「残業時間から、遅刻・早退の時間を差し引かれたせいで残業代が少ない。これって問題ないの?どう対処すればいいの?」
実は、残業時間から、別の日の遅刻・早退の時間を差し引いて(「相殺」をして)、残業時間を少なく計算することは、許されていません。
そのため、このように不当に残業時間を相殺され、残業代を減らされた場合には、未払い残業代の請求をすることができます。
この記事を読んでわかること
- 残業時間が相殺され差し引かれる4つのケース
- 相殺された残業時間分の残業代を会社へ請求する方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
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残業時間の相殺は違法!未払い残業代が発生することも
残業時間を計算する際に、残業時間から、別の日の遅刻・早退・休日などの時間を差し引いて(「相殺」して)、残業時間を少なく計算する会社があります。
例えば、3時間残業した日の翌日以降に3時間早退した場合、この残業3時間から早退3時間を相殺し、残業時間をゼロとして計算することなどがあります。

しかし、このような計算により残業時間を少なく計算することは、違法な処理であり許されません。
このような処理をされた場合には、未払い残業代請求ができる可能性があります。
残業時間が相殺される4つのケース
例えば、残業時間が相殺される場合には、次のようなケースがあります。
- 【ケース1】残業をさせた分、翌日以降の早退と調整するケース
- 【ケース2】遅刻分の時間の穴埋めに、別の日に残業をさせるケース
- 【ケース3】残業に対して代わりに休暇を取得させるケース
- 【ケース4】法定休日の労働に対して代休を取得させるケース
これらについて、相殺の可否、及び未払い残業代の計算例についてご説明します。
まず、残業代の計算は、次の式によります。
残業代の額=基礎時給×残業時間×割増率
(なお、この記事では、「残業」とは法定労働時間を超えた時間外労働のこととしてご説明します)
(1)ケース1|残業をさせた分、翌日以降の早退と調整するケース
残業をさせた分、翌日以降の早退と調整するケースがあります。
例えば、ある日に3時間残業をさせ、その翌日に労働者が3時間早退したとします。そして、残業3時間と早退3時間とをそれぞれ相殺し、残業時間をゼロとして算出するケースです。
この場合、残業時間をゼロとすれば、残業代の支払はないようにも見えます。
しかし、実際には3時間分の残業をしているのですから、このような場合でも、会社は3時間分の残業代を支払わなければならないというのがルールです。
具体的には次のような計算となります。
〈具体例〉
- 所定労働時間:10~19時(休憩1時間)
- 12月1日の実際の労働時間:10~22時(残業3時間)
- 12月2日の実際の労働時間:10~16時(早退3時間)
- 1時間当たりの基礎賃金:1600円
- 割増率25%の場合
◆残業3時間から早退3時間を相殺して残業時間をゼロと考えて計算した場合の支給額
1600円×16時間
=2万5600円
◆残業時間から早退時間を相殺せずに別々に計算した場合の支給額
- 12月1日分
1600円×8時間+1600円×3時間×1.25
=1万8800円
- 12月2日分
1600円×5時間
=8000円
- 合計
1万8800円+8000円
=2万6800円
◆未払い残業代の額
2万6800円-2万5600円=1200円(割増分:1600×3時間×0.25)
このように、本来支払われるべき残業代が未払いになっている場合には、後でご説明するように、会社に対して未払い残業代請求をすることができます。
(2)ケース2|遅刻分の時間の穴埋めに、別の日に残業をさせるケース
遅刻をした分の穴埋めとして、翌日以降に残業をさせるケースがあります。
例えば、ある日に2時間遅刻をしたので、翌日に2時間残業をさせます。そして、残業2時間から遅刻2時間を相殺し、残業時間をゼロとして算出するケースです。
この場合、残業時間をゼロと考えると、残業代の支払はないかとも思えます。
しかし、実際には2時間分の残業をしているのですから、ここでもやはり、実際に残業をした2時間分の残業代を会社が支払わなければならないというのがルールです。
