「もう何年も前のことだから…」と忘れていた借金の督促状が、ある日突然届いたら、あなたはどうしますか?
「時効」という言葉が頭をよぎるかもしれませんが、ここで知っておいてほしいことがあります。それは、借金の時効は、ただ待っているだけでは決して成立しないということです。そして、ご自身の判断で債権者に電話をして不用意に発言してしまうと、そのたった一つの行動が、本来なら消滅するはずだった借金の支払い義務を復活させてしまうおそれがあるのです。
この記事では、時効の可能性があるか安全に確認する4つのステップから、絶対にやってはいけないNG行動、そして時効を完成させるための「時効の援用」手続きまで、弁護士が解説します。
督促のプレッシャーから解放され、安心して明日を迎えるために、まずは正しい知識を身につけましょう。
ここを押さえればOK!
時効の可能性があるか調べるには、まず契約書や信用情報で貸主が権利を行使できることを知った時から5年(又は権利を行使できる時から10年のうちの、早い方)が経過しているかを確認します(2020年4月1日以降の借金の場合)。ただし、過去に裁判を起こされていたり、債務を認める言動があったりすると時効は更新(リセット)されます。
特に、債権者への連絡、一部返済、和解書へのサインは「債務の承認」とみなされ、当初の時効成立期間が過ぎても時効を援用できなくなるため避けるべきです。
「時効の援用」を行うには、内容証明郵便で「時効援用通知書」を送るのが確実ですが、判断を誤るとリスクを伴います。時効援用の手続きを考えているときは、自分で行動する前に弁護士へ相談することが重要です。弁護士に依頼すれば、督促を止めることができ、また、時効をはじめとした最適な解決策を検討、実施してもらえるでしょう。
借金問題や時効でお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
放置は危険!時効は「待つだけ」では成立しません
借金の時効は、ただ待っているだけで、時が経過すれば自動的に成立するものではありません。
時効を成立させて支払い義務をなくすためには、法律で定められた条件をクリアし、ご自身の意思で「時効の援用」という手続きを正しく行う必要があります。
まずは、借金が時効になっているかどうか調べる方法を説明します。
借金が時効になっているか調べる4つのステップ
ご自身の借金が時効の条件を満たしているか、以下の4つのステップで慎重に確認していきましょう。借りた金融機関から届く書類や信用情報、さらには過去の裁判やご自身の行動に至るまで、一つずつチェックすることが重要です。
(1)ステップ1:書類を確認する(契約書・督促状)
まず、借りた金融機関から届いた契約書や利用明細書、督促状などの書類で「借金をした日」と、「約束した返済日」を確認しましょう。
借金の消滅時効は、基本的には次のとおりです。
借金の消滅時効 | ||
2020年4月1日より前の借金 | 個人から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から10年 |
金融機関から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から5年 | |
2020年4月1日以降の借金 | 貸主が権利を行使できることを知った時から5年 (又は権利を行使できる時から10年のうちの、早い方) |
貸主が「権利を行使できる時」とは、貸主が「貸したお金を返せ」と言える時で、基本的には約束した返済日と考えます。
例えば、2025年4月1日に、4月30日に返すという約束で、消費者金融から10万円を借りたとします。
法律上、時効完成に必要な期間は債権者が「権利を行使できることを知った時から5年」と「権利を行使できる時から10年」の早い方、とされています。消費者金融から借金をした場合、貸主が権利を行使できることを知らないというケースは通常考えられません。
したがって、この場合、貸主が「権利を行使できることを知った時」は2025年4月30日です。その翌日から5年経過した2020年4月30日に時効が成立します。
なお、消滅時効は、時効を阻止する事情があれば5年経過しても成立しません。また、契約内容などによって時効がスタートする起算点も異なります。個別ケースについて具体的にいつが時効期間となるかは、弁護士に相談することをお勧めします。
時効期間について詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
(2)ステップ2:信用情報を開示請求する
借金したことは確かだけれど、書類が手元になく借金日や返済日が確認できない場合は、信用情報機関にご自身の情報を開示請求することで、客観的な借金の記録を確認できる可能性があります。
信用情報機関は以下の3つです。
- CIC(株式会社シー・アイ・シー):主にクレジットカード会社が加盟
- JICC(株式会社日本信用情報機構):主に消費者金融が加盟
