特別休暇制度は、従業員の福祉向上や労働環境改善、人材定着などを目指し、企業が独自に設定する、福利厚生制度です。法律上の義務ではありません。
この記事では、「特別休暇とは何か」という定義から、労働法上の位置づけ、多様な種類と一般的な付与日数、さらには制度利用の注意点まで、弁護士が解説します。
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特別休暇の導入は、従業員の満足度向上や人材確保に寄与します。厚生労働省の令和6年度調査では、59.9%の企業が特別休暇制度を導入しています。
年次有給休暇との大きな違いは、導入の任意性と賃金の取り扱いです。年次有給休暇が企業に義務付けられたもので給与を支払う必要があるのに対し、特別休暇は企業が自由に導入を決定し、給与を支払うかどうかも企業が設定できます。
主な種類には、慶弔休暇、アニバーサリー休暇、リフレッシュ休暇、夏季・冬期休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇などがあります。
特別休暇制度を導入する場合、その種類、取得条件、日数、有給・無給の区別、申請手続きなどを就業規則に記載します。特別休暇を取得するためには、従業員は就業規則を確認したうえで、所定の手続きで申請が必要です。
特別休暇とは?
特別休暇とは、労働基準法など法律で定められている法定休暇以外に、企業が独自に設定する休暇制度です。年次有給休暇など法律上義務付けられている休暇を「法定休暇」と呼ぶのに対し、特別休暇は「法定外休暇」とも呼ばれます。
年次有給休暇のように付与が義務付けられている法定休暇とは異なり、特別休暇は企業の経営判断と福利厚生戦略によって設計される制度で、人材確保・定着や従業員の満足度向上にも寄与します。
特別休暇は、多くの場合、会社の就業規則や労使協定によって定められます。
厚生労働省による令和6年度の就労条件総合調査によれば、特別休暇制度がある企業割合は59.9%に達しています。労働者数が1000人以上の大企業に限れば、実に77.4%に特別休暇制度が存在します。
参考:令和6年就労条件総合調査の概況|厚生労働省
参考:特別な休暇制度とは|厚生労働省
特別休暇と法定休暇の違い
法定休暇と異なり、企業が特別休暇を導入しなくても、法律違反とはなりません 。導入するかどうかは企業の任意であり、導入する場合も、種類や取得できる条件を企業が自由に決定できます 。
特別休暇の制度は、従業員のモチベーション向上や人材確保・定着を目的とした福利厚生施策として機能します。
一方で、法定休暇の代表である年次有給休暇は、労働基準法39条に基づき、労働者への付与が義務付けられています。
労働者の有給取得が進まないことから、平成31年4月1日から、使用者は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、年5日について、時季を指定して取得させることが義務化されました。
なお、特別休暇と有給休暇は、その法的性質が異なりますので、特別休暇を取得した日数分、有給休暇から控除することはできません。
| 法定休暇(年次有給休暇) | 法定外休暇(特別休暇) | |
| 法的義務 | 導入・付与が義務付けられている(労働基準法) | 導入義務なし(企業が任意に設定) |
| 賃金の支払い | 義務付けられている(有給) | 企業が自由に設定可能(有給/無給どちらも可) |
| 就業規則への記載 | 義務付けられている | 導入する場合、義務付けられている |
| 年5日の時季指定義務 | 適用される | 適用外 |
年次有給休暇のうち、時効(2年)により消滅してしまう分を、企業が独自に積み立て、特別休暇として再利用できるようにしている企業もあるようです。
特別休暇と有給休暇を組み合わせて長期の休みを取りたい場合には、上司などに事前に打診したうえで、無理なく休めるようにしたいところです。
特別休暇における給与の取り扱い
特別休暇は、企業が給与を支払わず無給としても、違法ではありません。
