自転車事故は、自動車事故よりも小さい事故、被害の少ない事故だと思っていませんか?
自転車事故だからといって小さい事故だと思ってはいけません。
自転車事故であっても、被害者が死亡したり、重篤な後遺症が残ったりと、甚大な被害が生じる場合も少なくなく、賠償金が数千万円、ときには1億円近くとなることもあります。
どのような場合に高額な賠償金となっているのか、また、自転車事故の場合に注意すべき点について知っておきましょう。
この記事では、
- 交通事故の賠償金額の決め方
- 自転車事故の高額賠償事例
- 自転車事故の場合の注意点
について、弁護士が詳しく解説します。
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
交通事故の損害賠償額は何で決まる?
交通事故の被害に遭い、車が故障して修理が必要となったり、ケガをしたりした被害者は、加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。
もっとも、被害者側に発生した損害すべてが賠償の対象になるわけではありません。
基本的に、損害が発生し、交通事故と損害との間に「相当因果関係」が認められるものが賠償の対象となります。
簡単にいえば、「当該交通事故によって通常生じる損害」が、賠償の対象になるということです。
※もう少し詳しく説明しますと、相当因果関係とは、「当該行為(不法行為)により、通常その結果(損害)が生じることに相当な関係が存在する」という法的な概念です。
例えば、被害者が高額の商談を控えており成約確実だったが、交通事故に遭ってしまい、そのために商談に出席できず得られたであろう利益を失ったとしても、残念ながら、その利益は交通事故によって通常生じる損害とはいえません(相当因果関係が認められません)。そのため、その利益を損害として賠償してもらうことはできないでしょう。
また、交通事故は一方が100%悪いという場合もありますが、双方が多少なりとも悪い場合もあります。このように、被害者にも交通事故発生の責任(原因)がある場合には、被害者の責任分、加害者が支払う賠償金が減額されることになります。
自転車事故の損害賠償額の事情と過去最高額
時折、ニュースで裁判所が自転車運転者に対して支払いを命じた損害賠償額が話題になることがありますが、「思ったより高い」という印象を持った方も少なくないのではないでしょうか。
ここでは、自転車事故の損害賠償額が高い理由、実際の高額賠償事例について説明します。
(1)自転車事故の損害賠償額が高額化する理由
自転車が歩行者に衝突すると、自転車のスピードや、自転車の重さ、事故態様によっては歩行者の受ける衝撃は大きく、死亡したり極めて重い後遺症が残ったりすることも少なくありません。
さらに、歩行者が犠牲者となる場合には、歩行者は自転車運転者よりも守るべき交通弱者とされていますので、基本的に過失割合は自転車に乗った加害者の方が大きくなります。
例えば、自転車は、歩道と車道との区別がある道路では、原則として車道を通行しなければならないとされていますので(道路交通法17条1項)、歩道上等で歩行者と事故が発生した場合には、自転車側が基本的に100%の過失責任を負います(加害者は賠償金全額を支払わなければなりません)。
このような事情から、特に自転車と歩行者の事故において、自転車運転者が支払う責任を負う損害賠償額が高額化する傾向があります。
(2)自転車事故の損害賠償額の例
被害者が死亡したり、重い後遺障害が残ったりすると、自転車運転者が支払う責任を負う損害賠償が数千万~1億円近くになることもあります。
例えば、次のような裁判例があります。
下記裁判例で認められた損害賠償額は、過去の自転車事故で認められた最高額の損害賠償だと考えられています。
なお、示談で話がまとまった場合には、通常損害賠償額は公にはされませんので、示談でこれ以上の額となったケースもあるかもしれません。
事故の態様と裁判所が判断した損害賠償額について紹介します。
<神戸地方裁判所判決平成25年7月4日・自保ジャーナル1902号1頁>
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自転車事故の損害賠償に関する3つの注意点
自転車事故で損害賠償請求をする場合には、自動車事故と違い、次の点に注意が必要となります。
- 自動車保険が使えない
- 加害者が未成年の場合には未成年に代わり親に請求する場合がある
- 後遺障害の認定機関がない
詳しく解説します。
(1)自動車保険が使えない
加害者が自転車である事故は、自動車保険の対象になりません。
自動車の運転者には自賠責保険への加入が義務付けられているため、加害者側が自動車の事故では自賠責保険で賠償してもらうことができますが、加害者が自転車の場合、相手が自転車保険に加入していない限り、加害者と直接交渉することになります。
そして、加害者が自転車保険に加入していない場合、加害者本人が賠償金を支払うことになります。この場合、加害者本人にお金がない場合には、十分な賠償金の受け取りができない場合があります。
