「アスベストにばく露することによって発症する中皮腫って何?また、発症した場合に救済制度はあるの?」
中皮腫とは、内臓を覆う中皮細胞に発生する悪性腫瘍をいいます。中皮腫のうちの約80%は、アスベストの職業性ばく露が原因といわれています。
アスベストにばく露したことによってこの中皮腫を発症した場合、労災保険給付、石綿健康被害救済法に基づく給付、アスベスト訴訟による救済を受けることができる可能性があります。
本記事では、
- アスベストとは?
- アスベストによる中皮腫とは?
- アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|労災保険給付
- アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|石綿健康被害救済法に基づく給付
- アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|アスベスト訴訟
について解説します。
救済制度についての知識がないばかりに、救済を受けることができなかったということにならないよう、この機会に救済制度に関する知識をおさえておきましょう。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
アスベストとは?
そもそも、アスベストとはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、アスベストの危険性とアスベストの種類について解説します。
(1)アスベストの危険性
アスベスト(石綿)とは、繊維状の天然鉱物の総称です。
アスベスト(石綿)は、ほぐすと綿のようになり、その繊維は極めて細かく、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等の特性に優れているため、様々な工業製品の原材料に使用されていました。
もっとも、アスベスト(石綿)は工業製品の原材料等として優れた適格性を有している反面、人体に対する有害性も有していると現在では認められています。
アスベスト(石綿)の繊維は非常に細かいため、研磨機や切断機による作業や、吹き付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと容易に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすく、人体にいったん吸引されると、肺胞に沈着し、その一部は肺の組織内に長期間滞留することになります。この肺に長期間滞留したアスベスト(石綿)が要因となって、肺がん、悪性中皮腫、石綿肺を引き起こすと考えられています。
(2)アスベストの種類
アスベスト(石綿)とは、繊維状鉱物の総称で、以下の6種類に分類することができます。
アスベスト(石綿)は、以下の6種類に分類することができます。
- クリソタイル(白石綿)
- クロシドライト(青石綿)
- アモサイト(茶石綿)
- アンソフィライト
- トレモライト
- アクチノライト
このうち、建材や摩擦材などの工業製品の原材料として使用されていたのは、主に、クリソタイル、クロシドライト、アモサイトの3種類です。クリソタイルは、ほとんどすべてのアスベスト(石綿)製品に使用されてきたもので、世界で使用されたアスベスト(石綿)の約9割以上を占めます。また、クロシドライトとアモサイトについては、主に、石綿吹付作業の原料として使用されてきました。
アスベスト(石綿)は繊維が細くて長いものほど人体に対する有害性高くなるといわれており、「クロシドライト>アモサイト>クリソタイル」の順で有害性が強いといわれています。WHOの報告書によれば、クロシドライトはクリソタイルにくらべて500倍の発がん性があり、アモサイトはクリソタイルにくらべて100倍の発がん性があるとされています。
アスベストによる中皮腫とは?
アスベスト粉じんにばく露すると、中皮腫を発症する可能性があります。
ここでは、中皮腫とは何か、潜伏期間や症状等について解説します。
(1)中皮腫とは?
内臓は、中皮と呼ばれる薄い細胞膜によって覆われています。
悪性中皮腫とは、この中皮細胞から発生する悪性腫瘍をいいます。悪性腫瘍が発生する場所により、胸膜中皮腫、心膜中皮腫、腹膜中皮腫、精巣漿膜中皮腫に分類されます。アスベストばく露によって発症する中皮腫のほとんどは、胸膜中皮腫です。
中皮腫の原因は、アスベストの職業性ばく露が約80%を占めるといわれています(ヘルシンキ基準1997年)。アスベスト以外の原因では、放射線ばく露や遺伝性によるものが挙げられます。
中皮腫は、「希少がん」に分類されています。「希少がん」とは、『人口10万人あたり6例未満の「まれ」な「がん」、数が少ないがゆえに診療・受療上の課題が他に比べて大きいがん種』の総称です。特徴的な症状が少なく早期発見が難しい上、治療も難しい病気の1つといわれています。
参考:さまざまな希少がんの解説|国立がん研究センター 希少がんセンター
(2)潜伏期間や症状は?
