「親の死後に、借金があることが判明した……。どうしたら良い?」
そんな法律相談をよく耳にします。
親の資産状況というのは、生前はなかなか聞きにくいものです。
ましてや、借金があるということを子供に隠したがる方も多いです。
ですが、少なくとも、借金(負債)の有無やその金額については、生前に把握されておくことをお勧めします。
今回ご説明する『相続放棄』は、基本的に親が亡くなったと知ってから3ヶ月以内に裁判所に申述(=申し述べること)する必要がありますので、亡くなってから慌てて借金の有無を調べていては、時間的にとてもタイトになってしまいます。
また、生前に借金のことを知っていれば、親に『債務整理』などをしてもらい、生前に借金を無くしておいてもらえる可能性もあります。
今回は、親に借金がある場合の相続放棄について、
- 相続放棄の3つのポイント
- 相続放棄の方法
をご説明します。
ここを押さえればOK!
相続人は相続開始を知った時から原則として3ヶ月以内に、単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選ばなければなりません。 相続放棄の3つのポイントは次のとおりです。
・相続放棄ができる期間は相続開始を知った時から原則として3ヶ月以内
・家庭裁判所への申述が必要
・単純承認したとみなされるケースがある
相続放棄をするためには、必要書類を収集し、申述書とともに家庭裁判所に提出する必要があります。 相続放棄は基本的に撤回できないため、慎重に検討するようにしましょう。
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早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
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『相続放棄』とは
「相続放棄」とは、プラスの財産(不動産や預貯金など)もマイナスの財産(借金など)も含めて一切の相続を拒否して相続人でなくなることです(民法939条)。
これからは、
と言ってご説明します。
相続人は、原則として、『自己のために相続の開始があったことを知った時』から3ヶ月以内に、次の単純承認、相続放棄、限定承認の3つの選択肢から、相続に関してどうするのか選ばなくてはいけません(民法915条)。
単純承認とは、相続人の権利義務の一切をそのまま承継することです。
3ヶ月の間に何もしなかった時は、相続人は単純承認をしたとみなされます。
この3ヶ月の期間を『熟慮期間』といいます。
『自己のために相続の開始があったことを知った時』とはいつ?
『自己のために相続の開始があったことを知った時』(ここでは『相続開始を知った時』と言い換えて、ご説明します)とは、
- 相続開始の原因たる事実があったこと
- 自分が相続人になったこと
のどちらも知った時点です。
「相続開始の原因たる事実」というのは、基本的には、被相続人が死亡した事実です(※行方不明になった人などを、一定期間後に死亡したものとして扱う「失踪宣告」があった場合など、必ずしも死亡だけとは限りません)。
なお、『相続開始時』は、被相続人が死亡した時点です。
子が親を相続する場合であれば、親の死亡により、子は当然に相続人になります(※相続欠格者などは除きます)から、『相続開始を知った時』=親の死亡を知った時ということになります。
通常、子が親を相続する場合は『相続開始時』と『相続開始を知った時』は、時期としてはほとんどずれません。
他方、両親がすでに亡くなっており、配偶者も子もいない方が亡くなった場合、兄弟姉妹又は兄弟姉妹がすでに亡くなっているときにはその子など、遠い親戚の方が相続人になることがあります。
相続人が兄弟姉妹の子となるような場合、日ごろから連絡を取っていなければ、『相続開始時』と相続人が『相続開始を知った時』はかなりずれてくる可能性があります。
特に、先順位の相続人がどんどん相続放棄をして、相続人の範囲が変更された時などは、死んだことは風の便りに知っていても、自分が相続人になっていることまでは知らない方も多いです。
いずれにしても、相続人は「自分が相続人になったこと」を知って初めて、相続をするか放棄をするか(又は限定承認をするか)選ぶことになります。
相続放棄についておさえておきたい3つのポイント
相続放棄について、おさえておきたい3つのポイントは次のとおりです。
- 相続放棄ができる期間
- 家庭裁判所への申述が必要なこと
- 『単純承認』したとみなされるケースがあること
それぞれについてご説明します。
(1)ポイント1|相続放棄ができる期間
相続放棄をするためには、熟慮期間中、つまり、
相続開始を知った時から3ヶ月以内
に
家庭裁判所への相続放棄の申述
をしなければいけません。
ところが、3ヶ月という期間は、長いようでとても短い期間です。
というのも、親が亡くなった場合には、しなければならない手続きがたくさんあるからです。
死亡後 | 手続先 | 手続内容 |
---|---|---|
7日以内 | 病院 | 死亡診断書の受取り |
病院など | 遺体の受取り | |
役所 | 死亡届の提出/埋葬・火葬許可の申請・受領(※1) | |
14日以内 | 役所 | 世帯主の変更 |
