離婚をする際には、慰謝料を支払うことがあります。
慰謝料は、離婚によって被る精神的苦痛に対して支払われるお金のことです。
慰謝料を支払い、受け取ることも、金銭のやりとりであるため、贈与税や所得税などの税金がかかる可能性が出てきます。
今回は、そうした慰謝料に対して税金がかかるケースがあるのか、ないのかといったことを解説していきます。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
【受け取る側】離婚の慰謝料には原則として税金がかからない
慰謝料を受け取る場合には基本的に税金はかかりませんが、例外的に課税されるケースもあります。
以下で、基本的な考え方と課税されるケースを解説します。
(1)基本的にはもらった慰謝料に税金がかかることはない
誰かからお金をもらうときには、贈与税や所得税がかかるのが基本です。
しかし、慰謝料は損害に対する賠償(補てん)であり、得をしたわけではないため、基本的には贈与税や所得税はかかりません。
金銭ではなく不動産を受け取ったときも、基本的に贈与税や所得税はかかりません。
ただし、慰謝料の受け取り方によっては税金がかかってくることがあるので、注意しましょう。
(2)慰謝料を受け取る側に税金がかかる3つのケース
慰謝料を受け取る側に税金がかかるケースとして、以下で3つの例を紹介します。
(2-1)慰謝料が多すぎると判断されたケース
慰謝料や財産分与の名目で受け取るにはあまりにも金額が高すぎると第三者に判断された場合には、受け取る側に贈与税がかかります。
離婚にいたるまでの経緯、婚姻中の所得状況などの「すべての事情を考慮してもなお多すぎる」と判断されると、多すぎる部分に贈与税を課されることとなります。
具体的にどのくらいの額であれば贈与税がかかるのかを判断するには、専門的な検討が必要になります。
婚姻期間がごく短いにもかかわらず、夫の財産のすべてを妻に渡すなど、脱税を目的とした離婚を疑われるようなケースだと、課税される可能性が高くなってきます。
(2-2)慰謝料として不動産を受け取ったケース
慰謝料を現金で受け取らず、不動産を受け取る場合には、贈与税はかからないものの、ほかの税金が課せられることになります。
一般的に、離婚時に限らず、不動産を取得した場合には、不動産取得税と登録免許税、固定資産税がかかります。
登録免許税や固定資産税は、どんなときにも支払う必要があります。
不動産取得税は、離婚時、純粋に財産分与として不動産を取得した場合には原則としてかかりません。
しかし、慰謝料または受け取る側の生活保障として不動産を受け取った場合は、不動産取得税がかかります。
また、客観的に認められる財産分与の金額と比較して、譲り受けた不動産の評価額が大きい場合は、財産分与であっても不動産取得税がかかる可能性があります。
取得する不動産が住宅や宅地の場合、税額が下がる特例が使える場合がありますので、税理士へのご相談をお勧めいたします。
(2-3)離婚成立前に慰謝料として不動産を受け取ったケース
離婚が成立する前に慰謝料として自宅の不動産を受け取った場合は、受け取った側に贈与税がかかってしまいます。
ただし、婚姻期間が20年以上であれば、「配偶者控除」が使える可能性があります。
配偶者控除とは、20年以上婚姻関係にある夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を譲渡する場合、贈与税の課税価額から、基礎控除110万円に配偶者控除額の2000万円を加えて2110万円まで控除できる特例のことです。
この特例を利用するには、細かい要件を満たす必要があるので、詳しくは税理士に相談するのがおすすめです。
【支払う側】慰謝料を支払う際に税金がかかる可能性がある
慰謝料を支払う側は「自分は財産を渡す側なのだから課税されるはずがない」と思いがちですが、慰謝料の支払い方によっては課税されるケースがあります。
(1)慰謝料を支払う側に税金がかかる2つのケース
以下のように、課税されるケースを解説します。
(1-1)第三者に慰謝料を立て替えてもらったケース
自分の手持ちでは足りず、親、親族などの第三者にお金を出してもらって慰謝料を支払ったケースでは、慰謝料を支払う側に贈与税が発生しうることがあります。
慰謝料を支払う側に、一瞬でも「第三者からお金をもらった」という状況が発生したら、贈与税がかかってしまうことがあります。
もらったのではなく借りただけ、立て替えてもらっただけという場合は、親族間のやり取りであっても「借りた」「立て替えてもらった」という旨を書面にして残し、必ず返済することが大切です。
(1-2)不動産や有価証券などで慰謝料を支払ったケース
土地・建物などの不動産や株式・債権などの有価証券、高価な美術品やゴルフ会員権などの、所得税法上「資産」と認められているもので慰謝料を支払った場合、慰謝料という債務に対して、不動産や有価証券の資産で代物弁済したことになります。