アスベスト関連疾患は、アスベストにばく露してもただちに発症するわけではありません。通常、数十年単位の潜伏期間を経てから発症するといわれています。中皮腫の場合、平均潜伏期間は40~50年と非常に長く、ばく露から20年以下で発症する例は非常に少なく、10年未満での発症例はないといわれます。
症状としては、胸膜中皮腫の場合、胸の痛み、咳、胸水による呼吸困難や胸部圧迫感、発熱や体重減少があるといわれていますが、これらはどれも胸膜中皮腫に特徴的な症状ではありません。発症してから初期は、胸部X線写真でわずかな胸水を肋骨横隔膜角に認めるのみなので、早期発見が非常に難しいといわれています。
治療法には、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等があり、どの治療方法を用いるかは病期や全身状態により判断されます。
参考:悪性胸膜中皮腫病理診断の手引き|特定非営利活動法人 日本肺癌学会
アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|労災保険給付
アスベスト(石綿)を取り扱う仕事などをしていた関係で、アスベスト粉じんにばく露し、疾病を発症した方は、後述する業務上疾病であることの要件を満たすことによって、労災保険給付を受けることが可能です。
労災保険とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な給付を行う公的保険制度のことをいいます。
原則として労働者を一人でも使用する事業所は適用事業所とされ、労災保険の加入義務が事業者に課されます(労働者災害補償保険法3条1項)。
労災保険給付を受けることができるのは、このような適用事業所で使用される労働者や、労災保険に特別加入している方等です。
(1)労災認定の要件|業務上疾病であること
労災保険給付を受けるためには、中皮腫を発症していて、これらが労働者としてアスベスト(石綿)ばく露作業に従事していたことが原因である(業務上疾病)と認められることが必要となります。
中皮腫が業務上疾病であると認定されるためには、胸膜、腹膜、心膜または精巣鞘膜の中皮腫であって、以下の(ア)または(イ)のいずれかに該当することが必要になります。ただし、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限りません)を開始した時から10年未満で発症した中皮腫は除かれます。
なお、『石綿ばく露作業』とは以下のものをいいます。
- 石綿鉱山またはその附属施設において行う石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出または粉砕その他石綿の精製に関連する作業
- 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
- 石綿製品の製造工程における作業
- 石綿の吹付け作業
- 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
- 石綿製品の切断などの加工作業
- 石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
- 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
- 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)など)などの取り扱い作業
これらのほか、上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業や上記作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業も該当します。
【(ア)じん肺法に定める胸部エックス線写真で、第1型以上の石綿肺所見があること】
じん肺法4条1項において、じん肺管理区分の決定の際に用いられるエックス線写真像の区分が以下のように定められており、これに基づき石綿肺所見の有無が判断されます。
型 | エックス線写真の像 |
第1型 | 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第2型 | 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第3型 | 両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり、かつ、大陰影がないと認められるもの |
第4型 | 大陰影があると認められるもの |
【(イ)石綿ばく露作業従事期間が1年以上であること】
(2)労災保険給付の内容
労災保険には、療養補償給付や休業補償給付等、給付内容等によって複数の保険給付があります。また、それぞれについて、異なる時効が規定されており、保険給付を受けようとする際は注意が必要です。
保険給付の種類 | 保険給付を受けられる場合 | 保険給付の内容 | 時効 |
療養補償給付 | 業務上疾病等により療養する場合 | 治療費、入院の費用、看護料、移送費等通常療養のために必要なもの | 療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
休業補償給付 | 傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられない場合 | 休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額 | 賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年 |
傷病補償年金 | 療養開始後1年6ヶ月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級(1~3級)に該当する場合 | 障害の程度に応じ、給付基礎日額の313~245日分の年金 第1級 313日分 第2級 277日分 第3級 245日分 | 監督署長の職権により移行されるため請求時効はない |
障害補償給付 | 傷病が治って身体障害が残った場合 | 障害等級にしたがって、第1~7級までは、給付基礎日額の313~131日分の年金。 第8~14級までは、給付基礎日額の503~56日分の一時金。 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
介護補償給付 | 傷病年金または障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合 | 常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、16万6950円を上限とする)。 親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が7万2990円を下回る場合は、7万2990円。 随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、8万3480円を上限とする)。 親族等により介護を受けており、介護費用を支出していない場合または支出した額が3万6500円を下回る場合は3万6500円。 | 介護を受けた月の翌月の1日から2年 |