役所など | 健康保険の資格喪失の届出 | |
役所 | 介護保険被保険者証の返納 | |
年金事務所 | 年金支給停止の手続(※2) | |
早目に | 公共料金各社 | 電気・ガス・水道料などの名義変更 |
生命保険 | 生命保険の請求 | |
電話 | 名義変更や解約 |
※1火葬が終わったら、火葬場から埋葬許可証を受け取り、埋葬する寺院などに提出します。
※2「年金受給権者死亡届(報告届)」の提出期限は、国民年金は死亡した日から14日以内、厚生年金は10日以内です。日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合には、原則として、この届の提出を省略することができます。
また、状況に応じて、新聞、携帯電話、インターネット契約、クレジットカード契約、生命保険以外の保険などについても解約などの手続きが必要です。
親が単身で部屋を借りていたような場合には、賃貸借契約を解約した上、室内の荷物を処分する必要も出てきます。
更に、親が複数の借入先から借金をしているような場合には、借入先と借入額を確定するだけで一苦労でしょう。
3ヶ月という期間はあっという間に経ってしまいます。
(1-1)3ヶ月では借金の調査が間に合わないときにはどうする?
どうしても借金の調査などが間に合わず、3ヶ月以内に相続放棄をするかどうか決められない時は、家庭裁判所に対して
相続放棄の期間伸長の申立て
をしなければなりません。
子が親の死亡を知った時から3ヶ月間何もしない場合には、『単純承認』したものと扱われますので、
- 相続を放棄する場合
であっても、
- 相続を放棄するかどうか調べる必要がある場合
であっても、必ず家庭裁判所に対して、相続開始を知った時から3ヶ月以内に『相続放棄の申述』か『相続放棄の期間伸長の申立て』をしなければいけないことに注意が必要です。
参考:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所 – Courts in Japan
(1-2)熟慮期間経過後に借金が判明した場合はどうなるの?
熟慮期間中に、そもそも借金などが明らかにならない場合があります。
例えば、親が、誰かの保証人になっているようなケースです。
上の図のような、賃貸借契約の連帯保証をする場合、借主が毎月賃料を支払っている分には連帯保証人の出番はありません。
賃貸借契約の連帯保証人になっていることを、生前から親が子に伝えていれば、子は相続放棄をするかどうかの判断の際、相続すれば連帯保証人たる地位を承継することを判断要素に加えられます。
ですが、親が連帯保証人になっていることを子が知らないこともよくあります。
親が死んだ時点で、連帯保証人であったことを子が知らなかったとしても、単純承認をすれば、親の連帯保証人たる地位は当然に子に相続されます。
その後、借主が賃料を滞納して貸主から保証債務の履行を求められる段になって初めて、連帯保証人たる地位を親から相続していたことを知るのです。
親が連帯保証人になっていたなんて知りませんでした。親の死亡を知ってから3ヶ月以上経過していますが、今からでも相続放棄できませんか。
結論から言えば、
- 親に債務がないと信じていた
- そう信じたことにつき相当の理由がある
場合には、裁判所は熟慮期間経過後であっても、『債務の存在を知った時から3ヶ月以内』であれば、比較的広く相続放棄の申述を受理します。
ですから、上の事例では、貸主から請求を受けてから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすれば、相続放棄が認められる可能性があります。
ただし、それまでの間に、後に説明する「単純承認」とみなされる行為を一切していないことが前提ですので、注意が必要です。
(2)ポイント2|家庭裁判所への申述が必要なこと
相続放棄は、必ず家庭裁判所への申述が必要です。
相続人の間で、「私は相続放棄するので、何も受け取りません」と言うだけでは相続放棄したことにはなりません。
相続財産を相続人の間でどのように分けるか、ということを相続人全員で話し合うことを『遺産分割協議』と言います。
遺産分割協議では、特定の相続人が相続財産を相続し、他の相続人は何も相続しない、と決めることもできます。
ただし、このような遺産分割協議は、相続人の間では有効ですが、債権者に対しては主張できません。
例えば、被相続人が50万円の借金をかかえたまま死亡し、(仮名)Aと(仮名)Bの2名が相続人となったという場合で、「Aが50万円の借金を全額相続する」とAとBが協議したとしても、債権者はBに対して25万円の返済を請求できます。
相続人の債務を一切相続しない、ということを債権者に主張するためには、必ず家庭裁判所へ相続放棄の申述をすることが必要です。
(3)ポイント3|『単純承認』したとみなされるケースがあること
相続放棄は、相続の開始を知った時から3ヶ月以内であれば、無条件にできるという訳ではありません。
3ヶ月以内であっても、相続人において、一定の行為をした場合には、プラスの財産もマイナスの財産も無条件で相続する『単純承認』をしたとみなされてしまって、相続放棄ができなくなる場合があります(民法921条各号)。
相続放棄ができなくなる行為は、大きく分けて相続財産の処分と、隠匿の2つです。
(3-1)相続財産の処分とは?
