離婚率の上昇の影響もあり、シングルマザー・シングルファザーの家庭が増えています。
母子家庭の貧困は社会問題化していますが、父子家庭もまた慣れない家事に追われ今まで通りの仕事ができなくなることから経済的な苦労を抱えることも多いようです。
国や自治体は、このようなひとり親家庭を対象にさまざまな支援を行っています。
ひとり親家庭支援として最もポピュラーなのが「児童扶養手当」です。
以前は児童扶養手当は、母子家庭のみが対象でした。
しかし児童扶養手当法の改正により2010年8月からは、父子家庭も利用できるようになっています。
では児童扶養手当はいくらもらえるのでしょうか。
金額のシミュレーションをしてみましょう。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
児童扶養手当とは
児童扶養手当とは、父母の離婚などが原因で、父親または母親と暮らしている児童が育成される家庭(ひとり親家庭等)に対して支給される手当のことです。
生活を安定させ自立を促すことに寄与し、児童の福祉を目的とします(児童扶養手当法1条)。
父または母に代わって祖父母やおじ・おばなどの親族が養育者になっている場合も受給権者となれます。
(1)児童扶養手当の受給要件
以下のいずれかに該当する子どもを監督し、かつ、その子どもと生計を同じくする母又は父が、児童扶養手当を受けることができます。
- 父母が婚姻を解消した子ども
- 父又は母が死亡した子ども
- 父又は母が政令で定める障害状態にある子ども
- 父又は母が生死不明の子ども
- 父又は母が1年以上遺棄している子ども
- 父又は母が裁判所からのDV保護命令を受けた子ども
- 父又は母が1年以上拘禁されている子ども
- 婚姻によらないで生まれた子ども
- 父母がいるかいないかが不明な子ども
なお、ここでいう子どもとは0~18歳までの子どものことです。
子どもに一定の障がいがある場合は20歳まで受給可能となっています。
(2)児童扶養手当の受給が制限されるケースがある
児童扶養手当の請求者または子どもが以下のいずれかに当てはまる場合は、請求しても受給できないのでご注意ください。
- 請求者及び児童が、日本国内に住所がないとき
- 児童が里親に委託または、母子生活支援施設などを除いた児童福祉施設などに入所したとき
- 父、母または養育者が内縁関係などの事実上の婚姻関係があるとき
- 児童が父及び母と生計を同じくしているとき(父又は母が政令で定める障害状態にある場合を除く)
その他、児童扶養手当は、受給者の扶養する子どもの人数に応じた所得制限があります。
そのため養育者の所得が一定以下であることが条件になります。
これについては後述します。
(3)児童扶養手当の受給方法
居住している自治体の役場の窓口で必要書類を添えて請求し、市区町村長の認定を受けると支給が開始されます。
窓口では以下のような書類が必要となることが多いですが、支給要件や各自治体によって異なるため各自治体に問い合わせをするのが確実です。
- 請求者と児童の戸籍謄・抄本
- 請求者と児童が含まれる世帯全員の住民票の写し(続柄・本籍が分かるもの)
- 前年の所得証明書
- 請求者本人名義の預貯金通帳(普通口座)
- 個人番号が確認できるもの
- 身分証明書
児童扶養手当はいくらもらえる?
