2023年7月13日、「不同意性交等罪」が施行されました。
「不同意性交等罪」とは、文字どおり、被害者の同意がないまま性交等をする犯罪です。
もっとも、被害者が内心嫌だと思っている(=同意していない)全ての性交等が不同意性交等罪になるわけではありません。
不同意性交等罪は、被害者が一定の事情により同意できないような状態での性交等が対象になります。
不同意性交等罪が施行される前は、被害者の意思に反して性交等をする犯罪として「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」がありました。
「強制性交等罪」が成立するには「暴行又は脅迫」によって、被害者を抵抗できなくさせた上で被害者と性交等したと言える必要がありました(*被害者が13歳以上の場合)。
ですが、この点、必ずしも暴行や脅迫がなくても、被害者が恐怖などでいわゆる「フリーズ」状態になったまま、性的被害に遭ってしまうケースもあるため、強制性交等罪は性犯罪の実態に即していないとの批判がありました。
そこで、今回、性犯罪をより実効的に処罰できるようにするため、刑法を改正し「強制性交等罪」を「不同意性交等罪」とした上で、「準強制性交等罪」も削除され「不同意性交等罪」にまとめて一本化したのです。
この記事を読んでわかること
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
「不同意性交等罪」の成立要件とは?
従来の「強制性交等罪」により処罰されるのは、『13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交をした』場合でした(*被害者が13歳未満の場合には、暴行や脅迫がなくても、性交等をするだけで処罰されました。)。
典型例は、殴る蹴るなどの暴力をふるったり、刃物を突き付けて「逆らったら殺す」などと脅して被害者を抵抗できなくして性交等をする場合です。
もっとも、強制性交等罪の暴行・脅迫があったかどうかは、被害者の年齢、被害者と加害者との体格差、犯行時間、周囲の状況など具体的な状況から総合的に判断されます。
例えば、殴る蹴るといった暴力まではなくても、被害者に馬乗りになって衣服をはぎ取るなどの行為自体も、被害者の年齢や周囲の状況によっては強制性交等罪の「暴行」に該当する可能性があります。
他方、今回施行された「不同意性交等罪」が成立するには、被害者が次のような事情又はこれらに類する事情等から『同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態』にあることが必要です。
- 暴行又は脅迫
- 心身の障害
- アルコールや薬物の摂取
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕している
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮
これによると、被害者に意識がない場合(=同意しない意思を形成できない)のほか、恐怖で固まってしまい「やめて欲しい」などと言えない(=同意をしない意思を表明・全うできない)状態も含まれます。
例えば、加害者から長年虐待を受けており、加害者に何をされても言いなりになる状態の被害者と性交等をした場合など、従来の強制性交等罪によっては処罰が難しかった事例でも不同意性交等罪により処罰できるようになることが期待されています。
なお、被害者がこのような状態になったのが加害者本人の行為による場合はもちろん、加害者とは無関係に被害者が上記の事情から同意ができないような状態になっている場合も不同意性交等罪が成立します。
例えば、被害者が自ら飲酒して泥酔状態にあることに乗じて、被害者の同意を得ずに性交した場合などです。
もともと、被害者に意識がない状態で性交等をした場合などは「準強制性交等罪」により処罰されていましたが、今回の改正により、準強制性交等罪は削除されて不同意性交等罪に一本化されました。
さらに、強制性交等罪では「性交等」の内容は、性交・肛門性交・口腔性交でしたが、改正後の不同意性交等罪では、これらに加えて「膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」についても「性交等」に含めることとされました。
また、今回の改正により、「婚姻関係の有無に関わらず」不同意性交等罪が成立すること、つまり夫婦であっても不同意性交等罪が成立することが明文化されました。
さらに、次の場合にも、「不同意性交等罪」が成立します。
- 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせて性交等をする
- 行為をする相手について人違いをさせて性交等する
これらも、加害者本人が被害者に誤信や人違いをさせる場合に加えて、被害者が誤信や人違いをしている状態に乗じて性交等をする場合も含みます。
被害者が16歳未満の場合の不同意性交等罪とは
さらに、被害者が16歳未満の場合には、次のとおり、被害者と加害者の年齢によって不同意性交等罪が成立するかどうか異なります。
被害者の年齢 | 同意性交等罪が成立する場合 | |
---|---|---|
13歳未満 | 被害者が同意していても、性交等をすれば不同意性交等罪が成立する | |
13歳以上16歳未満 | 加害者と被害者の年齢差が5歳以上ある場合 | 被害者が同意していても、性交等をすれば不同意性交等罪が成立する |
加害者と被害者の年齢差が5歳未満の場合 | 被害者が同意をしていれば、不同意性交等罪は成立しない |
年齢差が5歳というのは、被害者の誕生日より5年以上先に加害者が生まれたかどうかで判断します。
加害者と被害者の年齢差が5歳未満の場合には、被害者が同意していれば不同意性交等罪が成立しないというのは、高校生などが交際相手と性交等をするケースを除外する趣旨です。
不同意性交等罪の法定刑は?
不同意性交等罪の法定刑は、『5年以上の有期拘禁刑』です。
【コラム】~「拘禁刑」とは?