- KSC(全国銀行個人信用情報センター):主に銀行や信用金庫が加盟
機関によって、加盟している企業に特徴があります。
例えば、消費者金融から借金をした記憶であればJICCに開示請求を行います。ただ、念のために全機関に行うことを検討してもよいでしょう。
インターネットや郵送で開示請求を行うと、信用情報機関に登録された情報が記載された報告書が取得できます。
これにより、借金の状況を把握することができる場合があります。
信用情報機関への開示手続きについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)ステップ3:裁判所からの通知がなかったか確認する
過去、裁判所から「訴状」や「支払督促」が届いていないか確認してください。
確定判決などによって権利が確定すると、時効が更新され、あらたな時効期間がスタートします。
この場合、時効期間は10年です。
たとえ5年以上返済していなくても、債権者が時効の完成を阻止して裁判所に訴訟や支払督促の申立てを行い、判決などが確定している場合、時効期間は「判決確定の翌日から10年間」に延長されます。
これは非常に重要なポイントです。
ご自身に記憶がなくても、住所変更の手続きをしておらず知らないうちに裁判が起こされていたり、同居の家族が受け取っていたりするケースもあります。
(4)ステップ4:「債務の承認」に当たる事由がないか思い出す
「債務の承認」に当たる行為があると、時効期間がリセットされ、その時点から再び時効期間がスタートしてしまいます。
具体的には、以下のような行為がなかったか確認が必要です。
- 借金の一部や利息を返済した
- 債権者に電話し「支払うので少し待ってください」「分割なら払えます」などと伝えた
- 「和解書」や「債務承認書」といった書類にサインした
これらの行為を一つでもしていると、その時点から再度5年の時効期間(既に判決などが取得されていた場合には10年の時効期間)がスタートしてしまいます。
時効の確認で絶対にやってはいけない3つのNG行動
時効の可能性がある場合に、たった一つの行動がすべてを台無しにしてしまうことがあります。
時効の成立をふいにすることのないよう、ここで挙げる3つのNG行動は絶対に避けてください。
(1)NG行動1:債権者に不用意に連絡してしまう
ご自身の判断で、安易に債権者に連絡することは避けましょう。
債権者が会話を録音していると、時効を更新させるための「債務の承認」の証拠として利用されるリスクが高いです。
「少し状況を確認したいだけ」と思うかもしれません。しかし相手は、金融機関で対応に慣れているプロです。「いつ頃お支払いできそうですか?」といった質問に対し、「少し待ってほしい」「考えます」などと曖昧に答えるだけで、「支払いの意思あり」の証拠として使われかねません。
督促のプレッシャーから解放されるどころか、自ら時効を使えなくさせてしまう最悪の事態を招くため、安易な連絡は避けましょう。
(2)NG行動2:借金を返済してしまう
「誠意を見せるため」など考えて、元本や利息を返済してはいけません。金額の大小にかかわらず、返済行為は「債務を承認した」ことの明確な証拠となりえます。
債権者から「少しでもいいのでご入金いただけませんか」と促されることがありますが、これに応じて返済してしまうと、その時点で時効期間はリセットされてしまうでしょう。
例えば、最後の返済から4年11ヶ月が経過し、あと1ヶ月で時効というタイミングで1000円を返済してしまうと、その日からまた新たに5年間のカウントが始まってしまうのです。
(3)NG行動3:「〇日までに支払います」「毎月〇円支払います」といった念書や和解書にサインする
債権者から送られてくるいかなる書類にも、安易にサインをしてはいけません。
書類の内容にもよりますが、署名することは、基本的に借金の存在を認め、新たな支払い契約を結んだことと同じ意味を持つことになってしまう可能性があります。
たとえば、債権者から「今後の支払いについて」「和解のご提案」といったタイトルの書類が送られてくることがあります。一見すると、利息のカットなど有利な条件に見えるかもしれません。
しかし、これにサインをすると、「債務の承認」にあたったり、新たな契約を結んだことになってしまったりするなど、時効の援用はほぼ不可能になります。
過去の借金について時効期間が経過していても、新たな契約を結んだ場合、その契約に基づく支払い義務が発生してしまうのです。書類が届いたら、サインする前に必ず弁護士にご相談ください。
借金の時効が成立する3つの条件
ここまでの内容を整理すると、借金の時効が法的に成立するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。単に時間が経つだけでは不十分で、ご自身の意思表示が不可欠であることを理解しましょう。
(1)条件1:時効期間が経過している(原則5年または10年)