相続人が相続財産を処分すると、相続放棄ができなくなります。
処分とは、具体的には、相続財産のうち、次のような場合です。
- 不動産や動産を売却した(又は贈与した)
- 預金を引き出して私用に使った
- 借金の返済を受けて私用に使った
- 株式について、議決権を行使した
- 被相続人の借金を返済した
- 遺産分割協議をした
要は、あたかも自分が被相続人の財産を相続するかのような行為を行っておいて、後から相続放棄することは許されないということです。
ただ、被相続人の財産を使うとはいっても、その使途が被相続人の葬儀費用や墓石の購入費用などの場合は、不相当に高額でない限り、基本的に単純承認とはみなされません。
また、単なる形見分け(一般的に価値はあっても経済的に重要性を欠くもの)や、相続財産の現状を維持するための保存行為(例えば、破損した自宅の修理など)のために相続財産から費用を支出した場合なども、単純承認とはみなされません。
後々相続放棄をする可能性があるのであれば、その前に相続財産を処分することは絶対にしてはいけません。
(3-2)財産の隠匿って?
これは、相続財産をわざと隠したりする場合です。
例えば、相続人同士で遺産分割協議をするにあたり、財産目録を作成することになったものの、意図的に一部の財産を目録から外したりした場合などです。
このようなことをすれば、その相続人は単純承認をしたとみなされますから、相続放棄はできなくなります。
『限定承認』とは
「限定承認」とは、プラスの財産の限度で、マイナスの財産を支払うことを条件に相続を承認することです。
例えば、200万円のプラスの資産と500万円の借金がある場合に限定承認をすると、200万円分の借金を支払えば残りの借金を支払う必要はありません。
相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産も一切合切を相続しない手続きです。
限定承認は、例えば先祖伝来の品など、どうしても相続放棄せずに残しておきたい相続財産があるような場合に、その分のマイナスの財産を負担することによって残しておくことができる手続きです。
限定承認をするためには、次の要件を満たすことが必要です。
この3ヶ月という期間も、相続放棄と同様、判断するのに足りなければ家庭裁判所に伸長の申立てをすることが可能です(※ただし、伸長の申立ての期間は相続開始を知ってから3ヶ月以内です)。
限定承認をするためには、相続人全員が足並みをそろえなくてはいけませんので、実務上ではそれほど用いられていません。
また、限定承認をした場合、相続財産の清算手続をしなければならず、相続放棄に比べて手続きが複雑になりますので、注意が必要です。
相続放棄の手続について
最後に、相続放棄をする際の手続きについてご説明します。
(1)まずは、書類の収集をしましょう
子が親の相続を放棄するために必要な書類は、まずは
- 相続放棄申述書
です。
これは、裁判所のホームページに書式や記載例がありますので、参考にしてください。
また、添付書類として、子が親の相続を放棄する場合は、基本的に次の書類が必要です。
- 被相続人の住民票の除票(又は戸籍の附票)
(相続放棄は、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に申述しなければならないため、申述をする家庭裁判所に管轄があるのか判断するために必要となります。) - 相続放棄をする相続人の戸籍謄本
(申述をする人が、本当に相続人であるのか判断するために必要となります。) - 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
(被相続人の死亡の事実を確認するために必要となります。)
※相続人の立場が異なる場合には、添付書類は異なります。
被相続人の財産がどのくらいあるのか、借金がどのくらいあるのか、といった資料は一切必要ありません。
仮に、裁判所においてこれ以外の書類が必要だと判断されたら、指示に従って書類を集めて提出します。
熟慮期間内に全ての添付書類を収集することが困難な場合には、取り急ぎ、相続放棄申述書と収集できただけの書類を添付して裁判所に提出しましょう。
参考:相続放棄の申述|裁判所 – Courts in Japan
(2)家庭裁判所に申述しましょう
相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
参考:裁判所の管轄区域|裁判所 – Courts in Japan
