「最近ニュースでよく聞くようになった『共同親権』とは、どういうもの?」
最近、このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
共同親権とは、簡単に言うと父母が共同して子どもの親権を持つ制度です。
日本ではこれまで、父母の婚姻中は共同して親権を行使しますが、離婚後の共同親権は認められていませんでした。
しかし、海外では離婚後の共同親権を認めている国が多く、日本でも導入されることが決まりました。
この記事が、新たに導入される離婚後の共同親権の内容について理解を深める一助となれば幸いです。
この記事を読んでわかること
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
離婚後の共同親権とは
離婚後の共同親権とは、父母が離婚したあとも、どちらか一方が子どもの親権を持つのではなく、共同して子どもの親権を持つ制度のことです。
海外ではこの共同親権を導入している国が大多数であり、日本でも離婚後の共同親権については長年議論がされてきました。
日本の親権制度
そもそも、これまで日本の法律では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚する場合、父母のどちらかを親権者と定めなければなりませんでした。
これを単独親権といい、離婚すればどちらかは基本的に親権を失ってしまうことになります(※)。
もちろん、離婚の際に親権者にならなかったからといって、法律上の親子関係がなくなってしまうことはありません。
しかし、やはり親権を失うという心理的な抵抗は大きいため、離婚の際に親権争いが激化し、離婚紛争が長期間におよんでしまうことも珍しくありませんでした。
※親権は、身上監護権と財産管理権から構成されます。身上監護権と財産管理権を父母に分属させることは、現行制度上でも可能ですが、そのような運用は現在あまり利用されていないのが実情です。
再婚して共同親権となるケースはある
離婚したら単独親権ではありますが、離婚して一度単独親権になってしまえば、二度と共同親権が認められないわけではありません。
親権者となっていた親が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をすれば、共同親権が認められます(現行民法第818条2項)。
なお、再婚によって共同親権が認められたからといって、離婚の際に親権者とならなかった親と子どもの法律上の親子関係がなくなることはありません。
海外の離婚後の共同親権の導入状況
離婚後の共同親権を認めていない国は、世界的に見れば少数派です。
離婚後の共同親権の内容は国ごとに異なるものの、下の表を見ればわかるように、多くの国では離婚後の共同親権が認められています。
(調査対象となったのは24ヵ国です。)
共同親権を認めている国 | 共同親権を認めていない国 |
---|---|
アメリカ(ニューヨーク州・ワシントンDC) カナダ(ケベック州・ブリティッシュコロンビア州) アルゼンチン ブラジル メキシコ インドネシア 韓国 タイ 中国 フィリピン イタリア イギリス(イングランドおよびウェールズ) オランダ スイス スウェーデン スペイン ドイツ フランス ロシア オーストラリア サウジアラビア 南アフリカ | インド、トルコ |
法制審議会が取りまとめた要綱案
2024年5月17日、離婚後の共同親権を可能とする改正民法が可決・成立しました。
以前に法務省の法制審議会が取りまとめた「家族法制の見直しに関する要綱案」によると、共同親権に関する部分の大まかな内容は次のとおりです。
(1)父母離婚するときは、その双方又は一方を親権者と定める。
(2)子の利益のため必要なときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更できる。
(3)裁判所は、父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」とは、たとえば次のような場合です。
- 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
- 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力などを受けるおそれがあるなど、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
ポイントは、必ずしも共同親権を選択する必要がない点です。
たとえば、子どもに対する虐待の事実や、夫婦間の暴力(DV)の存在が認められる場合には、裁判所の判断により、単独親権とすることが可能です。
また、暴力などの問題行為がない場合でも、夫婦間の協議によって単独親権とすることもできます。
つまり、改正民法により離婚後の共同親権が導入されたあとも、共同親権か単独親権かを基本的には自由に選べるのです。
共同親権を導入するメリット
離婚後の共同親権の導入により、どのようなことが期待できるのでしょうか。
いくつか具体的にご紹介します。
より充実した面会交流が行われるようになる
もちろん、現行制度においても離婚後に子どもと面会交流をすることは可能です。