もっとも、自転車保険の加入率も上がってきていますので、自動車保険が使えないからといって、賠償金の受け取りを諦める必要はありません。
【コラム】 自転車保険の義務化
自転車保険の加入を義務付ける自治体がどんどん増えています。
加害者が自転車保険に加入している場合、加害者本人に財産がない場合でも、保険会社から十分な慰謝料や賠償金の支払いを受け取ることができる場合があります。
現在、次の自治体で義務付けられています。
- 宮城県
- 山形県
- 埼玉県
- 群馬県
- 千葉市
- 東京都
- 神奈川県
- 山梨県
- 長野県
- 静岡県
- 名古屋市
- 金沢市
- 滋賀県
- 京都府
- 奈良県
- 大阪府
- 兵庫県
- 岡山市
- 愛媛県
- 福岡県
- 大分県
- 宮崎県
- 鹿児島県
- 北海道
- 青森県
- 茨城県
- 千葉県(千葉市を除く)
- 富山県
- 和歌山県
- 鳥取県
- 徳島県
- 香川県
- 高知県
- 熊本県
実際、自転車保険の加入が一部の自治体で義務化されたこともあり、自転車保険の加入率は高まっています。
例えば、次の通りです。


(2)加害者が未成年の場合には未成年に代わり親に請求する場合がある
自転車は、自動車やバイクとは異なり、小学生や中学生も利用して公道を走行することができます。
また、このような未成年は、自転車走行の技術や注意力が未熟なこともあり、未成年による自転車事故が発生し、未成年が加害者となることも少なくありません。
下記統計によれば、6歳以下~19歳までの自転車運転者による事故は、全体の事故の38%を占めています。
<自転車運転者の年齢層別交通事故件数(2017年)>

加害者が未成年であって、法的な責任能力を負う年齢に達していない場合には、民法714条1項により、基本的に、その監督義務を負う者(通常は法定代理人である両親)が、未成年の加害者に代わりに被害者が被った損害を賠償する責任を負います。
何歳以上であれば責任能力が認められるのかという点については、法律上「何歳以上」と決まっているものではなく、個別具体的な事案ごとに判断することになります。概ね13歳以上であれば、責任能力が認められる傾向にあるようです。
なお、加害者(未成年者)に責任能力が認められる場合(概ね13歳以上の場合)には、加害者本人に対して賠償金請求をすることになります。
(3)後遺障害の認定機関がない
事故によって後遺症が残ってしまった場合、通常、後遺症に関する賠償金を受け取るためには、後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
自動車事故であれば、「損保料率算出機構」という専門機関が後遺障害等級を公正・中立な立場から判断してくれます。
しかし、自転車事故の場合、後遺障害を認定する機関が原則としてありません(被害者が勤務中や通勤中の場合には、労災の対象となる場合があります)。
そのため、自転車事故では、被害者自身が、後遺障害があることを説明し、加害者側を納得させる必要があります。加害者側が納得しない場合には、調停や訴訟などの法的手続きを取る必要があります。
自転車事故の損害賠償は弁護士に依頼することがおすすめ
自転車事故の損害賠償は弁護士に依頼することをおすすめします。
自転車事故では加害者が自転車保険に加入していない限り、加害者と直接の示談交渉が必要になります。
加害者との直接交渉の場合には、事故について専門的な知識がある保険会社とは異なり、感情的な話し合いになることも少なくありません。
弁護士に依頼することで、示談交渉をすべて弁護士に任せられるため、示談交渉の負担を減らすことができます。
【まとめ】自転車事故で、数千万~1億円近くの賠償金となることも!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 自転車と歩行者の事故では、被害者が死亡したり重度の後遺障害が残ったりすると、損害賠償額は高額化する傾向にある。
- 自転車事故で加害者が未成年であったり保険未加入であったりすると、十分な損害賠償金が受け取れないおそれがある(なお、自転車保険の加入率は上がっている)。
加害者が自転車保険に加入している場合、保険会社との交渉で賠償金を増額できる可能性があります。
しかし、そのことを知らずに、「保険会社からの示談金の提案額が妥当かわからない」「保険会社はよくしてくれたし、応じた方がいいのかな」と不安を抱えている方は少なくありません。
このような自転車事故の被害による賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりお客様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2021年8月時点)
加害者側の自転車保険会社から提示されている賠償金額に納得がいかないという方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。