遺族補償給付 | 労働者が死亡した場合 | 遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245~153日分の年金。 1.遺族(補償)等年金を受け得る遺族がないとき、または、2.遺族(補償)等年金を受けている人が失権し、かつ、他に受け得る人がいない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときは、給付基礎日額の1000日分の一時金(2の場合は、すでに支給した年金の合計額を差し引いた額) | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭料 | 労働者が死亡した場合 | 31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分) | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|石綿健康被害救済法に基づく給付
「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、「石綿健康被害救済法」といいます。)とは、日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかった方またはその遺族に対して、医療費等の給付をすることを内容とする法律です。
石綿健康被害救済法は、労災給付の対象とならない方(アスベスト(石綿)工場の周辺住民等)や、労災保険の対象であったが時効によって労災給付を受けることができなくなった方について、その迅速な救済を図るために制定されました。
そのため、労災保険の対象とならない方であっても、以下にある要件を満たすことによって石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることが可能です。
なお、労災保険給付と石綿健康被害救済法に基づく給付を同時に受けることはできません。労災保険の対象となる方については、同法に基づく給付の対象とはなりませんのでご注意ください。
(1)給付の要件|指定疾病にかかった旨の認定を受けること
「日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかった旨の認定を受けた」こと(石綿健康被害救済法4条1項)、または、指定疾病にかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受けること(同法5条1項)です。
そして、「指定疾病」とは、アスベスト(石綿)を吸入することにより発症する疾病であって、次の4種類の疾病をいいます(同法2条1項)。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
(2)給付の内容
遺族が受け取ることができる石綿健康被害救済制度の給付内容は、指定疾病で療養中に機構による認定後に死亡した場合、救済制度に申請する前に死亡した場合で異なります。
また、救済制度に申請する前に死亡した場合については、指定疾病の種類によって、時効期間が異なります。
【指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡した場合の給付】
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
葬祭料 | 死亡した被認定者の葬祭を行う場合 | 19万9000円 | 被認定者が死亡した被の翌日から2年以内 |
未支給の医療費・療養手当 | 死亡した被認定者に支払うべき医療費・療養手当で、被認定者に未支給のものがある場合、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 医療費については、死亡した被認定者が、療養を開始した日以降にかかった認定疾病にかかる保険医療費の自己負担分のうち、医療費として被認定者に支給していないもの。 療養手当については、対象月のうち、未支給となっているもの | 医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内。 ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。 |
救済給付調整金 | 被認定者に支給された医療費と療養手当および遺族に支給した未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額を、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 被認定者に対して支給された医療費、療養手当および未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額。 なお、医療費には、石綿健康被害医療手帳を医療機関に提示することにより支給された医療費を含む。 | 被認定者が死亡した被の翌日から2年以内。 |
【救済制度に申請する前に指定疾病で死亡した場合の給付(疾病が中脾腫・石綿による肺がんの場合)】
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月26日以前に死亡した場合) | 石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以前に、指定疾病に起因して死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 2022年3月27日まで |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月27日以降に死亡した場合) | 石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以降に認定の申請を行わず指定疾病により死亡した者の遺族で、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 死亡した日の翌日から15年以内。 ただし、中皮腫または肺がんにより、2006年3月27日から2008年11月30日までに死亡した者の遺族からの請求は、2023年12月1日まで。 |
【救済制度の申請する前に指定疾病により死亡した場合の給付(疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚)】
給付の種類 | 請求できる場合 | 給付内容 | 請求期限 |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年6月30日以前に死亡した場合) | 改正政令施行日(2010年7月1日)より前に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 2026年7月1日まで |
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年7月1日以降に死亡した場合) | 改正政令施行日(2010年7月1日)以降に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。 | 特別遺族弔慰金として280万円。 特別葬祭料として19万9000円。 | 死亡した日の翌日から15年以内 |
アスベストに関するご相談は何度でも無料!
