「建設アスベスト給付金の給付金額はどのようにして決まるの?喫煙歴による減額があると聞いたんだけど……」
給付金額は、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定されます。減額事由は、石綿ばく露期間と喫煙習慣の2つです。
本記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 建設アスベスト給付金の概要
- 給付金額の決め方
- 給付金の支給要件
- 遺族による給付金の請求
アディーレ法律事務所
同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属
建設アスベスト給付金とは?
日本に輸入されるアスベストの多くは、吹き付け材、保温材、断熱材、耐火被覆板、成形板等の建材に使用されていました。このようなアスベスト含有建材を用いて建設作業に従事していたことが原因で、元建設作業員のアスベスト被害が問題化していました。
2021年5月17日、建設アスベスト被害者による4つの建設アスベスト訴訟について、国と建材メーカーの賠償責任を認める最高裁判決が言い渡されるに至りました。
そして、この最高裁判決が言い渡されたことを受け、2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます。)』が成立しました。
給付金法は、建設業務に従事したことによってアスベスト(石綿)にばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、国との関係では、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
これまで、建設アスベスト(石綿)被害については、主に、国や建材メーカーを被告とする損害賠償請求訴訟を提起することで、金銭的な救済が目指されていました。
給付金法の成立によって、このような損害賠償請求訴訟を提起することなく、被害者の金銭的な救済が図られることとなります。
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第1447号,第1448号,第1449号,第1451号,第1452号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第491号,第495号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第596号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:最高裁判所第一小法廷 判決 令和3年5月17日(第290号,第291号,第292号)|裁判所 – Courts in Japan
参考:建設アスベスト給付金制度について|厚生労働省
給付金額はどのようにして決まる?
給付金額は、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定されます。
減額事由は、石綿ばく露期間と喫煙習慣の2つです。
石綿ばく露期間が一定の期間を下回ることが認められる場合には、給付金額が減額されます。
また、喫煙は肺がんの最大の危険因子といわれていることから、肺がん、肺がんによる死亡の場合で、喫煙習慣が認められるときには、給付金額が減額されることとなっています。
(1)基本的な給付金額について
基本的な給付金額は、次の表に従って決定されます。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺で、指定合併症(※)のない方 | 550万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺で、指定合併症のある方 | 700万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺で、指定合併症のない方 | 800万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺で、指定合併症のある方 | 950万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん、著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚、じん肺管理区分管理4の石綿肺、良性石綿胸水である方 | 1150万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した方 | 1200万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した方 | 1300万円 |
※指定の合併症とは、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸のいずれかです。
(2)減額事由について
【短期ばく露による減額(給付金法4条2項)】
次の表の石綿ばく露期間を下回る場合には、100分の90に減額されます。
[疾病] | [石綿ばく露期間] |
肺がん、 石綿肺 | 10年 |
びまん性胸膜肥厚 | 3年 |
中皮腫、良性石綿胸水 | 1年 |
減額後の給付金額は次の表のようになります。
[疾病] | [金額] | |
(a) | じん肺管理区分管理2の石綿肺で、指定合併症(※)のない方 | 495万円 |
(b) | じん肺管理区分管理2の石綿肺で、指定合併症のある方 | 630万円 |
(c) | じん肺管理区分管理3の石綿肺で、指定合併症のない方 | 720万円 |
(d) | じん肺管理区分管理3の石綿肺で、指定合併症のある方 | 855万円 |
(e) | 中皮腫、肺がん、著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚、じん肺管理区分管理4の石綿肺、良性石綿胸水である方 | 1035万円 |
(f) | (a)又は(c)により死亡した方 | 1080万円 |
(g) | (b)(d)(e)により死亡した方 | 1170万円 |
【喫煙習慣による減額(肺がんのみ)(給付金法4条3項)】
喫煙の習慣があった被害者は、100分の90に減額されます。なお、短期ばく露による減額事由も認められる場合、短期ばく露による減額により算出された金額に、100分の90を乗じた金額が給付金額とされます。
[疾病] | [ばく露期間減額の有無] | [減額後の金額] |
肺がんによる死亡 | 短期ばく露による減額なし | 1170万円 |
短期ばく露による減額あり | 1053万円 | |
肺がん | 短期ばく露による減額なし | 1035万円 |
短期ばく露による減額あり | 931万5000円 |
給付金の支給要件は?