具体的には次のような計算となります。
〈具体例〉
- 所定労働時間:10~19時(休憩1時間)
- 12月3日の労働時間:12~19時(遅刻2時間)
- 12月4日の労働時間:10~21時(残業2時間)
- 1時間当たりの基礎賃金:1200円
- 割増率25%の場合
◆残業2時間から遅刻2時間を差し引き相殺して残業時間がゼロと考えて計算した場合の支給額
1200円×16時間
=1万9200円
◆残業2時間と遅刻2時間とを別々に計算した場合の支給額
- 12月3日分
1200円×6時間
=7200円
- 12月4日分
1200円×8時間+1200円×2時間×1.25
=1万2600円
- 合計
7200円+1万2600円
=1万9800円
◆未払い残業代の額
1万9800円-1万9200円=600円(割増分:1200×2時間×0.25)
このように、本来支払われるべき残業代が未払いになっている場合には、後でご説明するように、会社に対して未払い残業代請求をすることができます。
(3)ケース3|残業に対して代わりに休暇を取得させるケース
残業をしたことに対して、代わりに休暇を取得させるケースがあります。
例えば、月曜~木曜日まで毎日残業をさせ、残業を多くさせた代わりに金曜日は代わりに休暇を取らせます。そして、代わりの休暇分の時間を月曜~木曜日までの残業時間合計と相殺し、残業時間を少なく算出する場合があります。
しかし、実際に月曜~木曜日まで残業をしているのですから、実際の残業時間に見合った残業代を支払わなければならないのがルールです。
具体的には次のような計算となります。
〈具体例〉
- 所定労働時間:8時間
- 1時間当たりの基礎賃金:1600円
- 割増率25%の場合
- 月曜~木曜日まで毎日11時間労働
(=毎日3時間残業。月曜~木曜日まで計12時間残業) - 金曜日を代りに休暇とする。
金曜日を代りに休暇とすることで、単に金曜日の所定労働時間8時間分を月曜~木曜日までの残業時間12時間分から差し引き相殺した場合の未払い残業代の計算
- 12時間-8時間=4時間分の残業代が支給される
(12時間-8時間)×1600円×1.25
=8000円
上記の計算は、1|金曜日の所定労働時間8時間分の賃金と、2|月曜~木曜日までの残業時間のうちの8時間分の賃金が同額であれば問題ありませんが、2|の賃金は残業代として25%の割増分が上乗せされるため、1|の賃金より高くなります。そうすると、単に金曜日の所定労働時間8時間分を差し引き相殺して未払い残業代を計算してしまいますと、残業代に不足が生じることになります。
◆不足する残業代の額
1|金曜日の所定労働時間8時間分の賃金
8時間×1600円=1万2800円
2|月曜~木曜日までの残業時間のうち8時間分の賃金(残業代)
8時間×1600円×1.25=1万6000円
2|1万6000円-1|1万2800円=3200円(割増分:1600円×8時間×0.25)が不足することになり、これも未払い残業代となる。
◆未払い残業代の総額
8000円+3200円=1万1200円が未払い残業代の総額となる。
このように本来支払われるべき残業代が未払いになっているため、未払いになっている残業代は会社に対して請求することができます。
(4)ケース4|法定休日の労働に対して代休を取得させるケース
「法定休日」に労働をさせたことに対して、その分の代休を取得させるケースがあります。
この場合、法定休日の労働によって発生した残業代を支払っていなければ、その部分が残業代の未払い分となります。
「法定休日」とは、毎週少なくとも1回の休日または4週間に4日以上の休日のことをいいます。
会社は、労働者に対して、この休日を与えなければなりません(労働基準法35条)。
法定休日の労働に対して代休を取得させるケースとは、例えば次のような場合です。
- 月曜日から日曜日まで連続して労働させる(日曜日が法定休日)
- 日曜日まで労働をさせた後で、月曜日を休日とさせる
この場合、法定休日である日曜日の分の残業代を支払っていなければ、その分が残業代の未払い分となります。