時効が成立するには、法律で定められた期間が経過していることが大前提です。貸金業者からの借金は原則5年です。
2020年4月1日に施行された改正民法では、時効期間は「①債権者が権利を行使できると知った時から5年」または「②権利を行使できる時から10年」のいずれか早い方とされました。
消費者金融や銀行からの借金は、通常、返済日に権利を行使できると知っていますから、①が適用され「5年」となります。
ただし、消滅時効は、次で説明する時効の更新事由や完成の猶予があると、5年経過しても成立しません。また、契約内容などによって時効がスタートする起算点も異なります。個別ケースについての具体的な時効期間は、弁護士に相談することをお勧めします。
(2)条件2:時効の更新等がない
「時効の更新」事由があると、返済日から5年経過していても、時効は成立しません。
「時効の更新」とは、それまで進んでいた時効期間がリセットされることです。
先述したNG行動でも触れましたが、法的には以下の3つが主な更新事由となります。
- 判決や裁判上の和解などで権利が確定したとき
- 強制執行、担保権の実行などが終了したとき
- 債務の承認をしたとき
これらの事由がなかったかどうかは、時効を判断する上で極めて重要なチェックポイントです。ご自身での判断が難しい場合は、自己判断せず弁護士に相談しましょう。
また、時効の完成の猶予がなされると、時効の完成が一時的にストップし先延ばしになりますので、その間時効は成立しません。
例えば、 催告(債権者から債務者に対してなされる支払いを請求をする通知のこと)をした場合、催告をしたときから6ヶ月間、時効の完成が一時的にストップします。その間は、時効を援用しても時効は成立しません。
時効の更新や完成の猶予について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)条件3:「時効の援用」をすること
たとえ時効期間が過ぎていても、債権者に対して、「時効の利益を享受します」という意思表示(時効の援用)をしなければ、借金の支払い義務はなくなりません。
時効制度は、自動的に借金を消してくれるものではなく、あくまで時効による利益(消滅時効であれば、時効により債務を消滅させること)を受けるかどうかの判断を債務者に委ねるものです。
時効の利益を受けるという意思表示が「時効の援用」です(民法第145条)。
援用をしない限り、債権者は権利に基づいて請求を続けることができますし、法的に支払い義務は残ったままとなります。
「時効援用」の具体的な手続き
時効の条件を満たしていることを確認できたら、次は時効成立させるための「時効の援用」手続きに移ります。
後々のトラブルを防ぐためにも、以下の確実な方法で意思表示を行いましょう。
(1)「時効援用通知書」を作成する
時効を援用する意思を明確にした「時効援用通知書」という書面を作成します。
この通知書には、誰から誰に対する、どの借金についての援用なのかを特定するために、通常、以下のような情報を正確に記載します。
- 時効を援用する日付:通知書を送付する日付
- 債権者:消費者金融の会社名や個人の氏名
- 債務者:ご自身の氏名、住所
- 借金を特定する情報:契約番号、借入日、最終返済日など
- 時効期間が経過していること
- 時効を援用する意思表示:「上記債務は消滅時効が完成しているので、消滅時効を援用します」という明確な文言
曖昧な表現は避け、一つ一つの情報を事実に基づいて正確に記載した書面を作成することが重要です。
(2)内容証明郵便で債権者に送付する
時効援用通知書は、内容証明郵便で配達証明を付けて送付します。これが、後日のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。
普通郵便で送ると、債権者から「そんな手紙は受け取っていない」と言われてしまう可能性があります。しかし、「内容証明郵便」を使えば、郵便局が「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を公的に証明してくれます。さらに「配達証明」を付けることで、相手に手紙が届いた事実も証明できます。
これにより、「言った・言わない」の争いを防ぎ、「債権者に時効援用の意思表示をした」という証拠を残すことができるのです。
時効援用通知書について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
時効の判断に迷ったら弁護士に相談すべき理由
「自分のケースは時効?」「自分で手続きするのは不安…」少しでもこのように感じたら、ご自身で行動する前に弁護士へ相談・依頼することをお勧めします。弁護士に依頼することで、時効援用失敗のリスク回避など、以下のような大きなメリットがあります。
(1)時効の手続きをした方がよいかを適切に判断し、失敗リスクを軽減
時効の起算点の判断や、「債務の承認」などの時効更新事由にあたるかどうか、時効の援用をした方がよいかどうかの判断は難しいケースがあります。