では、児童扶養手当はいくらもらえるものでしょうか。
児童扶養手当は請求者の所得や扶養する児童の人数によって受け取れる金額が異なります。
金額は固定ではなく、物価の変動などによって毎年変わるので毎年確認が必要です。
(1)全部支給と一部支給
児童扶養手当は、請求者の所得により、児童の人数により定められている金額を全額もらえる場合(全部支給)と一部もらえる場合(一部支給)があります。
(2020年4月現在)
全額支給の場合、子供1人目:4万1160円
一部支給の場合は、所得に応じて4万3150~1万180円まで10円単位で変動し、子供2人目の加算額は、全部支給の場合1万190円となります。
一部支給の場合は、所得に応じて1万180~5100円まで10円単位で変動します。
児童扶養手当の額は、物価の変動等に応じて毎年額が改定されます(物価スライド制)。
2020年4月~
児童数 | 全額支給 | 一部支給 |
---|---|---|
児童1人のとき | 4万3160円 | 1万180~4万3150円 |
児童2人のとき | 1万190円を加算 | 5100~1万180円を加算 |
児童3人以上のとき | 3人目以降1人につき 6110円を加算 |
3060~6100円を加算 |
参考:児童扶養手当│横浜市
(2)所得制限の限度額
児童扶養手当は、受給者の扶養する子どもの人数に応じた所得制限があります。
そのため養育者の所得が一定以下であることが条件になります。
2018年3月から「全部支給」の所得限度額が30万円引き上げになったため、例えば児童扶養手当の全額を支給する「全部支給」の場合には、子どもが1人であれば、収入ベースで160万円が所得制限額となります。
東京都の場合、災害で住宅や家財などが一定以上の損害を受けたときは所得制限が解除され、全部支給の金額が受け取れることがあるといった措置がとられています。
お住いの各自治体に確認すると良いでしょう。
扶養人数 | 受給資格者本人 | 扶養義務者・配偶者・孤児等の養育者 | |
全部支給 | 一部支給 | ||
0人 | 49万円 | 192万円 | 236万円 |
1人 | 87万円 | 230万円 | 274万円 |
2人 | 125万円 | 268万円 | 312万円 |
3人 | 163万円 | 306万円 | 350万円 |
扶養人数4人以降については、扶養人数が1名増えるごとに38万円が加算されます。
(3)児童扶養手当における「所得」の計算方法
児童扶養手当には所得制限があります。
そのため、自分の所得が児童扶養手当の全部支給または一部支給が受けられるかどうかを確認することが必要になってきます。
児童扶養手当の支給額計算で用いる「所得」は以下の計算式で計算します。
児童扶養手当で審査する所得
=所得(収入-必要経費)+養育費の8割-8万円(一律控除)-諸控除
(3-1)「所得」は何を見ればわかる?
まず計算の基礎となる「所得」とは、1年間(1~12月)の収入全額からその収入を得るのに必要な経費を差し引いた額となります。
給与所得者であれば、源泉徴収票の中の「給与所得控除後の金額」
自営業など、ご自身で確定申告されている方は、確定申告書の控えの中の「所得金額の合計」
がそれぞれ該当します。
(3-2)「控除額」とは?
計算式のうち「控除額」とは、諸控除のことです。
医療費控除等地方税法で控除された額・請求者に老親や障がい者などの被扶養者がいる場合または、請求者が勤労学生や寡婦(夫)など一定の属性の場合、一定の条件にあてはまる場合は一定金額を控除できます。
所得額から差し引ける諸控除
控除項目 | 控除額 |
---|---|
老人扶養親族 | 10万円 |
老人控除対象配偶者 | 10万円 |
特定扶養親族及び控除対象扶養親族 | 15万円 |
特別障害者控除 | 40万円 |
障害者控除 | 27万円 |
勤労学生控除 | 27万円 |
寡婦(夫)控除 | 27万円 |
特別寡婦控除 | 35万円 |
雑損控除 | 控除相当額 |
医療費控除 | 控除相当額 |
小規模企業共済等掛金控除 | 控除相当額 |
配偶者特別控除 | 控除相当額 |
定額の控除 | 8万円 |
参考:児童扶養手当|横浜市
(3-3)「養育費」とは?
計算式のうち「養育費」とは、申請者である母または父および子どもが、別れた子どもの親から、子どもの養育のために受け取る金品などをいいます。
その8割の金額を所得に加算します。
受け取るものは、金銭のみならず、商品券や小切手などの有価証券も含まれます。
また「養育費」だけでなく、「生活費」「仕送り」などの名目で支払われたものも含みます。
(3-4)児童扶養手当と障害年金の併給調整の見直し
現在、障害年金を受給しているひとり親家庭は、障害年金額が児童扶養手当額を上回る場合には、児童扶養手当が受給できませんでした。
そのため、就労が難しい方は厳しい経済状況におかれている状況です。
そこで、「児童扶養手当法」の一部を改正し、2021年3月分から、児童扶養手当の額と障害年金の子の加算部分の額との差額を児童扶養手当として受給することができるようになります。
ただし、障害年金「以外」の年金の額が児童扶養手当額より低い場合のみ、その差額分を受給される制度です。