弁護士費用は安心の成功報酬制!
石綿健康被害救済法や労災保険の給付を受けている方でも、賠償金の対象になります!
アスベストで中皮腫になった場合の救済制度|アスベスト訴訟
アスベスト訴訟とは、工場での労働や、建設現場での労働が原因で、アスベスト粉じんにばく露し、アスベスト関連疾患を発症してしまった方またはその遺族が、国ないしは企業にその賠償責任を求めて提起する訴訟のことをいいます。
アスベスト訴訟は、大別して、工場型アスベスト訴訟と、建設型アスベスト訴訟に分類されます。
アスベスト工場での労働が原因で中皮腫になった方や、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事したことが原因で中皮腫になった方は、アスベスト訴訟により、賠償金(和解金)や給付金を受給することができる可能性があります。
(1)工場型アスベスト訴訟とは?
まずは、工場型アスベスト訴訟について説明します。
(1-1)工場型アスベスト訴訟の概要
工場型アスベスト(石綿)訴訟とは、アスベスト(石綿)工場での労働によってアスベスト(石綿)粉じんにばく露し、その結果としてアスベスト(石綿)関連疾患を発症してしまった元工場労働者やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国を相手に賠償を求める訴訟をいいます。
アスベスト(石綿)製品の製造・加工工場では、アスベスト(石綿)による健康被害を防止するための効果的な措置が長らくとられておらず、その結果として、アスベスト(石綿)工場の労働者に深刻な健康被害が生じていました。国は、このような健康被害の実態を把握していたにもかかわらず、健康被害を防止するために必要となる措置を工場に義務づける等の適切な対応を取っていませんでした。
このような国の規制権限の不行使は違法であるとして、アスベスト(石綿)工場の元労働者やその遺族によって、国の責任を追及する国賠請求訴訟が提起されるに至りました。そして、2014年10月9日、最高裁は、国側敗訴の判決(以下、この判決を「泉南アスベスト(石綿)訴訟判決」といいます。)を言い渡しました。
現在、この判決をもとに、同様の状況にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者及びその遺族については、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、所定の要件を満たすことが確認されれば、国と裁判上の和解をすることにより賠償金(和解金)を受け取ることが可能となっています。
参考:泉南アスベスト(石綿)訴訟判決|裁判所- Courts in Japan
参考:石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々との和解手続について|厚生労働省
(1-2)和解の要件と賠償金(和解金)額
国と和解するための要件は以下のようになります。和解を成立させるためには、以下のすべての要件を満たす必要があります。
なお、ここでいう『一定の健康被害』とは、以下の4つの疾病を指します。
- アスベスト(石綿)肺
- 肺がん
- 中皮腫
- びまん性胸膜肥厚
厚生労働省が公表している賠償金(和解金)額は以下のとおりです。
じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合 | 550万円 |
管理2で合併症がある場合 | 700万円 |
管理3で合併症がない場合 | 800万円 |
管理3で合併症がある場合 | 950万円 |
管理4、肺がん、中皮腫、びまん性硬膜肥厚の場合 | 1150万円 |
アスベスト(石綿)肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 | 1200万円 |
アスベスト(石綿)肺(管理2・3で合併症あり又は管理4)肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 | 1300万円 |
(2)建設型アスベスト訴訟とは?
