「昔、アスベスト建材を使う建設現場で働いていました。現在、それが原因で肺に病気を患っています。国から給付金か何かをもらうことはできるんでしょうか?」
アスベスト(石綿)含有建材を用いた建設作業に従事していたことが原因で、石綿肺等のアスベスト関連疾患を発症してしまった元建設作業員またはそのご遺族が、国および建材メーカーに対してその責任を追及し、損害賠償を求める訴訟を提起していました。これを「建設アスベスト訴訟」といいます。
現在では、国および建材メーカーの責任を認める最高裁判決を受けて、訴訟をすることなく、 被害者またはそのご遺族に対し、国が最大1300万円の給付金を支給する内容の法律が成立しています。
この記事では、
- 建設アスベスト訴訟の概要
- 建設アスベスト給付金
について、弁護士が解説します。
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
建設業とアスベストの関係性
アスベスト(石綿)は工業製品の原材料として優れた適格性を有していると考えられていたため、多くのアスベストが建材等の原材料として使用されてきました。
ここでは、建設業とアスベストの関係性について解説します。
(1)建設業におけるアスベストの用途
アスベストとは、繊維状鉱物の総称で、クリソタイル、アモサイト、クロシドライト等に分類されます。
アスベストは、ほぐすと綿のようになり、その繊維は極めて細かく、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等の特性に優れています。このようなアスベスト特性はアスベスト以外の単一の天然鉱物や人工物質にはほとんどみられないことから、「奇跡の鉱物」と呼ばれることもありました。
アスベストは、建材の原料として特に重宝され、吹付材、保温材、断熱材、スレート材等の建材に使用されていました。
日本では建材に多くのアスベストが消費されるようになりましたが、アスベストのほとんどは輸入に依存していました。
1942~1950年までの間は第二次世界大戦の影響により輸入が途絶えたものの、1950年以降、輸入量は増加の一途をたどり、1974年には約35.2万トンの最高輸入量を達した後、増減を繰り返しながら徐々に減少をしていきました。輸入されたアスベストの約8割は建材に使用されたとされます。
参考:石綿(アスベスト)含有建材データベース|国土交通省 経済産業省
参考:石綿にばく露する業務に従事していた労働者の方へ|厚生労働省
(2)アスベストによる健康被害が問題に
アスベストの繊維は非常に細かいため、研磨機や切断機による作業や、吹き付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと容易に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすいという性質を有しています。
そして、人体にいったん吸引されると、肺胞に沈着し、その一部は肺の組織内に長期間滞留することになります。
この肺に長期間滞留したアスベストが要因となって、石綿肺、中皮腫、肺がんなどのアスベスト関連疾患を引き起こすと現在では考えられています。
アスベスト粉じんにばく露してもただちに症状がでることは稀です。
通常、一定期間の潜伏期間をはさんで症状がでます。
例えば、石綿肺は、通常であれば約10年程度の潜伏期間を経て症状が発生するといわれており、悪性中皮腫にいたっては、40~50年と非常に長い潜伏期間を経て症状が発生することもあるといわれています。
このように、アスベストによる被害は長い潜伏期間を経て発生するため、近年にいたってアスベストによる被害が顕在化しています。
例えば、中皮腫による死亡者総数は、1995年の500人から2020年の1605人と3倍以上に増加しています。
参考:都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~令和2年)人口動態統計(確定数)より|厚生労働省
(3)アスベスト使用禁止の流れ
1975年、特定化学物質等障害予防規則(以下、「特化則」といいます)の改正により、5重量%(※)を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される等の措置がなされました。
(※)「重量%」…物質100gの中に含まれる特定の物質の割合を示すもの。
この特化則に改正によって、吹き付け材100gあたり5g以上のアスベストを含む吹き付け作業が原則として禁止され、事実上、吹き付け作業はできなくなりました。
そのほかにもこの特化則の改正には、局所排気装置の性能要件の改正、石綿等の作業環境測定記録の保存期間の延長、特殊健康診断の実施等、アスベスト対策の強化が含まれています。
さらに1995年、労働安全衛生法(以下、「安衛法」といいます)施行令、労働安全衛生規則、特化則がそれぞれ改正され、安衛法施行令の改正では、クロシドライト(青石綿)及びアモサイト(茶石綿)の使用等が禁止となりました。
アスベストは6種類に分類され、このクロシドライトとアモサイトは、最も使用割合が高かったクリソタイルに比べ、発がん性が高いものでした。
労働安全衛生規則の改正では、吹付石綿除去作業の事前届出等が定められ、特化則の改正では、1重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止されたほか、吹き付けられた石綿の除去作業における作業場所の隔離や呼吸用保護具・保護衣の着用が義務付けられる等、アスベスト対策のさらなる強化が図られています。
その後、2004年の安衛法施行令の改正では、1重量%を超えるアスベスト含有建材、摩擦材、接着剤等の10品目の製造、使用等の禁止がなされ、2006年の安衛法施行令の改正では、建材等のみならず0.1重量%を超えるアスベスト含有製品の全面禁止(一部猶予措置あり)がなされ、 アスベスト規制が大幅に強化されています。
アスベスト使用禁止の流れ
1975年 | 特化則改正 | 5重量%を超えるアスベストの吹き付け作業が原則として禁止される |
1995年 | 安衛法施行令、労働安全衛生規則、特化則改正 | クロシドライト(青石綿)及びアモサイト(茶石綿)の使用等が禁止される |
2004年 | 安衛法施行令改正 | 1重量%を超えるアスベスト含有建材、摩擦材、接着剤等の10品目の製造、使用等の禁止 |
2006年 | 安衛法施行令改正 | 建材等のみならず0.1重量%を超えるアスベスト含有製品の全面禁止(一部猶予措置あり) |
参考:アスベスト全面禁止|厚生労働省
参考:アスベスト含有製品の輸入禁止について|厚生労働省
建設アスベスト訴訟の概要と訴訟事例
建設アスベスト訴訟とは、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していた元建設作業員やそのご遺族らが、適切な規制権限を行使しなかった国及びアスベスト含有建材を製造・販売した建材メーカーを相手に賠償を求める訴訟をいいます。
ここでは、建設アスベスト訴訟について解説します。
(1)建設アスベスト訴訟とは?