特別休暇を無給とするか有給とするかは、企業の裁量に委ねられています。制度の目的(従業員の生活支援、リフレッシュ促進、自己啓発支援など)に応じて、給与の有無が決められます。
特に、慶弔休暇は、企業の福利厚生を充実させ、従業員の経済的負担を考慮する目的から、有給とする企業が一般的のようです。
給与の取り扱いは、通常就業規則に明記されていますので、取得を考えている際には確認するとよいでしょう。
特別休暇の主な種類
特別休暇には様々な種類がありますが、ここでは実務上特に導入事例の多い主要な種類と、一般的な付与日数について解説します。
(1)慶弔休暇
従業員の結婚、配偶者の出産、親族の死亡など、慶弔事に対応するための休暇です。
一般的に普及している特別休暇の一つです。付与日数は、従業員と親族との関係性(親等)によって変動するのが一般的です。
(2)アニバーサリー休暇
従業員自身の誕生日や結婚記念日など、特別な記念日に取得できる休暇です 。
一般的には1日が付与されます 。
(3)リフレッシュ休暇
従業員が心身のリフレッシュを図り、就業意欲を高めることを目的とした休暇です 。
勤続年数の節目で休暇を与えるケースが多く見られます 。勤続5年に対して3日、勤続10年に対して5日など、付与日数は企業によって異なります。
(4)夏季・冬期休暇
季節的な長期休息を目的とした休暇です。
先ほどご紹介した令和6年就業条件総合調査によれば、40%の企業が夏季休暇制度を導入しています。
一般的な付与日数は3日から5日程度です 。
(5)教育訓練休暇
従業員が自身のスキルアップのために取得できる休暇制度です 。
特に長期の教育訓練休暇は、従業員のキャリア形成支援を目的としており、企業の成長戦略としても位置づけられます。
(6)ボランティア休暇(社会貢献活動休暇)
地域貢献や自然災害の支援活動などに参加するために取得できる休暇です 。
この制度は、社会貢献活動を通じた企業イメージの向上に寄与するだけでなく、従業員がボランティア活動を通じて心身ともに成長する機会となり、人材開発の一環としても機能します 。
(7)裁判員休暇
従業員が裁判員などとして官公署に出頭する場合に付与されます 。
公的義務の履行を支援する目的から、有給とすることが多いようです。
(8)犯罪被害者等の被害回復のための休暇
従業員やその親族(一定範囲)が犯罪被害に遭った際に、心身の回復、病院での治療、警察での手続き、裁判への出廷などに利用できる休暇です 。
(9)災害休暇
自然災害などで従業員が被災した際に、付与される休暇です。
特別休暇があるかどうかは就業規則を確認すればわかる
特別休暇制度は、導入する場合は就業規則に記載する必要があり、通常、就業規則の「休暇」のうち、「特別休暇」の項目に記載されます。
次のような内容が記載されていることが多いです。
- 特別休暇の種類(例:慶弔休暇、病気休暇)
- 各休暇の取得条件や事由
- 休暇の日数及び数え方
- 有給か無給かの区別
- 申請手続き
特別休暇の取得方法と手続き
特別休暇の取得には、所定の手続きにより申請が必要です。
申請方法は企業ごとに異なりますが、一般的には所定の申請書を提出し、上司や人事部門の承認を得る流れとなります。
申請に際しては、休暇の種類や理由、期間を明確にする必要があります。また、証明書類の提出が求められる場合もあります。
特別休暇の中には、突発的な事由(例:忌引き)で取得するものもあるため、事後申請が認められることもあります。
重要なのは、就業規則や社内規定を確認し、適切な手続きを踏むことです。
【まとめ】特別休暇の重要性と効果的な活用
特別休暇とは、法律上義務付けられた法定休暇とは別に、企業が従業員に対し提供する独自の休暇制度です。その導入は企業の任意であり、有給・無給の設定も自由ですが、現代においては、単なる従業員に対する福利厚生ではなく、人材確保や人材定着など戦略的な意義を持つ施策としても位置づけられています。
従業員の方は、自社の特別休暇制度を今一度確認し、計画的な取得を心掛けましょう。

