事前に日曜日の替わりに月曜日を休日としておけば(振替休日)、日曜日に働かせても休日労働とはされず残業代を支払う必要はありません。
これに対し、上記のように事後に月曜日を休日としたときには(代休)、日曜日に働かせたことが休日労働となり、残業代を35%以上の割増率で支払う必要があります。
〈追加で請求できる残業代〉
- 法定休日に8時間労働した場合
- 1時間当たりの基礎賃金:1600円
- 割増率35%の場合
◆追加で請求できる残業代(未払いとなっている残業代)
1600円×8時間×0.35
=4480円
※月曜日を休日とすることで、月曜日の所定労働時間8時間分の賃金が控除されることになるため、追加で請求できる残業代は、1600円×8時間×1.35ではなく、1600円×8時間×0.35(割増分)として計算されることになります。
法定休日について、詳しくこちらをご覧ください。
相殺された残業時間分の残業代を会社へ請求する方法
ここまでにご説明したとおり、残業時間から遅刻・早退などの時間が相殺された結果、残業代が未払いとなっている場合、未払い残業代の支払を会社に請求できます。
会社への請求となると、ためらわれる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、残業代が発生している以上、それを請求しないのは損ですよね。
また、実際に残業をしたのですから、それを請求するのは正当な権利であって、何もおかしなことではありません。
未払い残業代請求は、基本的には次の手順で行います。
証拠を集める
残業代を計算する
内容証明郵便で未払残業代の請求書を送る
会社と交渉する
また、会社との交渉でも未払い残業代を支払ってもらえない場合には、労働審判や訴訟といった裁判手続きをとることもできます。
自分で会社と交渉するのはなんだか怖いし、労働審判や訴訟というのもよくわかりません。どうすればいいでしょうか?
未払い残業代請求は、残業代請求に詳しい弁護士に依頼して行うという方法もあります。
残業代請求を弁護士に依頼するメリットには次のものがあります。
- どのような証拠を集めればよいのか、弁護士が適切にアドバイスしてくれる。
- 弁護士が、複雑な残業代の計算を代わりに正確に行ってくれる。
- 弁護士が、会社との交渉の段階から手続きを代行してくれる。そのため自分で会社と直接交渉などを行う必要がなくなる。
- 弁護士が、豊富な知識と経験に基づいて手続きを進めてくれるので、残業代を支払ってもらえる可能性がより高まる。
【まとめ】残業時間から遅刻・早退などの時間が相殺されたら、未払い残業代請求を
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 残業時間を計算する際に、残業時間から、別の日の遅刻・早退・休日などの時間を相殺し、残業時間を少なく計算されることがある。しかし、このように残業時間を少なく計算された場合には未払い残業代請求ができる可能性がある。
- 残業時間を相殺して計算されるケースには、残業をさせた分翌日以降に早退させて残業時間から早退時間を差し引くケースや、遅刻分の時間の穴埋めに残業をさせて残業時間から遅刻時間を差し引くケースなどがある。
- 残業時間から遅刻・早退・休日などの時間を相殺されて本来支払われるべき残業代が未払いになっている場合には、会社に対して未払い残業代請求をすることができる。
- 未払い残業代請求は、残業代請求に詳しい弁護士に依頼して行うという方法もある。弁護士に依頼して残業代請求をすることには、さまざまなメリットがある。
せっかく頑張って残業をしたのに、その残業時間から遅刻・早退などの時間を差し引かれて正しい残業代が支払われないのは、納得できないですよね。
個人の事情により遅刻・早退をしてしまうのは仕方がないことです。
遅刻・早退をしても安心して働けるように、このような残業代トラブルは早めに解決してしまいましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からのお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2023年4月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。