「夫婦関係調整調停」という言葉を聞いたことはありませんか。
いわゆる「離婚調停」とは何が違うのでしょうか。
結論からいいますと、「離婚調停」とは「夫婦関係調整調停」の1つのことをいいます。
「調停」は離婚を目的として利用するイメージがありますが、夫婦関係の改善を目的として利用することもできます。
この記事では、
- 夫婦関係調整調停とは?
- 夫婦関係調整調停の流れ
- 夫婦関係調整調停を利用するメリット
- 夫婦関係調整調停を有利に進めるコツ
について、弁護士が詳しく解説します。
夫婦関係にお悩みの方、夫婦関係調整調停を申立てるかお悩みの方、また、夫婦関係調整調停を起こされた方、ぜひ参考にしてください。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
夫婦関係調整調停とは?
「夫婦関係調整調停」とは、家庭裁判所で裁判官と調停委員2名を介して、夫婦関係について話し合いをする手続きのことをいいます。
「夫婦関係調整調停」には、「夫婦関係調整調停(離婚)」と「夫婦関係調整調停(円満)」の2種類があります。
いわゆる「離婚調停」も夫婦関係調整調停の1つといえます。
(1)夫婦関係調整調停(離婚)

離婚について夫婦で話し合いができない場合や話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所で裁判官や調停委員を介して、話し合うことができます。
これを「夫婦関係調整調停(離婚)」といいます。
夫婦関係調整調停(離婚)では、離婚するか否かだけでなく、子どもの親権者、面会交流、養育費、離婚に際しての財産分与、慰謝料についてどうするかなどの離婚に伴う問題についても話し合うことができます。
夫婦双方で離婚については合意しているものの、離婚に伴う子どもに関する問題、財産分与に関する問題、慰謝料に関する問題について合意ができていない場合にも利用することができます。
参考:夫婦関係調整調停(離婚)|裁判所 – Courts in Japan
夫婦関係調整調停(離婚)はあくまでも話し合いですので、調停を行っても話し合いがまとまらない場合には、離婚裁判に移行して、裁判官の判決に委ねるという場合もあります。
離婚の大まかな流れは次のようになります。

(2)夫婦関係調整調停(円満)

夫婦が円満な関係でなくなった場合に、家庭裁判所において裁判官と調停委員を介して円満な夫婦関係を回復するための話し合うことができます。
これを「夫婦関係調整調停(円満)」といいます。
例えば、次のような場合に利用されることが多いです。
- 相手から離婚を申立てられたが、離婚したくない
- 離婚する決意までは固まっていないが、離婚した方がいいか悩んでいる
- 夫婦関係がうまくいっていないが、相手の態度が頑なで話し合いが難しい
- 相手が突然出て行ったが、話合いが難しく、間をとりもってほしい
夫婦関係調整調停(円満)では、夫婦双方から事情や考えを聞き、夫婦関係が円満でなくなった原因は何か、夫婦がどのようにすれば夫婦関係が改善していくかなど、アドバイスや解決案を提示する形で進められます。
夫婦だけでは、話合いが難しい場合でも、家庭裁判所で調停委員を介して話し合うことで、冷静な話し合いが可能になります。
また、調停では、相手と顔を合わせることなく、話し合うことになりますので、相手と対面すると言いにくいことを言うこともできます。
夫婦関係調整調停(円満)での話し合いの結果、離婚するということになった場合には、夫婦関係調整調停(離婚)に切り替えることもできます。
この場合、当事者が特に手続きをする必要はありません。
参考:夫婦関係調整調停(円満)|裁判所 – Courts in Japan
夫婦関係調整調停の流れ