児童扶養手当シミュレーション
一部支給の場合は、次の計算式により計算します。
児童1人のときの月額
=一部支給の上限額-(受給資格者の所得額–全部支給の場合の所得制限限度額)×所得制限係数
「所得制限係数」は2020年度の場合は児童1人のときが0.0230559、2人めの加算額を算出するときが0.0035524、3人目以降の加算額を算出するときが0.0021259ですが、これらは固定された係数ではありません。
物価変動等の要因により、毎年変わるので注意が必要です。
(1)児童1人・給与所得控除後の金額100万円・養育費月5万円の場合
この場合に、児童扶養手当が月額いくらになるか計算してみましょう。
養育費の金額は年間で5万円×12=60万円
所得額は100万円+(60万円×0.8)=148万円
児童1人の場合の所得制限限度額は、全部支給87万円、一部支給230万円
所得額は、全部支給の所得制限限度額を上回りますから、全部支給は受けられません。
所得額が一部支給の所得制限限度額を下回るので一部支給が受けられます。
これを計算式にあてはめると、月額の児童扶養手当は
4万3150円-(148万円–87万円)×0.0230559=2万9086円
となります。
(2)児童2人・給与所得控除後の金額200万円・養育費月3万円の場合
次はこの場合です。児童扶養手当が月額いくらになるか計算してみましょう。
養育費の金額は年間で3万円×12=36万円
所得額は200万円+(36万円×0.8=228万8000円
児童2人の場合の所得制限限度額は、全部支給額125万円、一部支給268万円
この場合も、所得額が全部支給の所得制限限度額を上回りますが、一部支給の所得制限限度額を下回るので一部支給となります。
これを計算式にあてはめると、月額の児童扶養手当は
1人めが4万3150円-(228万8000円–87万円)×0.0230559=1万457円
2人めが1万180円-(228万8000円–87万円)×0.0035524=5143円
合計1万457+5143円=1万5600円
となります。
(3)児童1人・給与所得控除後の金額300万円・養育費なしの場合
最後はこの場合です。
児童扶養手当が月額いくらになるか計算してみましょう。
養育費が0円なので、所得額はそのまま300万円となります。
児童1人の場合の所得制限限度額は、全部支給額87万円、一部支給230万円ですから、所得額がどちらも超えていますね。
この場合には児童扶養手当は支給対象外となります。
児童扶養手当をもらうときの注意点
児童扶養手当を請求するタイミングにより支給される金額が変わったり、途中で半額になったり支給自体がされなくなることがあるので注意が必要です。
(1)申請のタイミングにより所得の基準となる年が異なる
支給額の基準となる所得は請求するタイミング(月)によって異なります。
- 1~9月までに請求をする場合は前々年の所得
- 10~12月までに請求をする場合は前年の所得
で支給額が計算されることになります。
(2)5年または7年超えると支給額が半額に
手当を支給し始めたときから5年、支給要件となる事由が発生した日から7年を経過した場合、手当の額が半額になることがあります。
また、病気や障害など働けない理由がないにもかかわらず就労していない場合も同様です。
これは、ひとり親の就業・自立を促すため、就業が困難な事情がないにも関わらず、就業意欲が見られない場合には支給額の2分の1を支給停止とする制度によるものです。
ただし、適用除外事由に該当するときは、指定された期限までに届出をすれば減額されません。
対象となる人には、5年または7年経つ頃に自治体から「児童扶養手当の受給に関する重要なお知らせ」等の案内があるので手続きをすれば、引き続き同額の受給が可能になります。
(3)支給停止されることもある
児童扶養手当を受けている間に、児童扶養手当を受けている人が一定の所得のある者と生計を一にするようになった場合は支給停止されることがあります。
例えば、実家に帰って一定の所得のある祖父母と同居する場合や、所得のある人と再婚した場合などです。
この場合、手当の支給区分は11~翌年10月まで変わりませんが、修正申告した場合や所得の高い扶養義務者と同居または別居した場合は変わるので、事情が変わった場合はまず居住地の役所に相談しましょう。
【まとめ】児童扶養手当でお悩みの方は弁護士にご相談ください
児童扶養手当による支援について見てきました。
手当の額を出すための計算式のシミュレーションも行いましたが、児童扶養手当を請求するタイミングにより支給される金額が変わったり、途中で半額になったり支給自体がされなくなることがあるといった少々厄介な手続きです。
けれども、経済的に困難な状況にあるひとり親家庭を支援するためにせっかく設けられている制度ですから、該当するご家庭はぜひ利用したいところです。
弁護士は離婚の手続きの相談のみならず、離婚後の生活に関する相談にも応じていますので、児童扶養手当を受けずに収入を増やすべきか、児童扶養手当をもらえる収入の範囲で働くべきかといったことで迷うことがあれば、弁護士に相談されることをおすすめします。