申立て費用は1人あたり800円です(収入印紙で準備します。)
また、裁判所から申述人に連絡をするための郵便切手が必要ですが、枚数・金額については各裁判所によって異なりますので、事前に管轄の家庭裁判所に確認が必要です。
相続放棄の申述書と必要書類がそろったら、後は家庭裁判所に提出するだけです。
その後、家庭裁判所で書類を確認するなどし、問題がなければ、裁判所から
相続放棄申述受理通知書
という書面が届きます。
これで、相続放棄の申述が受理されたことになりますので、親の債権者から返済を求められた時などは、通知書を見せれば通常それ以上請求はされません。
(※相続放棄をしたことは裁判所から各債権者には通知されませんので、相続放棄をしたことを債権者に自ら連絡するか、債権者からの請求に対して相続放棄をしたことを伝えることになります。)
相続放棄申述受理通知書は、再発行できません。ですので、無くさないように注意しましょう。一方で、相続放棄受理証明書は、費用はかかりますが申請すれば何度でも発行してもらえます。
債権者などから相続放棄の証明として提出を求められた場合には、通知書のコピーか、相続放棄受理証明書(これもコピーで済むこともあります)を提出するようにしましょう。
参考:相続放棄受理証明書 記入例|裁判所 – Courts in Japan
なお、
相続放棄は一度したら、撤回できない
ことに注意が必要です。
もちろん、誰かから脅されたり騙されたりしたような場合には家庭裁判所に対して、「相続放棄の取消し」を申述することはできます。
また、仮に相続放棄の申述書を提出した後であっても、家庭裁判所がそれを受理するまでの間であれば、申述自体を取り下げることは可能です。
ですが、相続放棄の申述がいったん受理されてしまえば、相続財産について勘違いをしていた(もっと借金が多いと思っていた、思っていたよりも財産が多かった、調べてみたら借金よりも過払い金の方がたくさんあったなど)というような場合には、基本的には撤回や取消しは認められません。
相続を放棄するかどうかは、事前に慎重に検討しましょう。
【まとめ】親の借金を相続放棄するには、「相続開始を知った時」から3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述を!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 親が死亡した場合、子は、原則として親の死亡を知った時から3ヶ月以内に『単純承認』をするか『相続放棄』をするか『限定承認』をするか選ばなければならない。
- 3ヶ月の間に何もしない場合には、『単純承認』をしたとみなされる。
- 相続放棄をする際は、次の3つのポイントに注意。
・基本的には3ヶ月以内にすること
・家庭裁判所に対する申述が必要であること
・『単純承認』をしたとみなされる行為をしたら、相続放棄はできない
相続放棄の手続き自体は、決して難しいものではありません。
しかし、被相続人が亡くなった後は速やかに様々な手続きをしなければならず、そのなかで仕事や家事などをする必要もあり、3ケ月以内に相続放棄をするために、時間が足りないと感じられる方も多いです。
弁護士に依頼すれば、必要書類の収集や書面の作成を任せることができますので、ご自身の時間を確保することができます。相続放棄を検討されている方は「知らないうちに単純承認してしまった」ということにならないよう、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
アディーレ法律事務所では、相続放棄に関するご相談は何度でも無料ですので、フリーコール「0120-554-212」までご連絡ください。
アディーレ法律事務所に相続放棄をご依頼いただければ、次のことを弁護士が代わりに行います。
- 戸籍謄本の収集
- 相続人の調査
- 裁判所に対して行う相続放棄の申述
- 裁判所からの照会書に対する対応
- 相続放棄申述受理通知書の受領
- 支払いの督促をされている債権者へ相続放棄したことの連絡
- 後順位相続人へのご連絡およびご説明
これにより、ご依頼者様の負担を減らすことができます。
もし、相続放棄のお手続きが完了しなかった場合(相続放棄の申述が受理されなかった場合)、弁護士費用は、原則として全額返金となりますので、安心してご依頼いただけます。
(※以上につき2022年10月時点)
アディーレ法律事務所では、相続放棄を積極的に取り扱っています。
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