夫婦関係調整調停では、「夫婦関係調整調停(離婚)」と「夫婦関係調整調停(円満)」の2種類がありますが、基本的に流れは一緒になります。
- 家庭裁判所に夫婦関係調整調停を申立てる
- 夫婦関係調整調停当日までの準備
- 夫婦関係調整調停期日当日
- 第2回目の調停以降
- 夫婦関係調整調停の終了
順番に説明します。
(1)家庭裁判所に夫婦関係調整調停を申立てる
配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書類一式を提出し、申立費用を納付します(持参又は郵送)。
申立て時の手数料として収入印紙代1200円(申立の内容が増えれば、印紙代も増加)、戸籍謄本代や住民票代、切手代1000円程度(家庭裁判所によって異なる)が一般的に必要となります。
調停手続きを弁護士に依頼する場合には、弁護士費用も必要です。
(2)夫婦関係調整調停当日までの準備
申立書を提出し、受理されたら2週間程度で申立人と相手方に調停期日を通知する書類が郵送されてきます。
調停が開かれるのは、裁判所が開廷している平日の10~17時までの間になります。
所要時間としては、概ね2~2時間半程度が予定されています。
ただし、1回目期日の日程は双方の都合を考慮していないため、都合が合わない場合は日程変更が可能です。
調停で主張をするにあたっては、言いたいことを事前にまとめておくとよいでしょう。
(3)夫婦関係調整調停期日当日
申立てから約1~2ヶ月後に第1回調停期日が実施されます。
調停期日通知書を持参し、通知書に記載の日程で家庭裁判所に行くことになります。
離婚調停では、調停委員が中立の立場で、それぞれの主張を聞きながら話し合いを進めていくことになります。
ただ、話し合いといっても、当事者が顔を合わせて直接話し合うことはありません。夫婦が待機する待合室も別々ですし、調停委員と話をするときも別々となります。
こうすることで、面と向かって伝えにくいことも相手方に伝えることもできます。

(4)第2回目の調停以降
第1回期日と同じく、申立人・相手方がそれぞれ1、2回調停室に案内され、調停委員と話をします。
話し合いが終わらず調停を続行する場合には、第1回期日と同じように次回期日までの検討事項などを確認し、次回期日を調整します(約1~2ヶ月後)。
期日回数は2~4回、期間は3~6ヶ月のケースが多いです。
ただし、親権や面会交流など、子供に関する話し合いは、家庭裁判所調査官の調査があるので、次回の期日までの間隔が開きやすい傾向にあります。
(5)夫婦関係調整調停の終了
夫婦関係調整調停(離婚)では、話合いがまとまり調停が成立すると、離婚成立ということになります。
調停成立した場合には合意した内容について調停調書についてまとめます。
また、話合いでの解決が難しい場合には、調停を不成立として、離婚裁判に移行する場合があります。
一方、夫婦関係調整調停(円満)の場合には、離婚をしない、もしくは夫婦関係を改善する方向で話し合いがまとまると、調停成立ということになります。
調停不成立となった場合の手続きについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
夫婦関係調整調停を利用するメリット

夫婦関係調整調停を利用するメリットは、次のとおりです。
- 第三者(調停委員)からの客観的な意見をもらうことができる
- 調停委員や裁判官から法的なアドバイスを受けることができる
- 調停委員を介して話し合うので、相手方に面と向かって伝えにくいことも伝えられる
- 調停調書には、強制執行の効力がある場合がある
調停委員とは、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人から選ばれます。
そして、これまでも多数の夫婦間における調停の間に入った調停委員もいますので、夫婦にとって良いアドバイスをもらえることがあります。
また、調停には裁判官も携わっていますので、法的にはどうなるのか、どうすべきであるのかのアドバイスをもらうことができます。
調停調書では、慰謝料や財産分与などの金銭の支払いについて定めることができますが、金銭の支払いについて定めた場合には、相手方が不払いになった際には相手方の財産を強制執行できるという効力もあります。
調停調書についてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
夫婦関係調整調停を有利に進めるためのコツ
夫婦関係調整調停を有利に進めるためのコツについて紹介します。
- 主張したいことは書面にまとめておく
- 主張する根拠として証拠をとっておく
- 調停委員を味方につける
- 納得がいかないことには妥協しない
(1)主張したいことは書面にまとめておく

