーとの和解が成立しました。
この事案は、1981年~1997年の間、アスベストを含んだ耐火被覆材を鉄骨に取り付ける作業をしていた男性が、肺がんにより、74歳で亡くなったという事案でした。
この和解では、アスベスト建材メーカー側が1,287万円を支払う内容となり、謝罪も行われました。
今回の和解により、今後同様の事案においても和解が続くか、動向が注目されます。
国からの給付金による救済を受けるための条件
ところで、アスベスト被害者やその遺族の場合、アスベスト建材メーカーから賠償金を払ってもらうほかに、一定の条件を満たせば、国から給付金を払ってもらえます。
すなわち、建設現場で働いてアスベスト被害にあった方やその遺族の場合、次の各条件を満たせば、最大で、国から1,300万円の給付金がもらえます(特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律、以下「給付金法」といいます)。
1 アスベストにさらされる一定の建設業務に従事していた労働者、または、一人親方・中小事業主(家族従事者などを含む)
2 1の建設業務により、アスベスト関連の疾病にかかった
3 請求の期間を過ぎていないこと
条件1:アスベストにさらされる一定の建設業務に従事していた
この一定の建設業務に該当するのは、日本国内において行われたアスベスト(石綿)にさらされる建設業務(※)のうち、次の業務です。
- アスベストの「吹付け」作業に係る建設業務
※1972年10月1日~1975年9月30日までの間に行われたもの
- 一定の「屋内作業」に係る建設業務
※1975年10月1日~2004年9月30日までの間に行われたもの
※土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、もしくは解体の作業、もしくはこれらの作業の準備の作業に係る業務、又はこれに付随する業務をいいます。
例えば、次の業務が、給付の対象となる一定の建設業務にあたる可能性があります。※ただし、個別のケースにより異なります。
大工、内装工、電工、吹付工、左官工、塗装工、タイル工、配管工、ダクト工、空調設備工、鉄骨工、溶接工、ブロック工、保温工、鳶工、墨出し工、型枠大工、解体工、はつり工、築炉工、エレベーター工、サッシ工、シャッター工、電気保安工、現場監督
条件2:アスベスト関連の疾病
アスベストを吸い込むことによって発生する、次に掲げる疾病がこれにあたります。
- 中皮腫
- 気管支又は肺の悪性新生物(肺がん)
- 著しい呼吸機能障害を伴う「びまん性胸膜肥厚」
- 石綿肺(じん肺管理区分の管理2、管理3、管理4、またはこれに相当するもの)
- 良性石綿胸水
条件3:請求期限に注意
請求期限を過ぎると、給付金がもらえなくなってしまうので注意しましょう。
請求期限は次の通り、20年です。
病態 | 起算日 | |
1 | じん肺管理区分管理2、管理3及び管理4と決定された石綿肺 | 管理区分の決定があった日から20年 |
2 | 1以外のアスベスト関連の疾病にかかった方※ | 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日から20年 |
3 | アスベスト関連の疾病により死亡 | 死亡日から20年 |
※じん肺管理区分の決定を受けていないが、じん肺管理区分管理2以上の石綿肺に相当する石綿肺の起算日ついては、1ではなく、2となると考えられます。
遺族の方も給付金の対象
給付金はアスベスト被害者本人だけではなく、その遺族も対象となります。
具体的には、「配偶者(事実婚含む)→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹」の順に、遺族として請求する権利があります。
遺族が複数人いる場合は、順位が一番早い方に、給付金の請求権があります。
なお、同順位の遺族が複数いる場合、1人の請求が同順位の遺族全員の請求とみなされることに注意しましょう(給付金法3条5項)。
例えば、配偶者もすでに亡くなっていて、子が2人いるという場合、子の内1人が他の遺族(子)の分も含めて全額請求することになる、ということです。
国からもらえる給付金の額
基本的な給付金の額は次の通りです。
(1)石綿肺(じん肺管理区分の管理2)
①合併症がない場合:550万円
②合併症がある場合:700万円
(2)石綿肺(じん肺管理区分の管理3)
①合併症がない場合:800万円
②合併症がある場合:950万円
(3)石綿肺(じん肺管理区分の管理4)
1,150万円
(4)肺がん
1,150万円
(5)中皮腫
1,150万円
(6)著しい呼吸機能障害を伴う「びまん性胸膜肥厚」
1,150万円
(7)良性石綿胸水
1,150万
(8)死亡
①石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡
1,200万円
②石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴
う「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」による死亡
1,300万円
参考:建設現場で働いていて健康被害に遭われた方|【アスベスト賠償金請求】アディーレ法律事務所
石綿にさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の方、肺がんの方でタバコを習慣的に吸っていた方については、給付金の額が上記よりそれぞれ10%減額されます。
また、給付金をもらった後症状が悪化した一定の方は、請求すると「追加給付金(上記の表における区分の差額分)」がもらえます。
【まとめ】アスベスト建材メーカーとの和解で早期解決に期待が高まる
今回の記事をまとめますと、次の通りです。
- これまで、アスベスト建材メーカーと和解が成立せず、判決を取得するまでに多大な時間がかかっている状況であった。しかし、今回アスベスト建材メーカーと遺族との和解が成立し、早期解決の道筋がついた。
- 今後も同様の和解が行われるか、動向が注目される。
- 一定の条件を満たすアスベスト被害者やその遺族は、国から最高1,300万円の給付金を受けることも可能。給付金には期間制限があるので、早めの請求が大切。
アディーレ法律事務所では、アスベスト賠償金請求に関し、着手金、相談料はいただいておらず、原則として報酬は、賠償金受け取り後の後払いとなっております。
※以上につき、2023年1月時点
アスベストの被害者またはそのご遺族の方は、アスベスト被害に積極的に取り組んでいるアディーレ法律事務所にご相談ください。