たとえば、債権者から督促が届いたわけではないが時効の援用を検討しているという場合、時効が成立していないのに援用通知を送ってしまうと、時効期間経過前に督促や訴訟の提起を行う機会を債権者に与えてしまい、時効を使えなくなるリスクがあります。
弁護士であれば、時効援用の手続きをする場合のリスクも含め、時効の援用をした方がよいかどうかについて適切なアドバイスを行うことができますし、時効援用が必要で効果的な場合に手続きを進めるため、そうしたリスクを小さくすることができるでしょう。
(2)債権者とのやり取りをすべて一任でき、精神的負担が軽減される
弁護士に依頼し、弁護士による受任通知が債権者に届けば、債権者からあなたへの直接の督促は止まります。
弁護士が介入すると、貸金業法により、債務者本人への直接の連絡や取り立てが禁止されます(貸金業法第21条1項9号)。以降の連絡窓口はすべて弁護士となり、債権者と直接話す必要は一切なくなります。いつかかってくるか分からない督促の電話に怯える日々は終わりです。これは、借金問題を抱える方にとって、何より大きなメリットではないでしょうか(ただし、訴訟の提起などの法的措置を止めることはできません)。
(3)時効が成立しない場合も、最適な債務整理を提案できる
調査の結果、時効が成立しないと判明しても、弁護士は、あなたの状況に合わせた解決策(債務整理)を提案し、人生の再スタートをサポートできます。
弁護士は、あなたの収入や財産、借金の総額などを総合的に考慮し、適切な債務整理の方法(任意整理、個人再生、自己破産)を提案してくれるでしょう。
債務整理について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
督促がきっかけで借金の整理を決意。時効援用と弁護士の減額交渉により、約1000万円の借金が約150万円まで減額した事例
Kさん(70代・男性)
任意整理、借金の期間は20年以上、借入先は4社
(1)相談までのできごと
事業における独立を考え、人脈構築や顧客候補のための接待などの出費が増えたことをきっかけに借金を始めたKさん。次第に返済が生活を圧迫するようになっていきました。
その後、無事開業したものの、返済停止状態に陥り10年以上が経過したKさんは、一部の債権者から督促の再開があったことから、借金の整理に踏み切ることにしました。
「長期間の返済していないから時効が見込めるのではないか」と考え、アディーレ法律事務所へ相談しました。
(2)弁護士の対応
弁護士が事情を伺ったところ、9社の借入先があることが判明。そのうちの1社については過去に裁判所から通知を受け取った記憶があるとのことでしたが、残りの8社については督促がなく10年以上返済を停止しているとのこと。
弁護士は、時効により借金の支払いがなくなる可能性を説明しました。
ご依頼後、弁護士が、調査のうえ借入先を整理した結果、4社への返済が残っていることが判明。3社については時効が認められました。残る1社については過去に裁判上の和解があり、ご依頼の時点では時効を迎えていませんでした。
ただ、約700万円の返済が必要であったところ、弁護士が一括での支払いを条件とした減額交渉を粘り強く行った結果、150万円を支払うことで合意できました。
借金の時効に関するよくあるご質問(Q&A)
ここでは、借金の時効について多くの方が抱く疑問にお答えします。信用情報への影響や個人間での借金、専門家への依頼費用など、気になる点を解消していきましょう。
(1)時効を援用するとブラックリスト(信用情報)はどうなりますか?
時効の援用が成功し、借金の支払い義務がなくなれば、その借金に関する信用情報(事故情報)は最終的に削除されます。
ただし、情報が更新・削除されるまでの期間は、信用情報機関によって異なります。
(2)家族や友人からの借金にも時効はありますか?
個人間(親、兄弟、友人など)の借金にも時効はあります。
2020年4月1日以降の借金の場合、時効期間は、「権利を行使できると知った時から5年」です。返済期日が決まっていたら、そこから5年。返済期日を決めておらず一度も返済していないときは、契約日から5年です。
(3)時効援用を弁護士に依頼する費用はどれくらいですか?
法律事務所によって異なります。
時効援用の法律相談については無料で対応している法律事務所も多いので、相談の際に費用も確認してみるとよいでしょう。
昔の借金の督促があったら、まずは時効の確認を。ただし連絡は要注意!
借金の時効援用は、正しい知識と手順を踏むことで、あなたを長年の借金問題から解放してくれる可能性のある有効な制度です。
しかし、その道のりには「安易な自己判断はしない」「債権者には安易に連絡しない」という注意点があります。
一つの間違いが、時効援用できなくなる、という取り返しのつかない結果を招くことを忘れないでください。
督促に怯える日々を終わらせ、過去の金銭問題を清算し、新たな人生の一歩を踏み出すために、勇気を出してアディーレ法律事務所にご相談ください。