それどころか、親権者とならなかった親と定期的に交流することは、特段の事情のない限り子どもにとって望ましいと考えられています。
面会交流は親だけでなく子どもの権利でもあるからです。
しかし、離婚に至るほど関係が悪化したわけですから、離婚後は子どもを元配偶者に会わせたくないと考える親権者は少なくありません。
そのため、離婚後に子どもと会わせることを拒否することや、少なくとも面会交流にあまり積極的でないことはよくあることです。
この点、離婚後の共同親権が導入されれば、子どもと離れて暮らしている親も親権者であることに変わりはないため、子どもと面会する権利をより強く主張しやすくなると考えられます。
子どもと一緒に暮らしている親も、面会交流を拒否しづらくなるでしょう。
養育費の滞納が減少する
現行の単独親権制度の下では、どうしても離婚した元配偶者に養育費を支払っているという感覚が強くなってしまい、それが養育費の滞納につながることがあります。
さらに、元配偶者から子どもとの面会交流を拒否されている状況が、それに拍車をかけることもあるでしょう。
しかし、離婚後の共同親権の導入により、子どもと離れて暮らす親が子どもと頻繁に会うことができれば、継続的に良好な関係を築くことが増えると考えられます。
その結果、「この子のためにしっかりと養育費を支払っていこう」というモチベーションになる人も増えると考えられるため、養育費の滞納や不払いの減少が期待されています。
親権争いの激化を防止できる
離婚後の共同親権の導入により、親権争いの激化や離婚紛争の長期化を防止できるというメリットも期待されています。
現行法では、未成年の子どもがいる夫婦が離婚するには、親権者をどちらか一方に決めなければなりません。
そのため、離婚することやその他の離婚条件には合意できていても、どちらも親権を譲らないがために調停や裁判が長期化してしまうことがあります。
最終的に親権者がどちらに決まったとしても、激しい争いを終えた父母の仲は非常に悪化していると考えられるため、それがその後の面会交流や養育費の支払いがスムーズにいかない原因になりかねません。
また、それが子どもの精神的な負担やストレスになってしまうこともあります。
その点、共同親権の導入により、離婚成立までのハードルが低くなるだけでなく、離婚後も子育ての協力体制が築きやすくなることが期待されています。
共同親権を導入するデメリット(問題点)
しかし、これまで紹介したメリットだけでなく、離婚後の共同親権の導入にはデメリットがある、という意見も数多くあります。
離婚後の共同親権の問題点として指摘されているデメリットは次のとおりです。
DVから逃れられない
離婚後の共同親権の導入により、DVをする配偶者(子どもにとっては親)から逃れられない、ということが考えられます。
この点、先ほどもご説明したとおり、DVなどのおそれがある場合には、裁判所がどちらか一方だけを親権者と定めることができます。
そのため、裁判所には慎重な判断が求められるでしょう。
子どもに負担がかかる
離婚後の共同親権が導入されても、子どもはどちらか一方の親と暮らすことになります。
そのため、子どもは父母の間を頻繁に行き来することになり、必要以上に負担がかかってしまいかねません。
また、教育方針などで父母が対立した場合には、子どもが板挟みになってつらい思いをする可能性もあります。
離婚後の共同親権はいつから導入されるの?
2024年5月17日、離婚後の共同親権を可能とする改正民法が参院本会議で可決、成立しました。
もっとも、この改正民法は成立後すぐに施行されるわけではなく、施行は「公布から2年以内」とされています。
具体的には、2026年までに施行される見通しです。
【まとめ】離婚後の共同親権とは、離婚後も父母が共同して親権者となれる制度
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 離婚後の共同親権とは、父母が離婚したあとも、どちらか一方が子どもの親権を持つのではなく、共同して子どもの親権を持つ制度
- 改正民法によれば、共同親権導入後も単独親権を選択することは可能である
- 離婚後の共同親権には、メリットもデメリットもあると考えられている
- 離婚後の共同親権を可能とする改正民法は、2026年までに施行される見通し
改正民法の施行までには、まだある程度の時間があります。
現時点で、すでに離婚を検討中であれば、それまで離婚を待つわけにもいかないでしょう。
離婚後の親権者をどちらにするかで対立しているのであれば、離婚問題を扱っている弁護士への相談をおすすめします。
アディーレ法律事務所では、離婚問題のご相談を承っております(※)。
(※なお、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。)
また、アディーレ法律事務所では、安心してご依頼いただけるよう、離婚問題について、ご依頼の目的を全く達成できなかったような場合には、ご依頼時にお支払いいただいた基本費用などを原則として返金いたしますので、費用倒れになることは原則ありません(2024年8月時点)。
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