給付金の支給要件は、特定石綿ばく露建設業務に従事した労働者等(又はその遺族)であること、石綿関連疾病にり患したこと、期間制限を経過していないことの3つです。

(1)特定石綿ばく露建設業務に従事した労働者等(又はその遺族)であること
まず、特定石綿ばく露建設業務に従事した労働者等(又はその遺族)であることが必要です。
「特定石綿ばく露建設業務」については、給付金2条1項に規定されています。
日本国内において行われた石綿にさらされる建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業若しくはこれらの作業の準備の作業に係る業務又はこれに付随する業務をいう。)のうち、次の1、2の業務をいいます。
期間 | 業務内容 | |
1 | 1972年10月1日~1975年9月30日までの間 | 石綿の吹付けの作業に係る業務 |
2 | 1975年10月1日~2004年9月30日までの間 | 屋内作業場(※)で行われた作業 |
※屋内作業場とは、屋根を有し、側面の面積の半分以上が外壁その他の遮蔽物に囲まれ、外気の流入が 妨げられることにより、石綿の粉じんが滞留するおそれがあるものされています(特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律施行規則1条)
また、労働基準法9条に記載された労働者や、いわゆる一人親方などである必要があります。被害者が亡くなられている場合は、亡くなられた方の一定の遺族の方である必要があります。
(2)石綿関連疾病にり患したこと
次に、特定石綿ばく露建設業務に従事したことにより、石綿関連疾病にり患したことが必要です。
石綿関連疾病は、次の5種類あります(給付金法2条2項)
石綿を吸入することにより発生する次に掲げる疾病
(ア) 中皮腫
(イ) 気管支又は肺の悪性新生物(肺がん)
(ウ) 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
(エ) 石綿肺(じん肺管理区分の管理2、管理3、管理4、またはこれに相当するものに限る)
(オ) 良性石綿胸水
(3)期間制限を経過していないこと
最後に、給付金の請求には期間制限がありますので、期間制限を経過していないことも給付金の支給要件となります。
期間制限については、次のとおりです(給付金法5条2項)。
【原則】
次のいずれか遅い日から20年:
(ア)じん肺管理区分管理2、管理3又は管理4と決定された日
(イ)石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日
【例外】
被害者が石綿関連疾病により死亡した場合は、死亡した日から20年
給付金は遺族でも請求可能?
給付金を請求できたはずの被害者が死亡した場合、遺族が自己の名で給付金を請求することができます(給付金法3条2項)。
ただし、遺族が複数いる場合、給付金の支給を受けることができる遺族について順位付けがなされており、上位の順位の遺族がいる場合、下位の遺族は給付金の支給を受けることができません。
遺族が複数いる場合における、給付金の支給を受けることができる順位については、給付金法3条3項、同条4項に規定されています。
1位 | 配偶者(事実婚の配偶者を含む) |
2位 | 子 |
3位 | 父母 |
4位 | 孫 |
5位 | 祖父母 |
6位 | 兄弟姉妹 |
遺族が請求する場合について、注意点が2点あります。
まず1点目は、同順位の遺族が複数いた場合、1人の請求が同順位の遺族全員の請求とみなされるという点です。給付金法3条5項では、「給付金の支給を受けるべき同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人がした請求は、その全額について全員のためにしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす」とされており、例えば、配偶者が存在せず、子が2人以上いる場合、複数の子のうち1人が給付金を請求した場合、子の全員が請求したものとみなされます。
2点目は、給付金の支給を受けることができる順位が民法の相続法の規定と若干異なっている点です。民法では、配偶者と子がいる場合、それぞれ法定相続人となり、2分の1ずつの法定相続分を有していることになります。給付金法では、配偶者の方が子よりも順位が上になっています。そのため、配偶者がいる場合には、たとえ子がいたとしても、給付金の請求権を有するのは配偶者のみということになります。
建設アスベスト給付金ついては弁護士にご相談を
必要資料の収集は、アスベスト訴訟の手続きの中で非常に重要な作業ですが、これには事前知識がないと時間や労力がかかってしまう等、非常に面倒な作業でもあります。
もっとも、弁護士に手続きを依頼すれば、面倒な必要資料の収集を弁護士の関与の下、スムーズに進めることが可能です。
また、弁護士に依頼した場合の費用については、アスベスト訴訟の場合、相談料・着手金を無料として、報酬についても、給付金が支給された場合のみ(支給されない場合は報酬ゼロ)、支給された給付金からお支払いいただくという形式をとっている事務所が多いです。
そのため、実費の負担を除けば、経済的負担をかけることなく、弁護士に依頼して手続きを進めることが可能です。
建設アスベスト給付金の受給をお考えの方は、一度弁護士に相談されることをおススメします。

【まとめ】給付金額は、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定される
本記事をまとめると次のようになります。
- 2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律』が成立
- この法律によって、建設アスベスト(石綿)被害者は、訴訟によらずに、最大1300万円の給付金の支給を受けることが可能となる
- 給付金額は、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定される
- 減額事由は、短期ばく露と喫煙習慣の2つ
- 給付金の要件は、「特定石綿ばく露建設業務に従事した労働者等(またはその遺族)であること」「石綿関連疾病にり患したこと」「期間制限を経過していないこと」の3つ
アディーレ法律事務所では、アスベスト(石綿)給付金請求に関し、着手金、相談料は無料で、原則として報酬は給付金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、当該事件をアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
※以上につき、2023年1月時点
アディーレ法律事務所では、アスベスト(石綿)被害に悩まれておられる方を一人でも多く救いたいとの想いから、アスベスト(石綿)被害についてのご相談をお待ちしております。
アスベスト(石綿)被害にあわれた方またはそのご遺族は、アディーレ法律事務所にご相談ください。