夫婦関係についてうまくいっていないような場合、相手にいいたいことがたくさんあると思います。
しかし、調停委員に話す時間は限られています。
そのため、相手に対して特に何を希望するのか、また、相手に対して何を強く言いたいのかを事前に整理して、書面にまとめておくことをおすすめします。
また、夫婦関係がうまくいかなくなるきっかけは些細な出来事の積み重ねであることも少なくありません。このような場合には、時系列で、いつ、どういうことがあったのかをまとめておくと夫婦関係がどういう流れでこじれていったのかがわかりやすくなります。
夫婦関係がこじれたきっかけが相手の不倫である場合にも、どういう経緯で不倫を疑ったのか、不倫の回数、不倫が発覚してからの経緯などをまとめておくとよいでしょう。
(2)主張する根拠として証拠をとっておく
主張する根拠として証拠がある場合には、証拠はとっておきましょう。
例えば、次のような場合です。
- 夫婦関係がこじれたきっかけが相手の不倫である場合
→不倫相手とのSNSのやりとり、不倫相手との写真など - 夫婦関係がこじれたきっかけが相手のモラハラやDVの場合
→相手方の言動の録音や相手方の言動について記録をとるなど
された側ははっきり覚えていることでも、した側の張本人は深くは考えておらず、忘れてしまっていることは少なくありません。
この場合、調停でこのようなことをされましたと主張しても、相手は覚えていませんので否定されてしまう場合があります。調停委員は基本的に中立の立場ですので、相手から否定されてしまうと、どれだけあなたが真剣に主張したとしても、本当にそのようなことがあったのかどうかを信じることはできません。
きちんと証拠を残しておくこと、少なくともきちんと記録しておくことが重要です。
証拠があることで、その事実があったことを前提として、調停を進めることができます。
浮気の証拠や証拠の集め方について、さらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
(3)調停委員を味方につける
調停委員は、夫婦の間にはいって調停を進め、調停進行の舵をとります。
どういう方向で調停をまとめるかも調停委員がどのように調停を進行するかに大きく左右されることもあります。
そのため、調停委員と対立したり、調停委員に悪印象を与えてしまったりすることは調停を有利に進めるにあたって得策とはいえません。
(4)納得がいかないことには妥協しない
調停委員は夫婦の間で合意をまとめるために、夫婦双方に歩み寄りを求めてくる場合があります。
しかし、調停はあくまでも話し合いなので、納得ができない場合には応じる必要はありません。
夫婦の今後のことはあなたの今後の生活に大きな影響を与える可能性もあります。ここで納得していないのに妥協してしまうと、後悔が残る結果となるかもしれません。
また、調停委員からの提案に対して、必ずその場で回答しなければならないというものではありませんので、保留にして、家に帰って冷静になってから考えるということも可能です。
【まとめ】夫婦関係調整調停には「離婚」と「円満」の2種類がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 「夫婦関係調整調停」とは、家庭裁判所で裁判官と調停委員2名を介して、夫婦関係について話し合いをする手続きのこと。
- 「夫婦関係調整調停」には、「夫婦関係調整調停(離婚)」と「夫婦関係調整調停(円満)」の2種類。いわゆる「離婚調停」も「夫婦関係調整調停」の1つ。
- 夫婦関係調整調停(離婚)では、離婚するか否かだけでなく、子どもの親権者、面会交流、養育費、離婚に際しての財産分与、慰謝料についてどうするかなどの離婚に伴う問題についても話し合うことも可能。
- 夫婦関係調整調停(円満)では、夫婦が円満な関係でなくなった場合に、家庭裁判所において裁判官と調停委員を介して円満な夫婦関係を回復するための話し合うことができる。
- 夫婦関係調整調停の流れ
- 家庭裁判所に夫婦関係調整調停を申立てる
- 申立てから1~2ヶ月後に夫婦関係調整調停期日が開かれる
- 1、2ヶ月ごと1回ずつのペースで調停期日が設けられる(期日回数は2~4回)
- 夫婦関係調整調停の終了
- 夫婦関係調整調停を有利に進めるためのコツ
- 主張したいことは書面にまとめておく
- 主張する根拠として証拠をとっておく
- 調停委員を味方につける
- 納得がしないことには妥協しない
夫婦関係調整調停を申立てるべきかお悩みの方、夫婦関係調整調停を申立てられてお悩みの方は、弁護士にご相談ください。