先ほどご説明したとおり、かつてアスベストは、その特性から、工業製品の原材料として優れた適格性を有していると考えられていました。
そのため、吹き付け材、保温材、断熱材、耐火被覆板、成形板等の建材に多くのアスベストが使用されていました。
1995年頃には、日本のアスベスト消費量のうち、なんと約9割を建材製品が占めるようになっていました。
ですが、アスベストにはご説明したように人体に対する非常に高い有害性があり、アスベスト含有建材を用いて作業に従事していた建設作業員らにアスベスト被害が多発するようになりました。
このようなアスベストの有害性を知りながら、建材メーカーはその有害性について何らの警告もせず、アスベスト含有建材の製造・販売を行い利益を上げ続け、国もこれらに何らの規制も課しませんでした。
このような国と建材メーカーの責任を問うため、2008年に東京地裁で集団訴訟が提起され、これを皮切りに、横浜、京都、大阪、福岡、札幌、さいたま、仙台の各地の地方裁判所で同様の提訴がなされるに至ったのです。
(2)国と建材メーカーの賠償責任が次々と認められる
2012年5月25日に出された横浜地裁判決は、国の責任を否定する内容でしたが、その後の別の裁判では、責任期間や賠償額等について差はあるものの、全ての判決が国の責任を認める内容になっています。
建材メーカーの責任については、2016年1月29日に出された京都地裁判決ではじめて認められ、それ以降、札幌地裁判決、東京高裁判決では否定されたものの、平成28年1月29日京都地裁判決、平成29年10月24日横浜地裁判決、平成29年10月27日東京高裁判決、平成30年8月31日大阪高裁判決、平成30年9月20日大阪高裁判決、令和元年11月11日福岡高裁判決、令和2年8月28日東京高裁判決、令和2年9月4日東京地裁判決の8つの判決で建材メーカーの責任を認める内容の判決が出されています。
そして、2021年5月17日、建設型4つのアスベスト訴訟について、初となる最高裁判決がそれぞれ言い渡され、
国及び建材メーカーの責任が確定するに至っています。
この最高裁判決について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第491号,第495号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第596号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第290号,第291号,第292号)|裁判所 – Courts in Japan
(3)建設アスベスト被害者に対して給付金を支給する法律が成立
国と建材メーカーの賠償責任を認める最高裁判決が言い渡されたことを受け、2021年5月18日、厚生労働大臣と原告団・弁護団との間で、基本合意書が締結されました。
そして、2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます)』が成立し、2022年1月19日に完全施行されました。
給付金法は、建設業務に従事したことによってアスベストにばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、国との関係では、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
過去の一定期間内にアスベストにさらされる建設業務を行っていた方で、現在次の5つの疾病の診断を受けている方は、給付金を受け取ることができる可能性があります。

これまで、建設アスベスト被害については、主に、国や建材メーカーを被告とする損害賠償請求訴訟を提起することで、金銭的な救済が目指されていました。
しかし、
今回の給付金法の成立によって、国との関係においては、このような
損害賠償請求訴訟を提起することなく、被害者の金銭的な救済が図られることとなります。
給付金を受けるための要件については、次の記事で詳しく解説しています。
給付金のもらい損ねがないよう、過去にアスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していたご経験がある方やそのご遺族は、給付金法の内容を必ずチェックしておきましょう。
【まとめ】建設アスベストの被害者及びそのご遺族は、最大1300万円の給付金を受け取れる可能性がある
本記事をまとめると次のようになります。
- 輸入されたアスベストの約8割は建材に使用されており、建設作業員の健康被害が問題となっている
- 建設アスベスト訴訟は、適切な規制権限を行使しなかった国およびアスベスト含有建材の製造、販売を行った建材メーカーを相手に賠償を求める訴訟
- 現在、建設アスベスト被害者に対して最大1300万円の給付金を支給することを内容とする法律が成立しており、これにより、建設アスベスト被害者は、国との関係では、訴訟を提起することなく金銭的な救済を受けることが可能となっている
給付金法による救済の対象であるのに、気づかずにお金を受け取れないとしたら、非常に残念なことです。「対象かも?」と思われた方は、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。
アディーレ法律事務所では、建設アスベスト給付金の請求手続きを取り扱っております。
アディーレ法律事務所では、アスベスト給付金請求手続きに関し、着手金、相談料はいただいておらず、原則として報酬は給付金・賠償金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、 当該事件をアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
※以上につき、2023年1月時点
アスベスト被害にあわれた方またはそのご遺族の方は、アスベスト被害に積極的に取り組んでいるアディーレ法律事務所にご相談ください。