「拘禁刑」とは、強制的に刑事施設に身柄を拘束され、身体の自由を奪われる刑罰です。
拘禁刑は2022年の刑法改正で新設された刑罰ですが、2023年7月現在、まだ施行されていません。
現在、身体の自由を奪われる刑罰として施行されているのは「懲役刑」と「禁固刑」です。
懲役刑は、刑事施設内で所定の刑務作業に従事する義務があり、禁固刑は、刑務作業に従事する義務はありませんが、実際には、就業義務のない禁錮受刑者であっても、申出によって、大半が刑務作業に従事しています。
そのため、かねてより「懲役」と「禁錮」を区別する意味がないと指摘されており、2022年の刑法改正において、「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、これらを一本化する「拘禁刑」が新たに創設されたのです。
この点に関する改正刑法は、2025年頃の施行が見込まれています。
そのため、不同意性交等罪の法定刑は、「拘禁刑」が施行されるまでは、「懲役刑」とすることとされています(刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律附則3条)。
有期拘禁刑(懲役刑)の上限は20年です。
ですから、1名の被害者に対する不同意性交等罪だけで起訴されて有罪判決を受ける場合、基本的には、5年以上20年以内の範囲内の拘禁刑(懲役刑)で処罰されます(刑法12条1項。ただし、減刑されると5年未満になる可能性もあります)。
2名以上の被害者に対する不同意性交等罪を犯した場合は、どうなるのですか?
例えば、2名の被害者に対して不同意性交等罪を犯していずれも起訴・(同時に)有罪判決を受ける場合、「併合罪加重」と言って、最大30年以内の範囲内で処罰される可能性があります(刑法14条2項)。
【コラム】~併合罪とは?
併合罪とは、ある人が2つ以上の罪を犯し、まだ確定判決を受けていないというケースです。
例えば、甲(仮名)が、A(仮名)に対する不同意性交等罪を犯した後、警察に逮捕などされる前に、B(仮名)、C(仮名)に対してもそれぞれ不同意性交等罪を犯したとします。
その後、甲がA、B、Cの3名に対する不同意性交等罪でいずれも起訴された場合、これらの3つの不同意性交等罪は併合罪になります。
併合罪に当たる2個以上の罪について有期拘禁刑(現行法上は有期懲役刑又は有期禁固刑)に処せられる場合、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものが長期とされるのです(刑法47条本文)。
そのため、この場合、3つの併合罪は全て不同意性交等罪、その刑の長期は20年ですので、長期にその2分の1を加えたもの(20年+(20年×2分の1)=30年)が刑の長期となるのです。
【拘禁刑(懲役刑)の上限は30年】
もっとも、併合罪はそれぞれの罪の有期拘禁刑(現行法上は有期懲役刑又は有期禁固刑)の長期の合計を超えることができません(刑法47条本文但書)。
例えば、甲がD(仮名)に対する不同意性交等罪を犯した後、E(仮名)に対する暴行罪を犯したとします。暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役刑、30万円以下の罰金、拘留、科料」です(刑法208条(2023年7月時点))。
そのため、甲がDに対する不同意性交等罪とEに対する暴行罪について起訴され、暴行罪について懲役刑で処罰されるとしても、刑の長期は22年が上限となります。
【拘禁刑(懲役刑)の上限は22年】
不同意性交等罪の公訴時効は?
公訴時効とは、ある犯罪行為が終わった時点から起算して一定の期間が経過すると、その後、刑事裁判によって処罰ができなくなる(=起訴もされない。された場合には免訴判決が言い渡される。)制度のことです。
従来、強制性交等罪や準強制性交罪等の公訴時効は10年でしたが、不同意性交等罪への改正に伴い、公訴時効は15年になりました(刑事訴訟法250条3項2号)。
さらに、被害者が被害を受けた時に18歳未満であった場合には、公訴時効は15年ではなく、被害者が18歳になる日までの期間を加えることになりました(刑事訴訟法250条4項)。
被害者が不同意性交等の被害にあったのが18歳未満だった場合には、18歳になってから15年後の33歳になるまで公訴時効にかからないということです。
不同意性交等罪は、2023年7月13日に施行されました。
不同意性交等罪により処罰されるのは、同日以降の行為です。
2023年7月12日までに犯した罪については、準強制性交等罪などによって処罰されます。
【まとめ】2023年7月13日から、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態で性交等をすれば不同意性交等罪で処罰される可能性がある!
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 従来の「強制性交等罪」が成立するためには、暴行又は脅迫により被害者が抵抗できない状態であることが必要。
- 今回、改正された「不同意性交等罪」では、次のような事情又はこれらに類する事情等により、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態で性交等をすれば犯罪が成立する可能性がある。
- 暴行又は脅迫
- 心身の障害
- アルコールや薬物の摂取
- 睡眠その他の意識が明瞭でない状態
- 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない
- 予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕している
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮
- 刑法改正により「準強制性交等罪」は削除され、不同意性交等罪に一本化された。
- その他、被害者に行為がわいせつなものではないとの誤信をさせて性交等をしたり、行為をする相手について人違いをさせて性交等する場合などにも不同意性交等罪が成立する。
- 13歳未満の被害者と性交等をした場合には、同意の有無にかかわらず不同意性交等罪が成立する。
- 被害者が13歳以上16歳未満の場合、加害者と被害者との年齢差が5年未満の場合には、被害者が同意をしていれば不同意性交等罪は成立しない。
- 公訴時効期間も、従来の10年から15年に延長された。さらに、被害者が被害当時18歳未満の場合、18歳になってから15年間経たないと、公訴時効期間は経過しない。
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