建設型アスベスト訴訟について解説します。
(2-1)建設型アスベスト訴訟の概要
建設型アスベスト訴訟とは、アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事したことが原因で、アスベスト粉じんにばく露し、アスベスト関連疾患を発症した元建設作業員またはその遺族が、国及び建材メーカーに対してその賠償責任を求める訴訟をいいます。
2021年5月17日、4つの建設型アスベスト(石綿)訴訟について、国と建材メーカーを敗訴とする最高裁判決が言い渡され、国及び建材メーカーの責任が確定するに至りました。
そして、2021年6月9日、この最高裁判決を受けて、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます。)』が成立しました。
給付金法は、建設業務に従事したことによってアスベスト(石綿)にばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
これまで、建設業務に従事したことによるアスベスト(石綿)被害については、主に、国や建材メーカーを被告とする損害賠償請求訴訟を提起することで、金銭的な救済が目指されていましたが、給付金法の成立によって、このような損害賠償請求訴訟を提起することなく、被害者の金銭的な救済が図られることになりました。
参考:特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案|衆議院
(2-2)給付金の要件と給付金額
給付金の支給要件は、特定石綿被害建設業務労働者等であること、および、期間制限を経過していないことの2つです。
給付金額については、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定されます。
基本的な給付金額は以下のようになります。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 550万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 700万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 800万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 950万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者 | 1150万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した者 | 1200万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した者 | 1300万円 |
減額事由は、石綿ばく露期間による減額、喫煙習慣による減額の2つです。
【石綿ばく露期間による減額(給付金法4条2項)】
記表の石綿ばく露期間を下回る場合には、100分の90に減額されます。
[疾病] | [石綿ばく露期間] |
肺がん又は石綿肺 | 10年 |
びまん性胸膜肥厚 | 3年 |
中皮腫又は良性石綿胸水 | 1年 |
減額後の給付金額は下記表のようになります。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 495万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 630万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者 | 720万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者 | 855万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者 | 1035万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した者 | 1080万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した者 | 1170万円 |
【喫煙習慣による減額(給付金法4条3項)】
肺がんにかかった特定石綿被害建設業務労働者等で、喫煙習慣がある者については、100分の90に減額されます。なお、石綿ばく露期間による減額事由も認められる場合、石綿ばく露期間による減額により算出された金額に、100分の90を乗じた金額が給付金額とされます。
[疾病] | [ばく露期間減額の有無] | [減額後の金額] |
肺がんによる死亡 | ばく露期間による減額なし | 1170万円 |
ばく露期間による減額あり | 1053万円 | |
肺がん | ばく露期間による減額なし | 1035万円 |
ばく露期間による減額あり | 931万5000円 |
【まとめ】アスベストで中皮腫になった場合の救済制度は、労災保険給付、石綿健康被害救済法に基づく給付、アスベスト訴訟の3つ
本記事をまとめると以下のようになります。
- アスベストには人体に対する非常に高い有害性があり、アスベストにばく露した場合、数十年の潜伏期間を経てから、中皮腫を発症する危険性がある
- 中皮腫は、特徴的な症状がなく早期発見が難しい上、治療も難しい希少がんの一つ
- アスベストによる中皮腫が業務上疾病であると認められた場合、労災保険給付を受けることができる
- 労災保険給付を受けることができない場合であっても、指定疾病であることの認定を受ければ、石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることができる
- アスベスト工場での労働が原因で中皮腫を発症した場合、国を被告とする国賠請求訴訟を提起して、国との間で裁判上の和解をすることにより、賠償金(和解金)を受給することが可能
- アスベスト含有建材を用いて建設作業に従事したことが原因で中皮腫を発症した場合、訴訟を提起することなく、最大1300万円の給付金を受給することができる可能性がある
現在、アディーレ法律事務所では、アスベスト(石綿)被害に悩まれておられる方を一人でも多く救いたいとの想いから、アスベスト(石綿)被害についての相談をお待ちしております。
アスベスト(石綿)被害にあわれた方およびそのご遺族は、アディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。