すでに裁判で決まった不倫慰謝料を支払えない場合であっても、それを踏み倒すことはお勧めできません。
裁判で決まった不倫慰謝料を踏み倒すと、あなたの都合に関係なく、あなたの給与などが突然差し押さえされてしまう可能性があるからです。
不倫慰謝料が支払えないからと言って放置した結果、給与や財産を差し押えられてしまう事態が生じる前に、きちんと対処をしておきましょう。
きちんと対処法を知っておくことで、突然の差押えを回避できる可能性が高まります。
この記事を読んでわかること
- 強制執行の概要や流れ
- 裁判で決まった不倫慰謝料を払えない時の対処法

法政大学、及び学習院大学法科大学院卒。アディーレ法律事務所では、家事事件部にて、不貞の慰謝料請求、離婚、貞操権侵害その他の男女トラブルを一貫して担当。その後、慰謝料請求部門の統括者として広く男女問題に携わっており、日々ご依頼者様のお気持ちに寄り添えるよう心掛けている。第一東京弁護士会所属。
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裁判で決まった不倫慰謝料を踏み倒すリスク
裁判の判決で不倫慰謝料の支払いが確定している場合、不倫慰謝料を支払わずに踏み倒してしまうと、相手から強制執行が申し立てられ、あなたの財産が差し押さえされてしまう可能性があります。
まず、強制執行とはどういった手続きなのか、どういった財産が差し押さえされてしまう可能性があるのかを知っておきましょう。
強制執行とはどういった手続き?
強制執行とは、簡単にいうと、突然給与や預金、車などの財産を裁判所に差し押さえられてしまう制度のことをいいます。
また、給与の差押えは勤務先に知られてしまうため、仕事に事実上の影響を及ぼすことも考えられます。
差押えの対象となる財産とは?
差押えなんてことになったら、給料も財産も全て持っていかれてしまうのでしょうか?
債権者にも生活がありますから、一定の財産が「差押禁止財産」として確保されています。
次に、差押え対象となる財産の例や、差押えの範囲について説明します。
(1)債権
差押えの対象となりやすいのが「債権」です。主な債権には、「給与」や「預金」があります。どちらも、勤務先や銀行からお金を受け取ることができる権利のことで、債権に当たります。
(1-1)給与
給与差押えは、裁判所から、勤務先の会社に対して「債権差押命令」が送達された時に始まります。それ以降、会社は差押え部分を差し引いた給与を支払わねばならなくなります(民事執行法145条1項)。
給与差押えの場合、月給のみならずボーナスや退職金も差押えの対象ですが、全額が差し押さえられてしまうわけではなく、差押えには一定の上限が設けられています(差押禁止債権)。
差押えが可能な範囲は、原則として手取りの4分の1までです(同法152条1項2号、2項)。ただし、月給やボーナスの場合、手取り金額が44万円を超える場合には、33万円を超える部分全てが差押え可能です(同法施行令2条1項1号、2項)。
例えば、慰謝料について100万円の未払いがある場合、次のようになります。
(例1)毎月の手取り額(税金などを控除した残額)が20万円の場合 |
1ヶ月で差し押さえられる金額は5万円です。 これが100万円になるまで、毎月、会社から5万円分が相手に支払われることになります。 ※なお、ボーナスについても差押えの対象となりますので、ボーナス月のときには差し押さえられる金額が増額することになります。 |
(例2)毎月の手取り額(税金などを控除した残額)が44万円を超える場合 |
手取り額が44万円を超える場合には、手取り額から33万円を引いた金額が差押えの対象となります。 例えば、手取り額が60万円の場合には、1ヶ月で差し押さえることができる金額は、27万円となります。 |
参考:民事執行手続 |裁判所 – Courts in Japan
なお、給与差押えは、請求額及び強制執行のための費用の回収が終わるまで、将来にわたり継続します(同法151条)。
(1-2)預金
相手があなた名義の口座の存在を知っている場合、給与のほか、預金も差押えの対象とされることがあります。
銀行に債権差押命令が送達されると、銀行は債務者の口座から預金を引き落とし、別の口座へ移動します。預金差押えの対象となるのは、銀行への債権差押命令の送達時の預金です。
そのため、それ以降に入金されたお金であればその差押命令の対象ではなく、引き出すことが可能です。
もっとも、債権の回収が終わるまで、債権者が預金差押えを繰り返し行う可能性があることには注意が必要です。