そうした場合、税務上は不動産や有価証券などを配偶者に売却したという扱いになります。
したがって、このようなケースでは譲渡所得税がかかる場合があります。
譲渡所得税は、簡単に言えば、資産を取得したときの価値よりも手放したときの価値が高い場合、つまり、値上がり益を得た場合にかかることのある税金になります。
譲渡所得の計算方法を説明しますと、単なる価値の比較だけでなく、売却の際にかかった費用、購入の際にかかった費用も差し引けます。
対象が自宅なら3000万円の特別控除も適用が可能です。
ただし、この特例は夫婦間の譲渡には適用されないため、離婚成立後に譲渡する必要があります。特例が適用されるには細かな要件がありますので、専門家である税理士に相談することをお勧めします。
(2)慰謝料を支払う側にかかる税金は受け取る側にとっても重要
慰謝料を受け取る側も、支払う側が税金を課せられるケースを知っておくことが大切です。
相手が多額の税金を支払うことになれば、受け取る慰謝料の総額が減ってしまう可能性があるためです。
慰謝料の総額を増やしたいなら、なるべく税金がかからないように、できる範囲で相手に協力したほうがよいでしょう。
離婚の慰謝料に税金がかかることを避けるには
慰謝料を節税したい人に向けてポイントを解説します。
(1)慰謝料を金銭でやりとりする
慰謝料を金銭でやりとりするのが、シンプルな節税方法です。
特に、不動産の場合には、いろいろな税金がかかる可能性が高くなります。
もっとも、金銭であっても、慰謝料としての相当額を超えると判断されれば、贈与税がかかるおそれがあるので、注意が必要です。
(2)慰謝料・財産分与についての取り決めは公正証書にして残す
慰謝料や財産分与など、金銭が絡む問題については、離婚協議書を公正証書にしておくことをおすすめします。
公正証書とは、公証人法に基づき、法務大臣に任命された公証人が作成する公文書です。公正証書には証明力があり、執行力を有しており、安全性や信頼性に優れています。
公証役場は、全国約300ヶ所に設置されている、法務局の管轄する機関になります。
それぞれの公証役場には、公正証書を作成する公証人が1名以上は必ず配置されています。
公正証書によって、取り決めの内容をきちんと書面で残すことで、金銭トラブルを防げるだけでなく、もし税務調査が入った場合にも、脱税ではないことを証明しやすくなります。
(3)税理士に相談する
慰謝料や財産分与の税金について不安があれば、税務のプロである税理士に相談するのがおすすめです。
たとえば、不動産などの資産をやりとりする場合には、節税に役立つ制度を活用できるケースもあります。
早い段階で相談しておくことで、選択肢が増えることもあります。
養育費に税金はかかる?
慰謝料にかかる税金に加えて、養育費の税金についても心配する方が多いと思います。そこで養育費の税金について、以下で説明します。
(1)養育費は原則として非課税
養育費に関しては、相続税法21条の3第1項2号に規定があり、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」には課税されないということになっています。
たとえば、親元を離れて暮らす大学生の子に月10万円、年120万円の仕送りをすると贈与税の基礎控除額110万円を超えますが、上記の条文を根拠として、全額が非課税扱いとなります。
この仕組みは、親権を持たない親と子の関係でも同じです。したがって、原則として、養育費を受け取っても税金は発生しません。
もちろん、支払う側にも、養育費の支払いにあたって税金がかかることはありません。
(2)養育費に税金がかかるケース
養育費の金額が、子どもの年齢や事情を考慮しても高すぎると判断されれば、受け取る側に贈与税がかかってくる可能性があります。
これは、原則通り、月払いでも、一括払いでも同じです。
(3)児童扶養手当・扶養控除への影響にも注意
離婚する夫婦に子どもがいる場合、養育費そのものにかかる税金以外に、児童扶養手当や扶養控除のこともしっかり把握しておきましょう。
児童扶養手当(ひとり親家庭を支援する給付金)の支給額の判断には、養育費の金額もかかわってきます。養育費の金額によっては、支給対象から外れることもあるので、しっかりとチェックしておきましょう。
原則として受け取った養育費の8割が収入として加算されるため、児童扶養手当の所得制限にかかる可能性が高くなります。
詳しくは、市町村役場で質問してみるのがおすすめです。
また、これまで子どもを自分の扶養対象にしており、離婚に伴って子どもを扶養対象から外す場合は、その分扶養控除が減り、自身の支払う税金が高くなることがあります。
【まとめ】離婚の慰謝料にかかる税金は専門家へのご相談をおすすめします
税金については専門家である税理士に相談するのがおすすめです。
また、もし、慰謝料の交渉や離婚協議全般に不安がある場合には、弁護士に相談しましょう。