「建設業のアスベスト被害者に対する国の責任は?」
2021年5月17日、建設アスベスト(石綿)被害者に対する国の責任を認める最高裁判決が言い渡されました。
この最高裁判決を受けて、建設アスベスト被害者に対して最大1300万円の給付金を支給する建設アスベスト給付金制度が創設されました。
本記事では、
- 建設アスベスト訴訟とは?
- 建設アスベスト訴訟における国の責任は?
について、弁護士が解説します。
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
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建設アスベスト訴訟とは?
建設アスベスト訴訟とは、建設現場での作業に従事していたことによってアスベスト関連疾患を発症した労働者やその遺族が、国や建材メーカーを相手に起こした損賠賠償請求訴訟をいいます。
アスベストは、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性等に優れているという特性を持っています。そのため、吹き付け材、保温材、断熱材、耐火被覆板、成形板等の多くの建材にアスベストが使用されていました。平成7年ころには、日本のアスベスト消費量のうち、なんと約9割を建材製品が占めるようになっていました。
しかし、アスベストには、人体に対する非常に高い有害性があり、肺がんや中皮腫などのアスベスト関連疾患を引き起こす危険性があります。
このようなアスベストの有害性を知りまたは知ることができたのに、建材メーカーはその有害性について十分な警告をせず、アスベスト含有建材を製造・販売して利益を上げ続け、国も十分な規制を課しませんでした。
そして、アスベスト含有建材を用いて作業に従事していた建設作業員らにアスベスト被害が多発するようになりました。
このような被害を受けた建設作業員やその遺族が国および建材メーカーの責任を問うために起こした裁判が建設アスベスト訴訟です。
建設アスベスト訴訟における国の責任は?
建設アスベスト訴訟における国の責任はどのように判断されたのでしょうか。
(1)多数の裁判例で国の責任が肯定される
2008年に東京地裁で集団訴訟が提起され、これを皮切りに、横浜、京都、大阪、福岡、札幌、さいたま、仙台の各地の地方裁判所で同様の提訴がなされるに至りました。
2012年5月25日の横浜地裁判決では、国の責任が否定されたのですが、その後の裁判では、責任期間や賠償額等について差はあるものの、全ての判決が国の責任が認められました。
なお、建材メーカーの責任については、2016年1月29日の京都地裁判決ではじめて認められました。
その後、札幌地裁判決、東京高裁判決では建材メーカーの責任が否定されたものの、平成28年1月29日京都地裁判決、平成29年10月24日横浜地裁判決、平成29年10月27日東京高裁判決、平成30年8月31日大阪高裁判決、平成30年9月20日大阪高裁判決、令和元年11月11日福岡高裁判決、令和2年8月28日東京高裁判決、令和2年9月4日東京地裁判決の8つの判決で、建材メーカーの責任が認められました。
(2)最高裁判決により国と建材メーカーの賠償責任が認められる
最高裁判所は、2021年5月17日、建設アスベスト訴訟について、国と建材メーカーの責任を認める判決(「建設アスベスト訴訟最高裁判決」といってご説明します)を下しました。
この判決では、1975年10月1日~2004年9月30日の間に屋内建設作業に従事していたことによってアスベスト関連疾患を発症した建設作業員または一人親方等に対する国の損害賠償責任が認められました。
参考:令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷 第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号|裁判所 – Courts in Japan
参考:令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷 第491号,第495号|裁判所 – Courts in Japan
参考:令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷 第596号|裁判所 – Courts in Japan
参考:令和3年5月17日最高裁判所第一小法廷 第290号,第291号,第292号|裁判所 – Courts in Japan
建設アスベスト給付金制度とは?
建設アスベスト訴訟最高裁判決を受けて、建設アスベスト給付金制度が創設されました。
この制度は、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(「給付金法」といってご説明します)』に基づき、建設業務に従事したことによってアスベスト関連疾病にかかった労働者または一人親方に対して、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
これまで、建設業務に従事したことによるアスベスト被害についての損害の填補を受けるためには、国や建材メーカーを被告として裁判を起こす必要がありましたが、建設アスベスト給付金制度の創設によって、国が負うべき責任との関係では、裁判を起こすことなく、金銭的な救済が図られることになります。
過去にアスベスト含有建材を用いた建設作業に従事していたご経験のある方、またはそのご遺族は、給付金の対象者かもしれませんので、給付金法の内容を必ずチェックしておきましょう。
給付金法の詳しい内容に関しては、こちらの記事をご覧ください。
【まとめ】最高裁判決により国の賠償責任が確定。現在は被害者のために給付金制度も創設されている
本記事をまとめると次のようになります。
- 建設アスベスト訴訟とは、建設現場での作業に従事していたことによってアスベスト関連疾患を発症した労働者やその遺族が、国や建材メーカーを相手に起こす損害賠償請求訴訟
- 2021年5月17日、最高裁は、建設アスベスト訴訟について、国と建材メーカーの損害賠償責任を認める判決を下した
- 『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律』に基づく建設アスベスト給付金制度の創設によって、建設業務に従事したことによってアスベスト関連疾病にかかった労働者または一人親方に対して、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給されることになった
アディーレ法律事務所では、アスベスト給付金・賠償金請求に関し、着手金、相談料はいただいておらず、原則として報酬は給付金・賠償金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、当該事件をアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
※以上につき、2023年1月時点
アスベスト被害に遭われた方またはそのご遺族の方は、アスベスト被害に積極的に取り組んでいるアディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。