また、年金や生活保護費等、債務者の生活のために差押えが禁止されている債権(差押禁止債権)でも、口座に入金されればあくまで預金債権ということになるため、差し押さえられてしまう可能性があります。
(2)動産
生活に必要な家電や家具を除き、現金や骨とう品、貴金属など動産は差押えの対象です(ただし、66万円までの現金は差押え禁止です)。
民事執行法122条1項では、次のものが差押え可能な動産として挙げられています。
- 石灯篭や立木など登記することができない土地の定着物
- 1ヶ月以内に収穫することが確実である農作物
- 裏書の禁止されていない有価証券(株券、手形、小切手など)
(3)自動車
債務者の生活に必要不可欠な場合を除き、自動車も差押えの対象です。
民法上、自動車は動産に当たりますが、差押え手続きは通常の動産執行とは異なります。そのほか船舶や建築機械も、通常の動産執行とは異なる手続きが用意されています。
(4)不動産
あなた名義の土地建物がある場合、土地建物が差し押さえられて競売にかけられ、その売却代金の中から不払いの慰謝料を回収されることがあります。

裁判で決まった不倫慰謝料を支払えない場合の2つの対処法
裁判で決まった慰謝料が支払えない場合には、次の2つの方法があります。
- 分割払いの交渉をする
- 自己破産をする
(1)分割払いの交渉をする
一括で支払うことは難しいが、少しずつ支払うことは可能な場合には分割交渉をすることを検討しましょう。
慰謝料を請求している相手が合意すれば、分割払いにすることは可能です。分割回数も、交渉次第になります。
もっとも、「一括で支払ってもらいたい」と頑なに主張する人もいますが、「支払ってもらえるなら、分割払いを認める」と譲歩する人もいます。
相手はすでに判決をもらっているため、法律上、すぐに差押えなどの強制執行手続きをすることができます。
そのため、分割払いに応じるメリットはないだろうと思うかもしれませんが、あなたに強制執行によって差し押さえられる財産がなければ、結局慰謝料を回収することはできません。
したがって、もしあなたに安定した収入があるのであれば、相手がメリットを感じ、分割払いに応じる可能性は少なくないでしょう。
(2)自己破産する
裁判で確定した慰謝料の支払い義務があるが、どうしても支払えないほど困窮している場合、最終的には「自己破産」するという選択肢もあります。
「自己破産」とは、財産、収入が不足し、請求されているお金の支払いの見込みがないことなど(これを「支払不能」といいます)を裁判所に認めてもらい、法律上、請求されているお金の支払い義務が原則免除される手続です。
そのため、自己破産し、慰謝料支払い義務の免責が確定した場合には、慰謝料の支払いを逃れることができます。
もっとも、自己破産により慰謝料の支払い義務が免責されるかどうかはケースバイケースであり、特に慰謝料の発生原因が不倫だけでなく、暴力などの悪質なものがある場合などには、免責されない可能性もあります。(また、税金等の支払債務は免責されません。)
自己破産しても免責されない債権について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
【まとめ】裁判で決まった慰謝料を踏み倒すと給与などの財産が差し押さえされてしまう可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 強制執行とは、簡単にいうと、ある日突然給与や預金、車などの財産を裁判所に差し押さえられてしまう制度
- 差押えの対象となるのは、原則として支払義務を負っている人の給与や預金、自動車や不動産などの財産
- 裁判で決まった不倫慰謝料を支払えない場合の対処法は1.分割払いの交渉をする、2.自己破産する、の2つ。
すでに判決が出ている場合、一括払いが前提と考えられますし、相手が分割に応じてくれない、他の借金の支払いもあり生活が回らない、という状態であれば、自己破産も視野に入れるべきかもしれません。
自己破産を含む債務整理の手続きについては、弁護士に相談してみることをおすすめします。
アディーレ法律事務所では、ご依頼いただいた所定の債務整理手続きにつき、所定の成果を得られなかった場合、原則として、当該手続きに関してお支払いただいた弁護士費用を全額ご返金しております。
(2023年2月時点)
裁判で決まった慰謝料を払えず、他の借金で生活も厳しいなどとお悩みの方は、債務整理を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
